コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.589 )
日時: 2015/08/21 18:10
名前: ウトマイ ◆GRLvtFtyEo (ID: .KuBXW.Y)

初めまして、本当はもっと早くご挨拶するつもりだったのですが、ここまで読んでいたらずいぶん時間が掛かってしまいました(笑)
本当にすごい作品でどんどん読み進めてしまいました!とても引き込まれますすごいです!
これからもぜひ1読者として更新を心待ちにさせて頂きたいと思います♪
それから質問なのですが、未だオリキャラの募集はしていますでしょうか?
もしまだしているのでしたら僭越ながらキャラクターを作りたいと思っているのですが…双子とか大丈夫ですか?

Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.590 )
日時: 2015/08/24 15:36
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FInALmFh)

うわああああああああああ初めてのお客様だあああああああ!!!


ウトマイ様!!
初めまして、火矢八重と申します!! こんな大量の文字の列を読んで頂けるなんて感動です!! あなたは神様ですか!? 大変だったでしょう!?
オリキャラの件に関しては全然おkです! 寧ろお願いします!! どんなキャラクターでも!! 双子だろうが三つ子だろうが全然いいです!!

ありがとうございます! 更新頑張ります!!

Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.591 )
日時: 2015/08/24 16:11
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FInALmFh)


 入って、と促されて、わたしは掘立小屋の中に入る。
 出来た掘立小屋は、ログハウスに近い構造だった。こんな立派な造りが、簡単に燃えるものなのかしら。
 ドアのところで、朔君がいった。


「……ドア、開けておくから」


 そういって、朔君は掘立小屋改めログハウスから出て行った。


 ……優しい子なんだ、本当は。
 最後まで、逃げ道を用意してくれる。ここまでする義理もないだろうに。
 なのにわたしは、彼の気遣いを無駄にする。

 千代ちゃんを生かすと、もう決めたから。

 お盆休み、ケンちゃんと一緒に、蛍と人魚が居る山を訪れた。
 そこでは、幽霊も普通に見えることがあって。
 ……そんな場所だったのに、幽霊になった大輝君は、母親である芽衣子さんに姿を見て貰えなかった。それがさだめだというように。


 わたしはなんで、こんなにも幸せなんだろう。
 大輝君とも千代ちゃんとも、立場は似ていたはずなのに。なんでわたしは好きな人に見えて、好きな人と一緒に暮らすことを咎められないんだろう。

 わたしだけ許されているのは、何故?
 幸せな分だけ、罪悪感が付きまとう。
 自分だけ幸せになって、幸せになれない人に恨まれて当然なのではないか、と、怖くてたまらない。


 そこまで考えて、わたしはハア、とため息をついた。
 結局、わたしは自分のことしか考えていない。誰かの為、誰かの為、といいつつも、そこにはわたしのエゴが存在する。
 わたしを怨む人たちが、突然、わたしの幸せを奪うんじゃないかと。そう思うのが、怖いのです。

 それが、わたしが作り出した、虚構の『不幸な人』でも。

 千代ちゃんや大輝君が、わたしを怨んで、わたしを陥れたいなんて、そんなこと考える人じゃないことぐらい、わかっているのに。
 そうやって怯えて、怪しい芽を摘んだ結果、こんなことになっている。


 黒い煙が、ログハウスの中に入って来た。
 座ったままのわたしは、まだ煙が降りてこないのにも関わらず、息が苦しい。


「……バカ」


 胸が苦しい。

 大馬鹿。本当にバカ。また昔のわたしに戻っている。辛いことが何もないはずの世界で、引きこもっていたわたしに。ケンちゃんに助けられる前のわたしに。少しは強くなれたと思ったのに。
 あの時、怖かったのはケンちゃんで、今回は千代ちゃんだということ。それだけ。



 ……でも、いいですよね?
 千代ちゃんは瀬戸君と、瀬戸君は千代ちゃんと一緒に居ることを望んでいる。その願いのために自分は動いたと、そう思っていいはず。
 誰かのために生きたかった。『一度』死んだ時、家族の顔を見ながら、長い眠りにつく際、そう願った。その願いが、叶ったと思っていいはず。

 だってもう、自分は死ぬのだから。最後の最後は、自分を許したっていいはず。


 思い残したことはいっぱいある。これが正しいこととは思えない。
 だけど、また永い眠りにつくとき、悪夢を見ることはないだろうな。あの時と今は、違う終わり方だから。

 そう思ったら、無意識に瞼を閉じていた。



                 暗い微睡に、手招きされて


(「ああ、いいなあ」)
(「こういう終わり方で、良かったなあ」)

(胸の中のおもりが、ストンと抜けるようだった)

Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.592 )
日時: 2015/08/24 16:39
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FInALmFh)





 初めて人を殺し、家を飛び出した日。
 山の中で、ワタシは、ある女の人に会った。

 月明かりで照らされた道に、その人は立っていた。ワタシを待っていたかのように。
 今まで出したこともないような力で走ったせいか、その人を見た途端に足が絡まった。
 上半身だけ起こしたワタシの頬を、ゆっくりと撫でる。


『……まだ、早い』


 深緑の目でワタシを見つめて、その人はいった。
 妖のワタシには、死臭の匂いがした。多分ワタシも、別の妖からしたら、死臭の匂いがするのだと思う。

 でもその身体にはちゃんと、血が通っていた。頬に触れた手は、ぬくもりがあった。
 今なら、ゾンビとか、キョンシーとか、死体から生まれた妖じゃないとわかる。でも、どうしてだろう。動いているのに、その人は死体のようだった。
 表情があまり、動いていなかったからかしら?
 時間が止まっているようだったのだ。


 不思議な人だった。
 大人びているのか、幼いのか、
 生きているのか、死んでいるのか、
 その両方を重ねて持った人のようだった。

 その人に撫でられる度、頭がボンヤリしてきた。瞼は重く、逆に身体は軽くなっていく。とても安心できたのだ。
 ワタシはその人の腕の中で一旦眠った。
 母親の腕のなかって、こんな感じなのかな。そう思いながら。


 最初に目が醒めた時、まだワタシには記憶があった。
 でも場所は、最後の記憶にある山の中ではなく、車の中。けれど、その女の人は傍に居てくれた。知っている人が居ると思うと、平静でいられるものだ。

 女の人は、隣で運転していた。どうやらワタシは助手席にいるようだ。
 その人は固まった表情で、前だけを見据えている。話しかけてみたかったけれど、出来そうになかったので、諦めた。


 でも、ここはどこだろう。状況がわからない。


 ネオンの町を見渡す。町の光って、あんなに眩しいものだったかな。それに知っている町並みとは随分違う。
あそこにあったパチンコ屋はコンビニに変わって、雑木林だった場所はファミレスに変わっている。

 でも、学校の通学路に雰囲気は似ているのだ。ワタシは、ワタシが知らない町にいるのかな。ワタシが知っている町に似ているだけかな。


 その疑念はすぐに違うとわかった。
 ワタシが通っていた高校が、目についたからだ。



「今、あなたは二十年以上も先の未来に居るんだよ」


 起きていたことに気づいていたのか、女の人がそういった。
 こちらを見ずに、女の人は会話をつづける。


「未来、っていうのは変かもしれないが。君は今まで眠っていたんだ。二十年以上も」
「二十年以上も……?」


 そんなにワタシ、眠っていたの? 自分の生きていた年数よりも?
 女の人は続ける。


「人ではないというのは便利だね。こんな突飛な状況でも、驚かずに受け入られる。普通の人間なら、眠り続けていたという事実に目を背けるか、発狂するかのどちらかだ」


 そうなんだろうか?
 確かにワタシはもう、人ではない。斧でも簡単に片手で振り下ろすことが出来る腕力と、人の身長より遥かに高く飛べるこの脚。加えて裂けたこの口。立派な化け物。

 でも、だからワタシがこの状況を受け入れているんじゃない。
 ただ、どこかで他人事のように思っているだけだと思った。



「……人は、嫌だった?」



 女の人は聞いた。漠然とした問いを、しかしワタシは、その意図を理解できた。


「どうでしょう。もうあんまり、何とも思っていないかもです」


 そう答えながら、殺人の記憶を手繰る。

 ……あれだけ憎かった、恨んだ。なのに、今はどうでも良くなった。あれだけ心配していた千歳のことも、今は適当に幸せになっているだろうと思えた。
 これが、心を捨てたということ? 化け物になったということ?
 悲しくも辛くもない。だって感情がないんだから。

 でも。
 だったらこの、溢れてくる涙は何だろう。


「……どうして、泣くの?」
「わかりません」


 わかりません。なんで泣くの? どうして人は泣くの。なんでワタシはまだ泣くの。
 問いがグルグルと回る。廻って廻って身体の何処かに出来たくぼみにストンと落ちる。


「もう人じゃないのに。人じゃなかったら泣かないで済むと思ったのに」

「……じゃあ、まだあなたは人なの?」

「わかりません。ワタシはもう化け物だと思っていたんです」


 人として生きたくないと、あれだけ願ったのに。
 涙は止まらない。
 失ったものが大きすぎたのか。捨ててはいけないものを捨てて、悔やんでいるのか。
 悔やむ心も捨てたはずだった。


「ワタシは、これからどうするべきでしょうか。もう、ワタシの意思では動いていけない気がする……」


 誰かに従って生きなきゃいけないような気がする。それぐらいのことをした。
 生前から、親の言うことに従って生きていた。それに苦だと感じたら、今度は恋人の言うことに従った。
でもそれは、自分が望んだことだ。その方が、楽だったから。従えば愛させる、逆らえば殺されると思ったから。

 でも、じゃあ、次は? 誰に従うべきだろう。誰の言うことを聞くべきだろう。……でもその時ワタシは、楽になれない気がする。楽だとは思えない。
 楽だと思っていたことが苦痛な結末を迎えるんだと、気付いたから。でも今はそれが、罰として相応しい……。



「——それに気づくってことは、あなたが、人として生きたいと願うからじゃない?」


 女の人はいった。


「誰かに選択を選ばされることが、苦痛だとあなたは知っている。それと同時に、最初から自分で選ぶことの責任も知っている。例え後に不利な状況に陥ったとしても、それが自分の選んだ道なら責任を果たさねばならない。……だから迷う。どちらが苦しくないかを。どちらが楽かを」

「結果、ワタシは他人に勧められたことしかしませんでした。全然、楽しくなかったけど……」

「ほら、自分で結論を出している。あなたは、楽な事じゃなくて、楽しいことをしたかったんだよ」


「したかったんでしょう?」ではなく、「したかった」。
 疑問形ではなく、断定の言葉。けれど、間違いなくワタシの心情だった。
 ワタシは驚いた。なんであなたが知っているの。ワタシ自身気づかなかった心情に、なぜあなたが言葉で表現できるの。

Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.593 )
日時: 2015/08/24 17:11
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FInALmFh)



「——選んでみる?」


 初めてその人は、こちらを見た。
 やっぱり、きれいな目だった。山にある緑、雨に濡れた緑。自然界にあふれる美しい色彩。
 でも、この人の目がきれいに見えるのは、ワタシを真正面から見てくれるからだ。真正面に見る潔白さが、この人にあるからだ。
 両親にも、最後に会った山田さんにも、失われていたものをこの人は持っている。


「今からでも、遅くないよ。人として生きること。
 ……たどり着く先は、やっぱり地獄だろうけど」


 だからワタシは信じた。
 この人のことを。
 この言葉が、嘘じゃないって。



 だからワタシは、「人」に戻ることを決心した。その時、今度は強烈な睡魔が襲ってきた。

 頭の中全部を白く塗りつぶすような激しい睡魔だった。起きたときには、全てを忘れてしまうかもしれない。直感した。でも、どうしようもなく眠く、抗えなかった。

 最後に、女の人がこういう。


「おやすみ。安心なさい。悪いようにはしないから」


 と。


                ■


 要に別れを告げた瞬間、気づけばワタシは、鳥になっていた。
 白い鳥になって、空を飛んでいる。憧れの鳥の姿だ。

 下を見下ろせば、街の光が灯って。
 上を見上げれば、空気が少し澄んだ秋の夜空は、星が輝いている。

 夜になっても、光はある。溢れるように、闇の中にある。
 すごいなあ。こんなに光にあふれていても、夜は消えない。

 やっと思い出した。何故ワタシが、二十年以上たった今になって、口裂け女として現れたか。
 あの人があの後、何をしてくれたかは覚えていない。推測できるけれど、それが真実化もわからない。直接あの人に聞いたって、答えてはくれないだろう。


 でも、どうしてもあの人にいいたいことがあった。
 そう思いながら翼を大きく羽ばたかせると、あっという間にあの人の家についた。


 ベランダの欄干に、ワタシは止まる。
 その人は、寝間着姿で、あの日のようにワタシを待ってくれた。


「ありがとう」


 ワタシは真っ先に、その言葉を掛けた。
 この言葉をどうしても伝えたくて、ここへ来た。


「あなたが導いてくれたお蔭で、ワタシは最後、人に戻れた」
「……その『最後』は、こんな風になったのに?」
「あるべき姿に戻っただけ。でも、あの時選ばなかった道と、同じだとは思わない」


 沢山得るものを持って、逝ける。ワタシはちゃんと生きられたのだ。
だからありがとう。
 要と、ワタシを引き合わせてくれてありがとう。



 要と同居することになった当初、記憶がないからわからなかった。
 なんで、要のお義母さんは、要とワタシの同居を認めてくれたんだろう。
 要曰く、あの人は大雑把だから、なんていってたけれど。そんな理由で、大事な息子の元に見知らぬ女を置かせることが出来るかと思った。


 その理由が、全部思い出した時にわかった。
 あなたは最初から、こうするつもりでいたんだ。
 何もいわないで、見守ってくれていて、ありがとう。


「今度会えた時には、お義母さん、って呼んでいいですか」
「……無理ね。その時には、私もいないだろうから」


 そう言って笑った顔が、要にも、……あの子にも、似ていた。



「さよなら。——芙由子さん」


 さあ、向かおう。あの子の元に。


                ■


 こうやって、街を見下ろすと、判ることがある。
 本当に人は、ギュウギュウ詰めに暮らしていて、本当にみんなで暮らしている。
 だから、すぐに不機嫌な態度も伝わるし、ご機嫌な態度も伝わる。

 沢山の理不尽に囲まれて、沢山のやさしさに囲まれて。

 でも全部、もともとは一つなんだ。何時もいろんな問題が発生して、とっても複雑に見えるけれど。

 たった一つから、始まったんだ。


              ■


 太陽のように、その家は燃えていた。
 炎は大きく、高く高く、何時までも変わらぬ夕暮れの空へと向かっている。飛んでいるワタシにも、届きそうだ。

 あの炎、熱そうだなあ。でも、とても綺麗な炎の色。
 ワタシが流した血の色よりも明るくて、金糸をぜいたくに使った朱の布のようだ。きっと、ああいう炎はどんな不浄なものでも優しく包んで浄化するのだろう。

 でも、あの中に居るあの子は、不浄なものじゃない。
 善意の塊であるあの子にとっては、自分の命を奪う業火でしかない。


 想像しよう。全力で走る時、少し助走するように。
 少しだけ上空して、そして矢のようにワタシは飛んだ。下に向かって。
 口ばしの先が、空気を切る。そのままワタシは、燃える家に突っ込んだ。

 不思議と、暑さは感じない。息も苦しくない。ただ、炎の中は眩しくて、中を探るのは大変。
 だけど一刻の猶予もない。あの子は何処に居るんだろう。そう思って、姿を探す。

 平安時代の姫様のように、長い髪を乱してフウコは横になっていた。
 ワタシは近づいて、フウコの容態を確かめる。服や肌には煤がついていたけれど、無傷だった。息もちゃんとしている。
 良かった。安堵の息が零れた。ワタシ、ちゃんと間に合ったんだ。


「フウコ、フウコ」


 白い翼は、人間の腕に戻っていた。
 こういう時は人間の体が役に立つ。やさしく、ワタシはフウコの身体を揺らした。


「……千代ちゃん?」


 目を覚ましたフウコは、すぐに飛び起きた。仰天した顔をして問い詰める。


「な、なんで!? なんで千代ちゃんがここにいるんですか!?」
「それよりも、早くここから出よう?」


 元気だね。結構煙吸っているはずなのに。これだったら一人で出ることも出来るだろう。
 ワタシは彼女の体を起こして、出口に向かわせる。


「ほら、早く出て」
「む、無理だよ……だって、わたし」
「ケンジを、置いて行ってもいいの? ケンジ、あなたを随分探していたわ」


 さっきここへ向かう途中、山の中を必死に探していた。水が欲しくて堪らない砂漠の旅人のように。水の代わりに、彼はフウコを探していた。


「あなた、ワタシにいったよね。要を一人にしないでって。
 だから、あなたもケンジを一人にしちゃいけないわ。わかってるでしょう?」
「でも……でも」
「一緒にいたくないの?」
「いたいよ! でも、千代ちゃんだってその気持ちは同じじゃない」
「そうよ。一緒よ」


 だから決めたの。もう離れないって。
 離れないと決めたから、ここにいる。自分の罪が許される時の向こうで、ずっと要と暮らすのだ。
 罪が清められない限り、ワタシはあの人と一緒にはいられないから。


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