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妖と人の子
日時: 2019/01/03 08:23
名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)

[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです

現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております

 現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております



失礼ながら書込みは遠慮します

Re: 妖と人の子 ( No.231 )
日時: 2019/06/14 01:28
名前: 大寒波 (ID: sPN/TsSz)

夏目長編(3)171.「平安編171」初出19.6/14

 暫しお待ちを
そう言うて 鍼医に背を向けた太郎君は 肩を波打たせて深い息を繰返した


うたた寝から覚めた時に 顔に掻いていた汗の半分は眼から流れ出たものだった

戦慄く(わななく)息は 程なく治まり 沈着冷静の評判高い総領息子は 平静を取戻し振り返った

黙りこくっていた鍼医は若者に うまやへ戻る様に促した

座るように言われた太郎君は 自分が居た奥の積荷に決まり悪げに腰を下ろしたが それでも居住まいを正して前に座る鍼医に相対あいたいする

「期せずして立ち聞きし覗き見する様な成行きとなったこと御詫びします  出て行く時を 逸し申しました」

事実そのままを告げた


お気になさいますな

返答した夏目の 表情が乏しい事に変わりは無いが先程の見知らぬ者 かの様な冷淡さは掻き消え 何処か温かみが覗いた

それを見て取り安堵してか若者は覚えず 長い溜め息を吐いた

 夢とはどの様なものにございましたか

意外な事を鍼医が訊ねる

いや 話すほどの事では、と 太郎君は言うたが
静かに鍼医が待つと
やがて途切れ途切れに 語り出した

Re: 妖と人の子 ( No.232 )
日時: 2019/06/17 23:07
名前: 大寒波 (ID: uzXhjanQ)

夏目長編(3)172「平安編172」初出19.6/17
「‥夜の山道を三の弟が孤鞍(こあん/馬で独り行くこと)にて とぼとぼと行き やがて下馬すると下草に潜り込んで果てるのです

見つけた時には既に白骨と化し 連れ帰ろうと骨を拾ったが 掌上で崩れて粉になってしもうた」

太郎君は訥訥と語った

「あれは今では 図体大きく剛胆者かの様な顔をしておりますが 昔は昏い所や独りを恐れ、人一倍怖がりの童であったものです

よく姉の大君(おおいぎみ/長女)の膝に すがり付き 心配はいらぬ 怖くないと姉に震える頭を 撫でられ 宥められていたものでした」

その怖がりが 血塗れの身体を引摺って 人気の無い茂みなどに身を隠し たとえ追手に屍が見付かろうとも 誰とも身元が判らぬが故に もはや憂いなくぬるなどと
何鹿いかるがならば 親類の家に逃込んで助けを求める事も出来ように


たとえみやこを追われようとも 叔父達の住まう東国に移り住んでも
必ずや彼奴を守り通してみせるものを


‥あの阿呆は、家人かじんや友や同僚が掻き消えた自分を探して 何時までもいつまでも苦しむことを考えもせで なんと手前勝手な奴か‥
俯いた長兄は力無く呟いた

Re: 妖と人の子 ( No.233 )
日時: 2019/06/17 23:11
名前: 大寒波 (ID: .H8Y6m32)

夏目長編(3)173.「平安編173」初出19.6/17
「瑠璃殿 隈笹とは 真冬にも枯れる事無きものでしたな」

太郎君が訊くと 夏目が頷いた  それを見て それでは、と再び語り出す

「冬になっても 生い茂った 隈笹に覆われ隠された骸を見付ける事も叶わず 失跡した末弟を思いながら この三年みとせを過ごす筈であったのか、」
嘆息して 長兄は足許を見つめた


吾ら兄弟は大君と中の君が鬼籍きせきに入った折に 残された兄弟で合力して何があろうとも長く生き それをもって供養と為そうと決めたのです

一日だけでも長生ちょうせいする、ただそれだけの事ながら 亡き二人には叶わぬ事であったからです

しかし幼かった三の弟にとっては 到底得心が行かなかったのでしょう
不実な色恋を重ねた末にあの刃傷沙汰では‥


肩を落とした長兄の声は 終いには呟く程に細くなった


黙って聞いていた夏目が 口を開いた

「子に先立たれた親は大変な失意と苦しみを抱えるものでございますが きょうだいを亡くした 子等は また別の苦しみを持つ事がございます」

死んだ兄弟に対し 自分が生き残った事に 罪悪感を抱くのである


長兄には思い当たる節があった

Re: 妖と人の子 ( No.234 )
日時: 2019/06/21 22:56
名前: 大寒波 (ID: FTo14qYM)

夏目長編(3)174.「平安編174」初出'19.6/21
この家の嘗て(かつて)の大君おおいぎみと中の君は 何れも大変に才覚優れ美しく情深い姫君達であった

父親は 宮中での栄達えいたつを望み 格上の親類に形式的に養女に出した上で 宮中に女房として出仕させる為の根回しや働き掛けを画策していた

当然ながら姫君達は あらゆる礼儀作法 手習い
詠歌の習得 楽器演奏等の教養を身に付けていたが教師が 付きっきりで息つく暇も無い修学は 如何に篤学とくがくの二人にも 過度の負担かと見えたものであった

裳着(もぎ/成人)以前から姫君達の評判を 聞き付けた貴人からの求婚が 引きも切らずあったが 出仕を見越して断るばかりの日々であった


この時代 貴族が栄達する為には 息子よりも娘の方が重要である

家の位階や役職は男子が継承し 入り婿となって生家を出て行くのに対し 家屋敷や財産は 女子が受継ぎ、妻問婚つまどいこんで生まれた子達は 母親が自邸で養育する 母系氏族と呼ばれる形式である

また 宮中に入内じゅだいした場合、中級貴族の娘であっても うまく事が運べば国母(こくぼ/天皇の母)にまで昇り詰める事も出来たのだった

Re: 妖と人の子 ( No.235 )
日時: 2019/06/23 18:24
名前: 大寒波 (ID: n.VB6khs)

夏目長編(3)175.「平安編175」初出19.6/21
当時そうした背景がある宮廷故に なまじ財力のある この家の父も野心を持つのは無理からぬ事ではあった

しかし栄枯盛衰の夢は儚く終わる

みやこを見舞った疫病によって大君 中の君は世を去ったのだった

病ひとつした事も無かった丈夫な二人が 呆気無く亡くなった時の事を 太郎君(たろうぎみ/長男)は子供心に あの秀でた才覚を持ち心優しい女兄弟が こんなにあっさりと、と 驚き悲しみ 呆けたものであった

そしてあの往んだ(いんだ/死んだ)きょうだいと 自らを引き比べて 果たして自分には生き残る価値があるのかと思い悩んだ


弟達とこの話をする事は遂に無かったが まだ幼い弟等の顔を覗き込むと 此の世の不条理を受入れられずに苦しむ 茫然たる表情をみた様に思ったものだった

きっと俺も似た様な顔をしていたのだろう と長兄は往時を遠く思う


この不幸に遭ってからというもの この家の父は吾がわがこに因って 栄達を求める事を 二度と行わなかった

壮健な中年の男である 父は 父譲りで健やかであった娘達に よもや先立たれようなどと考えた事も無く 別人の様に憔悴したのであった


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