【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】
作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

「ねぇ、あのさ。」
「シズちゃん、私、今日生理なんだ」
「……あぁ、そうか」
夏場の屋上というものは、風が吹いていて涼しいくせに、ぎんぎんとした太陽の灼熱が、女子の柔肌を照りつけるという、メリットとデメリットが入り混じった空間だ。
そんな空間の中、折原臨也はいつものように、平和島静雄に平坦な調子で話題を出す。
太陽が自己アピールを盛大に行う日照りの場所を避け、太陽が当たらない、涼しさだけが支配するタンクの日陰――――――そこで、静雄が地面に座り込むようにしているところを、臨也が腰の辺りに抱きついていた。普段の2人を見ているクラスメイトが見たら、さぞかし驚くだろう。
……午後の授業をボイコットしている臨也は、捲れるスカートのプリーツを気にしつつ、何気ない調子で言葉を進めていった。
「……痛み酷いのか」
「んー? まーね、人より重いタイプだからね、私」
が、その話題とは決して人前で大声で言えるはずもない内容な訳で。通常の男子高校生ならば赤面するであろう会話を、静雄はどこか抜けた様子で話を聞いていた。
「痛み止めかなんか、新羅から貰って来てやろうか? 後、何か食えるモン買って来てやるよ」
「ん、いいって―――――」
臨也はむーと唸った後、ごろんと静雄の膝元に頭を乗せた。逆膝枕、という奴だろうか。だがその行動にも、いつもは激昂する静雄は微動だにせず、静かに言葉を紡いだ。
「そうか」
「そーだよそーそー! ……っていうか、こーやっていちゃいちゃしてた方が私的には楽だよ?」
と、臨也はにやりと笑うと静雄の唇を自身の病的なほど細い指で、その曲線をなぞった。そのままその指を口に含むと、「カレーの味」と陽気に笑う。
しかし、やはり静雄はその行為にも何も言わない、何もしない。むしろどこか焦っているようだ。楽観的な臨也に向かって、真剣な様子で言葉を投げかける。
「……臨也、」
「何だよシズちゃん、変な顔して。もしかして唇触られて欲情したとか? 化け物らしいね」
「おい、臨也」
そこで少し怒りを含んだ声色で、静雄は臨也の腕を握った。怒っているのに、だけど彼女の腕を握る手は優しい。
静雄は労わるかのように、臨也を見る。そして口を開いた。
「……痛ぇ時ぐらい、痛いって言え。自分が痛いのに強がる意味なんて、ねーだろが」
「…………は? 馬.鹿じゃないのシズちゃ――――」
「臨也」
と、静雄は臨也の腕を握る手に力をこめる。いや、力をこめようとしているのではない。――――必死に、そのか細い腕を握りつぶさないようにと、恐る恐る扱っているだけだ。
……だって彼はこんなにも、辛そうな顔をしているのだから。
「……シズちゃ――――――わぷっ」
静雄は依然、辛そうな表情のまま――――臨也を体ごと、引き寄せた。臨也の細い体が、静雄の体格の良い体に抱え込まれる。そんな少しの動作にさえ、臨也は眉を顰めた。……静雄に見えないように。
そして不満げに、言う。
「何、シズちゃん。離してってば。……私、今日生理って言ったでしょ?」
「頼むから……」
「え?」
「頼むから、痛い時ぐらい俺に頼れよ。お前が今日一日中、動くのも辛いぐらいばればれなんだよ――――ク.ソノミ蟲。動いてんじゃねぇ」
ぶっきらぼうだが、臨也を案じての言葉。
その言葉を受けた臨也は一度だけ微笑むと――――――苦笑し、言った。
「……ねーねー、シズちゃん」
「あ?」
「何か、そういうの……ベタな恋愛ドラマみたいだね」
「……ふざけてんのか、テメェ」
いつも通りの怒り口調に戻った静雄は、少しだけ額に青筋をたてて臨也を正面から見据える。そんな静雄を見て安心したのか、臨也も普段通りにくすくすと不敵な笑いを零した。
「……だからさ、私たちもベタな恋愛ドラマみたいにいちゃついていよーよ。たまには、普通に平凡なそういうのも、悪くない」
「テメェの体調が良くなってから、そういうことはほざいてくれねーか……こっちが後々困るからよー……」
「ばっかじゃない、シズちゃん」
――――私たちにそんな生温いの、似合わないじゃん。ねぇ、そうでしょ?
(そう呟いた彼女の顔は、笑ってた?)
(それを聞いた彼の顔は、笑ってた?)
体調とか、普通とか。
そんなんじゃ全然私たちの愛は足りないよ。
憎悪とか、悲愴とか、嫉妬とか。
そういうのを全部ごちゃまぜにしていこうよ。
たくさんたくさん集めて、それで愛し合おうよ。
だってさ、
「「ねぇ、あのさ。」」
――――――それだけの思いがあっても、私たちはこんなにも不器用なんだから。

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