コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【『武田と玲』更新中!!】 ( No.254 )
日時: 2013/01/30 17:17
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992





「……全く、十四で帰り道も判らないなんて。バカなんですか?」
「……スイマセン」


 あれから麦茶を持ったお母さんに「お友達認定」をされてしまったので、お母さんの前では、そういうことにして置くことにしました。
それから暫く、彼女とお母さんは話していていました。
 珍しくお母さんが、表情だけで見ても嬉しそうにしていたので、少しびっくりしました。
 それで、もう帰らなくてはならない時間になってしまったので、彼女は帰る支度をした。「では」と頭を下げて、戸に手を触れた時、慌てて振り返って「実はあたし迷子でした!」といいやがりました。
 それで僕が、彼女を送ることになったのです。

 住所を聞けば、意外と遠い所でした。あの時、良くあそこまで来れたな、と少し感心し、そして恐怖が湧き上がりました。


「(あの森のことを、話しておかなくては)」


 あの木の近くには、樹海があります。そこは一応は観光地となっているのですが、同時に、自殺者が首を吊ったりしているので、死体が多く転がっているのです(どんな観光地だ)。
 自殺志願者は追い詰められたあまり、思考が危ない奴らが多い。ので、女の子である彼女があの森の傍を通るのは、とても危険です。
 それに、あの森には、あの人が良くうろついています。


「(……樹海の傍を通った時に、いおう)」


 そう決心しました。




 出会った木のそばを通り、いよいよ樹海の傍を通ることになりました。
 ……が、忠告する前に、あの人が、現れてしまったのです。


「ゲヘヘ……今日は女の子をお連れかい」


 彼の声に、彼女が恐怖で震えるのが見えました。


「……なんですか、山田さん。また死体をお探しですか」


 僕は彼女の前に立ち、平然と(というかいつも無表情だけど)言い返しました。
 この何処からどう見てもまともじゃない男は、ある宗教団体の信仰者です。僕たちは山田さん、と呼んでいますが、本名ではないと思います。
 この人は悪質な人で、樹海にいっては自殺者の死体を捜し、その死体を使って、怪しげな儀式やらを行って、宗教団体を切り盛りしてきたそうです。噂では、人を自殺に追い込ませてまで行っていると聞きました。
 勿論、遺体を勝手に持ち去るのは遺法です。しかし警察でも手が出せないほどの大きな宗教団体らしく、山田さんはこうして何時も物騒なことをいいながら、うちに来ます。
 何故うちのところに来るかというと、山田さんが遺体を回収する前に、僕とお母さんとで遺体を回収しているからです(お母さんは、科捜研の法医学の先生です。ので、遺体を回収し、警察に送り届けています)。


「一つか二つ、遺体を分けてくれねえかなあ。金は払うからさ」


 またですか。
 内心呆れつつ、キッパリと返します。


「お断りします。貴方の汚いお金で、苦しいままで死んだ人たちの身体を渡せるか」


 そういうと、山田さんの眉が、ピクリと動いた。


「おめーさんたちがそこまでいうなら、こっちも手があるぜ。……女のセンコー様と俺。どっちが強いかなんて、明確だよなぁ?」


 そういって、凄んでくる山田さん。
 けれど、こんなの慣れています。


「……こっちだって手はあります。警察に通報しましょうか? 状況証拠はそこらへんに転がってます。物理証拠も、探そうと思えばいくらでも見つかるでしょう。何より、僕の父がこのことを聞いたら……というか、貴方ごときに僕の母親を脅し殺せるとでも?」


 僕はいいながら、こう思いました。
 うん、うちの両親を脅すことなんか出来ないな、と。

 僕のお父さんは警察庁公安部に所属する刑事ですし、僕のお母さんは……その昔、二つのヤクザが縄張り争いをして戦争が起きそうになったらしいですが、お母さん一人で双方の組をボッコボコにし、(素手と足蹴りのみですよ。武器なんて使ってません)戦闘不能にさせて警察に送り届けたという、何十年も経った今でも知らない人は居ない伝説を残した張本人です。今は自重してますが、こんな男にやられる程衰えては居ないでしょう。
 山田さんもその事を思い出したのでしょう、タバコをふかして去っていきました。


 ほっと安堵のため息を吐き、少し遅れて、ドサ、と崩れる音がしました。



「……た、助かった」


 彼女はそういって、ヘナヘナ、と座り込みました。
 余程怖かったのでしょう、額には汗がにじんでいます。


「大丈夫ですか? ……すみません、こんなハズじゃなかったんですけど」


 手を差し伸べながら、僕は少し後悔をしました。

 そう、こんなハズじゃなかったんです。けれどやっぱり、もっと早く説明していれば良かった。
 さっきからそうです。もう少し、優しい口調で気の利いた言葉をかけてやればいいのに。性格上でしょうか、どうしてもキツイ言葉になっています。
 どうしてか、自分のしたいことと行動が、正反対になっている。
 そんな苦い想いを、彼女が知ることはないでしょう。だって、僕は思っていることが中々顔に出ない。今だって、鏡を見たらとても無愛想にしか見えないでしょう。


 でも、彼女は、おっかなびっくりでも、僕の手を取ってくれました。
「ありがとう」そういって、微笑んでくれました。

 触れた手は、何だかとても、熱かった。





「いいですか、三浦さん。あの森に、一人で入っちゃいけません」
「どうして?」
「……あそこは、自殺した人の遺体が、多くあるからです」



 遺体なんて、君が見る必要はありません。それに、さっきのように、精神がイカれた危ない人たちも居ます。君は女の子で、しかも自身の身を護る術を持ち合わせていない。
 ……全部、本当のことです。けれど、僕は、いっていないことがありました。

 僕が、その遺体を回収しているということ。
 勿論、僕が遺体を処理するわけじゃなく、あくまで、通報という形で回収しているだけです。自殺しても、死に切れなかった人も居るので、そういう人たちを病院に送るという名目もあります。目の前で自殺をしようとしたら、止めるということもしています。
 ……まあ、こんな危険なこと、子供がして良いわけじゃないんですけど、生憎と人手が足りなくて、近所に住んでいる人たちと当番制で、樹海を巡回しているのです。
 このことをやっていて、怖い、と思ったことはあまりありません。けれど、そんな僕の様子を見て、周りの人たちはまったく別のことを考えるでしょう。


「何て、危険で冷たい奴なんだ」と。

 ……そういえば小さい頃、「死体ばっかみて気が狂い、そのうち殺人でも犯すんじゃないか」なんていう大人の影口を聞いた覚えがあります。
 遺体をずっと見ていたから殺人を犯す。僕はあんま関係ないと思うんですが、でも、そんな風に思われて悲しかったり辛かったりなんてことはありません。嬉しくもないですが。

 ……でも、彼女だけは。そんな風に、思われたくはなかった。
 そんな風に思われて、嫌われたくなかった。


「いいですか、絶対に入っちゃいけませんよ」その言葉で締めくくると、彼女は神妙な顔でうなずきました。

Re: 臆病な人たちの幸福論【『武田と玲』更新中!!】 ( No.255 )
日時: 2013/01/30 18:05
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992





 暫く歩くと、もう大丈夫、と彼女がいいました。
 ここで、お別れです。
 名残惜しくも帰ろうとしたとき、彼女から声を掛けられました。


「また、……会ってくれる?」

 ——また、今度……。


 幼い頃の彼女と、今の彼女の姿が、重なって見えました。
 ただ、違うのは、幼い頃の彼女は笑顔満面で、今の彼女は、何処か不安げでした。


「……はい、よければ明日」


 あの時僕は、無性に嬉しくて、らしくない口調でいったと思います。





 それから毎日、部活が終われば、あの木の下で待ち合わせをしたり、たまに彼女が家に来たりしていました。
 外は暑いので、大抵は屋内で過ごしました。ゲームをしたり、ただ普通に駄弁ったり。
 楽しかったです。彼女と一緒に居られて、嬉しかったです。
 僕とは正反対に、何時も笑顔を浮かべられる彼女が、羨ましかったです。

 でも、その楽しい日は、ある日唐突に終わりを迎えました。



「……え、転勤?」


 僕が思わず聞き返すと、お母さんは困ったように、ええ、と答えました。


「どうやら、蔵人さんが、『ちょっと難解な事件があるから来て欲しい』……って。あっちの刑事さんたちも、どうやらかなり参っているようで……」


 蔵人さん、というのは、僕のお父さんの名前です。


「とりあえず、一年ほど務めればまたこっちに戻れるみたいなんですが……どうします? 静雄がここに残りたいのなら、知り合いの家に頼んであなたを預けさせることも……」
「いや、いいです」


 キッパリと僕は断りました。


「静雄……」
「あっちってことは、お父さんが居る所ですよね? なら、あっちに行けば、家族皆で暮らせますよね?」


 僕が聞くと、申し訳なさそうにしていたお母さんの顔は、ゆっくりと、笑顔に変わっていった。


「え、ええ……! 一緒に、皆で暮らしましょう。早速引越しの準備を……あ」
「……どうしましたか?」
「……静雄は、玲ちゃんにお別れをいってきなさい」


 お母さんの言葉に、僕はあ、と思い出しました。
 そうです。引越しをするのなら、まず彼女にお別れをしなければなりませんでした。


「……静雄、やっぱり引越しは」
「大丈夫です」


 せっかく笑顔になっていたお母さんの不安そうな顔を見て、僕はすぐに遮りました。
 そうです。何時も会えなくなっても、文通や電話をすればいいだけです。高校生になれば、メールも使えるようになるでしょう。休みにまたここに来ればいいし、なによりもたったの一年経てば、またここに戻れます。


「じゃあ、そろそろ三浦さんと約束の時間なので、いってきますね」


 そういって、家を飛び出しました。







「……何で」


 僕は、彼女に向かって呟きました。
 待ち合わせの木の下で待つこと数分、突然、彼女の悲鳴が聞こえました。
 僕は慌ててその悲鳴の聞こえたほうへ向かいました。

 ……でも、何でそこが、樹海だったのでしょう。
 しかもよりによって、なんでそこに、山田さんが首を吊っているのでしょう。



「……何で、森に居るんですか」
「……た、たけ、だくん」



 呆然とした後、怒りが、ふつふつと湧き上がってきました。


「約束したじゃ、ないですか。なんで、なんで居るんですか」
「ち、違う。あたしは」
「いい訳なんて聞きたくないッ!!」


 彼女の言葉を、僕は怒りに流されたまま、遮りました。
 見られたく、なかった。
 あんなの、見られたくなかった。
 しかも寄りによって、彼女も顔合わせしている山田さんです。
 どうして山田さんが自殺したのかは判りません。しかしそれよりも、彼女に知られたくなかったことを知られたことが、約束を破った彼女が、そしてこんな時でも、ヘラヘラと笑っている彼女が。

 ——どうしても、許せなかった……!!



「見損ないました……あれほど、嫌だったのに。
 何で貴女は、笑ってるんですか!! もういいです!!」



 僕は、笑っている彼女が、好きでした。
 でも嫌いになったのも、彼女の笑みでした。

 そのまま、彼女に背を向けて、森を出ました。
 そしてそれが、最後の言葉になりました。


                       ◆


「……その後、三浦さんは、病院に運ばれました。入院している時に、何度か別れを告げようとしたのですが、怒りがまだ残っていて、向かおうとしては引き返しました。そうしているうちに……」
「引越しの日を、迎えちゃった、ってことですか」


 フウが聞くと、武田はコクン、と頷いた。


「……みやっち、今の話ば聞いて、何か判った?」


 瀬戸が、遠慮がちに聞いてきた。
 このタイミングで聞かんで欲しかった。


「俺に聞くなよ……といいたい所だが、実は、心当たりが一つだけある」
「え!?」
「ケンちゃん、判ったんですか!? 玲ちゃんの居場所が!」


 フウがビックリして立ち上がった。


「……瀬戸、お前、ダメナコに上田の妹が何か話そうと止めた際、逃げるように店を出た……って、話したよな?」
「あ、うん。そうったい。でも、それが……?」
「……俺も、追い詰められた人間だからこそ判るんだが、追い詰められた人間って奴は、単純かつ極端なことをするんだよな。瀬戸の話と武田の話を照合させて考えると、上田の妹の不登校……というか、心の傷は、武田と仲違いが原因だと仮定できる。としたらだ、上田と武田の縁が強い場所といえば……」
「……まさか、樹海ですか!?」

 察しのいい武田が、珍しく声を上げた。


「証拠も確信もないが、可能性はあるだろう。それに、もう昼を過ぎたっていうのに、先生たちまだ帰ってこないしな……」


 時計を見れば、もう既に一時。
 俺たちも、かなり話し込んでいたみたいだ。


「……みやっち!」


 瀬戸が、真剣な表情で俺の名を呼んだ。
 ……あー、いいたいことは判った。


「仕方がない。行くぞ、瀬戸、武田!」
「おっし!」
「え、ちょっと、僕も!?」
「当たり前だろ!」


 思いついたら即行動。学生としては危ない行動かもしれないが、今はそんなのどうでもいい。悩む前に行動だ。
 この場合はきっと、早い方がいい。


「だったら、あたしたちも……!」


 杉原とフウも、外に出る準備をしようとしたが、言葉で止める。


「フウと杉原は留守番しといてくれ! ダメナコが目を覚ますかもしんないし!」


 困惑している武田の腕を掴み、俺たちは保健室を後にした。



         いつの間にか、巻き込まれていたけれど


(これが縁という奴なら、仕方がないだろう)
(それに、全く知らない奴ではなくなってしまった)

(さっさと上田の妹探して連行しよう)

Re: 臆病な人たちの幸福論【『武田と玲』更新!!】 ( No.256 )
日時: 2013/01/30 18:54
名前: mao/ ◆ZbV3TMNKJw (ID: XHLJtWbQ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

どもです!maoです。

小説紹介コーナーで紹介する小説がないということで、
応募させて頂きます。
あまり、進んでいなくて申し訳ないのですが……。

名前「mao/」フリガナ(マオ/)
題名「模範解答。」創作版「コメディ・ライト」
この小説の見所「分かんないです……」
この小説のコンセプト「優等生の悩みと恋物語」
ぶっちゃけキャラクターをゲストとして使ってもいいよ、という方は、キャラの名前を記入してください(二人までおk)「相原奈桜 白石咲月」
ぶっちゃけこの小説はどのように思っていますか? 質問もおkです「超絶☆感動します」

作者に一言!「いつも更新お疲れ様です!これからも頑張ってください!!」

では、mao/でした!!!



Re: 臆病な人たちの幸福論【『武田と玲』更新!!】 ( No.257 )
日時: 2013/01/30 22:23
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992

mao/様!!

ご参加、ありがとうございます!
とはいえ、ラジオ番組は少し遅くなると思いますが……。大丈夫です、おkですよ!!w

感動してくださって、ありがとうございますw 更新頑張ります!!

Re: 臆病な人たちの幸福論【『武田と玲』更新!!】 ( No.258 )
日時: 2013/01/31 22:37
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992

間章

 あたしの家には、空いた部屋が二つもあった。
 ママが時々、そこで泣いていたところを、あたしは知っている。

 最初、何で二つも部屋が空いているのか、何故そこでママが泣いているのか、あたしは知らなかった。
 けれどそれは、一年前に明かされることになる。


「……ママね、再婚しようかなって、考えてるの」


 久しぶりにママと夕食を食べていた。その際、ママが神妙な顔で切り出したのだ。
 珍しく高いお肉で作った豚カツを、あたしはフォークごと皿に落とした。


「……さい、こ……」
「詳しくいったら、復縁よ」


 動揺したあたしの言葉をママは遮った。
 どうして、そんな。いきなり。
 あたしが聞く前に、


「……貴女のお父さんがね、肺がんなんだって」
「え……」
「もう、余命半年もないらしいわ」


 淡々とした言葉で、ママはいう。


「せめて最後は、看取ってやりたいの。……貴女の気持ちも、判らなくないわ。本当の父親といっても、顔すら覚えていない奴と暮らすなんて。でも、たった数ヶ月でいいの。……我慢、して欲しい」


 我慢。
 その言葉に、あたしは苛立ちを覚えた。

 ——あたしは何処まで、我慢すればいいの?
 あたしだけ我慢して、ママは我慢なんてしたことないじゃない。


 そう思った自分に、ハッとする。
 やだ、あたし……酷い事を思った。

 最近、ママに毒づくようになった。
 何だか、昔は全然大丈夫だったことが、最近はほんの些細なことで、暴れたい衝動にかられる。
 何で、こんなにイラつくんだろう。

 でも、やっぱり。


「うん、別に良いよ」


 基本的に、どーでも良かった。





 ……武田君に謝りきれず、仲違いをしたまま、一年経った。
 あの時からあたしの身体は、何となく重い。
 何も、したくなくなった。
 どんな出来事も、興味がなくなった。
 毎日が、全然楽しくなくなった。
 あるのは、重い罪悪感とだるさだけ。

 あたしと同じくらいの子を見ていると、凄くイライラする。
 あたしと違って皆、勉強とか、スポーツとか、やりたいこと見つけて頑張っているんだろうな。
 それに、比べて、あたしは……。

 ガラリ、とクローゼットを開け、制服を取り出す。
 使わず、洗っても居ない埃のついた制服を見るたびに、あたしはまた、クローゼットに押し込むんだ。
 ……制服を着よう、なんて気も失せてしまう。それほどまでに、学校にすら行きたくなくなったんだ。


「……判ってるよ、原因は」


 そう呟いて、布団に潜り込んだ。

 判ってる。
 あたしがこうなったのは、あたしのせいだ。自業自得だ。
 あたしが、沢山の人たちの約束を破ったり、ちゃんと謝らなかったからだ。その一人が、武田君なだけだった。
 ……でも、自覚できたじゃない。ちゃんと謝ろうって、決心したじゃない。
 なのに何で、武田君は消えてしまったの?


 涙が、零れてきた。
 シーツを、握り締める。

 ……不登校になってしまったのも、引きこもりを選んだのも、あたしだ。
 全部、全部あたしだ。

 でも、苦しんだよ。
 辛いんだよ。
 逃げたいんだよ。


「……助けてよ」


 誰でもいいから。


「助けてよ……ッ!」


 ここから抜け出したい。
 早く、この苦しみから抜け出したい。

 学校は、怖いよ。辛いし、悲しいよ。
 武田君に、会うのも怖いよ。何をいわれるか、創造するだけでも立ちすくむよ。

 でも、学校に行きたいよ。
 普通に勉強して、普通に運動して、普通に努力したい。
 一日をボーっと過ごしてだるさだけしか残らない日々なんて、もう嫌。
 武田君に、一度でもいいから会いたい。ちゃんと、謝りたい。そして出来れば、……出来れば、仲直りしたい。

 けれど、その望みは叶うことなく。
 あたしはそのまま、眠りについた。


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