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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.549 )
日時: 2014/04/07 21:56
名前: 香月乃 (ID: x9WEDbHK)
参照: http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=big&illust_id=42763983

>>16の挿絵お持ちしましたっ
すみません、いつものアプロ館のURLが貼れなくなってしまったので、pixivからです。
pixivに登録していない方だと見にくいかもしれません…

なんかもう色々言いたいことはあるんですが何から言えばいいか…
えっと…と、とにかく全部まとめると、応援してます!
透明感があって、人のマイナスな感情が渦巻いてるのに、それを凌駕するような人の綺麗で純粋な感情があって、私自身すごく世界観が変わって、あ〜…文才ないので伝えられませんすみません…!
カキコの中で個人的に一番好きな作品です!更新頑張ってくださいっ

P,S
これ書籍化されてほしい(かなり本気で)

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.550 )
日時: 2014/04/08 20:32
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: 3mln2Ui1)

 香月乃様!!


 神が降臨しそうな挿絵を、また今日もありがとうございます!!!(なんじゃそりゃw

 ああ、素敵だ……香月乃さんのフウちゃんは、美人で可愛くてホント好きです。パッツン系最高!! ハーフアップ最高!! あとケンちゃんは爆発していい!! 何だこのイケメンは!!www



 うわあああああああい!! pixivだあああああ!! ついに私もpixivデビューだああああ!!wwww
 大丈夫です、ログインできます!! というかpixivの絵ひょっとして私が最初だったりしませんか!? え、しない!? とにかく嬉しいですありがとうございます!!!


 あまりグロかったりエグかったりを書く割には文章が淡白ですが、そんな風に捕らわれているんだなあと思うと、自分の文体はこうで良かったなあと思います。ありがとう、そんな風に言われるなんて私最高に嬉しいです!! しかも一番って!!!ww


 香月乃さんの褒め言葉に負けないよう、私頑張ります!!!



追伸返し

嬉しい事いいやがってこんやろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!www
書籍化なんて夢の又夢だけど凄く嬉しいいいいいいい!! でも、本屋さんで並べられたらそれはそれで怖いかな!!ww ヘタレ精神万歳!!!((((


そして書籍化の挿絵は香月乃さんだねb

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.551 )
日時: 2014/04/08 20:24
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: 3mln2Ui1)




       口裂け女のひとつの過ち  その2





「こんにちは。人殺し。……ああ、全部忘れていたんだねぇ。ダメでしょぉ? 人殺しがこんなカタギと一緒に暮らしたら。……いや、人殺しじゃないな。——バケモノって呼ばなくちゃね」




 この人間ハ、一体ナニヲいってイルノだろウ?
 夕日を背中に向けて笑うその人間は、あどけない少年の顔をしていた。

 多分、年の頃は十から中学に入る前。それぐらい幼い少年だ。



 何故こんナ幼イ少年が、バケモノのワタシと対峙しているんだろうカ?








 山田さんに誘われて来た仕事場は、とてもお洒落な喫茶店だった。クラシックで、ぼんやりと明るい店内、外にはアニメ映画に出てきそうな草木が植えられてある。

 錆びた商店街の隅っこに、こんな場所があるなんて。地元の人間のハズなのに、驚くワタシがそこに居た。


 ここで働いているのかと聞くと、そうじゃないよ、という問いが帰ってくる。
 この喫茶店の主人が自分の知り合いだから、場所を貸してもらっているとのことだ。


 その喫茶店には、山田さんの友達がたくさんいた。化粧が濃かったりする女性や、チャラそうな男性、普通っぽい人、色々居たけれど、みんな優しかった。


 暖かかった。


 その後、度々何度か遊びに行き、やがて一人でその場所に行くことになって。
 最初は昼だけ行っていたけれど、だんだんと夜に通うことも多くなった。夜の方が、会える人が多い……というか、山田さんは夜でしか会えなくなったから。人と会って、くだらないことを喋るのが楽しくて嬉しくて、仕方がなかった。



 すっかりワタシは、山田さん中心にしか考えられなくなったようだ。
 我ながらなんて単純、けれど気分は悪くない。
 山田さんのお蔭で、ワタシは居場所を見つけた。友人を作ることが出来た。少し、笑顔を作れるようになったと思う。愛想良く出来るようになったのだ。




 今日もまた、十一時に家に帰る。散々皆とカラオケで歌いまくったから、喉も痛いし身体中どこも痛い。

 部屋は真っ暗で、もう既にお手伝いさんは寝てしまったようだ。千歳の方を見ると、ギャンギャンと泣いている。

 最近放置することが多くなったから、また盛大に吐くんじゃないだろうかと疑念を持っていたが、今ではもう吐くことは無くなった。凄く嬉しい。やっぱり、嘔吐物を処理するのは精神的にキツい。

 しかし、何故泣いているのだろう。というか、こんだけ盛大に泣いているのにお手伝いさんは良く寝れるな、まだ十一時だというのに。


 粉ミルクは減っているようなので、多分飲ませたんだろう。
 と言うことは、この泣き声はオムツを替えてと訴えている声だ。


 ……勘弁して欲しい。何で花の高校生が、赤ん坊の大便を処理しなければならないんだ。

 とか心の中で悪態をつきつつ、オムツを替え、だっこしてあやす。



「はいはい、よしよし。良い子だねー」


 殆ど棒読みだ。勿論、すぐにこの頑固の弟が泣き止むわけがない。
 ……今日は眠れそうにないな。疲れ切った体に鞭を叩き、徹夜を覚悟する。


 傍から見たら、面倒見のいい姉に見えるかもしれないが、殆ど流れ作業になってしまったその行動には、弟への愛情も何もない。

 あるのは、弟の面倒を見たら、両親が振り向いてくれるという打算。


 やがて、スヤスヤと規則正しい寝息が耳元で囁く。珍しい。今日は随分と言うことを聞くものだ。
 無防備な身体は、急に重くなる。千歳は寝たら随分と眠るから、夜泣きすることはもうないだろう。良かった、今日はちゃんと眠れそうだ。



 ……山田さんと言う存在が出来てもまだ、ワタシの中を占めているのは、やはり何もしない両親だった。

 酷い姉だという自覚はある。でも結局、ワタシとこの子には、同じ血が流れていない。ワタシにとっては、赤の他人なのだ。



 赤の他人と思わないと、ワタシが大好きなお父さんたちの血を引いている、この子を殺してしまいそうで。
 今、こんな風に、真っ暗闇の中、月の明かりだけが頼りと言う心細い空間で、安心して眠る弟を見ると、このか細い首を絞めてしまいそうで。そうなる前に、ワタシは出来るだけこの子に関わらないほうがいい。


 だからこの子を抱きしめるなんてことは、絶対に、出来ない。







「……えええ!? 八歳年上ぇえ!?」


 相変わらずリアクションの良いハツだ。見てると思わず笑いがこみあげてくる。



「ちょ、ちょっとそこで笑うのナシ!!」
「ゴメ……ちょ、……ツボがッ!!」
「何呼吸困難起こすぐらい笑えるの!?」


 お笑い好きのハツのツッコミの鋭さは、趣味と言おうか好みと言おうか、そういうのも影響しているのだろうか。何せ絶対『笑点』をリアルタイムで見逃さない子である。間に合わなければ職員室に乗り込んで見るぐらいに笑点廃だ。
 そのレベルは、多分某ワンでトップが取れる。相方が居ないと無理だろうけど。ちなみにワタシはごめんだ。ボケることができない。


 ……何故ワタシは、友人の『笑点』廃度数に関して、心の中で熱弁してるんだろうか。いや違うだろ。会話の本質から離れてるだろ。

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.552 )
日時: 2014/04/24 20:36
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: Q.36Ndzw)



 とりあえず、ハツの笑点好きな点は置いといて。


 一か月前、ワタシは、山田さんに告白した。あ、勿論、恋愛的な意味で。くれぐれも火ミスの犯人のする自白的な意味ではない。

 当たって砕けろな心構えで告白したのに、意外とあっさり了承を貰えたから、その場で腰を抜かすという失態をしてしまったけれど。失恋して、山田さんに会いづらくなる方がダメージとして大きかったと思うので、まあこれは、いい結末であったと思う。



「ひゃー……千代もやるわねえ。そんな人捕まえるなんて」
「フフン。ハツも彼氏捕まえなよ?」
「ちょ、今のムカツク。自分が彼氏捕まえたからって、いい気になるな」



 女子高生とは思えない顔をして、ハツは下を向く。
 ……ちなみにハツは、こう見えて結構男性経験豊富だ。今はもうフって独り身だが(高校生がいうことじゃないよね)、それでも男子にはモテるモテる。彼女曰く、「これぐらいの顔だったら落せるかなと男子は思っているから、あとは愛想で振りむかせる」らしい。あくどい、じゃない、計算高い、じゃない、強かな性格がモテる秘訣だとかそうじゃないとか。


「あーあ、じゃあこれから、千代と遊べる時間、少なくなるわねー」
「そんなことないよ。いつも通りでいいじゃない」

「あのね。そんな余裕スカした態度じゃ、あっという間にフラれるわよ? なんたって、相手は八歳年上なんだから。アンタはそのハンデについて、もう少し危機感を持ちなさい」

「そうかなー……ハツからいわれたら、そうかもー、って思うけどさ」


 ……確かにワタシは、男性というものについて、あまり知らない。
 周りに寄ってたかってくる男どもが気色悪くて、毛嫌いしないとやっていけなかった。そんな男嫌いのワタシが、男の人と付き合うことになるなんて、今まであまり想像しなかった。

 だから。……実の所、これから先どうなるかが、怖い。

 今まで気づかなかったことや、気付かなくてはならないことが増えてくると思う。その時その時の瞬間で、何が生まれるか、何が壊れるかが判らない。


 ワタシは、恋をしても、大切な親友を大切にしたい。だけど、漫画や小説なんかでは、恋と友情を両立させることは、難しいみたいで。
 だけど。










「——ハツはさ、彼氏作っても、ワタシのことを気にかけてくれるでしょ?」









 ハツが、弾けるように顔を上げた。

 ……ワタシは、知っている。ハツが彼氏を作った時は何時も、ワタシとの時間が増えるのだ。

 友人一人作れないワタシを、何時も守ってくれるハツ。それは、恩着せがましくなく、それでいて温かいやさしさ。

 ハツは、彼氏ともう少し深い関係になる前に、ワタシとの時間を増やしてくれる。急にワタシを、寂しくさせないための気遣い。そのお蔭で、ワタシはハツと喋る時間が少なくなったという事実に気づいても、感傷的になったりすることはなくて。

 そんなハツの気遣いに気づいたのは、恥ずかしながらも今日、それも今まで会話してきた最中のこと。つまりたった今のことで、多分ワタシが未だに気づいていない気遣いも、そこらじゅうに転がっているだろう。


 だから、ワタシも、ハツと同じようにとはいわずとも、貰った分だけのやさしさを、ちゃんと返したいと思うのだ。





「ハツ。……ワタシがフられちゃったら、慰めてくれる?」
「当たり前じゃない。親友なんだから」



 ハン、と笑って、ハツは腕を組んだ。



「私はどうあっても、アンタの味方よ。千代」



 ワタシも。どうあってもアンタの味方でいたいよ、ハツ。



 そう思ったのは、嘘ではなかったハズなのに。












 山田さんと会うのは、とても楽しかった。色んな所へ遊びに行った。遊園地だったり、山の上流だったり、海だったり。
 いろんなものも買ってくれた。ネックレスや、ブローチ、髪留め。勿論、そんなに高価ではないものだ。だけど全部綺麗でかわいくて、何だか身に着けるのがもったいなかった。


 こんな風に、女の子を喜ばせることが出来るのは、大人だからだろうか。ワタシより色々知っている、大人だから。
 それともワタシが、無知なだけだったからか。




 最初は、ハツと電話していたことから始まった。
「誰から?」と山田さんに聞かれたので、ワタシの友人のハツ、というと、「それって女の子?」と聞かれた。
 うんそうだけど。ワタシ、その子しか高校の友達いないから。そういうと、そっか、といっておしまい。だけど、何となくこの時、嫌な予感がした。山田さんの顔が、翳って見えたようだったから。



 次は、身体を触れられる不愉快さだった。
 キスなんてまだしたことなかった。当たり前だ、男なんて大嫌いだったから。見られるだけでも不愉快で。
 それでも、山田さんなら、『そういうこと』をされても、大丈夫だと思った。
 好きな人だから、多分大丈夫。なんせ、今まで男を好きになることすら考えられなかった自分が、告白して一緒になった相手だ。『そういうこと』になっても、きっと、……なんて、甘い希望を抱いていた。


 結果は、吐きたくなるぐらいにダメだった。
 キスならまだ良かった。ハグもまだ良かった。だけど、あの大きくて無骨な手で触られて、産毛が逆立った。危険、ダメ、触られたくない。

 それでも、無理やりに事を進められて、……ワタシは何も知らなかったんだと、改めて思った。

 痛かった。身体だけじゃなくて、心も。

 なんだかすごく、ポッカリと穴を開けられたみたいで。

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.553 )
日時: 2014/05/01 22:15
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: Q.36Ndzw)


 それらの二つは、だんだんとエスカレートしていった。

 最初は電話相手の名前ぐらいだったのに、「随分と長話だったね」「どんな話をしていたの」と、喋っていた内容をすべて白状させられるようになった。

 行為も、……怖くなって、最近じゃ産婦人科にいって確かめたほどだ。結果は白だったけれど、それでもついお腹を押さえてしまう。ここに、ワタシと違う、別の何かがいるんじゃないかって。


 どちらも、何度も抗議をした。
 ワタシのプライバシーを侵さないでって。もうちょっと、ゆっくりとした時間を過ごしたいって。
 そうしたら、帰ってくる言葉は何時も一緒。



「やましいことをしているのか」
「僕のことが好きじゃないのか」



 嫌いなわけない。
 嫌いな人に、ここまでワタシが心を許すわけがないでしょう。
 両親に振り向いてもらえずに、悶々と日々を過ごしていたワタシの心を埋めてくれた。

 そんなあなた以外に、好きになれる男の人は、きっといない。


 けれど、会えば会うほど、ワタシは次第に、山田さんといるのが苦痛になっていった。
 山田さんが好き。だけど、あの人と話すと疲れてしまう。けれど、あの人以外にワタシを理解してくれる人は居ない。
 葛藤を抱えて、何度も別れようと思うたび、心は痛んだ。
 山田さんと別れた時、自分はどうなってしまうんだろう。もう二度と山田さんと顔を会わせることは出来なくなる。そうなったらどうなるだろう。虚無感に苛まれるか、孤独を弄ぶか。

 想像すればするほど、自分で首を絞めていく。けれど、考えなければ、考えなければと思った。

 ワタシは何かに追いかけられている。逃げても逃げても、それは追いかけてきて、やがてそれはワタシを食らうだろう。それが恐ろしくてたまらなかった。
 このままだともっと苦痛な出来事が起きる。けれど、山田さんと別れたいとは思えない。



 ワタシはもう、山田さんのことしか、考えられなくなっていった。
 嫌な意味で。







 日に日に顔色が悪くなっていくワタシを、ハツは気遣ってくれた。
「何かあったの?」と聞かれたけれど、思い出したりするだけで、ワタシは吐き気を覚え、口を噤んでしまう。けれど何度もハツが、「相談してよ」と訴えてくれたお蔭で、恐る恐る口に出すことが出来た。


 口に出していくたびに、ワタシはハツに期待していく。ハツなら何か上手い解決策を考えてくれるんじゃないかって。

 ハツはワタシの親友だ。だから絶対、見捨てたりなんかしない。ワタシの味方でいてくれる。ハツは何時だって、クヨクヨしているワタシの心を明るくさせてくれた。だからきっと、今回も。

 食い入るようにワタシはハツの口元を見ていた。
 ハツの口が動いた時、ワタシの期待は頂上まで高まった。


















「別れた方がいいよ」



 キッパリと返って来た言葉は、死刑判決。
 ストン、と期待は落されて、遅れて絶望がじわじわと胸に染みこんだ。


「それは、性的虐待だよ。別れた方がいい。
 ハツがそんな男の為に尽くす必要なんて、全然ない」



 考えたら当たり前のこと。ワタシだって考えなかったわけじゃない。寧ろ、何度も何度も考えたことで、その度に何度も傷ついた。
 隠したかった腫物を指摘された時、人は冷静ではなくなる。




 アンタ、美人なんだから。代わりぐらいまた見つけられるって。





 茶化すようにいったハツの言葉が、引き金だった。
 ハツが何かをいっているが、ワタシは何も聴こえない。
 何も聴こえない空間で、勢いよく言葉を破裂させた。




「ハツは、本気で人を好きになったことはないの?」




 正論だとは思ったの。それ以外に何も言えないとも、判ってた。
 だけどハツの言葉は、ワタシにとっては凄く冷たくて、残酷で、他人ごとのようで。
 親友だと思っていたのに、ワタシが望む方向へとは逆の方へ連れて行った。
 怒りと悲しみと衝撃が、ワタシに取り憑き、ワタシの口を勝手に動かす。




「かけがいのない人とか、代わりがない人とか、そんなのを見つけたことはないの?
 ああそっか、ないよね。だってハツ、ワタシじゃなくても友人なんて沢山いるんだから。男なんて作っては別れるんだから。そりゃ、代わりが居たら、幾らでも捨てることが出来るわよね。いちいち心を痛める必要なんてないよね。——ワタシは違う!!」




 代わりなんていない。
 一番愛して欲しかった両親は、これっぽちもワタシの望みを叶えてはくれない。きっとこれからも、ワタシの気持ちに気づくことはないだろう。
 それでも、両親への飢えと渇きは、ハツと一緒に居ても、山田さんと一緒に居ても、満たされることはなかった。


「親友って、嘘よね。代わりが居る親友なんて親友じゃないわよね」


 山田さんは、ワタシの期待を返してくれた。ワタシの想いに気づいて、報いでくれた。
 ハツとは真逆で、ワタシが何もいわなくても、ワタシが望むことをくみ取ってくれたの。
 それがワタシとって、凄く嬉しくて、幸せだった。



 だけどね、ハツ。
 アンタのやさしさも、代わりなんてなかったんだよ。
 何時も一緒に居てくれる、異変があったら聞いてくれる、励ますために茶化してくれるアンタの不器用なやさしさが、とても好きなんだ。



「結局、ワタシがアンタの嘘を真に受けてただけなんだ。ずっと、間抜けなワタシをバカにしてたんでしょう!!」



 ねえ、気付いて。
 こんなのワタシじゃない。
 確かに、アンタには沢山の代わりが居て、ワタシにも代わりが居ると思ったら、凄く悲しいのは確かだけど。だけど、そんなところも含めて、そんな風に割り切れるハツの強さが、ワタシはとても好きなんだ。




「いいわよね、代わりが居る人間は——何時も気楽そうでさ!」





 こんな風に言葉にするのは、ワタシじゃないんだよ。
 ねえ、——止まってよ、この口!


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