【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

イナズマイレブン

微笑みストリーム


 (注意! ささめ作のオリキャラがいるよ)
 (注意2! オリキャラと佐久間が源田についてぎすぎすしてるよ)







 目が覚めると、伊織の顔があった。女にしては珍しい切れ長の瞳が不快感を伴い、ぴきりと引きつる。おいお前、俺一応先輩なんだけど。しかも覗き込んでたのお前なんですけどとは思ったが、口には出さない。
 ……まあ、別段焦ることでも驚くことでもないので、俺は何も言わずに体制を整えた。木に背中を預けていたせいか、ひどく腰が痛む。後、頭。てか、頭部に違和感がある。何だと思って頭に手を伸ばしたら、指先を何かに噛み付かれ…………ッ!?


 「さーくーませんぱーい、午後練始まりますよ?」
 「……とりあえず、練習の前に何故俺の頭に猫が乗ってるのかを聞いてやろうか」
 「きゃー佐久間先輩プラス猫ってちょー可愛いですー頭に乗せられててもかーわーいーいー…………これで良いですか」
 「敵意とだるさしか感じない理由を有難う腐れ後輩よ」
 「その腐れ後輩に拳を力強く握り締める男尊女卑に逆らう生き様、本当に憧れますよ先輩」


 その後2人で生死をかけて拳を交えあった、訳ではない。だけど少なくとも俺と伊織の間には不穏な空気が流れて始めているのは、頭上の猫でさえ気付いた。というかまだいたのか猫。バランス能力と忍耐強さの両方を褒めるしかないな猫。おとなしいな猫。


 「というか、この猫どこから拉致してきたんだ、伊織!」
 「先輩、あくまで飼い猫とか友人から借りたとか善良なルートは用意してないんですね……」
 「または盗んだと言い換えようか?」
 「…………ほんと、バルスれば良いのに……」


 そう言って嫌そうに顔をしかめる伊織。お前には一度先輩への後輩としてのあり方を学習させる必要がありそうだな。……あえてバルスれの起源は聞かないでおく、何か怖そうだから。多分、某ジブリ映画の関係だと思うけど。


 「とりあえずそのにゃんこちゃん返してくださいよー! 佐久間先輩の頭部って持ちにくいんですから、にゃんこちゃんが可哀想ですー」
 「お前は俺の頭部を持ったことがあるのかっていうか持つって表現するなお前ホント怖いな!」
 「ふへへー、持ったことがあるとしたら?」
 「…………あるのかよ」


 とりあえず猫を頭から降ろし、伊織に手渡す。伊織は手渡された猫の、その柔らかな毛に頬を埋めつつ、だらしない口元で笑った。本来ならそういう笑顔にドキッとするのがラブコメ的展開なんだろうけど、コイツは俺にとってただの諸悪の根源にしかならないので、結果イライラした。


 「ん? ありますよそりゃ。……えーと、確か源田先輩との添い寝を発見した時にちょっと頭を頂戴してですね、」
 「待て初めから何かがおかしい気がするぞ! てか何で源田との添い寝だコラ、お前見てたのか伊織ちゃんや」
 「ええ2人の初めてのドギューンでズギューンな夜…………では無くつい3週間ほど前の、練習の後、ついつい源田先輩が疲れて寝ちゃった……っていうシチュエーションですね! 源田先輩の寝顔はばっちりです」
 「もう一度ストップしろ伊織、後お前の携帯電話を確認する必要がありそうだな。……って、お前2人の初めてのドギューンでズギューンな夜を知ってるのかおい表へ出ろ」
 「ひひひ、佐久間先輩。あいにくですが、私もう外出てますよー?」


 鬼の首をとったとでも言わんとばかりに、にこやかに微笑んでみせる伊織を一瞥し、俺は舌打ちをする。だが伊織は俺の悪意ある行動を、鼻で笑うという行為だけで一蹴してみせた。お前ホントに俺を敬う態度ゼロだなこの野郎、表っていうか法廷に出廷しろ。話はそれからだ。


 「この揚げ足取りが」
 「素敵な御足を有難う御座いました」
 「そんな自分の足を卑下するなよ、俺の足なんて源田の足に比べればまだまだだ」
 「そうですねー、源田先輩の足の方が綺麗でなめらかで柔らかくて綺麗ですよホント」
 「本当に綺麗だよ源田の足は。何でお前がアイツの足の感触を知ってるのかは不問としといてやるけどな!」
 「ふふん、じゃあヒントです。ヒント、性欲」
 「全然ヒントにならない最低な答えをありがとうこの発情期女」
 「あ、思い出しました。源田さんを私に譲ってください」
 「明らかに文脈がつながってねーんじゃねーのと思うんだが。だが断る」
 「ですよね」

 
 そうしてけらけらと、2人で笑い声を洩らす。伊織は満面の笑みだったけど、俺は唇を歪めることだけで終わった。後に、沈黙。しかし、そんな茶番もこりごりだというように、伊織は「けっ」と後輩らしからぬ声を発した。テメェ今頃になってようやく後輩という名の仮面を剥いだなと心中で考えつつ、俺は伊織を見据える。向こうは、笑っていた。……いや、目は笑っていなかったけど。


 「…………ホント、佐久間先輩との会話って素晴らしすぎて私みたいな若輩者が喋っていると言い様の無い緊張感やら尊敬の念がですね」
 「つまり?」
 「正直イライラします!」
 「すごく爽やかな笑顔で言ってんじゃねぇ!」


 伊織は俺のツッコミに「ちえーケチっスね先輩」と愚痴りながら、靴で地面を蹴った。そんな伊織を横目で見、俺はコイツの微笑の仮面を借りて言う。


 「まぁ、とりあえず俺が帝国にいる間は、源田を譲るつもりも渡すつもりも奪わせるつもりも無いから、よろしくな。いーおーり」
 「…………いっつも思うんですけど、佐久間先輩って、下手したら私より性格酷いですよう?」


 知ってるよばーか、と思い切り伊織の頭を叩いた。その後、俺と伊織を呼びに来た源田に力いっぱい頭を殴ってきたので、泣きたくなった。ちなみに伊織がその間俺を指差して大笑いして、源田に抱きつこうと試みていたので、も一回叩いておいた。
 今度は、源田は殴らなかった。伊織は、笑わなかった。俺は、微かに笑っておいた。




泡沫のようになりたいと願う


 背中にまわされた手は、優しく僕の肩辺りに触れた。そしてぽんぽんと、軽く叩かれる。その気遣いというか、彼自身の優しさというか、何かもう行動全てに対して、僕はまた泣いてしまった。
 嘔吐してしまったせいで、胃の中は空っぽなはずなのに、なぜか体中があたたかいもので満たされていて。僕は、この満たされている感覚が意味することを理解していたから、余計にむせび泣いてしまった。


 「吹雪、お前を愛せなくてごめんな」


 懺悔にもとれる豪炎寺君の言葉は、荒んだ僕の心に優しく響く。


 「俺は、アツヤが好きだから」


 好きじゃないなら優しくしないでよ。なんて、女々しいことは、今の僕には言えそうにない。とにかく、今の僕は――――――


 「吹雪、ごめん。本当に……ごめん」


 ――――――彼の甘さに溺れたいと。