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- 妖と人の子
- 日時: 2019/01/03 08:23
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです
現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております
現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております
失礼ながら書込みは遠慮します
- Re: 妖と人の子 ( No.171 )
- 日時: 2019/03/21 07:12
- 名前: 大寒波 (ID: myDpNyTl)
夏目長編(3)111.
「夏目話・平安編111」
そうした女君には 文を贈り逢瀬をするのも一苦労だが 三郎君の相手は少し事情が違っていた
既に父母を亡くし 自分の家を出て 夫が用意した屋敷に女主人として住まっていたのだった
夫はかなり年嵩で 長年連れ添った正室を亡くし その後に 件の女君を北の方に迎えるつもりだったが 女御として入内している自分の姫君や 宮中で官職に就く息子達を憚り(はばかり) 女君を本邸から比較的近い別邸に住まわせていた
有力者の事実上の正室ではあったが 女君にしてみれば 後ろ楯の父親は既に亡く 生まれ育った母の屋敷を出ていても 夫の本邸には入れずに 宙に浮いた立場である
そこへ 年嵩で行く末が案じられる夫よりも ずっと若く自分を真摯に想い 親類縁者のいる東国へ連れて行き そこで根を下ろす、と 掻き口説く男が現れたら それを頼りにするのもまた無理からぬ事と思われた
しかし夫の方でも 女君にこっそり通う男がいる事に気付いており 女だけの家では不用心だとして警備の者を増やしていた
はたしてそこに 女君を連れ出そうとする男が侵入して 手酷く返討ちに遭った という顛末であった
- Re: 妖と人の子 ( No.172 )
- 日時: 2019/03/21 07:15
- 名前: 大寒波 (ID: Qj5Aheed)
夏目長編(3)112.「夏目話・平安編112」
ううむ と太郎君は唸り しかし馴れ初めは 何であったのだろうかと呟く
「女君の別邸があったのは何鹿なのです」
明確な答えに では親類の所へ出掛けた折に その方を垣間見たとかいう事かと得心がいった
そして 夏目が言う所の
素性を隠す必要が有った理由とは、と改めて訊いてみた
「女君の御夫君とは 先の式部大輔だそうでございます」
「 なに… 」
夏目はこれも簡潔に言うたが 身の毛のよだつ話であった
式部省は 文官の人事その他を司り勤務評定や 論功行賞を行う
式部大輔は儒者のみが任じられる首席次官(ナンバー2)で実質的なトップである
中流の貴族ながら権力は大きい
何と言っても位階六位以下の文官は自由に裁定できるので文官への影響力は絶大であった
その単なる権力者、というだけでは無く 自分達と直接利害がある有力者の掌中の珠を盗むなどとは全くもって考えられない事だった
三年前にはこの家の父もまだ出仕していた
もし 女盗みが成功するか、事が露見していたら 大輔の怒りを買い この家の家人も一族も どのような咎め立てを受けどこまで累が及ぶか計り知れなかった 無謀を通り越して自殺行為である
- Re: 妖と人の子 ( No.173 )
- 日時: 2019/03/21 07:20
- 名前: 大寒波 (ID: DOGptLfT)
夏目長編(3)113.「夏目話・平安編113」
思ったよりも深刻な事態であった事に冷や汗をかいた長兄は
何と阿呆なことをしでかす奴か‥
末弟の破滅的行動に慄然とする
しかし 何時の間にかぴたりと止んだので 皆で不思議だと話していた 末弟の乱れた恋愛沙汰だったが、言われてみれば末弟の そうした軽々しい恋の噂を聞いたのは 三年前が最後だったと思い出す。
弟は弟なりに その人を最後の恋だと 思い定めていたのかも知れないと思った
一方当時の式部大輔は 評判も悪からぬ人物で 意味も無く人事を左右する様な 権勢をかさに着た次官などでは 決してなかったが その若い女君には本気だったのだろうと思われた
連れ出しに来た恋敵を 殺すつもりでさえあったのだ 身分相応以上の栄華を誇るかに見えた儒者の大輔といえども 恋う女君の前に常の泰然たる姿を失ったという事なのだろうか
太郎君が 当事者に思いを馳せていると 夏目が言葉を継いだ
名無しだと不便ゆえに怪我人が隈笹に埋もれていた事から愛宕と呼んでいたと言う
「あの辺りでは隈笹の事を愛宕笹と呼ぶのでございます」
「ほお それは趣がありますな」太郎君が微笑んで言う
回復してきた怪我人愛宕に 寺に来て養生する事を勧めると暫し 考えていたが 万が一追手が押掛ける事でもあれば 寺に迷惑が掛かる事になる故に 有難い申し出だが遠慮させて貰うと答えた
- Re: 妖と人の子 ( No.174 )
- 日時: 2019/03/22 09:09
- 名前: 大寒波 (ID: FTo14qYM)
夏目長編(3)114.
「夏目話・平安編114」
これは実際あり得る話で その地方の豪族に追われた者が 菩提寺や有力な寺院に逃込んで 追う側との間で 渡せ渡さぬと揉めて大事になる事があった
愛宕はそれを憂慮したものとみえた
自分は名乗れぬ身だからと 主従二人の名も訊ねなかった いざ事が露見した時には 恩人の身元を知らぬ方が累を及ぼさぬとの考えであるらしい
主の法師が滞在している那智山 正歴寺だけは分かっており それに因み夏目を那智と呼んでいた
東国へ逃れる旅の荷を 愛宕は一切身に付けていなかったが 傷を負い馬で逃げる途中で身元が判る物は全て捨てたという
更に 当時の心持ちを振り返って説明をする
たとえ屍体になっても 追手に 自分が何者かを悟らせぬ事だけを考えていたので 路外れの崖下の下生えに這い込んで隠れた 生きた自分を見つけて貰えるなど これっぽっちも思っていなかった。
まだ 少年めいた容貌の怪我人は訥々と自分の生き死にを語る
そこには相当な覚悟の上で臨んだ駆落ちが 不首尾に終わった失望が滲んでいる様にみえた
しかし若さ故の体力で傷はうまく治癒しており 一月が経つ頃には移動に耐えられるだけの回復を果たしていたが しかしこの身体では自宅にはまだ戻れぬし寺にも厄介にはなれんと愛宕は頑なに言う
- Re: 妖と人の子 ( No.175 )
- 日時: 2019/03/22 09:20
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
夏目長編(3)115.「夏目話・平安編115」
「何だ 我儘放題な奴だな」長兄が呆れて言うと
鍼医は 傍らの俯せた患者を上掛けで そっとくるみ直し あの時は行く末が案じられ 自棄気味だったのでしょうと言うた
む、三のやつは庇って貰い通しか
長兄は 何だかこっそり向かっ腹を立てている
例によって主従で相談の末に怪我人は 何鹿から程好い山中にあるという湯治場に向かわせる事になった
寺から鍼医が通えるのは 十日に一度ほどになったが 湯には切傷に卓効があり 怪我はみるみる治ってゆく
また明媚で静かな山林に起居する内に 愛宕は目に見えて健康と気力を取戻していった
ふた月に渡る湯治を経て 目を瞠るほど 愛宕には回復がみられた
自宅に帰ったとしても 家人の前で傷を隠し どうにか立場を取繕えるであろうと判じた鍼医は 自宅から人と牛車を呼ぶ様に指示を出した
勿論 鍼医や供が傍に居ない間に 自宅の家人とは何らかの連絡を取ったであろう事は察している
そして愛宕と呼ばれた男は去った
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