コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.569 )
日時: 2014/09/07 22:30
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: PboQKwPw)


 親友のハツ。弟の千歳。
 荷物なんかじゃなかった。迷惑なんかじゃなかった。
 ちゃんとワタシを見て、ワタシを呼んでくれた人だった。

 愛してくれた人は、ちゃんといたのに。……ワタシが勝手に、振り払い、傷つけただけ。


 あの時、千歳を抱きしめ返していれば。
 あの時、ハツの忠告をちゃんと聞いていれば。
 こんなことにはならなかった。こんな風にはならなかった。

 両親のせいでもなく、山田さんのせいでもなく、こんな最悪な事態を招いたのは、ワタシの弱さだ。



「ねいちゃ、ねいちゃ」



 もう、戻せない。
 奪った命も、自分の人生も。取り戻そうとも思ってない。
 でも、この子は違う。……まだ、やり直せる。引き返せる。
 目は死んでいるけれど、心はまだ死んでいない。
 この子は、ちゃんと立ち直れる。




 電話したのは、二つ。
 一つは、警察。もう一つは、児童養護施設。
 ……弟の未来が、どこへ向かうかはわからない。
 物語では甘く優しく描かれる善意の塊みたいな場所は、現実でもそうだとは限らない。もっと生々しく、切羽詰まった場所の方があり得る。当たり前だ。経営しているのは何でもできる神ではなく、不器用な人間なのだから。
 だからワタシは、無責任にも願うしかない。


「こんなのに、なっちゃだめだからね。
 アンタは、ワタシとは違う。全然違うから」


 ——最後まで、ワタシは姉らしいことをしない。


「……ごめんね、千歳」


 お姉ちゃんじゃないの、ワタシ。
 血も繋がっていない。心も繋がっていない。
 そして、今日からワタシは、自分の名前を捨てる。
 戸籍上から、この世から消えるから。だからもう、お姉ちゃんじゃないのだ。

 君のお父さんとお母さんを奪ってごめん。
 君の未来を一つ、奪ってごめん。
 愛してあげられなくて、ごめん。
 抱きしめてあげられなくて、ごめん。

 でもこんなバケモノなんかより、ずっといい人に愛されて。抱きしめられて。そして、幸せになって。
 ああなんて身勝手で、偽善的で、酷く表面的な言葉。
 けれど、この気持ちは嘘じゃない。
 この、胸が熱くなる気持ちは、愛されていた事実は、支えられていた事実は、偽物なんかじゃない。
 もうそれだけでいい。そう思った。


 最後に、ミルクを飲ませて、泣かない千歳に背中を向ける。
 もう振り返らない。ここには戻らない。
 死体をふみつけないように、ワタシは慎重に歩く。
 外に出たワタシは、死に場所を探す為、一気に走り出した。
 鳥のように、速く。
 足が重くて、飛ぶことは出来ないけれど。

 その日は、とても綺麗な満月だった。



  ■


 ……そう。弱いワタシは、バケモノであることを望んだ。
 だから、誰かからバケモノだと呼ばれても、仕方がなかった。

 ワタシは、あの時死ぬべきだったのだ。
 純粋に夢を信じたまま、殴り殺されていた方が自分のためにも、世の中のためにも良かったのに。バケモノに成り下がったワタシは、死ねずにずっと彷徨い続けていた。
 身体も人じゃなくなっている。大きな怪我をしてもすぐに治って。詰まる所、不死身。
 彷徨っている時は、両親たちを殺した時のように、意識はなくて。……その間、バケモノとして、切り裂き魔として、もっと無関係な人を殺し、傷つけて。

 我を取り戻した時には、記憶をすべて失っていた。



『何してるんー?』


 まっさらな自分。純粋な自分。
 記憶を失くして、ついでに汚れた部分も捨てた先に出会ったのは、そんなワタシ以上に純粋な男だった。
 要と出会ってから。
生前では考えられないことに、幸せを感じるようになった。
 そして、色んなことを経験して、勉強した。ワタシは何も知らない出来ないおバカさんだと落ち込んだ時もあったけれど、要はワタシ以上に物覚えが悪かった……いや、悪くはなかったのだけど。極度の勉強嫌いの様子を見て、ちょっと安心した。
 心強い友人も出来た。優しい恋もした。
 何もかも満たされて、幸せだった。これからも続いてほしいと願ってしまうぐらい。


 ……バカだな。
 記憶を忘れれば、罪はなくなるのか。
 無関係な人を沢山不幸にしておいて、自分は幸せに?
 そんなバケモノに、楽しい日常が送れるわけがない。許されるはずがない。


 現に神は、ワタシを野放しにはしなかった。
 ワタシの元に、使いを送った。
 要に紹介されなくても、一発で判った。成長した千歳だって。
 残酷すぎる使い。思わず逃げ出した。でも、やっぱり神が見過ごすはずがない。もう一人の死の使いを送り込んでいた。


 とても小さな男の子。
 その子は陰陽師だといった。オカルトに詳しくないワタシでも、その存在は知っている。
 彼は、ワタシを「バケモノ」という。その通りだとワタシは思う。
 彼はワタシを祓うという。祓うというのは殺すということだろう。
 他人に迷惑を掛けちゃダメでしょと彼はいう。その裁きは受けなきゃと。


 その通りだと、ワタシは受け入れた。





「……なら、わたしが行きます」


 受け入れた、ハズなのに。


「わたしが、千代ちゃんの代わりに<生贄>になりましょう」


 なんで、ワタシの前に現れたの。
 どうして、あなたがそんなことをいうの。

 突然現れた友人は、自分へ向けられた『脅迫』に一切怖気ずに。
 ワタシを助ける為に、自分の命を掛けると言い出した。


          全部、もう遅いのに


(迷惑な人間が、また他人に迷惑を掛ける)
(もうそんなの、嫌だって思うのに。ダメだって思うのに)

(どうして、あなたたちはワタシを放っておいてくれないの)

Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.570 )
日時: 2014/09/20 19:01
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: PboQKwPw)



第八章 間違っていること、正しいこと




 宮川諷子。要の同級生。
 身長は私より頭一個分低い。両足ともに義足。

 ワタシは最初、彼女を嫌っていた。……嫌っていたというよりも、今思うとただの嫉妬心だろう。

 凄く美人で、お淑やかで、頭も良くて、肉じゃがも作れて。

 何も出来ないワタシより、よっぽど『良い人』。ワタシには持ってないものをたくさん持っている人。
 ……そんな彼女に、一目でヘタレだと判る彼氏が居るとわかった日には、嫉妬心はどこかへ消え、代わりに憐憫を感じたりした。
 今では、なんやかんやでお似合いの二人だと思っているけれど。
 彼女の隣に収まるのは、多分、あいつぐらいだろう。きっと、高校を卒業したら、二人で長い人生を寄り添って生きていく。そんな感じがした。


 そんな輝かしい未来のある人が。
 こんなワタシの代わりに、自分の命を差し出した。











「……生贄だって?」


 朔と呼ばれた陰陽師は、おかしそうに笑う。
 けれどその顔には、動揺が見て取れた。

 ワタシも、彼女の言葉を、すぐには理解できなかった。
 信じられなかった。


「生贄でしょう? あなたは、わたしでも、千代ちゃんでもいいといった。
 あなたに正義心はない。化け物を一匹狩ればいい。
 あなたの為に、命を捧げてやろうっていっているんですよ」


 諷子の言葉は、何時もと違って、毒が含まれている。
 何時も優しくて、フワフワとした言葉なのに。
 今は、直球に。相手が逃げないように。逃さないように。

 額に汗が流れる。
 ワタシの中の諷子は、こんな人だっただろうか。
 こんなにも厳かで、なのに——荒々しい。



「……見上げた自己犠牲愛だね。死ぬの怖くないの?」
「何言ってんですか」



 諷子の言葉は、震えていた。
 でもそれは、恐怖とか、そんな生易しい感情故にじゃない。



「今まで生きていいよって言われたくて、生まれた時から家族のお荷物だったのがやっと人様の役に立って、やっと生きる意味を見つけて、楽しいこといっぱいして、まだまだこれからも楽しいことがあるって判っているのに、死ぬのは、怖いにきまってるじゃないですか。生きたいに決まってるじゃないですか!」


 怒り。
 彼女は、怒っていた。


「それでも、譲れない物ってものがあるんですよ。
 こんなの間違っているって思ったら。もう譲りたくありません」


 何に対して?
 ワタシがしでかしたこと?
 陰陽師が言った言葉?


「だってそうじゃないですか! 何故わたしだけ生き延びることが許されて、千代ちゃんにはそれが許されないんですか! 人殺しだからですか? じゃあ、何故彼女は口裂け女にならざるを得なかったんですか! 彼女はただ!」


 何に対して、彼女はこんなにも怒っているんだろう。許せないのだろう。
 そう思っていたワタシの目の前で——彼女は、小さな声でいった。








「わたしと同じ……同じで、誰かに愛されたかった、だけなのに」





 ——一緒?
 ワタシと一緒? 彼女が?
 出会うたびに輝いていて、一生懸命生きていて、誰も妬まず、誰も憎まないような人が?
 こんな——聖女みたいな人が? ワタシと一緒?


「どうして彼女だけ責任を取らされるんですか!!
 ひょっとしたら、わたしもこうなっていたかもしれないのにッ……何故、千代ちゃんなんですか!!」


 そんなワケない。
 彼女はワタシと違う。例えワタシと同じ立場であっても、彼女は絶対、ワタシみたいにはならない。






「犠牲愛なんかじゃないですよ。ただの自己満足ですよ!! こうすればわたしは少しでも平等になれるんじゃないかっていう、差し出がましい偽善ですよ!!
 ええ、わかってます。こんなことしたって、なんも変わらない。何も救われない。正しくなんかない!!」


 ……で、も。


 愛されたかったのは、一緒。
 生きていいよっていわれたかったのは、本当。
 ワタシらしく、ワタシは生きていいんだって。どんなワタシでも、愛してくれるって。
 ずっとずっと、誰かにいわれたくて。誰かに、認めて貰いたくて。

「それでも、わたしは!! ——黙ってなんかいられない!!」



 誰かと、一緒に居たくて。
 そう思うたびに、胸が、頭が、痛んで。




「わたしは、千代ちゃんの友達だから!
 千代ちゃんを庇うのも、庇えるのも——きっと、わたしだけだから!!」





 ——その、言葉を。
 いったいどれだけ望んだだろう。
 最後までワタシの味方でいてくれる、その言葉を。どれだけ望んだだろう。


 友達はイエスマンじゃない。
 だからあの日。山田さんのことを相談した際に、ハツがいった言葉は真実で、正しいことだった。

 なのにワタシはその言葉に酷く傷ついた。
 望んでいた言葉じゃなかった。
 それだけの事実。その事実を受け入れられない自分の幼稚さに、辟易した。
 間違った道を正すのも友だちの役目だというのに。
 あの日素直にいうことを聞いていれば、こんなことにはならなかったのに。



 それでも、肯定してくれる言葉が欲しかった。
 どんなに間違っていても、ずっとずっと、欲しくて、欲しくて。



 今だって、こんなの絶対に間違っているって判っているのに。
 認めちゃダメだって判っているのに。


 ……涙が出ちゃうぐらい、嬉しい。

Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.571 )
日時: 2014/10/26 18:07
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: PboQKwPw)

「……諷、こ」
「ほら、行って。早く」


 なんで。
 なんで、そんな。そこまでしてくれるの。
 ワタシのせいなのに。ワタシがしでかしてきたことなのに。なんであなたがそれを被ろうとするの。
 ワタシは、あなたに何にもしてないのに。
 何もしてあげてないのに。——あなたは、ワタシに命をくれるの?
 このまま、諷子の言葉に甘えて逃げる?
 ワタシは、無関係な人を殺しておいて、友達に罪を擦り付けて逃げるの?




 この臭くてガラクタだらけの場所で、無残に倒れた諷子と、それを見ているワタシ——そして、後々から来た健治や要。ふと、そんな状況が頭の中で浮かんだ。そんな中の皆の表情が、安易に想像できた。


 ゾワっとした悪寒と、妙に生ぬるい汗がふいた。
 さっきまで感じていた嬉しさは、もう無くなっていた。




「……出来ない!!」



 恐ろしい考えを取り消そうと、ワタシは叫ぶ。
 感情のままに口を動かした。


「早くやってよ陰陽師!! この人は関係ないッ、ワタシを倒すためにあなたはここへ来たんでしょう!! だったらこの人は関係ないから、ワタシだけを、殺してよ!!」
「千代ちゃん!! ——瀬戸君はどうなるのッ!!」


 ス、と。
 諷子の言葉が、心に刺さる。
 それはいとも簡単に、アイツの能天気そうな笑顔を思い出させた。


「瀬戸君、心配していたんですよ。千代ちゃんが急にいなくなったから、心配して傷ついて悲しんで怒ってるんですよ。それぐらい、瀬戸君は千代ちゃんが大事なんだよ。瀬戸君には、千代ちゃんが必要なんだよ!」


 大事? 必要?

 諷子の言葉が理解できない。
 要は、ワタシが居なくても料理が出来る。洗濯物を畳める。掃除できる。
 アイツは、ワタシが居なくてもなんだって出来るし、一人で生きていけるでしょ?

 何度もアイツの足を引っ張った。
 何時も迷惑ばっかかけてしまった。
 そればかりじゃなく、あんな純粋な存在の傍に、汚れたワタシが居ていいはずがない。

 ワタシが居ない方がいいはずなのに。良いハズでしょ——?



「千代ちゃん、お願い。——瀬戸君を一人にしないで!!」



 ——諷子の言葉は、そう言おうとしたワタシの言葉を封じた。






『行かないで』


 夜、うなされている要の口から漏れた寝言。
 置いていかないで。
 置いて行かれた要が、切実に願っていること。

 一人でも平気? そんなはずがない。


『出て行ってしまうと?』


 ワタシが「もしもワタシがここから出て行く日があったらどうする?」と質問した時に、アイツは、とても悲しそうな顔をした。
 友だちが帰って行ったあと、寂しそうな顔をしているところも、一緒に暮らしてきたワタシは隣で見ていた。
 だから決めたのだ。置いていかないと。

 一度、大切な弟を置いて行ったワタシは、そう思ったのだ。







 ……最低だ、ワタシは。
 結局、要を言い訳にして、ワタシは友達を裏切ったのだ。




            ■


 随分時間は過ぎたはずなのに、夕日はまだ沈んではいなかった。
 生物もいないし、風もない。
 ただ単に、侵入者を拒むだけの結界だと思ったけれど、ひょっとしたら、この結界の中は、わたしたちが住む場所とは違う、異世界なのかもしれない。花子さんの家が、そうであるように。

 真っ赤に燃える星は、『よだかの星』を思い出させる。

 確か、主人公であるよだかは、口ばしが耳まで裂けているんだっけ。まるで千代ちゃんみたいだ。


 よだかは、醜いといわれ、鳥たちに嫌われていた。
 ある日、『自分の名前に似ているから』といって、鷹がよだかに名前を変えるように命令した。よだかは一生懸命拒んだけれど、鷹は『お前を掴み殺す』といって、聞かなかった。
 明日までに名前を変えなければ、あさっての朝によだかは殺される。その猶予の中、よだかは自分の罪を知った。


 罪のない虫を食べていたこと。


 ……そんなのは、罪でも何でもない。
 生きる為に出来上がった因果。けれど彼は、それを罪と思った。
 もしも、それが罪だというのならば、この世で生きている生物は、皆罪まみれなんだろう。


 沢山の人を斬殺した千代ちゃんも罪人。
 千代ちゃんの代わりにわたしを殺そうとする朔君も罪人。
 ……何が正しいか判らなくて、無謀なことをしているわたしも罪人。

 わたしが死ねば、わたしを大切に想ってくれる人たちが悲しむ。

 耕作さんと芽衣子さんは、息子さんを失くしていて。だけど、わたしを娘として受け入れてくれた優しい人たち。
 わたしの大切な友達。愉快で楽しい人たちばかりだけど、皆心の底で、深く暗いものを持っている。

 そして——……一番愛おしくて、一番大切だと思える人。
 わたしが居なければ、彼はダメになってしまう。その事実に、わたしは気づいていた。


 前者の人たちの傷を深くすることになるかもしれない。でも、あの人たちは、立ち直ることが出来る。
 そういう強さを持っていることを、わたしは知っている。だから、安心できる。


 でも、彼はダメだ。ダメなのだ。


 あの人は、わたしの知っている中で誰よりも脆い。
 きっと、わたしじゃなくても、誰かが消えてしまえば、どん底まで落ち込んでしまう人。人の痛みは、他人の痛みと割り切れない人。
 泣いている子供が居れば、同じように悲しんでしまえる人。
 それは長所であって、だからこそわたしは、彼のことが好きになった。

 でも、その長所は時に、どっぷりと彼を依存させる。

 泣いている人につられて泣くだけじゃダメなのだ。
 一歩前を歩いて、支えてあげなければダメなときがある。それは決して薄情じゃない。人を鍛える為に必要な「厳しさ」だと思う。
 それが、あの人はちゃんと理解できてない。

Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.572 )
日時: 2015/01/17 18:57
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: PboQKwPw)

 あの人にとって、わたしの存在は特別なもの。これは、自分の自惚れも含まれているけれど、揺るぎない事実でもあると考えている。

 あの人には、家族が居ない。
 お母さんはいるけれど、お母さんは彼を愛さない。彼を憎み、傷つける。
 『恋人』以上に大切な『家族』が、あの人にはない。
 ただ、それだけのことなのに。わたし以上に大切なものが、あの人にはないのだ。


 他のことに興味がないわけじゃない。
 友達を大切にしている。芽衣子さんを頼りにしている。懐に入れた人は後生大切にする性分だと思うし、そうじゃなくても、困っている人は見過ごせない。そうやって、人との出会いを増やしていくことは出来る癖に、どうしても自分を表現できない。
 こんなにも、あの人の周りには頼れる人が居るのに、本当の意味で彼を知る人は、今のところわたしだけ。
 あの人が自分のいいところ、悪いところを自覚して、それを言葉や行動で表現できるようにならない限り。あの人の大切なものは、いつまでもわたししかいない。

 その純粋さが、悲しかった。
 他の人なんていらない、そんな風に一途に想ってくれる心に、嬉しいと素直に喜べない自分が、悲しい。


 普通なら。自分を表現できる機会を作るのは、ありのままの自分を受け止めてくれる役目は、最初は親が受け持つはずなのに。彼の母親は、それを放棄した。
 でも、少しずつ、彼は自分の足で進んでいった。
 頭がいい彼は、自分だけが嘆いているわけじゃないと理解した。
これから時と経験を重ね、自分のことを知っていくようになる。それを見ていきたいと思った。一緒に受け止めていきたいと。
わたし以外に大切なものが増えるといいな。
 夢とか、希望とか、なりたい職業とか。好きな物、嫌いな物、そういうものを持ってくれたら。
 初めて会った時の、死を決した時とは違う、生き生きとした姿を見ていきたいと思った。



 でも、もし、わたしが死んだら?
 彼は、独りになってしまう。
 千代ちゃんの身代わりになって、陰陽師に「バケモノ」と認定され、この世から消されたと知ったら。彼は怒るし、泣くだろう。
 でもその感情は、誰に向けられるの? わたしが死ぬのと引き換えに生きながらえる千代ちゃんに? でも、彼は千代ちゃんだけが悪いわけじゃないことを知っているはず。
 じゃあ、この朔君に? でも、この子じゃなくても、別の人が千代ちゃんを狩りに来ることも考えられたはずだ。
 陰陽師全部だとキリがないし。一体、誰に向けられる?


 答えは、すぐに出てしまった。





 ……もしも、もしも、わたしの考え通りなら。
 あの人は、あの人自身を責めてしまうんじゃ————————。




「……ねえ。考え直すなら早めにいってね」

 朔君の声が、疑惑や不安でぎっしりと詰まっていた頭に、すっと入る。
 動揺も恐れもなく、真摯に彼の言葉を返した。

「考え直しませんよ。わたしは、随分頑固な人間なので。一度いったことを曲げられません」
「頑固っていうか、融通が利かないんじゃない。それ」
「世の中、主張したことをコロコロ変える人間が居るから何時まで経っても平和にならないんじゃないですか?」
「……名言だね」
 棘がある言葉を返してしまった。相手は陰陽師といえど、わたしよりも若くて、子供なのに。
それぐらいのことが考えられるくらいは、わたしは今余裕がある。
 あれだけ怖かったのに、二人っきりになった途端、わたしたちの距離は随分と縮んでいた。
「君は聖人を気取ってるの? 本当に死ぬ気なんて」
「聖人でもなんでもいいなさい。非難されることをした自覚ぐらいはあるんで」
「……何言っても聞かないって感じだね」

 そう。非難されることをしただけある。

『瀬戸君を一人にしないで』

 千代ちゃんに向けていった言葉を頭の中で繰り返した。
 どの口がいうのだろう。今から、一番一人にしてはいけない人を置いて行くのに。

 わたしは、最も大切な人を傷つけるのだ。それが判っていながら千代ちゃんを庇う。
 たったそれだけのこと。
 それでも、今からわたしは、そのちっぽけなことを行うのだ。



       ヒーローは、カッコ悪い

(意地になって守る物なんてたかがしれている)
(だからこそ、守るのかもしれない)

(凄く小さいモノなら、守れるかもしれないから)

Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.573 )
日時: 2015/03/14 21:15
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: PboQKwPw)

 口裂け女の初めてのデート

 化け物になると、同じことを繰り返すようになるのかもしれない。
 逃げる為に全力で走るなんて、一体何度目だ。
 生憎、この身体になってから、わき腹が痛くなることも、足が疲れることも、息がキツクなることもなくなったけど。
 化け物になってから、痛みというのとオサラバした。痛い目に遭うこともないので、反省しなくなったのだろう。同じことを繰り返すのだ。


 なのに。この胸の痛みは何だろう。
 脳裏をジリジリと焼き付けるように、フウコの姿と、千歳の声を思い出すのは何故だろう。
 焼き付けるような後悔、羞恥。
 それが、私の足を進めさせるのと同時に、引っ張った。


「逃げちゃだめだ」というように。
「フウコを見捨てちゃだめだ」といっているように。

 でも、要のことも、忘れられなかった。
 傍に居たい。彼の元へ。彼の隣に。彼の痛みに触れて、彼の傷を癒したい。愛されたい。愛したい。誰かに強く想われて、誰かを強く想いたい。
 ワタシは、こんなバケモノになっても生きたかったのだ。何を犠牲にしても。みっともなくも。

「千代ッ!!」

 ——あなたのそばで、生きていたいと、想ってしまったんだ。

 電柱の光を頼りに田んぼのあぜ道を走って来た。
 ワタシの名前を呼んだのは、要だった。




「千代!」


 その次に呼んだのは、健治。


「(あ……)」


 すぐさま、フウコを思い出した。
 健治と諷子は、二人で一つ。夫婦のようなにおいを持たせるほど、本当に仲がいい。仲がいい二人しか見てこなくて、そんな二人を呆れながらも、ずっと見たいと思った。
 憧れだった。二人が二人とも大事に想っているのがわかったから。……だけど今なら、その気持ちがわかる。この激しい気持ちが。一緒に居たいという気持ちが叶えられない時、その後の自分が想像できないぐらいの激情を。だからこの二人は一緒に居たのだとわかった。

 そうだ。ワタシは、フウコを身代わりにしただけでなく、今からこの健治も悲しませなければならないんだ。


「……あ……」


 説明しなくちゃ。言わなくちゃ。告白しなくちゃ。謝らなくちゃ。
 口が渇いて、べったりと口内がくっついて動かない。

 要がこちらに向かって走ってくる。雨が降っていたんだろうか。あの世界ではあんなにも夕日が血のような赤に輝いていたのに。ぬかるんだ土が、走る度に要のズボンの裾を汚す。そんなことは気にしない要。多分本気で走っている。でも、ワタシの目には、ゆっくり、ゆっくり、手の振り方から足の踏み出し方まで、はっきりと見えた。

 ワタシは動けない。指先は凍り付くように。首を少し降ることも出来ない。
 どんどん、距離が縮まってくる。
 縮まって、縮まって、縮まって————。


 その距離は、ワタシと要の身体がくっつくほどに、近くなった。
 ——いや、距離なんて、なかった。


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