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- 妖と人の子
- 日時: 2019/01/03 08:23
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです
現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております
現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております
失礼ながら書込みは遠慮します
- Re: 妖と人の子 ( No.226 )
- 日時: 2019/06/11 19:47
- 名前: 大寒波 (ID: zt./Gg/M)
夏目長編(3)166.「平安編166」初出19.6/10
昏い野の下草を掻き分けてゆくと足許に骸が一つあった 見覚えの有る 上衣の裂け目から 白骨が見える
せめて骨は拾って帰ろうと掴むと 崩れて風に吹かれて無くなった
「 おおう、」
自分の声で眼を覚ました太郎君は辺りを見回した
陽射しが燦々と廏に差し込んでいる うたた寝は一瞬の事であったらしい
汗まみれの顔を掌で拭うと 舎の外から微かな音がした 肌が粟立つのを抑えて 息を凝らし耳をそばだてた
太郎君のいる奥とは 反対側の入口に さり、さり、と物音は近付いてくる
やがて静かに姿を現したのは夏目だった
意外な人物に驚きながらも先客は安堵の息を洩らした
察するに夏目は客間のある棟からは 死角の渡殿や廊を選んで 慎重に歩いて来たのだと思われた
しかし鍼医殿がこんな所に一体何用であろう
太郎君が大いに戸惑い 声を掛けようと身を乗り出した時 夏目が一つの馬房の前で足を止めるのが丁度見えた
三郎君の乗馬 朝霧に 両の手を伸ばして逞しい首をそっと撫でている
馬の方も横木から 首を長く突き出して 鼻筋を夏目の肩に擦り付けたり 袖を食んでみたりと甘えている
- Re: 妖と人の子 ( No.227 )
- 日時: 2019/06/12 07:13
- 名前: 大寒波 (ID: uV1PemL6)
夏目長編(3)167.「平安編167」初出19.6/11
「夕べは御手柄だったのだな 朝霧」
物柔らかな声が言うた
昨夜遅くに帰宅した末弟が 賢い乗り馬によって難を逃れた話は太郎君も 既に舎人から聞いていた
まったくもって有難い事だ 三の弟の身には 過ぎた馬だと 太郎君が思いつつ珍しい光景を眺めている 何となく出て行く機会を逸していた
麻袋から何か鍼医が取出していると 馬が待ちかねた様に 手指にふんふんと鼻面を押し付けている
種を除き裂いて掌に載せて差出したのは 干柿である
この時代の人間にとっても貴重な菓子である干柿は 栄養価が高く美味で保存性も良いので 夏目は医の仕事の際には 自家製を 食の細い病者の為に 薬剤の一種として携えている
「甘味が強いから 少しだ」
滅多に無い菓子を 無心に喰う馬の黒い鼻筋を摩る鍼医は更に 別の袋から取出した茶色の草の様な物も手に載せて与えた
「この時分には 沢山摂るのだぞ」
これも同じく馬が 夢中で食んでいる
良い子だ
まだ食い足りなさそうに 腕に鼻筋を擦り付ける馬を撫でて 小さく話し掛ける夏目の横顔は 太郎君には覚えが無いほど穏やかであった
- Re: 妖と人の子 ( No.228 )
- 日時: 2019/06/12 21:02
- 名前: 大寒波 (ID: zt./Gg/M)
夏目長編(3)168「平安編168」初出19.6/12
眼前の人と馬には 何かしらの情が感ぜられて
それが太郎君には ここに居らぬ末弟を思い起こさせた
…………。
我知らず俯き 物思いに沈んでいた太郎君が 顔を上げると 鍼医は入口脇の馬房の前にいる
曇った眼を瞬かせて(しばたたかせて)見ると房内の栃栗毛にも干柿と草を与えている様子である
あ、俺の馬にも呉れているのか‥
これを見た途端 太郎君ははた と自分の姿に思い至った
…これでは盗み聞きや 覗きの類いでは無かろうか
急に掌に汗をかいて どうにか此方側から外に出られぬかと辺りを見回したが 廏の此方側に出入口は無い
そもそも人が部屋にいると不動で沈黙していても 夏目はいつも直ぐに気が付いてしまう
それがこの廏には 生き物が沢山蠢き(うごめき)
様々な音と匂いに鍼医は周りを囲まれている その上入口付近の馬房の前に佇んでいる為に 風上に立つ格好である
それ故に 奥の壁に手を突き 身を硬くしている自分には夏目は未だ 気が付いておらぬのかと 総領息子は考えたが 今はそれどころでは無いのだ
- Re: 妖と人の子 ( No.229 )
- 日時: 2019/06/19 19:55
- 名前: 大寒波 (ID: FTo14qYM)
夏目長編(3)169.「平安編169」初出19.6/12
‥しかしながら以前はあれが不可解で もしや占卜の様な特殊な力に因っての事かとも思うていたが 良くよく観察すると鍼医殿は室内屋外に関わらず素早く 風を読み然り気無く(さりげなく)風下に廻って聴覚嗅覚を用いて音と匂いとを感じて周囲の様子を先ずは探った後に すかさず床や地に手を付けると 僅かな振動を感じ取っては 人の在る無しを察知していたのだった 鍼医殿のその驚くべき洞察力には確固たる事訳と技あっての事だったのだと 氷解するかの如く判明した時には 私は大いに感じ入ったものであった 今でもあの様な事を目の当たりにすると やはり驚かずにはいられぬものだ いや違う今はそんな事を延々思い返している場合などではないのだ
焦燥に駆られるあまり
実直者の太郎君は 現実逃避気味である
一瞬このまま 身を潜めて鍼医をやり過ごそうかと 思うたが 武人たる吾がそんな血迷った事ができるか、と思い直す
第一 こちらを見る事が叶わぬ人を 口を利かずに物陰から見ているのは 公平ではない
後れ馳せながらも 疾く(とく)出てゆき 驚かさぬ様に声を掛けなくては。
- Re: 妖と人の子 ( No.230 )
- 日時: 2019/06/19 20:01
- 名前: 大寒波 (ID: RO./bkAh)
夏目長編(3)170.「平安編170」初出'19.6/12
一足踏み出すと 無理な体勢を続けた 太郎君の痺れた足は ぐにゃりと地面を捉え損ね 傾いた躯を咄嗟に 壁に手を突いて支えたが どしん と音が立った
「 …………。」
よろけたまま凍りついた太郎君は 直ぐ顔を上げたが視線の先には 鍼医の硬い顔があった
衣服に焚き染めた香は 各々趣向を凝らし 各人香りが違う ややあって夏目が口を開いた
「太郎君、でございますか
…今方馬に与えたのは決して害をなす物ではございませぬが 飼い主方に無断とは軽率でございました どうか御寛恕くだされませ」
鍼医は一礼し踵を返して足早に廏を出てゆく
声に抑揚無く 顔には凡そ(およそ)表情というものが 無かった
初対面の 二年前に時を戻した様であった
立尽くしていた太郎君は はっと駆け出し鍼医の後を追い前に回ると
「お待ちを 立ち聞きしていたのではありま 」
太郎君は言を飲み込んだ 自分でもぎょっとする位の涙声だった
夏目も足を止めて眉を顰めた
「いやこれは違うのですこ れは、‥今方 夢を、三のやつの ゆめを、見ただ けで」
言は尻切れになって途絶えた
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