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妖と人の子
日時: 2019/01/03 08:23
名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)

[夏目友人帳]二次創作話
先生:斑と夏目の ほのぼのBLです

現在、短編[2話]中編[2話]長編[2話]があります
これらは全て原作に準拠した内容で完結しております

 現在更新中の
「長編(3)」
※[レス№61が第1話〜]は
平安時代を舞台として
夏目は盲目で在野の鍼医 (当時の漢方医)、
先生(斑)は斑の読替えの 『むら』と呼ばれている設定で展開しております



失礼ながら書込みは遠慮します

Re: 妖と人の子 ( No.151 )
日時: 2019/02/17 22:45
名前: 大寒波 (ID: yEPZlZK/)

夏目長編(3)91.「夏目話・平安編91」
もはや無理にでも 失心させる他ないと 再び近寄った長男の眼前で 棒立ちの三郎君の首筋に 白い手が すっとあてがわれた

忽ち三郎君の動きが ぴたりと止まり そして岩が崩れ落ちる様に 前のめりに倒れてゆく

大きな躯を受止めた 夏目が 許してくれ 愛宕
と呟くのが 微かに長男の耳に届いた



空は菫色に変わり始めている 辺りはまだ 人の姿が見分けられぬ程に暗い 彼は誰時かはたれどきになっていた

小さな灯りを点けた太郎君の私室には 人の姿が三つある  一人は床に横たえられていた

気を失った重い末弟を 床に運んだのは長男だが その時 俯せでとの夏目の指示があり その様に寝かせている


それにしてもあれは、と太郎君は 末弟を瞬時に昏倒させた夏目の 鮮やかな手技を思い返していた

三郎君の躯を支えた 夏目は しろがねの細い鍼を手にしていた

掌に隠れる程の棒状で 先端が丸い、刺さずに施術する的鍼ていしんと呼ばれるはりである 
これで首の経穴つぼを圧して大の男の意識を失わせたのだった
夏目にはこれこそが本職である


刺入しにゅうの 苦が無い的鍼は 患者を緊張させずに施術が可能ゆえに 幼い童を診るこの家では 夏目は的鍼を用いているのである

Re: 妖と人の子 ( No.152 )
日時: 2019/02/22 08:19
名前: 大寒波 (ID: sPN/TsSz)

夏目長編(3)92.「夏目話・平安編92」
手入れが行き届いた 銀の細い鍼は 鍼医の掌中で灯火を受けて鈍く光り 優雅な用具に見える
傍らの床には 既に打身の手当てを終えた三郎君(三男)が寝かされていた

手当ての最中 衣服を緩めた際に 露になった背中の大きな刀創(とうそう/刀傷)が長兄の目に入る
夏目も手で触れて確かめていたが驚く様子は無い

一刀のもとに斬られた傷だが とうに塞がり引きつれもなく完全に治って数年は経ているらしい 刀創は右肩の後ろから左下へ背中を斜めに走っている 殺意をもって斬り付けた と見える傷であった

手を清めた夏目が 布に並べた銀の的鍼を握って 意識の無い三郎君の上腕を取り鍼先を押し当てると 空いた手指で その跡を摩ったが すぐに腕を離して患者の躯に 上掛けを掛けた

少し離れた文机に凭れていた太郎君(長男)が

おや治療は終わりか、と思っていると 夏目が突然両手を擦り合わせ始めた

太郎君が 何となく見ていると ひとしきり擦り合わせた掌を開いて 息を吹き掛けている
夏には余り見ない仕種である

冷たい手を温めているのだと合点が入った太郎君は 立ち上がりながら鍼医に声を掛けた

「すぐに 湯を持って来させますので暫し お待ちください」

Re: 妖と人の子 ( No.153 )
日時: 2019/02/23 15:19
名前: 大寒波 (ID: sPN/TsSz)

夏目長編(3)93.
「夏目話・平安編93」
廊下に出て人を呼ぼうとするが いつもなら朝の洗面の水とたらいを家人の部屋に 忙しく届けて廻っている筈の下働きの者が誰も居ない

首を捻ったが 宴の泊まり客の朝の支度に 人手が必要なのだろうと長男は思い至った
こういう時には勿論 家の者は後回しである

夏目も承知していて

お気になさらず、と言い掌を揉み擦っていた


経穴を鍼で圧し その跡を手で摩る揉撚じゅうねんを施すのは身体の気を集め血の巡りを良くする為だが 鍼医の手指が冷たいと確かに患者が飛び上がる事がある


まあ こ奴は正体を無くしておるし手くらい冷たくても構わぬな、などと思いながら 伸びた末弟を見下ろす長兄は 掌を擦り合わせる鍼医に 何の気なしに 瑠璃殿 お手を拝借
と言うた

すると 訝しげに差出されたほっそりした手は いかにも武人という 厚い大きな掌に すっぽり包まれてしまう 少々当惑した様子の夏目だったが 黙っていた

その手の 本当に氷か という冷たさに驚いて これは幾ら擦り合わせても 温かくは成らんだろうし 湯は手に入らぬし、

少し考えてから 太郎君は自分の懐に 鍼医の冷たい両手を差入れた

Re: 妖と人の子 ( No.154 )
日時: 2021/01/10 09:54
名前: 大寒波 (ID: NjfGIFbP)

夏目長編(3)94.「夏目話・平安編94」
初出'19.02/23


「なにを、冷たくていらっしゃるでしょう」


 夏目は反射的に手を引いたが、長男はその手を衣服の上からそっと押さえた。
にこ、と笑んでまるで拾った犬の仔でも、懐に入れて暖める様な格好である。
手を引抜こうとしてもびくともしない相手に、鍼医は漸く大人しくなった。


いい大人が、まるで幼いきょうだいが 真冬に戯れる時のような格好にいたたまれず、夏目は顔を伏せ俯いてしまっている。


こうした親切を示されると どの様な顔をすれば良いのかよく分からない。


太郎君の懐は ひどく暖かかった。
氷も同然の夏目の手も躯も、やがて少しずつ温もってきた様子であった。



いつに無く他人と近づいた夏目の顔は 透き通る程に白い。伏した瞼は切れ長の透明なひとみを覆い、長い睫毛は涙堂に影を落としている。白皙の貌の中で口唇だけが赤かった。


 実を言えば太郎君は、この鍼医ほど美貌の人をほかに見た事が無い。

あの酔客は天女などと呼ばわっていた事を、ふと思い出していたがあの客とは違って長男には 邪心が無い。
この鍼医の姿を見るにつけ、美しく聡明であった亡き姉と妹の事が何故か思い出され、そうすると、この人を庇護しなければ、と思う事が常なのであった。

Re: 妖と人の子 ( No.155 )
日時: 2019/02/25 09:57
名前: 大寒波 (ID: k8cJIfhT)

夏目長編(3)95.「夏目話・平安編95」
今は亡き姉妹を偲び 思いを馳せる内に 傍らの末弟にも やがて思惟が及んでいった

背中の刀創の事を太郎君が知ったのは 最近の事だが 良くぞ助かった、
と仰天した程の傷であった

当時 既に傷は治癒していたが 一緒に育った末弟が酷い怪我をした事を 長兄の自分が知らぬ筈が無い
一体どういう事かと 昔の記憶を手繰ってみれば

そう言えば三年位前に 末弟が 物忌み(ものいみ)だか方違かたたがえだかに行った出先で 病に臥せて そのまま三月程逗留を続けた事があった
帰宅した末弟は 痩せ細り青い顔をしていたものであった

あの時か、では 父上はご存知だったのか と結論に到った


何しろ 人はでき物が一つ出来ただけで 大きく膿み腫れて死に至る事が 珍しくも無い時代である

刀剣で派手に斬り付けられた 怪我など普通は助からない
それが 醜い引きつれも残さず 一筋の斬り跡を残すのみで 治癒しているのは 余程の水際立った医の処置を受けられたものと思われた

それはつまり 眼前で俯いている 薬師瑠璃光如来の神童殿の手に因るものに違いない。

この二人が知合ったのがその辺りの時期である事を思うとそう考えるのが妥当である


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