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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【『自戒予告』更新!】 ( No.314 )
日時: 2013/02/24 13:03
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)


 ——……そういえば、ダメナコは自分の息子を亡くしているんだった。
 いや、今日墓参りに行くのはそのダメナコの息子なんだけど、改めて思い出すと、やはりこちらも心が重くなる。


 ダメナコの息子は、飲酒運転事故で亡くなった。
 それも、ダメナコの隣で。まだ、五歳という小ささで。元々子供が出来にくいダメナコは、かなりへこんだようだ。自棄になって、その息子の想い出のモノを全部捨て、今日まで墓参りに行くことはなかった。
 昔、俺はそれを聞いて、怒ったことがある。「愛していたなら、どうして墓参りにいってやらないんだ」と。
 今思い出しただけで、凄く恥ずかしい。とんでもなく恥ずかしい。あー、風が気持ちいい。

 ……過去逃避はここまでにして。

 とにかく、今回はその息子の墓参りなのだが——まあ、その変化は喜ばしいことではあろう。ダメナコの傷が、少しずつ癒えている証拠だろうから。
 けれど、どうして、という気持ちは俺にはある。いや、墓参り行くな、とはいわないけれど。そうじゃなくて、どうして墓参りに行こうという気になったのだろう。という、「どうして?」だ。
 フウのように、上田妹のように、人は立ち上がったり立ち直ったりすることができる、というのを、俺は知っているつもりだ。だから、ダメナコだって立ち直ることは出来るだろう。
 けれど、フウや上田妹は、「劇的な変化」が大いに関わって、そこから極端に変わることが出来た。けれどダメナコに、特に劇的な変化は見当たらない。


「(……俺は、ダメナコというか、大人ってものを、あまりにも知らなさ過ぎるんだな)」


 俺の身の回りには、あまりにも「大人」が少なすぎる。特にあのバカ母親とか。後バカ母親とか。あれらは、そのまま子供が大きくなっただけに過ぎないだろう。
 けれど。やはり、「大人」でも、人なのだ。傷つくことは、絶対にある。そこから、どうやって立ち直っていくのだろう。
 俺たち子供は、大人の保護の下で暮らしている。だから、辛いこととか苦しいことを、全部「大人」に押し付けることが出来る。甘えることが出来る。
 それでも、「大人」は、そんな時間がないほど忙しいのかもしれない。……ダメナコは例外だと思うけど。
 それとも、忙しさで、悲しさが紛れると思ってしまうのだろうか。そう思わなければならないほど、思い詰められているのだろうか。
 そう考えている時。


「……ねえ、メイコちゃん」


 柊子さんが、遠慮がちに来た。細い腕には、分厚く青いアルバムが一冊、あった。
 それを見ると、ダメナコは大きく目を開いた。


「これ……どうして!?」
「耕介君がね、あなたが後悔しないようにって、またちゃんと、大輝君との想い出と向き合えるようにって、柊子のところに送って来たの」


 柊子さんは、ゆっくりと微笑んだ。


「そろそろ、返し時かなって。開けてみて?」


 柊子さんが促すと、ダメナコはおそるおそる、アルバムを開いた。
 そこには、生まれたての赤ん坊の、同じような写真がいくつもあった。その隣に、ビッシリと文字が書かれている。
 それを、ダメナコが指でなぞる。ダメナコの指が、震えたように見えた。


「……大輝」


 ダメナコが呼んだ息子の名前は、丁度蝉時雨が辺りに響いていても、やけにはっきりと聴こえた。


                   ◆


 山を暫く歩くと、辺りが開けてきた。
 広場のような場所に、幾つかお墓がある。そこから見える風景は、町だった。


「うわあ……綺麗—」
「フフン。柊子が選んだベストポジションだよっ!」


 感嘆の声を上げるフウに、柊子さんが得意げにいった。
 成程、確かに良い景色だ。
 隣では、竜胆の花束をブンブンと振り回した、落ち着きようのないダメナコが居た。


「もう、住職さんとは話しつけたし。さっさとお参りしましょう」
「『さっさと』って、おま……」


 ダメナコのいい加減さに、俺は呆れる。
 お前、本当に一人息子亡くして悲しんでいるのか? と、ツッコみたいが……いわないで置いてあげよう。


「いいでしょう、その方が。何? 諷ちゃんとの二人っきりのデートより、ちんけな墓参りの方が良いっていうの?」
「なっ!」


 俺とフウの声が、同時に重なる。


「あら、照れちゃって」
「多感なお年頃っていうのが普通はあるんだよ! ってか、あんたらには関係ねぇだろ!!」


 俺は叫んで、しまったと思った。完璧にダメナコのペースだ。


「ほら、ちゃっちゃと線香上げる。んで、とっとと二人でデートしていきなさい。諷ちゃんもー」
「『もー』じゃねえ! フウも何か……フウぅ!? 顔真っ赤にすんな! こいつのペースに嵌っちゃダメだろぉぉ!!」
「三也沢君。そんな顔で、貴方も人のこといえないわよ」


「ほれ、もう線香上げたんだから行って来い」そう背中を押されて、追い出されるという形で傍を離れた俺たち。



「……」
「……」
「……とりあえず、ここらへん散歩するか」
「……だね」


 気まずさの中、とりあえず俺たちは山の中を散歩することになった。
 まだまだ、暑い昼間の中を。

Re: 臆病な人たちの幸福論【『自戒予告』更新!】 ( No.315 )
日時: 2013/02/24 14:12
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)


                  ◆



「……良かったのか、アレで」


 耕介が、珍しく声を出した。
 背を向けているから、どんな顔をしているか判らない。
 まあどうせ、どんな評定していても、目は死んでいるんだろうけど。


「……いいのよ」


 やっとの想いで、私は声を振り絞った。
 焦げた匂いと、線香の匂いが、混ざって上に上がっていく。


「こんな姿、あの二人に見せることは、したくないもの……」





 口を動かしたくない。
 動かせば、胸から熱いものが込みあがっていく。
 苦しくて、声だって震えちゃう。
 しょっぱい味が、口に広がっていく。


 鏡なんかなくても、泣いているって、判っちゃうじゃない。
 それでも、言葉にしなければ、向き合えないと思った。



「人は、早かれ遅かれ死んで行くわ。私も、あっという間に大輝の元を訪れる。あの時私が代わりに死んでいたって、大輝も死ぬわ」
「……」


 耕介も、虎太郎さんも、柊子さんも、黙って聞いてくれる。
 それでいい。下手な慰めが入れば、私は余計ワケが判らなくなる。


 人は、死ぬのが当たり前だ。それに、早いも遅いもない。
 あの事故も、被害者である私たちをどんなに世が正当化してくれても、大輝が戻ってくることはない。例え、老衰じゃなくても、死ぬ時は死ぬのだ。
 仕方がないことなのだ。


「でもね。……それでもね」


 あの事故は、理不尽だ。
 幾らこちらが交通ルールを守っていても、あちらが破ってしまえば、ルールも無効になってしまう。
 法なんて、そんなもの。法を盾にして身を守ることなんて、絶対に無理。
 あの事故がなければ、先に死ぬのは私だった。順番は、親が先に死ぬのだ。子供は、ずっとずっと、後で良い。
 だから。どうしようもないと判っていても。


「——私が、代わりになりたかった……!!」



 そう、思わずには居られない。
 幾ら奪ったのが犯人だとしても、自分の子供すら守れなかった私を、私は赦せない。
 そんなこと、何時までしたって、優しい大輝や周りの人が困るだけなんだけどね。けれど、そうしなきゃ、やっていけなかった。

 そうする他、自分から逃げながら、尚且つ大輝を忘れずに居る方法が、見つからなかったんだ。



 かがんだ私は、墓石に手を乗せ、握り締める。そっと、柊子さんが抱きしめてくれた。
 その中で、私はみっともなく、泣き喚いた。


 ……想い出は、重い。
 少ないようで居て、私の中では多い。
 多分、私は安堵して忘れたくはなかったんだろう。見るだけでも辛かった、というのも事実だけど。
 アルバムがあるからと。想い出のものがあるからと。
 そういって安心して、自分の中から、大輝の想い出が消えることを、拒んだんだろう。

 悲しいことや苦しいことは、忘れるしかない。
 けれど、私は忘れたくなかった。
 悲しいことや苦しいことを忘れれば、大輝との想い出も消えてしまうから。
 忘れたい。忘れたくない。
 そんな想いがあって、私は今日まで、息子の墓に行くことを拒んだのだろう。

 ……ああ、もう頭の中がグシャグシャで、ワケが判らん。

 どうしても、剽軽な性格になってしまうのよね。
 本当は、泣きたいのに、つい癖でそうなっちゃう。
 そんな風に、誤魔化していたから、ずっとややこしかったんだろうけど。

 でももう、終わりにするから。
 だから、今だけは許して。
 大人でも、ワケ判んないほど泣き喚きたい時はあるんだから。


                     ◆


「さあ! 歩いてみました!」
「おー。で、何がある?」
「民家!」
「だよなあ」


 歩いても暇だった俺たちは、軽く漫才をしていた。
 やっぱり、山の中は何もない。途中、蛇がカエル丸呑みしようとして見事に池に落ちたけれど。それでも必死に泳いで、ちゃんと陸の上に上がっていたが。


「うーん、何も無いですね」
「山の中はな、待っててもないんだ。こっちから見つけに行かないと」
「おお、名言です。……ちなみに、それは誰の言葉?」
「……橘」
「……本当にわたしたち、外に出歩いたことなかったんですねぇ……」
「ホントな」


 フウは病弱だったし、最近までうちの学校の七不思議として居座っていたんだから仕方がない。が、俺の場合はどう考えても……友達が居なかったからとしかいいようのない。というか、作らなかった。
 あ。病弱で微妙に思い出した。


「今更なんだけど、義足で山道は大丈夫なのか?」
「ああ、平気です。この義足、相性いいんで」


「何時も使っている奴に、少し改良を加えた奴だそうです。お陰で、そこまで違和感ありません」と答えるフウ。ついでに彼女は念のために、杖も持っていた。
 成程。フウも、山に来るのが楽しみだったんだな。


「初めてだからねー。山に来るの。暇だけど、来て良かった」
「……そっか」


 嬉しそうに隣を歩くフウに、俺は軽く返す。
 フウが楽しそうなところを見るのは、意外と嬉しい。

「あ、でも、明日は暇じゃないみたいですよ! 近くで、お祭りがある
そうです。とても大きな」
「へー。道理で、二泊三日にしたんだなあ」
「だから! 今は今で全力で楽しまねば……」
「意気込むと転ぶぞー」


 そう返しながら、雑談を挟んで民家を沿って歩いていると。


「……ねえ、ケンちゃん」
「お、なんだ? 何か面白いもの見つけたか?」


 フウが、俺とは別方向を見て俺を呼んだ。てっきり、何か暇つぶしのものを見つけたのじゃないかと思った俺は、彼女の顔色に気付かなかった。
 フウが見ている方向は、上流にしては流れが緩やかな川。

 その傍に、男の子が立っていた。
 年齢からして、八歳か九歳ぐらいの男の子。普通にTシャツと短パンを着て、帽子を被っている。
 それだけだったら、まだ良い。近所に住んでいる子かな、と思うだけだ。




「……え」






 何故なら、その男の子とは、さっき、アルバムで見せてもらった、ダメナコの息子にそっくりだったから。







「えええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 俺たちの叫び声が、辺りに響く。
 蝉時雨は、まだ止みそうにない。



                  【続く】

Re: 臆病な人たちの幸福論【第四部更新スタート!】 ( No.316 )
日時: 2013/02/27 21:39
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)



 ムシャムシャ。
 ムシャムシャ。




「まだまだあるから、たんとお食べ」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとう、おばちゃん!」


「(……で、これは一体どういうことだ?)」



 俺は、今までの経緯を思い出してみる。
 ——が、隣でムシャムシャとスイカを頬張ってるフウと少年を見ると、集中力が所々切れてしまった。


           蛍火の川、銀河に向かって【中編】



 お盆休み、俺こと三也沢健治は何の間違いか、ダメナコたちと一緒にダメナコらの息子のお墓参りに来ていた。
 だが、俺とフウはダメナコに追い出されて(?)しまい、仕方がなく適当にその辺を散策していたのである。
 ——そしたら川の傍で、ダメナコの息子が立っていた。それも、少し成長した姿で。
 俺たちは呆然として硬直し、どうやらあちらもこちらを見て呆然として立ちすくんでいたところ、何故か傍にいたおばさんに「あら貴方たち兄妹? 良かったらスイカ食べない?」的なことに誘われて、そのまま押し流される形に——。


「……のんびりスイカ食ってる場合かぁぁ!」
「はっ! そうだった!」


 俺が叫ぶと、少しむせて、フウも我にかえった。
 俺たちだけに聞こえる様に、至近距離で話し合いを即効行う。


「(なんだよなにがあったんだよどうしてここにダメナコの息子が!? しかも成長してるし!!)」
「(わ、判らないよ! しかも大輝君、このスイカをくれたおば様にも見えているみたいですし!)」
「(お盆だから!? お盆だからか!?)」
「(いやでもだからといって、他の人にまで見えるのは少し腑に落ちません!!)」



 だよなあ。
 俺の場合は、フウが見えたり上田妹を襲っている怨霊っぽいのが見えたりしたから、今回見えてもおかしくはない。フウは前まで幽体だったし。
 けれど、今は明らかに普通のおばさんに見えている。それに、この少年は死んで少し成長した姿になっている。ひょっとしたら、ダメナコの息子にそっくりな、全く別の人間じゃないだろうか。
 聞きたくないような、聞きたいような気持ちで、どうしようかと葛藤していると、フウが丁寧に聞いた。



「あの、わたしの名前は宮川諷子といいます。貴方の名前を聞いても、いいですか?」


 すると、少年は食べる手を止め、礼儀正しくこちらを向いた(ただし口の横にはスイカの種がくっついていたから)。


「光田大輝」



 ——ビンゴ!!
 ほぼ間違いないだろう。本人だ。
 多分、フウもそんなことを思ったのだろう。しかし、平然を装い笑顔で、優しく尋ねる。


「大輝君は、どうしてここに? お母さんとお父さんは?」


 そう聞くと、大輝は困ったような顔をした。
 不思議そうにするフウだが、大輝はただ、寂しそうに微笑むだけ。
 いいたくない。刺々しくはないが、はっきりとした拒絶の態度に、俺もフウもこれ以上聞けなかった。
 ただ、この子は確かにダメナコの息子だな、とも理解した。
 もう死んでいるんだな、ということも。


「ねえ、フウコおねいさんとおにいさんは、ここの人じゃないよね?」
「あ、そうだよ。しりあ……家族のお墓参りに来たの」


 フウが、知り合いといいかけて「家族」といいなおした。
 それは、ただ単に、家族と称したかったのだろうか。
 それとも、「親が居ない」という大輝と、何かつながりを持っていたかったんだろうか。俺は、後者じゃないかなと思った。
 こんな寂しそうな少年を、放って置けなかった。


「……そっかあ」


 やはり寂しそうな顔で、大輝は呟いた。そしてそのまま、スイカに意識をむけ、また食べ始める。
 フウも、同じように、スイカを食べるのを再開した。









「あら、もうスイカなくなっちゃってるじゃない!」


 ちょっとしてから、おばさんがトマトやらキュウリやら(それもかなりでかい)を籠に詰めて持ってきた。


「あ、おばさま。スイカとっても美味しかったです。ご馳走様でした」
「おばちゃん、ありがとう!」
「……ご馳走様でした」


 フウが丁寧に、大輝が元気良く、俺は慌てて、それぞれお礼をいった。
 おばさんは頬に手を当てて、いいのよー、と笑う。


「ねえ」
「なんでしょう?」
「いや、私ねえ。貴方たちのこと、てっきり兄妹かなって思ったんだけど……ひょっとして、貴方たちアベック?」


 ブッハーッ!
 俺は思いっきり、飲んでいた麦茶を噴出した。
 一方、フウはポカンとしている。


「アベック? ……なんか聞いたことあるけど、どんな意」


 長い年月を過ごしていたせいで、最近のこと以外は意外と忘れているのだろう。尋ねようとするフウの口を、慌てて塞いだ。


「むぐー! むぐーっ!」
「あら。今の若い人たちは、アベックって言葉は使わないのかしら?」


 おばさんが不思議そうな顔をした。いや、アベックってもう殆ど死語です。
 と思ってたら、大輝が、


「あー。僕も二人とも、アベックだと思ってたんだよ」
「何でお前がその言葉しってんの!?」


 大輝の口からそんな言葉が出ているのにビックリして、更にフウの口を塞いでいた手に力を込める。
 いやだって、こいつ亡くなった時点で五歳だろ? つまり平成生まれだろ? どう考えたって俺たちより遅く生まれてるだろ? っていうかアベックって何時の時代の言葉だっけ?

Re: 臆病な人たちの幸福論【第四部更新スタート!】 ( No.317 )
日時: 2013/02/27 21:42
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)

 軽く混乱していると、大輝がニンマリとした顔でいった。


「で、何処までいったの? A? B? ひょっとしてC——」
「お前何時の時代の人間だマセガキぃぃぃぃ!!」


 それってリーゼント頭の人たちが跋扈していた時代じゃねぇかぁぁぁ!! 死語どころの言葉じゃねぇぇぇ!!
 ってかCって! どんだけ卑猥なことダメナコは教えてんの!? 大事な息子じゃなかったの!? ホントあの人何してたんだ!!


「え……その真っ赤な顔、まさか——」
「するわけねえだろ!? ってかそんな際どいことホイホイいっちゃいけねえっての!」


 はた迷惑だと思うが、怒鳴らずには居られない。流石にこれはマズイ。いくらなんでもマズイ。
 すると、大輝はキョトンとしてこういった。


「え、際どいの? お母さんから教えてもらった言葉なんだけど、良く意味が判らなくて——」
「判らねぇならいうな! ってかいっちゃいけません!! 今後死ぬほど恥ずかしい目に遭いたくなかったら、これから絶対いっちゃいけない!」


 黒歴史どころの問題じゃない。本気で死ぬほど恥ずかしい目に遭うから。
 ——……あーでもコイツ、亡くなってるんだよな。ならいいのか?


「ね、ねえ……」
「何ですか!?」


 たじっていたおばさんが、ビクリと震える。
 鏡がなくなって、今の俺はさぞかし恐ろしい人間に見えるだろう。
 スイマセン。でも流石に今余裕ありません。
 おばさんはけれど、果敢にも俺にこういった。
















「その……女の子、窒息しそうよ?」
「……あ」



 すっかり、フウのことを忘れていた。
 慌てて、フウの口から手を離す。すると盛大に、フウがむせた。


「ケホケホッ! し、死んだかと思った……」
「す、すまん!」


 慌てて謝罪するが、フウはこちらを見ずにいた。
怒っているかな、と思ったが、表情を見る限り、そこまで怒っても居ない。
 ホッとしていると、フウは、淡々とこういった。



「……花畑に流れてる大きな川の向こう岸に……亡くなった家族の皆が……にこやかに手を振ってた……」
「……」
「あまりにも爽やかしすぎて、蹴っ飛ばしたくなった……」
「……本当にゴメンナサイ」



 フウの恐ろしい一言一言に、きちんとした謝罪をせざるをえなかった。
 見ていた大輝もおばさんも、深々と頭を下げて謝った。

 蝉時雨は、まだまだ続く。










「……軽く死んだと思ってるとき、アベックって言葉の意味を思い出しました」


 ムシャムシャとキュウリを食べているフウが、そういった。
 さっきは余裕がなかっただけで、だんだんと怒りが露になってくる。


「なんであんなにムキになって止めたんですか?」
「いや、まあ……人様に仰々しくいうもんじゃないだろ……」


 フウのもっともな発言にばつが悪くて、俺はキュウリを食べることに専念した。
 ただいま、引き続きおばさんの家の縁側で、三人並んでキュウリを食べている。なんだこの絵面。


「……橘君からは、『お前の彼氏惚気すぎてこっちは砂糖吐く勢いなんだけど』といってましたけど」


 フウの爆弾発言に、あやうくキュウリを丸呑みしそうだった。
 未遂で終わったが、やはりむせた。


「ゴホ! ゴホッ!」
「うわ、大丈夫!?」


 大輝とフウが慌てて身を乗り出して心配してくれた。が、むせた苦しみは中々終わらない。
 やっとこさで止めた俺は、か細い声で「お前だってダメナコにからかわれて顔真っ赤にしてたじゃないか……」というと、フウは「あ、あれは!」と声を荒げた。


「あれは! ただ真正面にいわれてビックリしただけでッ……!」


 苦しいいい逃れをするフウに、少しカチンときた。


「やっぱお前もそうじゃん。今さっきの俺もそんな感じでしたー」
「な! ムカツキます!! その語尾伸ばし凄くむかつきます!!」


 売り言葉に買い言葉。ギャーギャーギャー、と論点がずれていき不毛な争いをするまでに至ってしまった俺たちを止めたのは、間に挟まれていた大輝だった。


「……挟んで、イチャイチャしないでおくれよぉぉぉ!!」
「イチャイチャしてない!!」



 大輝の言葉に、俺とフウの声が重なった。
 俺たちの不毛な争いはとりあえず止まったが——今度は一人巻き込んで、三つ巴の戦争になりそうだった。
 しかし、それも、すぐに止められる。









 パシャリ。

 木々の中では絶対にありえないその音に、俺たちはピタリ、と固まる。
 フウの後ろから聞こえたので見てみると、そこにはカメラを構えたおばさんが一人。
 俺たちは呆然としてしまった。
その様子に、爽やかな笑みを浮かべて一言。


「……学生夫婦の喧嘩に挟まれたやんちゃな息子の像」


「ご馳走様でしたー」ペロ、と年に似合わずされど様になっているおばさんの笑みに、俺たち三人は真っ赤になって叫んだのだった。

Re: 臆病な人たちの幸福論【第四部更新スタート!】 ( No.318 )
日時: 2013/02/27 21:44
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)


                      ◆


 あの後、何とかして写真を消してもらいたかったが、年の功というやつだろうか。軽く丸く収められた。
 ついでに、「貴方たちの写真撮らせてくれない?」といってきた。最初はやっぱり断ったが、敢え無く惨敗し、仕方がなく写真を撮られることにした。おばさんはシャッターを押すたびに、「これでご飯三杯はいけるわよ!!」とわけ判らないことをいっていたが、気にしないようにした。

 その後、嬉しそうな顔をしたおばさんが、「これ持っていきなさい」と、沢山の野菜をくれて、その家を後にしたのである。
 そろそろ三時になっていたので、このまま帰路を辿ろうと思った時、傍には大輝が居た。



「ん? お前もこっちなのか?」


 そういうと、大輝はコクン、と頷く。
 するとコッソリ、フウがこんなことをいった。


「(ひょっとしてお盆ですから、芽衣子さんに会いに行くつもりかもしれません)」
「(マジかっ。でも、コイツは死んでいるんだろ? ダメナコがコイツと会ったら、ダメナコビックリして卒倒……ダメナコの性格からしてそれはないか。でもかなり大騒ぎにはなるんじゃないか?)」


 死んだ人間がいきなり現れるんだ。それはビックリするだろう。


「(そもそも、さっきいいましたが何故あのおばさんにも見えたのかが不思議です。お盆だからといって、幽体だったわたしの姿を見た人は、全然居ませんでしたし)」
「(……お盆の学校って人が居るのか?)」
「(たまに、羽目を外した生徒たちが乗り込むんです)」


 意外な情報を聞いてしまった。が、今はそれどころじゃない。
 どうしよう。このまま会わせてもいいのか? いや、会ったほうが大輝もダメナコも嬉しいだろうけれど。


 ——何か、とてつもなく、嫌な予感がした。







 結局、どうすればいいのか判らずに、俺たちは美馬作夫婦の家に戻ってきた。
 庭に足を踏み入れた途端、美馬作夫婦は駆け寄ってくる。


「おお! 早かったじゃねえか!」
「もっとゆっくりしていても良かったのに……って、あら?」


 虎太郎とは正反対のことをいった柊子さんだが、俺たちの足元に居る大輝に気付いて、声を潜める。
 マズイ、と俺は反射的に思った。最悪の状態が目に浮かんだ。
 が、柊子さんは、俺の予想とは違う行動を取ったのだ。


「あー! もう来たんだね、大輝君!」
「遅いじゃねえか、大輝!」


 正反対のことをいいながら、けれど同じく眩しい笑顔でいう虎太郎と柊子さんに、大輝も「今年もお世話になります」と深々と頭を下げた。
 ——予想外すぎて、俺は目を瞬かせる。
 隣を見ると、フウも驚いた表情でいた。


「じゃあ、先に家に入っていてね!」
「うん、わかった」


 柊子さんの言葉に素直に従った大輝は、広い庭を横切り、洋風と和風が組み合った家に入っていった。
 驚いたまま立っていると、「驚いたでしょ?」と柊子さんがいった。


「流石に、生霊だったことがあるっていっても、死んだ人がいきなり現世に現れているんだから、ビックリするよね」
「……え」
「ひょっとして、柊子さん、アンタフウのことを知っていたのか……?」


 確かに、フウが冬眠状態から復活できたことは新聞などで一時期書かれたが、流石にフウが生霊だったことは書かれていない。
 俺が聞くと、柊子さんは「メイコちゃんに聞いた!」と笑った。


「大輝君ね、実は何時もお盆になると、柊子たちのところに遊びにくるんだよ。ここらへんの土地って、何だか特殊みたいで、お盆帰りで来る霊たちは、案外皆に見えるみたい」
「え……ええええ」


 ビックリな情報に、俺とフウは驚きすぎて若干口が開いていた。


「まあ、世の中には不思議なことなんて、沢山あるよ。一々気にしない気にしない!」


 その様子に、ニヒヒ、と柊子さんは笑って、人差し指と親指で俺たちの口を塞ぎながら、こういった。


「そうだそうだ。こんなことで腰を抜かすなんて、肝が小せぇ奴らだな!」


 虎太郎が加勢する。いや、腰は抜かしてません。驚いただけです。


「しかたないよ、こたろうクン。……でも、今年は楽しそうだな」
「だな」


 柊子さんの満面な笑みに、虎太郎も笑う。


「なんせ、今年はやっと息子の墓参りに来た母親が居るモンな。そいつに会えるとなると……」
「絶対嬉しいよね、二人とも!」


 そういいながら、二人は俺たちに背を向けて家に戻っていく。
 ——その、あまりにも普通の態度に、ようやく、また非日常的なことに巻き込まれたな、と実感した。


「(というか、なんであんなに普通なんだ……)」


 年のせいか? 年のせいなのか?
 それとも彼らは、実は「そっち」の人間なのかもしれない。謎だらけな夫婦だったが、更に謎が上書きされた。


 ——けれど。
 それはどうでもいいことだな、と、巻き込まれた自覚を実感した際に思う。
 フウも、ポカンとしていたが、やがて微笑んだ。どうやらフウも、同じことを考えていたようだ。



 交通事故で息子を亡くし、悲しんだダメナコ。
 亡くなった大輝は、ずっとずっと、ダメナコが墓参りにくることを望んでいたであろう。

 その二人が、やっと会えるんだ。
 細かいことは、どうでもいいかな、と思った。
 そう思うと、心が少し和んだ。






 ——あの時の嫌な予感を、すっかり忘れるほどに。



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