コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照2500突破記念感謝祭更新!!】 ( No.224 )
- 日時: 2013/01/25 12:16
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
……そっか、気絶しちゃったのか、あたし。
「……ごめんなさい」
「僕に謝っても仕方がないでしょう」
意外と真剣に謝ったのに、バッサリと切り捨てられた。
しかも苛立っているのか、表情では判断しにくいが、言葉に棘があるようだった。
え、ええー。どうすりゃいいの、あたし。
何て困惑していると、男の子が「ごめんなさいじゃなくて」と続けた。
「『ありがとうございます』、でしょう? 謝罪より、僕はお礼のほうを貰いたいです」
その言葉に、あたしはポカンとした。そんなこと、いわれたことがなかったから。聞いたことがなかったから。
「あ、ありがとうございます」あたしは少し俯きながらいった。
そしたら、
「どう致しまして」
って、いって、その子が笑った気配を感じた。
慌てて顔を上げると、その子はやっぱり無表情だった。
「(……きのせい、だったのかな)」
でも、もしそうだったとしたら。
……勿体無かったって、何だか凄く悔しかった。
「……どうしましたか?」
後、ちょっと恥ずかしかった。気持ちを悟られないように、あたしは笑って誤魔化す。
「……ねえ、名前聞いてもいいかな」
気まずさゆえに唐突に発言しちゃったあたしの質問に、その子はパチクリと目を瞬かせた。無表情のまま。
こうして、あたしは「人の名前聞くならまず自分からと教わりませんでしたか?」と、説教を食らい、互いに自己紹介した後、部屋に入ってきたその子そっくりなお母さんが「お友達が無事でよかったですね」といい、雰囲気に流されてそのままお友達になったのである。
その子は、武田静雄という名前だった。あたしは、武田君と呼ぶことにし、武田君はあたしを、三浦さんと呼ぶようになった。
暫く武田君のお母さんとお話をした。やっぱりというべきか、彼女も中々のポーカーフェイスだったが、たまにふんわりと笑う姿は、とっても可愛らしかった。不意に、出会ったときに武田君がした膨れっ面が脳裏に浮かぶ。それを無意識に重ねていた。
「(似てるなあ)」
きっと、膨れっ面も、武田君と一緒で可愛いのだろう。
お話も面白くて、退屈しなかった。素敵なお母さんだなあ、と素直に思えた。
一通り話し終わり、時計を見ると、もう六時半だった。そろそろ帰ろうと思い玄関に出る。その時ようやく自分が迷子だったことを思い出したあたしは、真っ青な顔で武田母子に説明した。
「……全く、十四で帰り道も判らないなんて。バカなんですか?」
ピシャッ、と戸を閉めながらいう武田君は、中々迫力がある。
「……スイマセン」
正論が痛い。しかし、今日初めて会った女の子に「バカ」はないだろう。
……と、いえないのは、あたしがチキンだからだろうか。
「まあ、迷子になって困るのはこちら側もですし、僕が家まで送ります」
「あ、ありがとうございます……」
ありがたいが、ちょっと嫌な帰り道になりそうだった。
何ていうか……新たに出来た友人は、意外と辛辣だ。いいたいことを容赦なくいう。
あたしとは、正反対だ。
「(……この人とのお友達関係は、何時まで続くのだろう)」
ふと、過ぎった考え。
あまり期待はしなかった。だって、成り行きでなっちゃった感じだし、あたしと武田君は正反対で、似ているところなど見つからなかったから。
友人は欲しい。長く続いて、あたしのことを理解してくれる友人は、望んでいたモノだった。
けれど、そんな人など何処にも居ないだろう。
「(こんな、弱くて我侭なあたしのことを理解してくれる人なんて)」
多分、これが最後になるだろうなあ、と、あたしはただ思った。
別に、寂しくも悲しくもなかった。
この時、までは。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照2500突破記念感謝祭更新!!】 ( No.225 )
- 日時: 2013/01/25 12:17
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
夕日によって染められた、茜色の空を飛ぶ鴉は、一際黒く見えた。
思えば、夕焼けを見るのも久しぶりのような気がする。だからといって別に、感動は覚えないが。
何も話さずに、ひたすらトコトコと帰路を辿る時、樹海の傍を通る。——その樹海から、見たからに胡散臭いおじさんが出てきた。
「ゲヘヘ……今日は女の子をお連れかい」
気持ち悪い、というか、純粋に怖いと思える声。
人にこんな恐怖を持つのは、初めての経験だった。
「……なんですか、山田さん。また死体をお探しですか」
その言葉に、あたしはヒッと小さな悲鳴を漏らした。
シタイ……今死体っていった、武田君!?
「ヒッヒッヒ……最近は中々美味そうな贄が手に入れれなくてね……儀式を行えないんだ」
「(贄!? 儀式!? ナニソレ!!)」
「そうですか。それは僕と僕のお母さんの働きの賜物ですね」
「腑分けを主な仕事にする、法医学のセンセー……だったよなあ、キミのお母さんは。なあ、一つか二つ、遺体を分けてくれねえかなあ。金は払うからさ」
「お断りします。貴方の汚いお金で、苦しいままで死んだ人たちの身体を渡せるか」
「おめーさんたちがそこまでいうなら、こっちも手があるぜ。……女のセンコー様と俺。どっちが強いかなんて、明確だよなぁ?」
「……こっちだって手はあります。警察に通報しましょうか? 状況証拠はそこらへんに転がってます。物理証拠も、探そうと思えばいくらでも見つかるでしょう。何より、僕の父がこのことを聞いたら……というか、貴方ごときに僕の母親を脅し殺せるとでも?」
ピリピリとした空気が、二人の間で流れる。その中であまりに物騒な言葉が飛び交っている。この変なおじさんも武田君も、一歩も引かない。しかもお互い挑発しあってる。っていうかホントに武田君あたしと同い年なの。
どうしよう。泣きたい。ホントに泣きたい。
そう心の中で願っていると、タバコの煙を吐きながら「……しけた。また来るぜ」といって、男のほうから立ち去ってくれた。
引き際は案外あっさりしていたので、最初呆然としたあたしは、数秒してから安堵し、力が抜けて崩れるように倒れた。
「……た、助かった」
「大丈夫ですか? ……すみません、こんなハズじゃなかったんですけど」
さっきとは打って変わって柔らかい顔で、彼は手をあたしに差し伸べてくれた。
ちょっとビックリする。この人は、こんな顔もするのかと。
おっかなびっくりで、その手をとった。
「……ありがとう」
差し伸べられた手は、何だか凄く、熱く感じた。
暫く歩くと、武田君が話を切り出してきた。
「いいですか、三浦さん。あの森に、一人で入っちゃいけません」
「どうして?」
「……あそこは、自殺した人の遺体が、多くあるからです」
あたしは息を呑んだ。
でもそれは、彼の言葉じゃない。
彼が、酷く辛そうな顔をしていたから。
「……遺体なんて、君が見る必要はありません。それに、さっきのように、精神がイカれた危ない人たちも居ます。君は女の子で、しかも自身の身を護る術を持ち合わせていない」
「いいですか、絶対に入っちゃいけませんよ」武田君の言葉に、あたしは言葉を返さなかった。ただ、しっかりと頷いた。
……こんな顔もする人なのか、と思った。
そしてこの人は、あたしと違って勇気のある、優しい人なのだと想った。
辛辣でも、いいたいことはいっても、この人は、人を気遣う優しさを持っている。さっきだって、怖くなかったハズがない。あんな奴の言葉に耳を傾けることも、あんな奴に対して言葉を放つことも、どちらも辛かっただろう。
でも彼は、毅然として立ち向かい、いい返していた。
思えば、熱中症で倒れたあたしを、助けてくれた。赤の他人なのに、大切な家に入れてくれた。
夕日が、彼を照らす。彼の髪は、優しい茜色に染まっていた。
——光、なのかもしれない。彼は。
その光に惹かれた、あたしはそうなのかもしれない。
夕日が沈み、まだ茜色が残っている群青色の空の頃、見覚えのある薬局が見えた。
ピンクのゾウの置物が置いてある薬局から家までの距離は、殆どといっていいほどない。
つまり、ここでお別れだ。
「……あ、ここからもう大丈夫だよ」
「そうですか」
武田君はいった。
「では、僕はこれで」
「ねえ!」
踵を返す武田君を、思わず止めた。
「……何でしょう」
振り返った顔は無表情だが、何処か面倒くさそうな顔をしている。
いうのに、少し躊躇った。でも、いわなければ、もう会えないような気がした。
「また、……会ってくれる?」
人のことを、羨ましい、と初めて想った。
そして初めて、人のことをもっと知りたい、と想った。
この人と、友達になりたいと心の底から想った。
こうしてあたしは、毎日彼と会うようになった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照2500突破記念感謝祭更新!!】 ( No.226 )
- 日時: 2013/01/25 18:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
——そうか、このモヤの声は、あの男の声だ。
贄とか儀式とかそんな物騒な言葉を吐いていたあの男。確か、武田君からは「山田さん」と呼ばれていた。
でも、何で? 何でモヤがあの男の声で話しているの?
いや、そもそも……アイツは。
——グォォオオオオオ!!
モヤの雄たけびに、あたしの肩がビクリと震えた。
そして思い出す。——早く、逃げなければ殺されると。
モヤはすぐ傍まで迫っていた。
「うわあああああああああ!」
腹から声を出し、実を奮い立たせ、そして走った。
もう体力も精神も限界を超えていた。あたしを走らせた源は、「死にたくない」という気持ちだけ。
そう、死にたくない。こんな場所で、あんな風に苦しんで死にたくない。
頭上を見渡すとあるのは、枝に紐を付けて、首を吊っている自殺者たち。
何だか、進めば進むほど増えていっている。
——そうだ、あの男も。
確か、こうやって首を吊って自殺した……!!
◆
そろそろ、お盆に近かくなったあの日。ママが休みを取れたので、一緒にお買い物をすることになった。
その時、ママに可愛い麦藁帽子を買って貰った。
淡い桃色のリボンがついたその帽子は、被って鏡の前に立つと、凄くしっくり来た。被り心地も良くて、何よりもママに随分褒められた。
それが嬉しくて嬉しくて、武田君にも見せたかった。
今日も武田君に会いに行く予定だった。
麦藁帽子を被って、浮き立つ足で軽やかに歩く。
「(武田君は、褒めてくれるかな)」
いや、彼のことだ。素直に褒めはしないだろう。
きっと最後に、辛い一言をいうに決まってる。友達になってから一週間と三日が経って、彼がどんな性格なのか大体理解できるようになっていた。
「(……でも、きっと可愛いって、いってくれるよね)」
それでも彼は、ちゃんと言葉にして褒めてくれると、あたしは判ってた。
どんな風にいってくれるだろうか。まあ、無表情には変わりないだろうけれど。
想像するだけで、頬の緩みが止まらない。今のあたしは、とてもだらしない顔をしているだろう。
それを注意されるかもしれない、と想像した。でも、全く悪い気はしなかった。
その時だった。
強い風が、麦藁帽子を乗せていったのは。
「あ、コラ!」
飛んでいった麦藁帽子は、何と樹海の木に引っかかってしまった。
追いかけたあたしは、当然戸惑った。だって、あれ程武田君に「樹海には入るな」と釘を刺されていたから。
諦めようか。そう思ったが、それは嫌だった。
何せあれは、ママが買ってくれた麦藁帽子。あたしもいたく気に入ったモノ。そして、武田君にも見せたかった。
「……少しなら、大丈夫」
自分にいい聞かせるように呟いて、あたしは樹海の方へと入っていった。
麦藁帽子は、樹海の奥ではなかった。
そして、引っかかった場所も、そこまで高くはなかった。
だから、取って早く出て行こうと思ったのに。どうして?
あの男が、首を吊っている姿があるの?
「……っひ」
男は死んでいるにも関わらず、あたしの方へ向いて、笑っていた。
その姿が、あまりにもおぞましくて、怖くて。
あたしは、悲鳴を上げたのだ。
武田君に、褒められたかった。
それだけだった。
……けれどそのせいで、武田君と、ああなってしまうなんて。
あたしの悲鳴を聞いて、真っ先に駆けつけたのはやっぱり武田君。
何時も無表情だった彼は……怒りによって、顔を歪めていた。
「……何で、森に居るんですか」
「……た、たけ、だくん」
怒って、いる。
彼が怒っている姿なんか……いいや、あたしは一度たりとも、友人がこんな風に「怒る」姿なんか、見たことなかったのだ。
……いや、そうじゃない。
「約束したじゃ、ないですか。なんで、なんで居るんですか」
「ち、違う。あたしは」
「いい訳なんて聞きたくないッ!!」
彼の鋭い声が、キイン、と静かな森の中を通った。
彼の怒りに驚いた鳥たちが、鳴きながら森の外へと向かっている。
ザワザワと、木々たちは、彼の怒りに呼応するように、揺れた。
「見損ないました……あれほど、嫌だったのに。
何で貴女は、笑ってるんですか!!」
「もういいです!」そういって、彼は森から出ていった。
待って、なんていえなかった。
いえるわけ、なかった。
……彼は、怒っていた。でも、怒ってるだけじゃない。
彼は、……泣いていた。
とても、傷ついた顔をした。
「(あ……)」
おそるおそる、自分の頬に手を当てる。でもやっぱり、表情を確認することは出来なかった。
……ああそうか、って、この時、やっと気付いたんだ。
あたしが友達にして来た仕打ちは、とんでもないことだったのだと。
約束を破られた方は、あんなにも、傷ついた顔をしていたんだって。なのにあたしは何も判らず、寧ろ「何で怒るのよ」って、うざったく感じて……「心が狭い」って、酷い事を心の中で思っていて……。
——だから今まであたしは、ずっとずっと、笑っていた……。
この男が、死んでも尚、笑っているように。あたしは、あたしは……。
——何時も何かの、誰かのせいにして、この笑いが他人にどう思われるかも考えず、この笑いを改善しようとも思わなかった……!!
「あ……ああ! ああぁぁぁぁぁぁ!!」
あたしは、悲鳴を上げた。でもそれは、遺体を見つけた時の、恐怖からの叫びではない。
後悔と、……どうしようもない悲しみから上げた、悲鳴だった。
——そしてそれが、あの日の最後だった。
気がつくとあたしは、病院のベッドの上。
目の前には心配したママの顔。
その後、警察が来た。あの男が自殺した件について。
あたしはショックで記憶が飛んでいて、中々質問に答えることは出来なかった。
……でも、そんな中でも、武田君を悲しませたことだけは、ちゃんと覚えていた。
入院中、ずっとずっと、一人で考えていた。
退院したら、あの子に謝りに行こう。
あの子は、許してくれないかもしれない。
でも、謝ろう。勇気を出して。
例え罵られても、許されなくても、ちゃんと謝ろう……。
——でもやっぱり、あたしのしたことは、あまりにも重かったみたい。
朝早く向かった家は、『ただいま入居者募集中』という張り紙が張られているだけだった。
傷は、深まる。臆病は、更に加速する。
心も、身体も、更に小さな場所へと、殻に閉じこもっていった。
こうしてあたしは、大事な友人と喧嘩し、仲直りをすることも出来なかった。
そしてそれっきり、あの子とは会っていない。
謝ろうとしたあの日から、あたしはこの黒いモヤに追いかけられることとなった。
醜い逃走劇の、始まりだった。
小さな殻の中じゃ、どうせすぐに捕まるくせに
(思えばどれだけ、武田君に助けられただろう)
(思えばどれだけ、沢山の人を傷つけただろう)
(どうして、あたしは人を傷つけることしか出来ないのだろう)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『玲の過去』更新!!】 ( No.227 )
- 日時: 2013/01/25 12:04
- 名前: ライアー ◆4gulet/d9g (ID: j553wc0m)
武田君はどこに行ってしまったのでしょうか・・・。
そして玲ちゃんの心はどんどん深い闇に沈んでいく。晴れる日は来るのか。
こんにちは、ライアーです!!
今回は玲ちゃんの過去編という事で・・・。辛い話でした。
笑顔というのは必ずしも良い事ではない。
時と場合によっては、それは人を傷つける武器にもなり得る。
そんなことを強く感じたお話でした。
それにしても、玲ちゃんにとっては辛い体験でしたね。
自分の笑顔が人を傷つける『武器』だと自覚した時には、
すでに大切な人を失ってしまった後なのですから。後悔が残るのも当然でしょう。
それが負の連鎖に繋がっていく。そして殻に閉じこもってしまう。
ですが、いつかは晴れればいいですね。
その笑顔は、いずれは必ず誰かを救うことが出来るという事を。
・・・また長文になってしまうというオチw 失礼しました。
これからも応援しております!! ではではw
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『玲の過去』更新!!】 ( No.228 )
- 日時: 2013/01/25 16:07
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
ライアー様!!!
感想ありがとうございますぅぅぅぅぅぅ!!!!(感涙
ずっと書きたいと思っていたこの話、実はわたしとその親友をモデルにして描いています。
笑顔や優しさは、恐怖にも凶器にも転じることがある、ということを判ってくれて、嬉しいです。
「優しい」だけが、人を救うのではない。「厳しい」もなければ、「悲しい」もなければ、本当の意味で人は優しくはなれないのです。
そして彼女は、「悲しみ」を与えられたことで、今までの自分がどんなことをしてきたかを、振りかえ、反省しました。
ですが、その途端に、別れを告げられることなく、謝ることも出来ずに、武田君は引っ越してしまいました。
約束を護れない時だって、けじめをつけれない時だって、人生にはいくらでもあるのです。
けれどそれを判っても尚、人間というのは納得できない場合が、多くあります。
次の次は、武田君の話を書こうと思いますw
武田君の過去や心境などを、変なテンションで書かずに(←ここ重要)、仄かに懐かしさを覚える文章になればいいなあ、と思います。
今回も感想、ありがとうございました(ペコリ 更新頑張ります!!!w
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