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- 妖と人の子
- 日時: 2019/01/03 08:23
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです
現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております
現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております
失礼ながら書込みは遠慮します
- Re: 妖と人の子 ( No.236 )
- 日時: 2019/07/07 21:13
- 名前: 大寒波 (ID: k8cJIfhT)
夏目長編(3)176「平安編176」初出19.6/25
自慢の娘達は 父に言われるまま 修学修養に勤しむ日々を送り 姫君らしく物語や絵巻物に 傾倒したり 祭事や参詣の見物に出たりする事など 殆ど(ほとんど)無かった
そして恋のひとつも知る事なく急逝してしまった
残された家人は 誰もが遣る方無い思いを 抱えていたが その中にあって幼い三郎君(さぶろうぎみ/三男)は少し様子が違っていた 気が付けば 虚空を見つめていたりする
長兄が声を掛けるが 反応鈍く床を睨みすえている
ほんの童の癖に あまりに剣呑な目付きをするので 如何した、と重ねて訊ねると ふと眼を上げて どうもせぬよ、と薄く笑んでみせた
生まれてこの方 一緒であった兄が不安になる程
影のある面持ちであった
その後 末弟はどうにか生来の朗らかさ明るさを 取戻してゆき 家人は胸を撫で下ろしたものであった
しかし幼い弟は 同母の姉の大君を 母や乳母よりも慕っていた
やがてその思慕は長じるにつれ 明朗で単純だった質に暗い影を落とす その果てが件の事件であった
長兄の漠たる不安は現実となったのだった
- Re: 妖と人の子 ( No.237 )
- 日時: 2019/06/30 10:18
- 名前: 大寒波 (ID: 23qbUXXN)
夏目長編(3)177.「平安編177」初出19.6/25
彼奴は 酷く怒っていたのです 表には出さなかったが今にして思うと、
太郎君は 顔に落ちた日差しを 掌で遮り語り続けた いつの間にか 夢の話から逸脱していたが 鍼医は黙って聞いていた
いま 件の三郎君は太郎君の私室で従者と女房を付けているが 既に起き上がっており
先刻 隣室で奏された横笛を物も言わずに聴き入っていた
眼を向けていた庭に 何事かの不思議を見たらしく 時折 びくりと大きな躯を揺らしていた
勿論兄も そこかしこに恐ろしげなものや 可愛らしいものを見たのである
多忙な鍼医が 業務の合間を縫って 笛など奏するのは ここの家の北の方(正室)の幾許か(いくばくか)の慰めになれば との配慮である
終日 邸から一歩も出ずに 殆どの時間を私室に於いて御簾の陰で過ごす女君達は どうしても気を病みやすい
あの笛の音は 室内から溢れ(あふれ)出す様に 廊に庭園に拡がり 波打ちながら邸内全体に するすると満ちてゆき この家の何処からでも 誰にでも聴こえた
母の部屋は勿論 邸内のあちこちから歓声や悲鳴が上がり 大層賑やかに感じられたものだった
- Re: 妖と人の子 ( No.238 )
- 日時: 2019/07/26 00:07
- 名前: 大寒波 (ID: 8DXjmx02)
夏目長編(3)178.「平安編178」初出'19.6/30
病弱で影の薄い吾等の母親を気遣って貰うのは 長男たる太郎君には有難い事なのであった
そうして同じ笛の音を聴いていた末弟は 先刻の眠り顔同様 憑き物でも落ちた様な顔をしていた
あれが鍼医の言う様に
独り抱えかねていた密事から解放されたが故の末弟の素顔であるなら、常日頃の明朗で 屈託無い面持ちなどが 何れ程不自然であったのか、
また如何に胸の裡に忿怒を押し隠していたのかを 今更ながら長兄は思い知った
もはや いつ何時暴発してもおかしくは無かったのである
太郎君が思索の末に鍼医に問うた
「三の弟が 酷く怒りを溜め込んでいた理由が …よく解らぬのです 父に対する憤りか とも考えたがそうではなかった」
終始 黙って話を聞いていた夏目が口を開いた
「突然 身内の不幸に遭うた人々の中には その事柄に適応する為に ややもすると 極端かつ奇異な行動に走る人もございます
その不幸や故人そのものを忘れ去ったり 噴出する怒りに我を忘れて復讐を企てたり 或は酒色に溺れ吾が身を害ったり(そこなったり)するのです」
激しい怒りは周囲の人間に向けられる事もある
- Re: 妖と人の子 ( No.239 )
- 日時: 2019/07/26 00:28
- 名前: 大寒波 (ID: qAj0rN00)
夏目長編(3)179.「平安編179」初出19.6/30
病没した人の弔いの際に 悲しさ遣り切れなさから 不毛にも遺族を
“どうしてもっと早く治療を受けさせなかったのだ”と責めたりする類いである
「こうした怒りは 悲しみの表れでございますが 往々にして自らを痛めつける事にもなる
しかし こうでもしなければ幼き三郎君は 自分を保てなかったのでしょう
きっと必要な事であったのではないでしょうか」
そう結んだ夏目の言に 太郎君は黙していたがやがて顔を上げた
「彼奴が再び 激情に駆られた時には 何としたものでしょうか」
「“ お前は弟として姉上達に最善を尽くしたのだ あれで良いのだ ”
そう話し掛けるのです 繰返し 幾度も」
鍼医は端的に答え 太郎君は何度も頷いた
人は一時には変われぬものでございます
長きに渡る苦しみから漸く逃れられたとしても、世間並の喜びや幸いを取戻すのに一朝一夕で とはゆかぬのです
暫く(しばらく)の間は これ迄と 何ら変わりが無いやも知れませぬ
しかし御兄弟の支えあれば 弟君も御自分が望む方へ 少しずつ変わってゆけるのでは ないでしょうか
夏目は 眼前の若者に語った
- Re: 妖と人の子 ( No.240 )
- 日時: 2019/07/07 21:25
- 名前: 大寒波 (ID: FTo14qYM)
夏目長編(3)180「平安編180」初出19.7/4
明るい廏の奥に腰掛けた二人の内 大柄な方の若者は 額に片手を当て俯いている
向かいの若者は 立上がりしなに 相手の肩先にそっと手を置いてから 歩き出した
今方の 重苦しい話を 繰返し考えながら太郎君が ぼんやり目を上げる
一番奥の馬房の前に 鍼医が居て 中の蘆毛(あしげ/灰色まだらの毛色)は太い首を若者に近寄せ 撫でられていた
この廏では家人の乗り馬四頭を 養っており蘆毛は父の馬で 老いて綺麗な白毛になっている
穏和な性質ゆえに 太郎君以下幼い兄弟は皆 この優しい蘆毛に乗せて貰って馬術を教わったものである
何しろ当時の在来和種(日本固有の馬)の軍馬は人にも馬にも 平気で喰いつき 兵は踏みつけ蹴散らす位の猛々しい性質なのである
お前にもちゃんとある
小さく話しかけながら 取り出した干柿と草を夏目が差出すと 白い老馬は
やはり嬉しそうに食んでいる
顔を上げその様子を見ていた太郎君は 飼い主にはついぞ見せた事の無い 馬達の媚態に驚きつつ
先程の己の不細工な登場で蘆毛にだけは まだあの餌を与えそこなっていたのかと気が付いた
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