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- 妖と人の子
- 日時: 2019/01/03 08:23
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです
現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております
現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております
失礼ながら書込みは遠慮します
- Re: 妖と人の子 ( No.196 )
- 日時: 2019/04/15 13:42
- 名前: 大寒波 (ID: cJynYhyt)
夏目長編(3)136.「夏目話・平安編136」
先程 上空からこの邸目掛けて 矢の様に飛込んで来たばかりである その際には水面に飛込む様に 躯を細長く畳み 力を入れて衝撃に備えた
邸の防御の作用によって硬い壁に 激しく跳ね返され全身を 酷く打付けたり、或は 身体をぎりぎりと掴み絞め砕くかの如き 損傷を被る(こうむる)可能性は大であった
何しろ目の前で 様々な妖物が吹飛んで 豆粒程の躯となり転がり逃げてゆく姿を見た所である
躯を強張らせた白銀の妖が 邸を覆う半透明の膜めいたものに 突っ込む寸前には 我知らず眼を閉じていた
四つの足の裏は 土を踏みしめている 周囲の植込みの枝葉は 少々揺れて朝露を落としただけである 山鳩(きじ鳩)が何処かで くぐてっぽう と鳴くのが聞こえる
いつも通りの朝の光景に 白銀の妖は呆然と 邸の庭園に座り込んでいた
未知の衝撃も無ければ 損傷も苦痛も無かった
白銀の妖には 魔除けの呪法は作用していない
最初に 夏目に続いて門を潜った時と変わりは無い
眼を開けたら 邸の庭にふんわり降り立っていた
何の事はない 出て行った後に 呪法を強めて閉め出しなどされていなかったのである
漸く(ようやく)その事に思い至った妖物は かちかちに 固まった躯を動かして母屋の次男の私室へと ぎしぎし歩いていったのだった
- Re: 妖と人の子 ( No.197 )
- 日時: 2019/04/17 22:14
- 名前: 大寒波 (ID: zt./Gg/M)
夏目長編(3)137.「夏目話・平安編137」
「海の匂いが 長い時間 海に浸かっておられたのでしょうか 躯が随分と冷たい」
夏目が訊ねる 実際 普段の白銀の妖のもつ 燃えるような躯の熱が 今は鳴りを潜めている
それは違う 海では新鮮な鰐(わに/鮫)を一呑みして 月を肴に美酒を呑んだ 全く愉快であった
そう言おうとするが
喉が詰まった様に なかなか声が出なかった 躯は未だ重く かちかちに強張ったままで 我ながら岩にでも変じた心持ちである
内心で焦りを覚えた妖は くふ と咳払いをしたり首許を こっそり擦ってみたり 色々試みている様子である
鍼医は 常と変わらぬ無表情だったが 荷から錦の袋を取出し 縁とは反対側の御簾の前に座って言うた
「今 良い頃合いゆえ北の方(正室)との申し合わせ(約束事)の横笛(おうてき/龍笛)を暫し鳴らします 朝から喧しゅう致しまして 失礼を」
樺巻を施した塗りの笛に 赤い口唇を当て息を吹き入れた
横笛の 朝に相応しい乾いた音が御簾の外に 響き 庭園を波の様に越えて拡がってゆく 一音で 邸の隅までゆき渡った
その音が 次第に旋律を奏ではじめる
- Re: 妖と人の子 ( No.198 )
- 日時: 2019/04/21 18:43
- 名前: 大寒波 (ID: TkqspnRJ)
夏目長編(3)138.「夏目話・平安編138」
北の方の部屋では 御簾の内から か細い手があちこちに現れて 合わせ目の狭間を広げては 耳を澄ませている模様である
山の明け方の霧の様に 地に垂れ込めた 音の音高が次第に 高く変じてゆく 軽さを帯びた調が地面を離れ 次々と空に昇ってゆくかの様である
音色高らかに 心地の好い澄んだ旋律をゆったり 聴かせたかと思うや一転、霊獣の嘶き(いななき) などと云われる発声が 大音で響き 宙空を激しく切裂いて聴く者を ひどく揺さぶった
そして調はまた 柔らかく華やかな旋律に移っていく
神楽舞台を観るかの様な調の世界に 白銀の妖は唖然として 旋律に浸かっていた
横笛(おうてき/龍笛)の音は 空を自在に行ききし天と地の間を取結ぶ、など言われる
それは俗信に過ぎない
だが今 耳にしている音は たしかに彼方の世の光景を想起させ、そうした世に心神を連れ出してゆくのだった
茫洋たる表情の妖が ふと目をやった池の縁に 青碧の蛙と それを捕らえる小さな白い蛇がいた
これは珍しいと思う内に 俄に 黒い隼が舞降りて来て蛇を咥えて飛び去った
- Re: 妖と人の子 ( No.199 )
- 日時: 2019/04/21 18:56
- 名前: 大寒波 (ID: FTo14qYM)
夏目長編(3)139.「夏目話・平安編139」
出し抜けに 眼前で起きた出来事に 妖も首を捻ったが怪事は続く
何処からともなく 若い鹿が現れて 池のほとりで水を飲み始めたのだ
こんな街中で鹿なんか どっから入り込んだ、と驚く妖をよそに 突然それへと 白い狼が激しく飛び掛かった
鹿は身を翻し 高く飛び跳ねて襲撃を避けるや 一声啼くと 宙をみるみる駆け上がり天へ上ってゆくではないか
眼を剥いてこれを見ていた白銀の妖は はたと気が付き
これは幻影か、と咄嗟に眼を閉じた。
すると 歓声や小さな悲鳴、そして溜め息が 邸内の あちこちから 洩れ聞こえて来たのである
察するに この様な幻を視ているのは自分だけでは無いらしい と妖物は気が付いた。
他の者の眼には 何が視えているのだろう 自分と同じ光景か 違うものなのか
白銀の妖は 凝視していた庭から室内に眼を移した
御簾越しの朝陽は先程より僅に高くなった
その前に座した者は 今は手を膝に置き 顔を庭に向けている
いつの間にか横笛は鳴り止んでいた
妖は何時であったか 笛について夏目が語った事を思い返していた
笛は夜には吹かぬものだ という話である
- Re: 妖と人の子 ( No.200 )
- 日時: 2019/04/23 21:36
- 名前: 大寒波 (ID: 8DXjmx02)
夏目長編(3)140.「夏目話・平安編140」
それはそうだろう こんな怪異を引起こす鳴物を 夜間などに奏したら どんな鬼や妖物が大挙して来るやら
白銀の妖は 考え込みながら夏目に近づいた
「笛はもう終いか」
たっぷり聴いたが 妖には管弦を好む者が多い
「はい 折りをみてまた」 夏目は振返った
「話せる様子で ございますな 躯は解れたでしょうか」
ううむ 妖物は唸った
言われてみれば 声も出せれば かちかちに強張った躯も元に戻っていた
「躯の強張りなど何故 其方に 分かったのだ」
喉の不調は 無言であったが為に推測も できただろうが 緊張が抜けずに強張った躯を何故 盲人の鍼医に覚られたのかが 分からない
「御簾を潜る時に 頭を戸口の横木や柱にぶつけておられたので」
「 ………。」
まぁ建具を がたがた打ち付けた様な気もするが
「横笛に限らず 管弦の音を間近で聴くと 憂いに沈む者や 酷い衝撃や恐怖を味わった者の 苦痛を和らげる働きがある などと申します」
表情乏しく夏目が言う
「不思議なものでございますな」
せめて北の方の部屋の前で奏する事ができると 良いのですが と付け加えた
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