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- 妖と人の子
- 日時: 2019/01/03 08:23
- 名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)
[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです
現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております
現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております
失礼ながら書込みは遠慮します
- Re: 妖と人の子 ( No.166 )
- 日時: 2020/07/04 09:37
- 名前: 大寒波 (ID: 8D3YhS6K)
夏目長編(3)106.「夏目話・平安編106」
初出19.3/13
この闇で何故 灯りを点けずにいたのかと 若者はうっすら思う
法師が灯明皿をやや高い所に置くと、上手く部屋全体がぼんやり明るくなった
見ると部屋では無く 古い厩である
ここは何処か と訊ねようと軋む首を
法師に向け、そして若者は目を瞠った
……菩薩がみえた、とおもった
やっぱりかと さっき朦朧として考えた事が思い出された
しかし俺などを迎えに 菩薩が来るものだろうか…… 苦しい息の下で 自分の行いを思った
次第に躯が重たく 気が遠くなる
果たしてこの次には眼が覚めるかどうかは
分からなかったが 承知で若者は目を閉じた
薬草を煎じる匂いがする。
よく知る匂いで眼を覚ました若者は、眼だけで周囲を見回したが 小屋には誰もいない。
俯せで軋む躯を起こそうと足掻くが どうにも動かせぬので、寝返りを打とうと身動ぎしていると 知らぬ声がした。
「俯せで 暫くご辛抱を」
眼をやると木椀を持った 先程の法衣の者が立っている。喉が渇いたかと訊ねるので 渇いた と答える。
ごく当たり前のやり取りに
これは人であったのか、と若者は改めて考えた
尼法師か、随分年若い。
自分と変わらぬ年頃にみえる
若者がここは何処かと訊くと、倒れていた崖下から近い商家の厩だと答えがあった。
- Re: 妖と人の子 ( No.167 )
- 日時: 2021/01/10 11:08
- 名前: 大寒波 (ID: NjfGIFbP)
夏目長編(3)107.「夏目話・平安編107」
初出'19.3/14
こんな花みたいな尼法師がいるのか
ぼんやり思いながら、差し出された白湯を飲めるか、と聞かれて頷いた若者は器を受け取った
俯せたまま両手で木椀に口をつけたが どうした事か飲むことが出来なかった。
我が身の体力の衰えに絶句している若者から椀を取りあげた法師が、若者を抱き起こし己の躯に凭れさせて支えると 乾いた口唇に椀をあてがって白湯を飲ませた。
姿勢は楽になり 白湯は甘くさえ感じる。
漸く息を吐いた若者に、法師は別の木椀を取ると若者の背後から腕を廻して 薬湯を一匙ずつ口に運んだ。
酷く苦い薬だが 若者は大人しく飲んでいる。
というより、薬の味など気にもならない事に気を取られていたのである。
男か!
やけに無造作に 己を床から持ち上げたと思ったら相手は男だった。
胸が無い。
そうか、それでなくては この長躯の己をこの厩まで担いでは来れぬか、と漸く思い至ったのだった。
混乱したまま 更に粥も食べさせて貰った若者は、再び横になり今度は深く眠った。
次に眼を覚ました時には 夜は明け 既に日が高かった。
今度は 中年のがっしりした見知らぬ男が廏にいたが、あの法師は見当たらない。
若者はますます混乱したが、それをおくびにも出さず 男に躯を起こして貰うと、同じ様に粥や煎じ薬を飲ませて貰った。
丁寧に謝意を述べた若者は、 男から幾つかの事情を教わり あれから四日が経っていると聞き驚きながらも案じていた事を訊ねてみた。
- Re: 妖と人の子 ( No.168 )
- 日時: 2019/03/14 21:35
- 名前: 大寒波 (ID: RO./bkAh)
夏目長編(3)108.
「夏目話・平安編108」
崖の辺りで 馬を見掛けなかったかと訊かれて 中年の男は慎重に どういう馬かと訊ね返した
それに青毛(あおげ/黒馬)の若駒だと言うと やはりそうかと男は頷き その馬なら知っているし元気だが 仔細は主に訊いてくれとだけ答えた
用心深い事だと内心で若者が舌を巻き 今度はその主の事を訪ねると 今は付近の寺に使者として来訪中であり 日中は勤行で 夕刻からここに治療に通っている事を聞いた そして怪我人を見つけ出し背負って運んだのもやはり法師であったと教わる
昼夜に休む間も無く立働いている事を知り あのか細い身で まるで聖ではないかと若者が驚くと 供の男は その通りだが、と何故か顔を曇らせた
何かあるのかと水を向けると それ故に恨みを買うこともある、とだけ返事があった 気になる言だが追求はできかねた
それにしても 経緯や事情を話しつつも 人や寺院の名は明かさぬ話振りに 有能な供の者もいるものだと若者は思う
男は若者の事を一切訊かず 事情のある事を察していると思われた
そして誰ぞが自分を探しに来なかったかと肝心な質問を紛れさせた時にも 暫し若者を見てから 誰も来てないから安心をと言うたのだった
- Re: 妖と人の子 ( No.169 )
- 日時: 2019/03/20 09:27
- 名前: 大寒波 (ID: cJynYhyt)
夏目長編(3)109.「夏目話・平安編109」
抜糸の頃には 若い怪我人は少しずつ体力を取戻しつつあった
最初は警戒と用心で沈黙を守った若者も、救ってくれた二人が桑門(そうもん/出家)で口が固く利害も無い事を理解すると 自分の氏素性は明かさないながらも 刃傷沙汰のあらましは ぽつりぽつりと話していた
勿論 若者を見つけてから人事不省の間に、主従は 考え得る限りの影響を 鑑みて(かんがみて) 近隣で押込みや盗賊の事件も 噂も無い事を確認している
見るからに貴人然とした者だが人はどんな事情を抱えているか見た目では分からないのだ
また若者の太刀には血脂が付いておらず誰かを害した様子も無かった
◇◇◇
話し続けていた夏目が 少し間を取った すると聞き入っていた太郎君が 疑問を口にする
「そこまで頑なに素性を隠す必要があったのでしょうか」
それは尤もで 恩人に対し名乗らぬのは礼儀に反する事である
それに対し夏目は
あったのでしょう と静かに答えた
衣類持ち物を見るに 身分有る裕福な者が 刀剣を持ち出す闘争の果てに
人に追われる事になる事情とは何か、それはたぶん金で手に入らぬものに因るのだろうと主従で察していた
- Re: 妖と人の子 ( No.170 )
- 日時: 2019/03/18 19:22
- 名前: 大寒波 (ID: uzXhjanQ)
夏目長編(3)110.「夏目話・平安編110」
こ奴が執着する 金で購えぬものと言えば、と太郎君は沈思黙考する
例えば世に聞こえた名馬などは 金を積んでも手に入らぬ類いだが しかし末弟には 仔馬の頃から手塩に掛けて育てた大事な駿馬がいる
他に名馬を欲っして争いまで起こす動機とは考えられなかった
では他に何が、 そこで長兄ははた と気がついた
「女か… 」
鍼医は頷いた。
「あの日三郎君は 或る女君を連出しに行ったのです」
当時 下級貴族の男が恋焦がれる上級貴族の女を 思い余って拐って逃げるという恋愛沙汰の最たる行動があり この身分違いの駆落ちの事は
『女を盗む』と呼ばれていた
姫君を本当に背負って走って逃げる事もあれば 追手が掛かって姫君を連戻される事もあった
当然ながら双方必死である
成るほどと唸り それを兄弟にすら黙っていたのは他に事訳でもあったか と太郎君は思いながら先を促す
盗む相手は普通 その家の娘だが 三郎君の相手は人の妻になっている女君であった
当時 貴族女性は 妻問婚(通い婚)特有の複数の相手との恋愛が可能な時期を経て 相応しい男の北の方(正室)となって相手の家に移り住むと もはや他の男とは恋愛をしない、 という建前になる
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