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- 妖と人の子
- 日時: 2019/01/03 08:23
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです
現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております
現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております
失礼ながら書込みは遠慮します
- Re: 妖と人の子 ( No.201 )
- 日時: 2019/04/24 12:40
- 名前: 大寒波 (ID: uV1PemL6)
夏目長編(3)141.「夏目話・平安編141」
「ふむ 充分ではないのか あちこちで 女達が楽しげに さんざめいておった」
そう言ってから妖物は 首を捻って独りごちる
ちょっと待て 不思議と言うなら よっぽど不思議な事がさっき庭で‥ 再び外に眼をやった
「なにか 変わったものでも御覧になりましたか」
夏目が気になる事を言う
では 庭のあれは其方がやった事かと 白銀の妖が訊ねた
「私の手柄では ございませぬ あれは笛を能くする(よくする)者が 一心不乱に奏すると 時折り実体無きものが 現れる事があるのでございます」
誰が吹こうとも 現出するのかと妖が驚くと 夏目が重ねて語った
「元は 祖父が所有していた笛で よく兄達が吹いては 幼い私に鳥や獣を見せてくれたもので ございます
幻ゆえに 見る側の意向を色濃く反映し 一時に見ても 各人で異なる幻影となる様でこざいます」
成る程それで 歓声と悲鳴が 一緒に上がった訳かと妖物は思い返したが
ふと 当の奏者であるこの者は先ほどは 何事かを見たのだろうかと 気になった
幻影であって 実物では無いものである 実際の眼と視力で見るのとは違うであろうが ‥分からなかった。
- Re: 妖と人の子 ( No.202 )
- 日時: 2019/04/25 08:47
- 名前: 大寒波 (ID: Qj5Aheed)
夏目長編(3)142.「夏目話・平安編142」
ああ と夏目は付け加えた
「とは申せ あれで現出するのは鳥獣 鱗介(魚介類)や蟲介(虫類)の類いであって、
麒麟 龍や鳳、迦陵頻伽等の有難い霊獣は出てきた例がございませぬ」
「‥素朴な幻だな 」
思わず口に出す ついでに気になっていた事も訊く
「其方は何か 視たのか」
「いいえ あれが視られたのは盲いる(めしいる)前迄で 幼い時分の事でございました」
そうなのか
白銀の妖が ぽつんと言う
常と変わらず 表情が乏しい夏目からは感情が窺えない
「幼い時分に見た幻影 とは如何なるものであったのだ」
夏目は妖の方を向くと 語り出したが 少々戸惑う様な口吻に 聞こえた
「三歳前後の事ゆえ
‥兔(う/うさぎ)の仔や鶉の雛を 兄に出して貰ったり、でしょうか」
「ふむ 鶉の雛か旨そうだな」
腹の足しにはならぬかと存じますが と首を捻った夏目が言う
「鶉の雛は 蚕豆(そら豆)よりも小さいものでございます」
実際 鶉の雛はカナブン位のサイズしかない 極小ひよこである
- Re: 妖と人の子 ( No.203 )
- 日時: 2019/04/29 06:20
- 名前: 大寒波 (ID: DOGptLfT)
夏目長編(3)143.「夏目話・平安編143」
「他者の視る幻影に 奏者が干渉して 殊に見せたいものを強く投影し 現出させるという事も 出来る様子でございました」
それで白い兔の仔を出して、鶉のひなを見せてと兄姉にせがんでいたと
夏目は往時を語った
「冬には居らぬ鶉の雛を 雪上に群で出して貰うと
倒けつ転びつ(こけつまろびつ)散らばって走る小さなひよこを 私が雪まみれになって追掛けたり、
姉が横笛を奏して幻影を現出させた際には 色鮮やかな草花や禽鳥に見蕩れたりなどしておりました」
巨大な妖物の傍らで 盲目の鍼医は語り続ける
「姉が昔 山荘近くの川で見た天上の鳥だと話して
何れ(いずれ) 一緒に実物を見ましょうと私の頭を撫でて 現出させてくれたかわせみは
羽根と背が岩群青色(いわぐんじょう色)に輝き
胸は明るい橙色で 深青の光線となって川辺を飛んでゆく
到底 此の世のものとも思えぬ川鳥でありました
私は実物のかわせみを 見ることは遂に無かったので 記憶の中の幻影のかわせみが正しい姿なのか 知らぬのでございます
それでも 一番美しい鳥だと 今でも信じております」
夏目は静かに話を終えた
- Re: 妖と人の子 ( No.204 )
- 日時: 2019/04/27 10:30
- 名前: 大寒波 (ID: 3f2BBQD7)
夏目長編(3)144.「夏目話・平安編144」
庭園を挟む邸内の各室では 高揚は収まり静寂を取戻していたが 朗らかな空気に余韻と名残があった
笛の奏者は 丁寧に横笛の水滴を拭って 錦の袋に収め その様子を傍らの同室者は黙して見ていた
同室の者は人では無い
狼や狐に似た姿で 全身が白銀の体毛に覆われ 尾は豊かに長く 体躯はこの部屋の半分を占める程に 大きい
強力な牙と鋭い爪を備え 杏仁型の眼は緑色で 翡翠を思わせる 虹彩は 金色に輝き 目許には赤い隈取りがあった 優美な獣の妖である
黙りこくったその妖に夏目が言う
「朝餉を食べ切れ無かったのですが 良かったら喰うてくだ「 喰う 」
即答が返って来た
文机に置いた紙包みを開くと 焼いた干し魚と別に取分けた 枇杷の実が現れ夏目はそれを左手で差出した
一欠片を 口にした妖物は 旨いな といつもと同じ事を言い食べ始めた
もぐもぐと口を動かしつつも 既にしまわれた笛を見やって夏目に問掛けをする まだ管弦に未練があるらしい
「あの横笛(おうてき/龍笛)は何という名か」
「名、でございますか 特に名はありませぬ」
顔を仰向けて夏目が返答した
- Re: 妖と人の子 ( No.205 )
- 日時: 2021/04/15 17:39
- 名前: 大寒波 (ID: 6uh.C7Uz)
夏目長編(3)145.「夏目話・平安編145」 初出'19.04/28
「音が群を抜いて優れたり逸話有る楽器には 大抵は名が付されておろう
京不見の様に」
これはまた 人の世に詳しい妖物があったものだと 夏目が舌を巻く
京不見は四天王寺所蔵で、聖徳太子の所縁の名笛の名である。横笛(龍笛)には逸話を持つ名器が多いのだ
「あの様な名笛とは比べるべくもありませぬが、祖父は敢えて 名付けぬ様子でございました」
「ほお どうした訳だ」
───固有の笛として名を呼び始めると 譲れと人が来たり 盗まれたりと人の欲を勝手に掻立てる代物となる こちらも 何やら惜しゅうなる
譲れと言われたら 呉れてやれば良い
争いの種になるのなら 叩き壊せば良い
たかが竹の笛一本の事なのだ───
祖父が云うには そうした次第でございました
夏目がそう結んだ。
「それで無銘か 一理あるな」
妖物が尤もらしく頷く
食物は食べ終えていた
その巨大な妖物の首の横に立つ鍼医は、僅かに首を傾げて小さく呟いている
躯は やや温かくなったが未だ冷たいか……
「酒を呑んだご様子ですが 余程の量を召し上がったのでしょうか」
鍼医が訊ねた。
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