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- 妖と人の子
- 日時: 2019/01/03 08:23
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです
現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております
現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております
失礼ながら書込みは遠慮します
- Re: 妖と人の子 ( No.216 )
- 日時: 2019/05/18 14:22
- 名前: 大寒波 (ID: Qj5Aheed)
夏目長編(3)156.「夏目話・平安編156」
「躯は強張り冷えて 食は進まず 且つ巧く語れず
武者震いが治まらず 落着き無く
また負傷の自覚薄く
鏃(矢じり)が刺さったまま気付かぬ者とておりました」
妖物は黙って聞いている
「而して(しこうして)また 獣は獲物や他の獣と争う時に爪牙や角が折れ刺さり 死ぬ事もございます
殊に巨体の獣は それら異物が 身体に喰い込んでいても 傷の箇所が判然とせず 衰弱する事がありますゆえ
今方のむら殿にも 身体に異物が 残ってはいまいかと 探った次第でございましたが 怪我も無く良うございました」
鍼医は説明を終えた
大男 総身に知恵が回りかね 式の悪口を言われた様な気もするが それは不問に付しておく
それはともかく 自分が船を漕いでいる間にも この者は 長大な四足の肢を撫で摩り 負傷や異物の有無を確かめ続けていた事を妖物は思う
朝から相当な労力を費やしての診立てであった
そうしている内に 食物の事を白銀の妖物は 思い返した
夏目が出して来る食物は 無論食べ残しでは無い
膳の内で 滋養の有る物
美味な物を選り分け 取り置き そして食べ切れぬから喰わぬかと いつも言うて差し出すのだ
- Re: 妖と人の子 ( No.217 )
- 日時: 2019/05/21 17:21
- 名前: 大寒波 (ID: sPN/TsSz)
夏目長編(3)157.「平安編157」初出19.5/18
自分は何故 この者がこそこそと 締め出しに掛かるだなどと考えたのだろう
この者の 一体何を見ていたのか、
…節穴は 私か
用具を取片付ける鍼医の後ろ姿を妖物は ぼんやりと眺めた
それが徐に(おもむろに)立ち上がって角樽の薬湯に巨大な鼻先を近づけて匂いを嗅ぐ
そして一息で飲み干した
思わず無言になった妖物に 美味なものではございませぬが などと鍼医が言う
甘味を付けて多少は飲み易くなってはいるが酷い味である
そう言えば この家の女の童は 薬湯を平然と飲んでいた事を妖物は思い出す
幼児が苦い物 酸い物を嫌うのは有毒物や腐敗物から 自分を守る為の本能である それを堪えて生き延びた 幼い身の上をふと思った
正面の鍼医に眼を据えると口を開く
「闘いの後、というわけでは無い 守護が極めて堅牢なこの邸に 妖物の私が進入するにあたって 如何なる衝撃損傷が あるものかと危惧し 身構えた為に 身体に影響が表れたものと思われる」
妖物が訥々と語った
早とちり者の 取越し苦労かの様で 白状したくは無かったが 懇切な診立てを受けてまでも しらばくれるわけに行かなかった
- Re: 妖と人の子 ( No.218 )
- 日時: 2019/05/21 17:30
- 名前: 大寒波 (ID: FTo14qYM)
夏目長編(3)158.「平安編158」初出19.5/20
それでは うっかり外出した後で 真に(まことに)この邸から締め出された と思っておられたのでしょうか
鍼医が言わずもがなの事を訊ねた
「 ………。」
「この邸に戻って来るにあたっては 弾き飛ばされ妖力を失い 体躯は縮み四散するものと早合点して意を決して おいでであったと」
答はなく 眼を逸らし気味で もぞもぞと身動ぐ(みじろぐ)白銀の妖物の傍らに いつの間にか人の子が立っていた
馬手(右手)を上げて 大きな白い耳の後ろに そっとのせる
莫迦な方で ございますな…
耳に届いた夏目の声は 酷く優しかった
年経た堂々たる大妖が
元服から 幾らも経たぬ小倅に莫迦ですなぁ等としみじみ言われていた頃、
この家の総領息子(跡取り)は昨夜から今朝方に渡っての騒動の始末と対策に 走り回っていた
先ずは この家の主たる父君の所へ行き
三年前の刃傷沙汰に端を発し 今朝の一触即発の騒動に帰結した三郎君(三男)の事件のあらましを告げた
- Re: 妖と人の子 ( No.219 )
- 日時: 2019/06/06 12:27
- 名前: 大寒波 (ID: DOGptLfT)
夏目長編(3)159「平安編159」初出19.5/29
受領であった この家の主人は 既に官職を辞した隠居の身ながら 未だ相当な人脈と豊富な財力を持している
京や宮中に詳しく 思慮分別が有る人物である
その主人は 三男の引起こした深刻な事件の報告を 受けて 汗を滝の様にかき驚きを隠せぬ様子であった
数年前に三男が突然 出先で病に臥し 長逗留の末に迎えを頼んで来た事が
確かにあったが、帰宅の後もあくまで病み上がりの体で押し通していた 痩せ細り顔色青く全く違和感が無かった
あれが刀剣による負傷であったとは父親も知らぬ事だったのである
詳細な経緯を聞くにつれて 主人の厳しく硬い顔付きが 次第に曇ってゆき やがて額に震える掌を当てると 重い息を長く吐いた
その正面に座る太郎君(長男)は庭に眼をやって 父の幾度かの溜め息を感じていたが ややあって口を開いた父に顔を戻した
「三郎の傷はもう治っているのか」
「既に完治しています この三年の間に 暇をみては 鍼医殿の許で予後の治療を受け 定期的に湯治に通っていた様子です」
「そうであったか…」
常に無く 肩を落とした父親の姿に 長男も眼を伏せる
- Re: 妖と人の子 ( No.220 )
- 日時: 2019/05/30 18:18
- 名前: 大寒波 (ID: uV1PemL6)
夏目長編(3)160.「平安編160」初出19.5/29
娘二人を病で亡くし 年端もいかぬ子等に 先立たれた親の苦しみを味わい 残された家人達にはせめて人並みの寿命を全うさせたいと 出来得る限りの手立てを尽くし 心を砕いてきた父親であった
そこへ持ってきて この寝耳に水の刃傷沙汰である
当人は屈託が無く 愛嬌があり いかにも末息子として 周囲から愛された若者であった
その朗らかな外貌の 胸の裡には暗澹たる(あんたんたる)苦悩を抱え引起こした事件の果てに 生死の境を彷徨った事などとは父親の与り(あずかり)知らぬ事であった
父の心中を察し 太郎君は黙して傍に座っていた
朝日を横合いから受けて 晩夏の庭の 草花が落とす影が長く伸びていた
風が吹き通って部屋の御簾を揺らし 重苦しい主の部屋に 繁った草木の匂いをもたらした
青草めいたその匂いが
ふと、部屋に飾られた 小振りな花を 思い起こさせる
この部屋にも その紫苑が甕に挿されて 清涼な匂いを 微かに漂わせていた
花の匂いを嗅いだ主人が やおら顔を上げ 硬い表情を僅かに和らげて言うた
「あの花は瑠璃殿が お持ちくださったものだな 」
「そう聞いています」
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