コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照1000突破記念感謝祭更新!】 ( No.119 )
- 日時: 2012/12/01 17:13
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
あの日、院長の策に応じた杏平は、この手段が何なのかを知っている。
決して、院長も彼も、諷子を助けるのを諦めたからではない。
これは、諷子を助ける、ただひとつの方法であった。
杏平も、院長も、この世には説明のつかない出来事があることを、身をもって知っている。
だからこそ、諷子が冬眠状態で生きていたことを知っても、驚くことではなかった。
だから、諷子の意識が、ここではない別世界にあると判っても、すんなりと受け止めることが出来た。
……実際、彼はそこに行ったことがある。
あれは、大学一年生の夏のことであった。鎌倉に行って、海に行こう、と約束していたその日の朝、いきなり視界が暗転して、意識を失った。
——気がついたとき、周りが昔寺で見た極楽絵のような場所にたどり着いていた。
何が何やら判らないまま、そこに佇んでいると、フワフワと、絵に描いた妖精のようなモノが、彼の周りに飛んできた。
「ようこそ、夢殿へー」「まあ、つれてきたの私たちなんですけどねー」と、のんびりした口調で、妖精——名前は月乃と花乃といっていた——が、ここが何処なのかを説明してもらった。
どうやらここは、極楽でもあるし、夢想でもあるし、高天原とも呼ばれているし、夢殿とも呼ばれる場所らしい。
そして、世界はいくつもあり、その世界と世界を繋ぐ、空の域でもあった。
——以上、月乃の説明を引用した。彼自身は、全くといっていいほど、月乃の説明を判ってはいない。
とにかく、花乃がいうには、別世界にも杏平が居て、彼はこれまた別世界に居る美雪を亡くし、生きる気力を失くしてしまったのらしい。
その為、彼が向き合う時間を作るために、杏平の身体と美雪を貸して欲しいと、何だかスケールが大きい頼みごと(強制)をされた。
身体には、基本一個しか魂が入れない。だが、魂が肉体に無ければ、魂は弱ってしまう。その為にここに連れてきた——以上、花乃の説明を(以下略)。
「(……まあ、意外とすぐに帰れたんだけどね)」
理解しようとしたらパンクしそうだったから、あの後は「あれは夢だった」と思い込むことにしたのだが。
「ある方」に、「あの子(諷子)の意識は空の域にいるわよー」といわれたとき、「あ、夢じゃなかったんだな」と、思わざるを得なかった。
……という具合に、諷子が空の域にいるということが、判明したわけである。
何だか、シリアスからギャグっぽくなったが、今杏平が居る場所は、ドシリアスな空気なので、読者は安心して欲しい。
空の域から諷子の意識をこちらの世界へ持っていくには、自身の意思がないと帰れないそうだ。
だが、帰ってこないところを見ると、どうやら彼女は生きることを拒んでいる。にも関わらず、生きているということは、彼女だって生への執着がないわけではない。
なら、助け出すにはどうすればいいか?
——それこそ、簡単な話。
諷子と関わりが深い『誰か』が、その空の域とやらに行って、彼女をその気にすればいい。
その『誰か』に選ばれたのが、三也沢健治であった。
……だが、そんなホイホイいける場所でもない。
空の域というのは、『迷い人が求める極楽』を描く場所。……簡単な話だと、自殺したいほど苦しんでいる人の逃げ場所なのだ。
そこは、殆ど『死んでいる』人でないと、行けない。その条件を満たす条約の一つに、諷子の『ギリギリの死の線まで持ち上げる』というのがあった。
つまり、この条約を果たさねば、諷子を助け出す方法は、一つも無い。
今のところは。
だからこそ、美雪や杏平も反論した。「まだ、他に方法があるのではないか」と。
だが、院長はこう返した。「それは、一体いつの話になるのだい?」と。
明日? 明後日? 明々後日? 一週間後? 一ヵ月後? それとも、一年後? 五年後? ……十年後?
もっともっとかかるかもしれない。それまで、彼女を苦しませるつもりなのか、と。
例え、長い年月をかけて、別の方法を見つけ、彼女を助け出したとしても、果たしてそれは彼女の幸せにつながるのか? と。
「先のことなんて判らない。だからわしは、今出来ることをする」
……長い年月を過ごしてきた老人の言葉に、若輩者の杏平たちは、二の言葉も告げれなかった。
そしてそのまま、その案は受け入れる形となった。
……そして、現在、こうなっている。
けれど、言い訳しないと、彼は決めていた。
例え、この手段しか、諷子を救えないとしても、こんな人道から外れた方法は、許されないと判っていた。首謀者である院長も、判っているからこそ、この策を行うことを決めたのだ。
間違っては居ない。けれど、許されない。
「正しい」ことだが、「無罪」ではない。
だから彼は、罵られると判っていても、断片的な情報を彼女に告げなければならないと思った。
自分や彼女をここまで奮い立たせた、彼を裏切らないためにも、告げなければならないと思った。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照1000突破記念感謝祭更新!】 ( No.120 )
- 日時: 2012/11/27 23:14
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
◆
フウが、危篤状態となり、俺が諦めたその刹那、幽体の少女が、俺の前に光臨した。
——したのだが、
「ごめんね、ちょっとお腹すいちゃってて……あ、これ美味しい」
「あ、あはは。ど、どうぞごゆっくり……」
幽体の少女は、目の前で、透明な指を使って饅頭を頬張っていた。
——誰か、この現状を説明してください。
◆
まるで、俺に渇を入れるために来たようなタイミングで、突風からこの少女は現れた。それこそ、神が光臨するような登場で。
だが、現れた途端、「お腹すいたぁ……」と、少女はへたり込んだ。
——え、ちょ、このタイミングで!?
とにかく、起きたのがいっぱいありすぎて、ついでにツッコミたいところもいっぱいありすぎて、どうすればいいのか悩んでいるとき。
「わ、私に……何か、食べ物をォォォ……」
そういわれた俺は、おっかなびっくりで、彼女に、机においてあった饅頭を薦めた。
ついでに給湯室から湯のみを取り出し、二人分のお茶を沸かして、湯飲みに注いで渡した。
——随分落ち着いてるな、って? とんでもない。
確かに俺は、不可思議なことに何べんもあってるさ。だがな、いくら幽霊に出会おうが生霊に出会おうが、慣れるはずがないであろう。頭は既にパンクして、とりあえずなことしか出来ないよ。
しばらくして、彼女は手を止めた。……よく食べたなあ、この人。
「ふー、やっと落ち着いたあ。
ありがとうね、こんな美味しいモノ食べさせてくれて」
「い、いえ……」
「いやー、久しぶりに実体したらお腹が空いちゃって……久しぶりの空腹感」
いやいやいや!!
貴女、久しぶりの前も実体化してたんですか!? ってかやっぱり人間じゃないのね!
「あ、ゴメン、自己紹介まだだったよね」彼女は慌てていった。
飲みながら、俺は思う。……あれ、何かこのくだり見たことあるぞ。
「私の名前は雪乃。生前は雪女でした」
「ぶはおい!!」
含んでいたお茶を全て噴出しました。ついでにむせました。
「ちょ、大丈夫!?」
「ケホッ、だ、大丈夫です……」
彼女——雪乃さんは、俺の背中をさすってくれた。やっぱり手も透明だが、ちゃんと触っているという感触がある。
ってか、雪女って……幽霊に生霊にSF的な展開になると思ったら、今度は妖怪ですか!? 何、俺の人生一体何がしたいの!?
いや、落ち着け、俺! はい、深呼吸。
……ふう。落ち着いた。
幽霊も生霊も居るんだから、妖怪が居たっておかしくないだろう。大丈夫、おかしくなんてない。人生大体こんなもんさ。
「……えっと、雪乃さん?」
「はい」
落ち着いたところで、早速聞こうじゃないか。
「貴女、『生前は』っていってましたよね? ということは……」
俺の問いに、雪乃さんは笑いながら「はい、死んでます」と答えた。
まじか。
ってか、妖怪も死ぬんだな。
「……えっと、じゃあ、幽霊ってことで、合ってますか?」
妖怪でも、死んで幽霊になれるのだろうか? という疑問は、この際おいておく。
だが、雪乃さんの答えは、意外なモノだった。
「いいえ、違います。そもそも私は、生まれ変わっているんです」
「生まれ変わってる?」
「そうです。貴方も、きっと、私の生まれ変わりに出会ってると思います。なので、魂はもう無いんです。あるのは、念だけ。……記憶、といったほうが、判りやすいでしょうか」
……なるほど、判らん。
「とにかく、死んでいるということは判りました」
とりあえず、俺はわかっているところだけを答えた。
「では、何故雪乃さんは、ここに? 久しぶりに実体化したということは、そんなホイホイ出来るようなモノじゃないということでしょう?」
「ご名答です」雪乃さんは、苦笑いで返す。
「さっきもいいましたように、私は幽霊ではなく、念、つまり記憶です。魂はちゃんと存在するモノですが、念や記憶は、曖昧なもの。えっと……この時代には、インク、というものがあるんですよね? それと同じ。
石で刻んだ文字が魂であるなら、念や記憶は、紙に記されたインクのようなもの。時がたてば、薄れていきます。本来、念や記憶は、実体化するほどの力はありませんが、私の場合は、例えでいうインクの量が多かったので、昔はかなりの回数で実体化できましたが、時が経つにつれて、それも困難になってきたのです」
「はあ……」
なんとなく判りました。
「じゃあ、何故ここに来たか。……それは単純な答えです。
貴方が、私を必要としていそうだったからですよ」
「……え?」
雪乃さんは、静かに笑った。
「諷子さんの魂は今、ここではない世界に閉じこもっています。……ここまで来れば、もう突っ込む気力は無いですよね?」
「……」
ああ、ありませんとも。
もうね、常識なんてどっかにいってしまいました。
「どうやって、あの世界にたどり着いたのかは判りませんが……事態は一刻も争います。とりあえず、私が貴方を諷子さんのところまで飛ばしますので。準備はいいですか?」
「え!? ちょ、え!?」
いきなり急展開ですか!? 心の準備がまだです!
というか、そんなヒョイヒョイいけるところなんですか!?
ってか、一刻も争うんだったら、のんきに饅頭食べないでください! そういえばフウは死にかけているのに、場違いにものんびりしちゃったじゃないですか!
……どうやら俺には、ちゃんとツッコむ気力が残っていたらしい。
けれど、それよりも。
「ちょっと待ってください!」
「何? 急ぎたいから、手短にお願いします」
聞きたいことがあった。
とても、とても聞きたいことがあった。
「どうして、貴女は……俺に?」
ああ、バカだな、俺は。
時間が無いのに、試すように言葉を抜かすなんて。これじゃ、何をいっているのか判らないじゃないか。
けれど、彼女なら、この言葉の意味を判ってくれるのではないかと期待した。
俺の不安を、吹き飛ばしてくれそうな気がした。
案の定、彼女は理解できたようで、
「——貴方が、一番最初に彼女を見つけてくれたから」
——微笑んで、いった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照1000突破記念感謝祭更新!】 ( No.121 )
- 日時: 2012/11/27 23:25
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
「貴方だけでした。あの子の存在に、気づいてあげれたのは。
あの子の為に、一生懸命になった人も、貴方が初めてで。
貴方が一生懸命になってくれたから、周りの人たちは貴方を通じて、あの子に手を差し伸べることが出来た。実体化が困難だった私を呼ぶことも、貴方だから出来た」
みんな、貴方を信じてるよ、と雪乃さんはいう。
「貴方が、諷子さんを助けるのを。みんなが、信じている。だから」
そこまでいって、彼女は厳しい目つきになった。
深い緑の瞳に、鋭い光が差し込む。
「迷いを捨てろ! 思考をとめるな! 迷うことと考えることは、まったく違う!
グズグズするな、自分は無力と思い逃げるな! 諦めたらそこであの子は死ぬぞ!
これから先は、お前しか助けられない。お前しか、あの子に言葉をかけられない!
お前以外に、あの子を救い上げることは出来ないんだ!!」
雪乃さんの切り裂くような啖呵に、俺は身体の芯が痛いほどしびれた。
その後、じょじょに暖かくなっていく。
——俺にしか、出来ない。
こんな臆病な自分しか、フウを救えないというのだろうか。
逆に、こんな臆病な自分でも、フウを救うことは出来るというのだろうか。
「……」
大気を、飲み込んだ。
未だに、俺の覚悟はぐらついている。
けれど、叱られてわかった。
こうしている間にも、フウの痛みは長引くのだと。
フウはきっと、たくさんの事を悩んでいる。
……この一ヶ月で、判ったんだ。
一人というのが、どれほど怖いのか。
大丈夫、平気だ、と思い込むのが、どれほど危ういか。
その思い込みが折れたとき、人というのはあっという間に壊れしまう脆いもの。
そうして、安全地を探し、何も無いところへ逃げたがる。
なのに、何も無いところへ逃げ込めば、存在する意義が見つからなくなって、またあるところへ行きたがる。
なのに、臆病になって。何も無いところに、閉じこもって、憎んで、迷って。
その癖、一人じゃないと気づいたとき、すぐに立ち直ってしまうんだ。
その、繰り返しで。
期待したり、裏切られたり、そしてまた期待するの繰り返し。それに疲れたこともあったけれど。
判ったことがあった。
気づけたことがあった。
変わったことがあった。
判っていたつもりで、判っていなかった。判ったと、思い込んでいた。
多分、これからも、臆病な俺は、判った振りを演じたり、思い込むこともあるだろう。
——けれど、きっと、今までの俺があったからこそ、今俺は気づいたんだ。
ようやく、気づけたんだ。
俺は顔を上げた。
胸を張って、彼女に答えることが出来た。
◆
「……あーあ、もう行っちゃった」
同時刻、院長の部屋では、透明な少女が佇んでいた。
眠った青年の身体を、試行錯誤しながら病室にこっそり寝せ、布団を被せた後、院長の部屋に戻った。
そこに、何時か院長と一緒に居た老婆が、何処からもなく入ってくる。
「……お久しぶりです」
雪乃は何処か、寂しさをにじませた笑みで、振り向いた。
「佐保姫様」
「……久しぶりじゃのう、雪乃」
「その年寄りの姿、まるっきり私とであった頃と変わりませんね。気に入ってるんですか?」
雪乃の問いに、老婆は口元に笑みを浮かべる。
「威厳が出るから、気に入ってはおるわ」
「えー、意外です。……いや、貴女が意外なのは、何時もですよね。
……千年前、出会ったときから、貴女は何時も私の予想以上を超えてくれた」
「——意外と予想以上なことをしでかしてくれたのは、貴女もじゃない」
シャラン、と鈴の音が鳴る。
それと同時に、老婆は一瞬で少女の姿に変わった。
「あ、少女になった」
「あの姿も気に入っているけれど、やっぱりこっちのほうが、性にあってるわ」
サラリ、と佐保姫は髪を上げる。そのしぐさは様になっていたが、やはり何処か幼さを感じさせた。
「年齢詐欺」ポツリと雪乃は零す。
「……あの子は?」
「健治君のことですか? ——判っているくせに」雪乃は、苦笑した。
「そうじゃないわ。貴女から見て、あの子はどう映っていたかって事」
「あ、そういう意味でしたか」
少し間を置いて、雪乃はいった。
「ついさっきまではぐらいついていたのに……覚悟を決めた途端、顔つきが変わりましたよ。迷いがまったく無いとは言い切れませんが、それすらも受け入れる姿勢でした。もう、あの子一人でも平気です」
「何ですかねえ、あの思い切り。若さゆえ、ってやつなんですかね」雪乃がいうと、「それは千年前の貴女もいえることよ」と佐保姫は返す。
「全く、あの後死んだと思ったら、ちゃっかり念を留めて、落ち込んだ杏羅を異世界っていうか、この時代へ飛ばすなんて。普通の妖が出来る業じゃないわよ、全く。チートよチート」
「アハハー、ほめ言葉として受け止めますねー」
雪乃は、笑う。
笑い事じゃないわよ、と佐保姫が返そうとしたとき、彼女の身体が輝きだした。
「さて、もうそろそろですか」やけに明るい声で、雪乃はいった。
「……また、いつ会える?」
そう聞いた佐保姫の姿は、神様とはとても思えなかった。
雪乃の目には、大切な一人の、大切な友の、ねだっているような姿だった。
「……さあ、当分会えないでしょうけど。
佐保姫様や、あの子たちが覚えてくれれば、またひょっこり実体化できるかもですね」
「……そう。じゃあ、さよならはいわないわ」
「またね」と佐保姫がいうと、雪乃も「それじゃ、また」といった。
「あ、後で杏羅さんの生まれ変わりの……杏平さんですよね?フォローでもしてくださいな。何か、怒鳴られているようだから。あの人には、恩が沢山ありますし」
「今さっき通りかかったら、雪にバカ正直に話して、怒られていたわ。全く、バカみたいに愚直なのは、前世でも来世でも変わらないわね」
「——でも、そんな人が居たからこそ、私はこの世界を救えましたよ?」
雪乃がいうと、佐保姫はバツが悪いような様子で、「茶化さないでよ」といった。
「……ねえ、佐保姫様」
「うん?」
「——私、この世界に生まれて、本当によかった」
そう告げた少女は、溶けるように消えた。
踏み出す文学青年と、輝く世界は
(「……諷子も、そう思えるようになればいいわね」)
(ポツリとつぶやいた神様の言葉は、)
(ちゃんと、文学青年が叶えるでしょう)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【第六章『踏み出す文学青年』更新!】 ( No.122 )
- 日時: 2012/11/28 00:09
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13928
ひやっはぁぁぁーーー!!! 八重様だぁぁーーー!!
--------はい、お久しぶりでございます。ヒトデナシでございます。
少々遅れてしまいましたが、コメントの方を残しに来た所存であります。
そしてようやく読み終わりましたので、ご感想の方を手短に・・・。
・・・・面白い!! 実に面白い・・・!!
ライトであり、かつ感動を誘うこの流れる様な綺麗な文体。
人間の深層心理を深く表現しつつ、読者を引き込むストーリー。
相変わらずの面白さ、半年前よりもさらに磨かれた執筆力。
それはまさに、吸引力の変わらない掃除機のごとく・・・!! ←ダイソ●ですね、分かります。
そして健治君、行って来い。愛する彼女を助けるために。
そして雪乃ちゃん、お帰りなさい。待っていたよ。
久々に六花を思い出したよ。もう一度読み直しにいこうかな?w
--------これ手短かなぁ?w まぁ良い。半年分の感想をまとめたということで♪ww
さて、面白そうな企画をやっていらっしゃいますね?
これに参加しないのはヒトデナシじゃねぇ!!ww
名前「ヒトデナシ」フリガナ(ひとでなし)
題名「もしも俺が・・・・。」 創作版「複ファジ」
この小説の見所「色んな世界、もしもの世界を体験できる点」
この小説のコンセプト「物語の作り方、進み方そのものが自由。ゆえに読者の願いにも臨機応変に応えることが可能。」
ぶっちゃけキャラクターをゲストとして使ってもいいよ、という方は、キャラの名前を記入してください(二人までおk)「黒川君、霧島君、水島ちゃんの三人の内お好きな方を連れてってください♪ww」
ぶっちゃけこの小説はどのように思っていますか? 質問もおkです「半年間、飢えにより乾いた私の小説に対しての欲望を満たす、素晴らしい作品ですねw」
作者に一言!「コメント長くて申し訳ありません。長文失礼いたしましたww」
- Re: 臆病な人たちの幸福論【第六章『踏み出す文学青年』更新!】 ( No.123 )
- 日時: 2012/11/29 12:07
- 名前: メフィスト_〆 ◆6tU5DuE3vU (ID: gyFfsWVs)
- 参照: また学年閉鎖か……。
お久しぶりでございます。
私のこと、覚えていらっしゃるでしょうか?
どちらにせよ、依頼はこなさせて頂きますが(笑)
では、感想を。
指摘点を見直し、さらに磨きをかけましたね。
前半は直っていない部分もありましたが、途中から基本的なルールを守っていたので見逃しましょう。
一つ一つの話に矛盾点がなく、キャラもしっかりと書けていますね。
やや暗めな背景に、ちょっぴり希望を持たせてくれるお話。私はそんな印象を受けます。
自身の持ち味、作風を活かせています。
気になる点は、少々情景描写が薄い、というか、抽象的なんですね。
心理は結構ストレートな表現なのに、情景描写はなぜかぼかされている部分が多い。
もちろん、シーンによっては、ぼかすことも必要ですが、あまり多用すると何が何だか分からなくなるのでご注意を。
情景描写の基本は、「なるべく鮮明に」です。
あとは、なんで健治くんが幽体に触れることが出来るのか。
範囲が範囲だけに、全てを見ることは出来ませんでしたが、これは後ほど解説されるのでしょうか?
幽体は、「リンの発光現象」や「プラズマ」だという科学的見解もありますが、どちらにせよ触れた感触はせず、手は空を切るでしょうし……。
もっとも、何でもかんでも辻褄を合わせりゃいいってもんでもないでしょうから、これは火矢様の判断に委ねます。
前回に比べれば、気になる点は大分減っております。
ですので、力は確実についていると、自信を持ってください。
感想だけですので、基本的な部分以外は指摘を省きます。
このたびは、ご依頼ありがとうございました。
なお、ご意見、ご質問などあれば、雑談掲示板の方がコンタクトを取りやすいと思います。
何かございましたら、お手数ですが「小説協会」ではないほうの雑談スレまでお越しください。
多分、ありがたくもない講義まで聞けるかもしれませんよ(笑)
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122
この掲示板は過去ログ化されています。