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- 妖と人の子
- 日時: 2019/01/03 08:23
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです
現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております
現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております
失礼ながら書込みは遠慮します
- Re: 妖と人の子 ( No.161 )
- 日時: 2019/03/09 15:19
- 名前: 大寒波 (ID: myDpNyTl)
夏目長編(3)101.「夏目話・平安編101」
丘の先は崖だと この地の出身の供が 馬を追いながら話したが その崖の縁で馬が立止まったので手綱を捕らえ 思わず崖の下を覗き込んだが 下生えの草が繁っているだけである
青毛に見とれる供を よそに夏目は 馬が立止まった所で 崖下に注意を払っていたが やがて下に降りると言うた 血臭が 風に乗り漂って来たのである
供はこんな所を降りるなど無茶だと驚くが 修行で険しい山野を よじ登り踏破するのは日常である 目となる指導役の兄弟子が一人付くのみで 修行内容に特別扱いは無い 崖を降りるくらい 朝飯前である
馬を隠して二人して 崖をするすると 降りて見ると 下生えは一面の隈笹だった 緑の葉に白の縁取りがある低い笹で 離れて見ると色合いが模様めき 鳥獣が紛れていてさえも 見つけ難い。
近くなら血痕が見つかると踏んだが 当てが外れたか、と 茂みをかき分け進むと突然 むせる程の血の匂いがした
慎重に辺りを探ると 笹に埋もれて 血塗れの男が倒れていた
刀創を背に受け 相当失血した様だが息はある すぐに手当てを施したが まだ遠い行先の寺まで生きて運べるとは到底思えない
- Re: 妖と人の子 ( No.162 )
- 日時: 2019/03/09 07:31
- 名前: 大寒波 (ID: DOGptLfT)
夏目長編(3)102.
「夏目話・平安編102」
応急の手当では 長くは保たぬので 供が旧知の間柄で 崖下から比較的近い商家へ場所借りに走った
その先行する供を追う形で 夏目が怪我人を背負って運ぶ 馬がいる崖上まで大の男を背負って 崖を登るのは不可能だったからで、狭く急な悪路を確実に夏目は歩いて行く
心眼を使っているらしい
怪我人は大男だったが 普段背負う行李や荷より 幾らか重い程度である 修行僧は体力勝負なのだ
借りられたのは古い厩(うまや/馬小屋)だった 運び込んだ男の刀創は大きく出血も多量故に 夏目は傷の縫合を行い洗浄して薬を塗布し手早く治療を終えた
外科的な縫合の歴史は古いが 当時実践する鍼医は多くはない
夏目は 祖父が付けた本場の漢医の教師が戦乱続きの地域の出で 特に秀でた金創治療(刃物の創傷の治療)の指導を受けられた
夏目の患者は予後の生存率が高い理由である
治療を終えると 供を看病に残し 夏目は商家に頼んで下男を一人付けて貰うと目的の寺を訪れた
何とか役目を果たしたのである 師の親書を差出した先方の僧侶にだけは 此の度の事情を告げて 許しを得ると再び怪我人のもとに戻り経過を看た。
- Re: 妖と人の子 ( No.163 )
- 日時: 2019/03/10 20:03
- 名前: 大寒波 (ID: k8cJIfhT)
夏目長編(3)103.「夏目話・平安編103」
この日より夏目は 日中は寺で 僧が講じる経を聴講し 請われて病者に治療を施し 鍼の手技の実演等に追われては 夕刻から厩で怪我人の看病という多忙の身となった
遣わされた寺では 最初は異色の医僧を 鵜の目鷹の目で見物していた僧達が 治療技術と効果をみて 真摯に教えを請うたり 治療を頼みに来たりと 次第に評価と見る目が変化していった
既に 師には文で事情を告げ逗留の延長の許しを得ている
怪我人は意識不明のまま数日が経つ 寺に運べれば良いが とても動かせる状態ではない 助かるかどうかの瀬戸際であった
薬と布を換え水を飲ませながら三日になる
傷は膿まず熱も無いのが救いだが 大量に失血すると意識の戻らぬまま死ぬ事も多い 要するに当人の体力次第なのだ
その夕刻も 夏目は勤めの後 昼間看病している供と交代に来た
供の男は 夏目が眠る暇が無いと案じており 夜間も自分が看ると言うたが、それでも寺に寝に行かせた
夜明けには再び交代だが 数刻でも足を伸ばして眠ると多少は疲れが取れる
手当ての後 抱き起こして水に浸した布を 口に含ませる 発熱が無いのを確認後 施灸し患者を横たえると漸く一息ついて 改めて怪我人の事を考えた
- Re: 妖と人の子 ( No.164 )
- 日時: 2019/03/10 20:10
- 名前: 大寒波 (ID: k8cJIfhT)
夏目長編(3)104.「夏目話・平安編104」
怪我人は まだ少年という年頃で 髪は黒々とした長身の眉目秀麗の若者であった
これが果たしてあの良馬の主かどうか というと、衣服は絹物で 佩いていた太刀は 拵えも見事な物であったので 持ち主でも別段おかしくはない
しかし上衣や足許は 目立たず堅実な 旅装を思わせる物を身に着け、どうも崖から落下した訳ではなく 負傷した身で自力で降りて行き 更に自ら下生えの中に這い入って 隠れてから力尽きたものと思われた
崖下から仰ぎ見ると滑落の痕も よじ登ろうとした痕跡も無かったからである
つまりは人目を忍ぶ、追われているという感があった
身を隠さねばならぬ事情など他者にはさっぱりだが さりとてこの怪我人の事を誰か知らんか、などと周りに ふれて回るのがまずいのは明白である。
主従で再び額を突合わせ相談したが 世慣れた供の考えも同様で 怪我人の事はみだりに口外せぬ事にしていた
厩の薄い壁に凭れた夏目は 昼夜に渡る務めに疲れて ちらりとうたた寝をしていたが 物音がした気がして 夢現のまま患者の額に 手を伸ばす すると
何者か、突然手を掴まれ 声が聞こえた
はっとした夏目が傍らに顔を向けると 人事不省であった怪我人が 目を開け手の主を凝視していた。
- Re: 妖と人の子 ( No.165 )
- 日時: 2019/03/13 08:03
- 名前: 大寒波 (ID: uV1PemL6)
夏目長編(3)105.
「夏目話・平安編105」
暗い夢から覚めたら見知らぬ暗い部屋にいた 躯は痛むし動きもしない
あの世かここは やっぱり自分は助からなかったか
若者は つらつら考えながら眼だけで辺りを見ると人が居る 気配が無かったので仰天して びくりと身を竦めたが 相手は動かなかった
闇に慣れて見えてきた その者は僧形である 女の仏僧 尼法師だろうか
いや 菩薩に見える
やはり自分は死んだのか と呻く
すると白蓮みたいな その者が目を開き 手を伸ばしてきた
白い花めいた 細い手指だったが 恐れのあまり掴んで止めた 咄嗟に躯が動くと口も動いたが あいにく誰何(すいか/詰問)の言しか出なかった
こんな優しげな者に 脅し付ける様な声を発したのが 我ながら情けなく、すぐに力は抜けて 掴んだ手を離すと ばたりと床に突っ伏せる。躯が言うことを聞かなかった
若者のこの様子に 黙っていた僧形の者が初めて口を開いた
「背中の傷は痛みますか」
相手の無礼にも 平静な声音に 若者は少し身を縮めて こく と頷いたが この闇では見えにくいかと 気がついて 痛む と掠れた声で言い直した
すると かち かちんと硬い音がして暫く後に灯りがともった 小さな油の灯明だが 闇に慣れた若者には眩しく感じる
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