二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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アヴァロンコード
日時: 2013/04/27 14:31
名前: めた (ID: x1KEgngG)

全ての終わりが、わたしの前に来ている
地に在るものが道を乱しているからである
わたしは彼らを地とともに焼き滅ぼすだろう
だが、滅びの炎は新たな地を生み出す

わたしはおまえと契約を結ぼう
おまえがわたしの心にかなう者だからだ

さあ、手を差し出し、受け取るがよい

正しきものを知り そして記せ
それらのもので 次の世が満ちるように

地に道を乱すものあるかぎり
幾度も滅びの炎は訪れる

いずれ来る正しき日に至るまでは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これはdsのアヴァロンコードのOPからEDまでの物語です。
まぁ、ED後の話も含まれるかもしれません。
主人公は女性版のティアなので、男性版のユミルは出てきませんのであしからず。

>>223にキャラクターイラスト全集が載ってます。ティア、精霊、カレイラ・サミアド・ヴァイゼンの人々が描いてあります。
興味がある方は参照してください。


預言書<目次>

表紙  目覚め   >>1
第一章 炎の精霊 >>3
第二章 森の精霊 >>30
第三章 氷の精霊 >>62
第四章 雷の精霊 >>105
第五章 大  会  >>154 →カレイラ諸事情>>156-161
第六章 旅立ち   >>251 →イーストカウンセル>>259-269
                  →リコレクション>>292-307
第七章 雷の精霊 >>330
第八章 氷の精霊 >>365 →エウィグ>>371-374
第九章 森の精霊 >>398
第十章 炎の精霊 >>427 →クエリーレ>>439-445
第十一章 魔 王  >>455
第十二章 開 鍵  >>489 →ウェルト>>491-496
第十三章 安 息  >>503 


第十三章 個人章別

世界協定   >>503-507 >>550-577 終
奇跡の花   >>508-525 >>543-549 >>558 >>577
エルフと人  >>514-515 >>526-542 終
外交官の館  >>526 >>529-530 >>578-
故魔女の形見 >>
魔王と勇者(続・外交官の館 >>
酒屋話譚   >>
心ばかりの地底湖散歩    >>

↑時間軸関係により、数字が新しい物から読み進めていくと理解しやすいですよ!


一気読み専用コーナーを設けました!
いちいちページクリックするの面倒くさい人はずっとスクロールで見られるようにした、下のほうから見られます。
ちょっと読み込むのに時間は掛かると思います。

一気読み >>1-

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Re: アヴァロンコード ( No.88 )
日時: 2012/09/13 18:32
名前: めた (ID: UcmONG3e)

カレイラが100年間守り続けているワーグリス砦。

砦といっても普段は関所として使われていた。

8年間続くヴァイゼン帝国との戦がなければ、ここは戦争目的で使われた事はなかっただろう。

「ふーん?意外と詳しいじゃねぇか」

ティアが今回の目的地であるワーグリス砦について説明してあげると、精霊たちは意外そうにしていた。

「剣術より勉強のほうが好きなんだー?」

ミエリに言われ、まさかぁ、と頭をかくティア。

彼女にとっての優先順位はこうだ。

昼寝≧剣術>勉強

しかも、もともと勉強を出来るような身分ではないため、嫌なものかどうかもわからない。

ただ、兄貴分のレクスによれば、金持ちの特権で、非常に嫌なものらしい。

「ううん。ほら、ファナの部屋にいくと沢山本があるでしょ?」

実際に行った事のあるレンポだけが頷く。

ミエリはうん?と首を傾げつつ聞いている。

「そこでたまたま歴史書があって読んだの」

そうして話していると、前方より川の音が聞こえてきた。

「うん?川?」

上り坂を越えると、川が見えてくる。

「ウェルドの大河だよ」

そのなの通り、タダの川ではない。

水しぶきを上げて、沢山の青のグラデーションが渦巻くウェルドの大河。

巨大で長い、大きな大河だった。

「ここをわたるのか?」

大きな岩がごろごろする岸辺には、すっかり丸くなった元岩が沢山転がっていた。

流木も多く、今ではすっかりサワガニの住みかとなっている。

大河の中には嵐の日にでも流れてきたのだろう、馬鹿でかい岩が突き出ている。

それも5つぐらいあるのだ。尖っていないので、きっとここまで運ばれてくる間、川の力によって削れたのだろう。

ということはもっと大きな岩だったのだ。

「ティア、気をつけてね。足をすくわれないようにそっとよ」

兵士の最後尾が再び見えなくなると、ティアたちの番だった。

預言書の精霊は水に弱い、そう聞いて預言書を高く掲げてティアは大河に一歩踏み出す。

上空には心配そうにする、精霊たち。

「ひゃあ、冷たいっ」

じいんと伝わる冷たさに、ティアは思わず震え上がる。

けれど、引っ込みかけた足を大河に沈めた。

思ったより深く、ふくらはぎまですっかり水に浸かってしまう。

「おーい、大丈夫かぁ?」

「平気…平気だよ!」

完全にムリしているとばれる声音でティアは返事する。

そして無理に足を進めて、ゆったり流れる大河に身を沈めていく。

ウェルドの大河に沈むいくつかの岩の近くでは、水流が変わるため、そこだけ水の流れが速い。

そこに気をつけて近寄らないように美しい青の川を真ん中まで来た。

この調子で行けば、わたりきれる。

そう安堵した途端、金切り声が聞こえてきた。

「ティア!」

叫ばれて頭上を見上げると、何かが飛んでくる。

白い羽の塊…あれは、ハルピュイア?





Re: アヴァロンコード ( No.89 )
日時: 2012/09/17 18:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ハルピュイアというのは、美しい女の人の体を持つ鳥の魔物。

その外見で何よりも美しいのは、羽のグラデーションだ。

風きりばねはエメラルド色、第一初列風きりばねは真青色だ。

<第一初列風きりばねというのは鳥の羽についている一番下の長い風きりばねのことである。ちなみにこれを幼少のときに切ってしまうと一生飛べなくなる>

外見とは裏腹に性格は凶暴。縄張り意識が高い。

谷や海に生息して、誰でも見境なく襲い掛かる。

それが今、数十派の群れを成して鋭い足の爪をむき出しにしてティアに襲い掛かってきているのだ。

とっさに避けようかと考えた。

けれども両手の中にある、赤い表紙の預言書がそれをためらわせる。

水に触れれば精霊たちは力を失ってしまう。

剣を構えるまで、時間がかかる…。

そうだっ精霊…!

とっさにティアは叫んだ。

「ハルピュイア、どうにかして!」

「よっしゃぁ!」「まかせてっ!」

とっさのことで、精霊のどちらに頼むか忘れていた。

なので二人して自分が頼まれたのだと思い、返事する。

「あ…」

二人の返事を聞いて、どちらに頼むか一瞬迷いが出たが、心配しなくてもよかった。

二人同時に詠唱しだしたからだ。

「__・__」

相変わらず、何を言っているかわからない。

ハルピュイアの輪郭がはっきり見えてきた頃、二人の詠唱が同時にやんだ。

何が起こるんだろうと、見つめているとまず目立つ炎がごうっと巻き起こった。

真っ赤なグラデーションが綺麗に渦巻いている。

と、その合間に緑色の渦が時折顔をのぞかせる。

すると突然、炎の威力が勢いを増した。

渦が二倍になり、炎が津波のようにハルピュイアに襲い掛かる。

炎と気である風は相性がよく、炎の威力を数倍にも上げることが出来るのだ。

青のウェルドの大河が、その間夕日の染まったように炎に照らされて赤くなる。

「なんか…はじめてみたときよりすごいかも…」

そうつぶやき終わる前に、炎に飲まれてハルピュイアは全滅した。

役目が終わり、炎と風が消える。

「おいおい、縛られてねぇ時のオレの力はこんなもんじゃないぜ!」

上空よりレンポが降下してくる。

あわてて手を差し出して手のひらに載せようとすると怪訝な顔をされる。

「そんなに疲れてねぇよ。今はおまえが元気だし、正式に精霊魔法を使ったからな、力を出しやすかったんだ」

差し出した手を足蹴にされた。

そこへミエリがやってくる。

「大丈夫だった、ティア?」と、心配してくれる。

頷くと、急に寒くなった。

「それじゃさっさとこの河、わたっちまおうぜ」

言われて自分が河の中で腰まで浸っていることを思い出した。

それほど精霊魔法の印象は大きかった。

Re: アヴァロンコード ( No.90 )
日時: 2012/09/13 20:51
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ウェルドの大河から上がると、吹きぬける風がとんでもなく冷たい。

グラナトゥム森林の滝から落ちたときのように、凍える。

まだ下半身だけが水に濡れただけでよかった。

スカートが太ももにまとわりつく。

なんという気色悪い感覚!

だが仕方ない。かまわず歩いていく。

 先ほどとは比にならないほどの小石が地面に散らばっている。

ウェルドの大河から離れると石は徐々に消えていき、だんだんきつい上り坂になっていく。足元は小石から土に変わる。

景色も松などの高原に生える植物が多くなった。

「バルガッツォ渓谷ってところだよ」

ティアがほぼ崖の道を歩きながら言った。

ここはバルガッツォ渓谷。深い谷と崖の道が連なる険しい道のりだ。

崖の下をのぞくと、底は見えない。

白い霧がもやもやと逆巻いているだけで、落ちたら死ぬとわかる。

けれど、そんな切り立った崖にも木々は生命強く生えている。

落ちないように小道を歩いていくと、先のほうで兵士の最後尾がいるのが見えた。

「追いついちゃったわねー」

気づかれたらもしかしたら、カレイラに返されるかもしれないので見えなくなるまで休憩にすることにした。

石に腰掛けて、松ノ木にすがりつく。

疲れてはいなかったが、背後がすぐ崖と言うこともあってすがりつきたくなる。

「おい、ここロープ切れてるぞ」

暇になったのでその辺を散策していたレンポが崖のそばの杭につながれたガードロープを指差して言う。

確かに、杭から外れてひらひらとロープがたわんでいる。

「危ないなぁ。落ちたらどうするんだろ」

言いながらある考えが脳裏を掠める。

切れたって事は…だれかおちた?

青ざめつつ崖をのぞくが霧で見えない。

ぎゃくに見えたら困るのだが…。

「なおしてあげよっか?」

崖を覗き込んでいたティアにミエリが言う。

ぱたぱたと羽を動かしてじいっと返事を待つ。

彼女はレンポの逆で足を封印されているため、飛んでいるしかない。

「できる?」聞くとミエリは笑顔のまま指をくるりと回した。

すると地面からにょきにょきとツルが生えてきて、それが切れたロープの代わりに杭に絡みつく。

しかもそのツルはとんでもなく太く、縄のように結われている。

「こっちもなんだか心配ね」

三つ並んだ杭にも指をふる。するとツタががっしりと杭を支えた。

人工の物が、一瞬にして自然に出来たもののように見えてしまう。

緑色のガードロープはミエリがウインクするとピンク色の花を咲かせた。

「これでいいわね!そろそろいきましょ!」

満足げにミエリが腰に手をあてて言う。


それから同じような崖の道を進んでいくと、少し開けたところに出る。

「橋か?」

兵士の最後尾が調度橋を渡り終えたところだった。

茶色の木で出来た橋。

見かけによらずがっしりとしたつくりのため、どんなに多くの人がわたっても壊れない。

「お?滝があるぜ!」

橋を渡っている最中レンポが橋の下に美しい白糸の滝を見つけたらしい。

「あ、魚もいる」

けれどティアは立ち止まって風にそよがれながら景色を眺めようとしない。

ひたすら、足を前に出して橋を渡ろうとする。

切り立った崖にどうやってかわからないがかけた橋。

こんな橋から下を見ると、ゾッとするだろう。

「ティア、もしかしてこわいの?」

ミエリが辺りを見回さずにもくもくと歩くティアに声をかけた。

ティアは無言のまま橋をやっと渡りきると、安堵のため息をついた。

「ふあー…やっとわたりきった…」

振り返ってやっと景色を見る。「ホントだ、きれいな滝!魚もいるね!」

崖に身を乗り出すティア。

不思議なことに崖のほうが橋より怖くないのだ。

「わかったから…おまえ落っこちるぞ!」

「ティア、あぶ…あぶないから!」

精霊に止められてティアはしぶしぶ崖から離れた。

「ワーグリス砦はまだか?」

ほっとしてレンポがつぶやく。またティアが危ない事しないうちにつきたいものだ。

「あとは、ずっと上っていくだけだよ。あと一時間くらい」

預言書を抱えなおしてティアはもう一度崖をのぞいた。


Re: アヴァロンコード ( No.91 )
日時: 2012/09/15 00:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

バルガッツォ渓谷、最後の崖の道に差し掛かった。

とんでもなくきつい傾斜で、ガードロープが他のところよりしっかりと作られている。

さもなくば、ふらついた拍子や、風にあおられたとき何人もの人が深い谷に落下して命を落としただろう。

それほどに標高が高いのだ。景色はひらけて連なる山々のてっぺんが見下ろせる。

ふと視線を落とせば、先ほど襲われたハルピュイアの群れが霧の合間に優雅に舞うのが見えた。

ティアたちは再び小休憩を挟んだ。

薄い霧のおかげで、まぶしい太陽は見えない。

「風が心地いいわね」

ミエリが涼しげに緑色の目を閉じて言う。

風に吹かれてミエリの長い褐色の三つ編みがゆれる。

「霧が多いみたいね。風に水分があって普通の風よりいい気持ち」

ミエリの言うとおり、ここバルガッツォ渓谷のてっぺんに当たる現在地はよく濃霧がおこる。

濃霧と言うのは字の通り、濃い霧のことである。

まるで煙の中にいるように前がまったく見えず、その中にいるだけで体温を奪われてしまう。

よくある言い伝えでは、霧の中7人の旅人が歩いていたが、濃霧から出てきたとき一人いなかったという話。

落下したのだろうか、それとも濃霧の中で何かが起こったのか…。

とにかくこの言い伝えは年少の子ども達を震え上がらせている。

「さ、小休憩は終わりだ」レンポが言った。

「すぐそこに、もう砦がある。戦争が始まるぜ」


ワーグリス砦が目の前にそびえる。

地面はすべて石のタイル張り。壁一面も燃えにくいタイル張りだ。

茶色の扉は半開きで、さまざまな物資が無造作に置かれている。

たとえば、砲台の玉とか、木の杭ブロックなど緑のテントの下にわんさかとある。

中でも一番多いのが、木のたるに入った火薬だ。

防火用の布にくるまれて配置されている。

号令が扉の奥から聞こえるので、ティアは足早に扉を潜り抜けた。

 扉を抜けた先は北の戦場とワーグリス砦を結ぶゆいいつの門。

その門は今閉じられていた。

それもそのはず、開け放てばヴァイゼンの兵がなだれ込んでくるからだ。

その門も、いまやヴァイゼンの投石器によって岩を当てられて不吉な音を出している。

今は弓兵が応戦をして、カレイラの部隊が召集するのを待ている。

ティアがいる通路は砦の中心に当たり、救護部屋・待機部屋・弓部屋・食糧庫・武器庫がある。

その通路に、いまや何千と言うカレイラの兵士が集結している。

ティアが混じりこんでも、ぜんぜん気づかないようで皆かなり緊張していた。

と、騎士団長の一人がその前線に立った。

門の直下に立ち、ハルバート(斧槍)を高く掲げて声を上げる。

「カレイラの名を知らしめよ!」

次々と声援がはじける。

「カレイラのために!聖王ゼノンバートのために!!」

合唱のように複音し、兵士たちは一気に気合を入れた。

それを合図にヴァイゼンの兵士がいる北の戦場へ向けて、門が今開け放たれた。


Re: アヴァロンコード ( No.92 )
日時: 2012/09/15 02:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「急げ!ネアキを早く探せ!」

なだれ込んでくるヴァイゼンの兵と、濁流のごとく流れていくカレイラの兵。

血みどろの戦が幕を開けた。

その最後尾にいたティアにレンポが叫んだ。

ティアの元にヴァイゼンの兵士が飛び掛ってくる。

子供といえど容赦はしない。

槍部隊なのだろう、槍を突き出して走ってくる。

けれどティアはあわてず、剣を振り回し槍を受け止めると木の柄をもう一方の剣で切断した。

槍を失った兵士はすぐさま腰の剣を引き抜く。

だがその隙を与えず、剣の柄を強く握って柄で兵士の鎧の胸の部分を強く突き飛ばす。

後ろへ倒れそうになった兵士を、足でけり、地面に突き飛ばすと兵士は気を失った。

さすがにティアは殺すことがまだ出来なかった。

魔物ならともかく、生身の人間はいやだ。

「ねぇ、ネアキって—」

どんなひと?と聞きたいのだが、またもや兵士が飛び掛ってくる。

今度は銀の鎧ではなく紫の鎧だ。

「おい、あれは魔物だぜ!」レンポの声に反応し、すぐさまためらわず鋼の剣で切り裂く。

鎧が砕けて緑のうろこのトカゲ男が断末魔の声を上げる。

その声に反応して新たに紫兵が沢山やってくる。

「このひとたち、みんな魔物よ!」

「ちっ、預言書を狙ってやがるなっ?」

ティアのそばより精霊たちが言う。

預言書目当てか、紫の兵士ばかりティアのもとに寄ってくる。

どれも、魔物だ。

それを片っ端から倒すと、ティアの周囲に円形の魔物人間の死体が転がった。

「これじゃ…精霊解放どころじゃないよ!」

ティアが息を荒げて嘆くと、突然前方の壁が爆発した。

ドガーンッとものすごい音が砦中に響く。

「なんだぁ?!」

もくもくと砂埃と火薬の匂いが漂う中、戦場に似合わぬ陽気な鼻歌が聞こえてくる。

灰色の砂埃から丸いシルエットが浮かんできた。

「むふっふんっふん♪」

そのシルエットがふたたび陽気に鼻歌を歌い始める。

「爆弾ふっとんだ♪」

どうやらあの爆発はこの丸いシルエットが起こした爆弾のせいらしい。

と、ミエリが軽く指を振った。

すると、どこからともなく穏やかな風が吹いてきて煙をかき消す。

そのおかげで丸いシルエットの姿がはっきりと見えた。

頭にオレンジのヘルメットをし、緑のゴーグルをつけている。

防護服もオレンジと茶色の組み合わせで、手には手袋をはめている。

背中には煙突が二つある妙な機械を背負っていた。

一度見れば男性だとわかり、中年期だと言うこともわかった。

「むふぅ?オマエ…」ティアの足元に散らばる魔物の残骸を見て男が言う。

妙な口調なのはご愛嬌だろうか?

「…けっこう、活躍しているネ」

ちょっと悔しそうにしているが、戦争は競争ではない。

「なんだ、この太っちょは!」

レンポが言うと、タイミングよく男が言った。

「ワタシはハオチイ。さすらいの研究者ネ」

「けんきゅうしゃ?」

ミエリが首をかしげる。前の世界には研究者がいなかったのだろうか?

「戦場はワタシの実験場!ワタシの爆弾で一網打尽むふぅ!」

自慢げに言うハオチイという変わった名の中年男。

歯並びの悪い口を変形させて厳しい口調に変わった。

「とにかく、ここはワタシにまかせ、オマエは帰ってネンネしてるといい!」

ティアはもちろん頷かない。戦争など嫌いだが、ネアキという氷の精霊を封印より解かなくてはならない。

するとハオチイはむっとしたようだった。

「な、なまいきネ。オマエみたいなガキには戦争はまだ早いネ!」

そういうと、気配を感じてかさっと振り向く。

そこには走ってくるヴァイゼンの兵士。

「見てるがいいネ!」いうなり、ハオチイは背中の機械のレバーを引っ張りながら走る。

機械が作動してブンブンうなり声を上げている。

と、ハオチイがレバー脇のひもを引っ張ると、ズドーンというものすごい音と共に爆発が起こった。

兵士が吹き飛び、ハオチイも爆発の渦で見えなくなる。

「?! ハオチイさん!」

駆け寄るティア。その目の前に驚くべきものがある。

ぽっかりと開いた穴。

普通ワーグリス砦に穴を開けることは不可能であるが…。

「落ちちゃった?」

「なんだあいつは?」

覗き込むミエリと、肩をすくめるレンポ。

すると、穴の一番近くにいたミエリがティアを振り返った。

「ねぇ、ティア」呼びかけにティアが反応すると先を続けた。

「あの人のいたところからなんか冷たい空気が流れ込んできてるよ!」

「冷たい空気…ティア!」ひらめいたようにレンポが言う。

「オレ達もおりてみようぜ!」


レンポの言葉により、おもいきって穴に飛び降りたティア。

着地するや否や、肌寒い冷気が全身を包み込む。

思わず身震いした。

「すっごい冷気…これって!」ミエリが期待してレンポを振り返った。

「あぁ、間違いねぇ」忌々しげにレンポが頷いた。

「このギスギスした感じ。ネアキがここにいる!」

やったー!ネアキに会えるっ!と大喜びするミエリ。

いったいどんな人なんだろう、とネアキを思い浮かべようとするが、ハオチイの声が邪魔する。

「むむむ…砦の地下にはこんなところがあったとは。ここはちょっと寒いネ」

言いながら腕を組んで二の腕あたりをさすっている。

ティアもすでに鳥肌が立っていた。

あたりは砦と同じつくりだが、それよりももっと古い感じ。

ほとんどが水色の氷に覆われて、よくはみえない。

足元も、奥へ続くとよりいっそう凍りに覆われていく。

空気中には目に見えるほどの冷気が漂っていて、吐く息も白い。

ハオチイをおいて、奥へ進もうとすると洞窟のようになっている入り口が頑丈な板の扉で固定されていた。

剣で叩こうが、レンポの炎でも突破できない。

空気中に水分が沢山あるため、炎の通りが悪いのだ。

それに不機嫌そうにレンポが文句を言う。

「くそ!この扉が邪魔だな!」

するとハオチイが氷を踏みしめてよってきた。

天井に氷柱が張り付いていて、ぽたぽた水滴の音が聞こえてくる。

「そんな武器じゃ壊れないよ。そんなにそっちに行きたい?」

頷くティアにハオチイはにんまり笑った。

「よし決めた!オマエにワタシの爆弾を授けるよ。オマエなら正しく使いこなせる。大切なのは心」

そういいながら、ハオチイは拳大の爆弾を手渡した。

ずっしり重く、見た目は黒い亀の甲羅だ。

「どんな道具も使う人の心次第ネ!」

「ありがとう、ハオチイさん!」

ティアは受け取った爆弾を早速コードスキャンした。

そうすれば、何度も取り出して使えるからだ。

「早速使ってみましょ!」ネアキに早く会いたくて、ミエリがせかす。

ティアは数歩下がって爆弾のピンを抜き、扉の元に投げる。

コーンと凍りついた床に当たり、爆弾が扉にころがる。

数秒後、固唾を呑んで見守るティアたちの目の前で、爆弾がはじけ、こっぱ微塵に扉が吹き飛んだ。

とたんに強風が吹くようにどっと冷気が押し寄せてきた。

身も凍る、肺が凍り付いてしまいそうな冷気だ。

「うう、寒いな!」

炎の精霊であるレンポが上空にて歯を食いしばって震え上がる。

その様子をすずしげにミエリが見る。

「レンポ、寒いの苦手だよね!」

相変わらず続く冷気の中、ティアはハオチイと別れて進むことにした。



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