【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】
作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

独白・屋上での昼休みにて
たとえ私が彼のことを好きだろうが何だろうが彼は私のことを好きではないということは重々承知している。しかしそう思っていても何時の間にか期待している自分はただのマゾヒストなのではないだろうかという錯覚すら覚えてしまう。まあ仮に私が彼に自分のことを投げ出してしまうぐらいの好意を寄せていたとしても、彼は私のことなんてただの逃げるサンドバックもしくは歩くノミ蟲としか感じていないんだろうと考えると苛々してきた、ああもうだから大嫌いなんだよこの男は。
「とゆーわけでシズちゃんタヒね」
「お前がタヒね」
浮気性な彼へと
悪いのは向こうだ、と帝人は主張する。
そもそも、彼女である自分を連れて「ナンパへれっつらゴー!」なんてほざくなんて、浮気性な正臣であっても、許されることではないだろう。
「最悪だよ、紀田君」
そういう訳で、今、帝人は魔王光臨並に腸が煮えくり返っている状況にある。
(ああ、苛々する)
と、拳を握り締めると、スカートのプリーツが寄れて皺皺になった、最悪、ともう一度口の中で呟く。
「……というか、何で私がこんな昼間から公園のベンチに座らなきゃいけないの、もう」
紀田君の、バ.カ。
何度言っても、怒りは飽きずに心の底から溢れ出てくる。帝人は、普段は至って温厚なのだが、正臣関連になると、そんなこと宇宙の果てまで飛んでいく。それが正臣の本命の彼女である、帝人の素性である。
未だぽこぽこと怒りの沸騰音を帝人が奏でていると、人混みの中から、茶髪ピアス少年が片手を挙げて、こちらに走ってくる。正臣だ。爽やかな笑顔を浮かべている。
……そんな正臣を見、帝人は一言だけ呟いた。
「もう、絶対許さないんだからね、紀田君」
たとえ、片手に花束を持っていても。
だって君は女の子だから
――――――目の前で、最後の1人が沈んだ。
自分が倒したのはさっきので計12人。いくら自分が喧嘩に強いと言えども、女子にかかってくる人数ではないだろうと、静香は思う。昔からそうなのだ。自分ではそんな力使いたくもないのに、尋常離れしたその力は、女としての自分の“何か”を奪っていく。過去にもそんな例が幾つもあった。……まぁ、もう多少諦めてはいるのだが。
「…………っ、はぁ。ノミ蟲……っ、潰す。めっきりぼっきりばっきり砕いて潰してやる……」
「恋人に向かってそれは酷くない? シーズちゃーんキ.スしようか」
「黙れノミ蟲」
「そんなつれないとこも愛してるよ、シズちゃん、ラブ」
そして今現在、“自称”静香の恋人と共に、最大最高の天敵である――――――折原臨也を組み敷き、静香は苛立っていた。丁度、ラスト1人を標識でぶん殴った瞬間、屋上からこちらをにまにまと見つめている姿が目に入ったのだ。汚い奴だ、と静香は一人密かに憤慨する。自分に害が及ばないところで、戦いをこっそり見ているなんて、ただの変態ではないか。
更にこの折原臨也という男は、自分のことを殺.そうとしている癖に愛してるだの、大好きだの、付き合おうだなんて糾弾してくる。その度に、静香は殺気を放ち、生と死を賭けた鬼ごっこが始まるのだが。
「……おい、ノミ蟲」
「何ー? シズちゃん」
静香の不機嫌そうな声に対し、臨也は語尾に音符が付きそうなほど明るくリズミカルな言葉を返す。その様子に背筋が冷たくなるのを感じつつ、静香は疑問を口にした。
「……何でテメェ、この状況で笑ってられるんだ? ナイフも折られて、組み敷かれてるっつーのによ……気持ち悪ぃ……」
「あ、うん? それはねー」
そう、静香の疑問はそこにあった。
何故この男は、こんな自身の生命的危機に対していやらしくにやにやと笑みを貼り付けておくことが出来るのだろうか。
―――――そんな、疑問符でいっぱいの静香のその疑問に、臨也はとびきりの笑顔で答えた。
「こっから見たら、シズちゃんのスカートの中、丸見えなんだよねー。そりゃもうばりばり見えてさー。……あ、もしかして、今日はピンクのレースかな? ほら、この前セルティとお茶した時に嬉しそうに買ってた、あの―――――」」」
ばしゅん、と。
臨也がいつものように饒舌に言葉を紡いでいると―――静香が人間離れした跳躍で臨也から飛び退いた。その僅かな間に、臨也は素早く立ち、戦闘態勢を整える。
ぱくぱくと何とか言葉を発そうと静香は努力していたが――――あまりの驚きに、声が出ない。真っ赤な顔が、まるでトマトのようにも思えた。
静香は、初めは臨也の言葉に耳まで赤くなり、しばらくふるふると小刻みに揺れていたが、…………やがて、ぶつぶつと一人で何か言葉を反復し始め――――
「………ンの……そノ……」
「え、何? シズちゃん?」
「……こン……」
「何何?」
「……こンの…………ク.ソ変態ノミ蟲があッ!! 死.にさらせえッ!!」
「わー、怒っちゃった? シズちゃん」
突然、静香は怒りを爆発させ、叫んだ。臨也は、その様子に大した驚愕も見せず、飄々とした態度で笑みの色を更に濃くし――――逃走の足を速めた。
「待てオラあっ!! 逃げれると思うなク.ソ臨也あっ!! 殺す.、徹底的に殺.す、めらっと殺.すっ」
「あははーやだなー、シズちゃん。恋人にそんな言葉言っちゃ駄目でしょ?」
「っざけんな!! いーざーやあああああああ!!」
臨也の冗談めいた言葉が、更に静香を沸騰させる。だが、静香が近くのアスファルトを剥がそうと試みたところで――――臨也が急に、くるりと方向転換してこちらを見据えた。立ち止まる臨也。予想外の行動に、静香は、ついつい持ったアスファルトを握り潰しそうになった。
「あのさぁ、シズちゃん」
「……何だ、ノミ蟲」
「やっぱ、スカートの下に何か履いておいてね」
「うっせぇ!! てゆーか何でお前に……」
ふわり。
静香が、怒鳴ろうとした刹那―――臨也が、懐に飛び込んでくる。ナイフも持たずに。完全の丸腰状態である。しめたとばかりに、静香が拳を握り締めたとき。臨也は、静香の耳元で、小さく囁いた。
「……シズちゃんの可愛いところ、他の奴に見せたくないからね」
その言葉を聴いた瞬間。平和島静香の全ての時が止まった。先程の言葉を、ショートしかけている脳内で必死にリピートする。何度も、何度も。そうして、ようやく意味を理解して再び耳まで真っ赤になった頃――――臨也は既に、屋上の扉を閉めようと、安全地帯にいた。
「じゃーね、シズちゃん! 愛してるよ! また殺.しあおうね! 次は俺、もっと色んな奴探してくるよー。ま、最後に止めをさすのは俺だけどね。それじゃーねーシズちゃん! …………あ、後レギンスとか良いの見つかったら買ってきてあげるよ! んじゃー」
――――陽気さを含んだ臨也の声に、静香は声を張り上げる。
「黙れノミ蟲! 次会ったらめらっと殺.すからなっ! この変態がっ」
――――どきどきと音を告げる、胸の鼓動が聞こえないようにと。
(……ぜってー、女扱いされたから嬉しいなんて思ってねぇ、思ってねぇからな……!)
(……シズちゃんのパンツの色、当てずっぽうだったのになー……良いこと聞いちゃったーふふふん)

小説大会受賞作品
スポンサード リンク