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妖と人の子
日時: 2019/01/03 08:23
名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)

[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです

現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております

 現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております



失礼ながら書込みは遠慮します

Re: 妖と人の子 ( No.91 )
日時: 2019/07/14 01:06
名前: 大寒波 (ID: FTo14qYM)

夏目長編(3)31.
「夏目話・平安編31」(初出18.10/10)
女房に連れられ しぶしぶ自室へ戻って行く姫君を見送った夏目は箸を置き胸前で合掌した
桑門(仏教僧)に特有の所作である そして
「妖殿 おいででしょうか」
白銀の獣の妖物を静かに呼ぶ

あやかし殿とは何だ 変な呼び方をするな

ぶつぶつ言いつつ 妖が屋根から そろりと降りて来る
「残すのも忍びないので半分を喰うてくださらぬでしょうか」先程の果物を示す
確かにこれだけ配慮された膳を 平然と残す者がいるとも思えない

まぁ良いか喰うてやるか
と近づくと、巨大な妖物のなりでは 小さな鉢からは食べられぬと思うたか 夏目は 果物を掌に載せて差し出した

  「 ……。」
白い花めいた掌に置かれた枇杷と無花果は 橙や薄紅の色が鮮やか過ぎる

毒気を抜かれて しばし眺めていたら その様子が分からぬ夏目は そのまま待っていたが やがて戸惑いながら声を掛けた

「むらどの、……」

咄嗟に妖が顔を見る
夏目に 名前を呼ばれるのは初めてだった

何だか動揺しつつ 差し出された果物を食べると 思いの外旨い
「美味だな」残りを 手指まで喰わぬ様に慎重に舌で掬って食べる
成程滋養豊かな旬の食物であった

Re: 妖と人の子 ( No.92 )
日時: 2018/10/10 06:38
名前: 大寒波 (ID: OnlANcr4)

夏目長編(3)32.
「夏目話・平安編32」
夏目は『ぶち、ふ』など幾つか 並べられた名前からこの獣の妖物を
『むら』と呼ぶ事とした様だった
呼ばれた方は ちょっとそわそわしている


薬草、薬剤の入った袋を慎重に選り分け 幾つかを携えて 夏目が末の君の部屋へ行くと 小さな姫君は御簾の前で待っていて
小走りで迎えると 頭上を見上げながら部屋へ一緒に入ってゆく


夏目の方も幼い子と顔を見あわせながら されるがままで手を引かれてゆく 雰囲気が柔らかく見えるのは気のせいだろうか

末の君が 血の繋がった兄の様に この鍼医を信頼し慕っているのが傍目にも表情や態度で分かる

◇◇◇
今でこそ 血色も良く健やかな末の君だが 二年前のみやこの流行り病の時には この屋敷の家人で唯一 病状が重く痩せ細りあと幾月保つか、という重体の患者であった

それで この家の主人が藁にもすがる思いで 仏門のつてを辿って 重病の大僧正を治癒させたとして
薬師如来の神童 などという大袈裟な評判が 流布していた、在野の医僧とも鍼医ともつかぬ 胡散臭い人物を招き治療を頼んだという かつての経緯がある

Re: 妖と人の子 ( No.93 )
日時: 2018/10/30 07:57
名前: 大寒波 (ID: myDpNyTl)

夏目長編(3)33.「夏目話・平安編33」
八方手を尽くして招聘した“薬師如来の神童”だが 現実のその者は か細く少女の如き容貌で 元服しているのが信じ難いような小倅こせがれであった

これは騙されたかと 主人は失望したが もはや怒る気力もなく ともあれ病人の苦しみだけでも取り除いてくだされ と頼み治療が始まり半月程経った頃、
もはや人事不省だった病人が意識を取り戻すことが幾度か起きた。

主人は偶々だと思い 祈祷や寺社への寄進を一層篤く施したが、更に一月が経つ頃には 幼い病人は短時間ながら 痩せた躯で床に起き上がる事さえできる迄になった

この幼な子を見ては 主も北の方(正室)も涙ながらに 幾度も幾度も鍼医に頭を下げては感謝を述べるに果てがなかった。

ニヶ月間に及ぶ夏目の治療の献身は 懐疑的だった主人夫妻の考えを一変させ心からの尊崇を得たのだった
◇◇◇

末の姫は治癒後二年経ち 今では健康だが 夏目は依頼を受けて定期的に この家の往診を続けている
家人全員を診るのは 誰かが患う病を 末の姫にうつさぬ為に必須だと 主人は鍼医の夏目に 言い聞かされ それを守っているのである

Re: 妖と人の子 ( No.94 )
日時: 2018/10/27 23:56
名前: 大寒波 (ID: OnlANcr4)

夏目長編(3)34.
「夏目話・平安編34」 詳しい問診後 姫君の近頃の体調等を、病や薬剤に詳しくなった お付きの女房に訊く。その眼と観察の助けを借りて 慎重に夏目が診断を下すと 新たに処方した薬を煎じる間に 薬の箱の薬剤の入換えと補充を行う

出来上がった煎じ薬を 少しずつ飲む幼い姫に 顔を向けて その動作や匂い、呼吸等の微細な気配を 感じ取っている様子の夏目は
「酷く苦い薬でございましょう ゆっくりお飲みください 」

「この前の お薬よりずっと飲みやすいから 平気です」 ふうふう冷ましながら末の姫が言う

この答えに 仕事中の硬い顔の夏目の目許が 微かに和らいだ もしかしたら微笑ったのかも知れない

持参した薬草を 用途に合わせて薬研やげんで粉末になるまで摺る
その後 調剤するのだが 時間が掛かるので 作業中に 末の姫は夏目に請うて和歌や漢詩を教わっている
まだ基礎だが 男子の必須教養の漢詩にも 末の姫は関心が有り、理解も早い 非常に利発なのである

和歌や書にはもちろん 教師の女房が付けられていて 修練は毎日なのだが、きびきびと 作業の手を休めず質問に即答してくれる この鍼医の教養と知力が 末の姫にはいつも眩しく思えるのだった

Re: 妖と人の子 ( No.95 )
日時: 2018/10/27 23:34
名前: 大寒波 (ID: enKf/rbe)

夏目長編(3)35.
「夏目話・平安編35」 触覚と嗅覚を駆使して薬剤を調合しながら 夏目は幼い姫君に 著名な秋の和歌などをそらんじさせていた

末の姫も先程までの 笑ったり歩き回ったりを止めて真剣な面持ちで 暗誦や質問をしている

暫くして 薬の調合と家人の為の 薬剤の補充を終えた夏目は 一息つく間も無く女房に口頭で 薬の用法を伝える 女房はそれを丁寧に紙に記すと それを終えてから夏目に言った

「瑠璃さま 首に巻いた布をお取替えしましょう」
昨夜 外で処置した時のままだったのを見てとったらしい 夏目は布を外して貰いながら 末の姫に向かうと

自分が使っている客間に置いてきた 新しい布を取って来てくれる様に頼んだ

幼い子が廊下に駆出して行くやいなや 夏目は手当てを急いでくれぬかと告げ、頷いた女房が首の布を外すと 傷があらわになった

傷口は既に塞がり固まっていたが 鋭利な刃物で斬りつけられたとおぼしい 急所の傷に 女房は顔色を変えて これを幼い姫君に見せなかった夏目の意図を知った

素早く 手桶の水で傷を洗い 薬を置いた当て布を交換すると その上から細長い布を巻いてゆく 病や薬剤に詳しい女房らしく手早い処置であった


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