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妖と人の子
日時: 2019/01/03 08:23
名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)

[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです

現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております

 現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております



失礼ながら書込みは遠慮します

Re: 妖と人の子 ( No.176 )
日時: 2019/03/22 14:07
名前: 大寒波 (ID: qAj0rN00)

夏目長編(3)116.「夏目話・平安編116」
◇◇◇
やや時を遡り 怪我人愛宕が湯治場に行く少し前の事である

湯治に行かせると聞いた愛宕は 少し考える様子であったが これを、と携行用の厨子ずしを 夏目に差出した。 銀製の念持仏が納められた ごく小型の厨子で古びているが 大事に伝えられた物と見えた

手に置かれた厨子と 小さな仏像を掌で撫でて 形をなぞりながら 法衣の夏目が どういう由来のものかと聞く

「亡き姉の物で 先頃逃げる時にも これだけは捨て難く懐中に入れていたが今 持合わせが無いのでこれを代価に充てて欲しい」と若者が答えた

鍼医は 姉君の形見か と頷き 怪我人の手を取り厨子を載せると

「よい仏だな 大事になされよ」とだけ言い 受取らなかった

これに 困った様子の若者は 法師といえども湯治には金子が要る これを換金して支払いをしてくれと頼むが夏目は取合わない
しまいには声を荒らげた
「こんなに 恩を受けるばかりで心苦しいのだ 那智とて寺に寄遇する身で 懐具合は良くもなかろう
大体が 道端で行き倒れた俺などを救い助けて 何になるというのだ

俺にはそんな値打ちは無い」

俯せた怪我人は顔を伏せて背を震わせた

Re: 妖と人の子 ( No.177 )
日時: 2019/03/27 17:31
名前: 大寒波 (ID: cJynYhyt)

夏目長編(3)117.
「夏目話・平安編117」
「瀕死の其方が 救い出されて生きていることが 何になるのか 意味があるのかはよく分からぬ」

夏目が告げる

この言に 傍のむしろに俯せている若者が のろのろと顔を上げた 頬には涙痕がある

「少なくとも其方そなたの忠実な馬が必死に私達を導いた結果ではある」

「朝霧が‥」

自分が見つかった時の 馬の様子を 愛宕は初めて知った

「得がたい良い馬だな」
若者は言葉もなく 嗚咽を洩らしていた


懐から取出した布で 夏目が若者の涙を拭うと 細い手指を 大きな手が握り締めて震える目許にあてがった

「俺は あのひとを生涯守り幸せにすると言うて信じて貰ったが 囲われの邸から連出す事も 出来ずじまいだった」

堰を切った様に語り始めた若者の話を 夏目は黙って聞いている

「俺は 恋人をすぐに捨てては次に行く様な色恋しか出来なくてな 行いが悪かったのだ

しかし 亡き姉上に面差しの似たその女に出会うてからは その女に誠を尽くせば まるで姉上に功徳を積めるみたいに思うてな
しかし結局は 立場を危うくさせただけだったのだ 俺は」

  「…そうか 」

Re: 妖と人の子 ( No.178 )
日時: 2019/03/23 16:55
名前: 大寒波 (ID: uV1PemL6)

夏目長編(3)118.「夏目話・平安編118」
「徒な(あだな)望みを抱かせた挙げ句に あのひとの眼前で犬同然に斬られて逃げただけで、」

幾重にも苦しめた

顔をくしゃくしゃにして 語り続ける愛宕の話を 夏目は黙って いつまでも聞いていた


2刻(1時間)程が経ち 怪我人は漸く 落着いた様子であった 呼吸は長く緩やかに変わり 肩の震えは治まっている


「馬には独りで乗る事ができたのか」
久し振りに夏目が口を開いた

  いいや、呟くと
若者は伏せていた顔を少し上げた

「自力では もはや乗れずあのひとの乳母子めのとごに抱えられて騎乗したのだ」

そのお陰で逃げられたと 話し それが何か、と目で促す

「邸内の警備を増強して待伏せて殺す気で 手傷まで負わせておきながら むざむざ逃げられた男に 追手は掛からず 探索にも来ず終いだった」

若者は仰向き 夏目を見上げて言葉を聞いている


「つまりは 追手を掛けるのを 誰かがどうにか思い留まらせたのだろう 立場が悪くなるのは 意に介さず 必死になって乳母子に頼んで 男を逃がして貰った」

若者は 手を突き躯を起こして聞いていた

Re: 妖と人の子 ( No.179 )
日時: 2019/03/27 19:18
名前: 大寒波 (ID: TkqspnRJ)

夏目長編(3)119.「夏目話・平安編119」
人の気持ちは 余人(他者)には分からぬと 法衣の夏目は言う

「それでも 起きた事を鑑みる(かんがみる)に 女君はどうあっても 其方を生かしておきたかったものと思われる 推察できるのはそれだけだ」

ぽたぽたと落涙する若者は 夏目の膝にすがり付くとふたたび肩を震わせた


夜が明けて 交代に来た供の男に 眼を腫らした怪我人は 湯治の話を聞いた と話し

大層世話を掛け痛み入るがよろしく頼み申す

きちんと頭を下げた

顔の惨状とは裏腹に 角が取れた声音を聞いて

「おお 昔からの郷の者しか知らぬ山中の湯だからな 安心して躯を治してくるとよいぞ」
男は眼を細めた。

二心ふたごころの無いその顔を見て 代価も無く心苦しいのだが、と小さく言う

「主は代金を出しても 受けとらぬだろう そもそも桑門の本分は 衆生に尽瘁じんすいするべきものだ」
若者は黙って 頭を垂れ聞いていた

翌日 うまやを引払う支度で 愛宕もそろそろと手伝いながら 灯り皿を手に考え込む様子である

下働きをした事も無いのは 一見して分かったが 供の男を見ながら すぐに同じ様に立働いている
男は それに頬を緩めながら声を掛けた

Re: 妖と人の子 ( No.180 )
日時: 2019/03/27 19:28
名前: 大寒波 (ID: 9sihcqpn)

夏目長編(3)120.
「夏目話・平安編120」
「余り無理して 動かぬ事だ 随分よくなったのだ
今だけは辛抱を」

怪我人は頷き 腰を下ろした それでも筵や布を見よう見まねで畳み重ねながら呟く様に口を開いた

「ここで初めて眼が覚めた時は真暗闇で 眼を凝らすと人がいて 驚いたのだが 最初その人は尼法師と見えた」
作業をしながら男は聞いている

「すぐに灯りを点してくれて明るくなるとな 菩薩と思うた」

「ほお良い勘だな 主は薬師如来の神童とも呼ばれている様だ」男は答えた
「薬師如来とは 人の病苦を治し苦悩を除くという仏か」
首を傾げて愛宕が問うた
「そうだな うちの寺の御本尊でもあるのでな」

似合いの異称であるな‥
独りごちる愛宕を 男は穏やかな顔で眺めていた

「ああ言うておこう 今から行く湯は 貴人をもてなす様な 立派な家屋がある湯治場とは違い この郷の者が持回りで守ってきたものだ
食料を持参の上 自炊で小さな建屋で寝食し 湯に漬かって傷病を癒す
郷の者が 農作業で腰や膝を痛めたり鍬を踏抜いたりした折に 昔から頼ってきた湯治場でな 代金は無く 当番の者に心付けを渡す位だ」

これを聞いて愛宕は
郷びとの湯治場なのだな と ほっとした顔をした


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