【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

双子ディファレンス


 「……ヒロトは良いなぁ」


 頭上から降ってきた声に頭をあげると、俺と同じ顔を持つグランと目が合った。グランは足を組んで、自分の髪を指先で弄んでいる。暇そうだなぁ、と思ってクスリと笑いを零した。そしたらグランはさらに不機嫌そうに唇を尖らせると、こっちを睨んできた。


 「何で笑うの?」
 「っふ……いや、笑って無いよ」
 「笑ってるじゃん」
 「だから違うって」
 「…………ヒロトはいつもそうだね」


 あ、怒らせたかも。緩んでいた口元を手で覆い隠す。その行為にさえグランは眉を吊り上げているから、どうにか気を鎮めようと、慌てて質問した。


 「いつもって、何が?」
 「……ずるいトコだよ」
 「だから、ずるいって何が」
 「人を愛せることについてだよ」


 沈黙。机の上を整理していたはずの手が止まる。真正面からこられたせいで「え、何でそんなこと言うんだよ」なんて弱気発言は出せずに、俺は固まった。
 その硬直を、理解したとみたのか、グランは俺と同じ翡翠の瞳に鈍い光を灯す。


 「ヒロトは良いね、円堂君を愛せるから」
 「……愛せるって、そんな」
 「でも私は違うんだよ」


 冷たい怒りを孕んだ声。もしも俺が彼女を今抱きしめたら、その冷たさは消えるのかなぁ。なんて、頭の片隅でちょっとした妄想をしてみた。だけど、彼女は俺に再び声をかける。


 「グランはヒロトの過去。そしてヒロトは過去であるグランの憧れ――――ずっとこんな風に生きたかった、っていう象徴。これがどういう意味か分かる?」


 責め立てるようなグランの声に、鳥肌がたつ。過去はあまり思い出したくないと、俺はよく君に言っているはずなのに。だから、ついつい気持ちが高ぶり、分かってるよと声を荒げていた。それでもグランは俺に糾弾する。分かってるつもりなだけでしょう、と激昂している声が鼓膜に響いた。


 「私にとっての愛はヒロトだよ。ヒロトは過去の償いとして、辛い自身の過去を押し付けた私を愛さなくちゃいけない。それが、ヒロトの責なんだよ」
 「っ、責…………?」
 「そうだよ。……でも、ヒロトは私――グランじゃない、未来を意味する円堂守を選ぼうとしてる。それは、いけないことなの。決してあっちゃいけないことなの、罪なの」


 グランの瞳が揺れる。悲痛な表情で。あぁ、今俺もこんな顔をしてるのかな。だって双子だし。…………双子、か。嫌な響きだな。
 さらにグランは、今にも俺に掴みかかろうとせんばかりに、自分の思いを叫ぶ。喉が壊れそうなぐらい、辛くてたまらないというように。


 「それだけでも大罪なのに……ヒロトは私に、自分を愛すななんて言うじゃない! 何で、何で!? 愛したって良いじゃない、貴方の想いを殺したって良いじゃない――――――じゃないと――――」


 私が、報われないじゃない、と。
 嗚咽をこらえて、彼女は最後の言葉を俺に告げた。
 グランの頬を伝う涙の光を眼球に映しながら、俺は生唾を飲み込む。苦い苦い味が口内に広がった。


 「…………そんなこと、言うなよ」


 乾いた声で呟く。グランの泣く姿を見据えて、からからに乾いた喉から必死に声を絞り出した。


 「…………愛したっていうのか、しがみついてもがくことを。それは愛じゃないだろ……縛って誰にも触れないようにするのは、愛じゃないはずだ!」
 「ヒ、ヒロト…………」
 「お互いの思いやりの欠如と、君の形だけの愛は、双子である俺たちそのものなんだよ! それでも良いなんて甘いことは、俺は絶対に言いたくない!」


 ねぇグラン、独りで愛を語らないでくれよ。……君が考えている以上に、俺は君を大切に想っているんだから。だから、だから。


 「グランの言葉で傷ついた心から漏れ出すそれを、俺は決して、愛と表現したくない! 終わることにはお互いに飽いているような……愛か欲かも分からない言葉を放つような関係は――――愛じゃないだろ!? そうだろ、グラン!」
 「…………っ……」


 グランの表情が強張る。それを見てようやく分かった。初めから君と俺の立場は逆だったということを。
 嗚呼、君と俺の愛の定義はこんなにも――――




 ■双子ディファレンス




 「それでも愛してるよ、ヒロト」




海へと散った君へ。


 この青は、決して本来存在する青ではない。そう知っているのに、何故か目の前の青は何時も、我を惑わせる。……ふむ、酷く不愉快な感情がわきあがる。だから、何故だろうか、と白波を目で追いながら考えた。すると、すぐにその理由に思い当たった。なので、不快な気を振り払うように、我は日輪を見上げた。金の光は、海原に反射しきらきらと輝いている。
 幻想的な風景を目の前にしながら、我は呟いた。



 「どうか、来世では良い夢を」



 ■海へと散った君へ。



 きっとこの青は、君のものだから。




思い、想い、重い


 「静香さん」


 少女は語りかける。圧倒的な破壊力を持つ彼女に向かって。しかし彼女は微動だにしない。全てが静止しているこの状況で、黄金色の瞳と靡く金髪だけが、暗闇の中では浮いていた。


 「私を、罪歌を、愛してください。静香さん」


 よく見ると、彼女がいつも身に着けているバーテン服は、無残にも切り刻まれていた。そして胸の辺りは、赤黒く血で染められている。おびただしい血の量だ。その赤に気付いているのかいないのか。


 「静香さん、起きてください。起きなくちゃ、罪歌が貴方を愛すことが出来ませんよ」


 少女――――園原杏里は、大量の血がこびり付いた自身の頬や制服と共に、真っ赤な日本刀を携える。
 すると、再び、歪んだ愛を吐いた。


 「早く、早く愛を確かめましょう? ……私たちの愛は、10回や20回じゃあ確かめることが出来ないんですから…………」


 そうでしょう、と杏里は息を詰める。
 そして、また。杏里は、動かない彼女の骸に罪歌を勢い良く突き立てた。……変わらぬ愛を、交わす為に。



 ■思い、想い、重い




プリーズ、プリーズ!


 目かちかちかした。何だと思ったら、携帯の液晶画面。ついでに誰だっていう疑問もわいたから、画面から視線をひょいっと外してみた。案の定、不動だった。……絶賛不機嫌中な顔をしている。


 「どうした?」
 「メールくれや」
 「唐突だな」


 練習終わった後だっていうのに、突然意味分からないこと言うなっての。呆れながら言うと、不動は自身の行動に悪びれることなく、「うっせえ」と一蹴してみせた。お前は何様か。


 「お前さ、何で俺よりアイツとのメール多いわけ? 何、浮気してんのかよ? だっせー」
 「…………たくさんツッコミがあるけどな、アイツって誰だよ、鬼道か?」
 「鬼道ちゃんじゃねーよ、あの眼帯ヤローだよ」


 佐久間かよ! てか何でお前佐久間に焼きもち焼いてんだよ! ……とか内心ちゃぶ台ひっくり返した。まぁ顔には出さないけど(不動が怖いし)。
 とにかくその真顔を何とかしようと、俺は不動に向かって、真実を言葉に出した。


 「言っとくけどな、佐久間からのメールは殆ど鬼道関係のメールだよ。しかもノロケ。鬼道がどれだけカッコいーかとか、どんだけサッカー上手いか。……そのノロケを俺が聞いてやってるだけだ」
 「はっ、へタレ源田か」
 「ごめん、殴って良いか?」
 「とにかくな、」

 
 最近お馴染みのへタレという単語に反応したのか、右の拳が自然に握り締められる。そのまま頭のてっぺんに落としてやろうかと考えたけど、行動の途中でまたもや不動の声に遮られた。


 「たまにはメールしてこいよ、あほ源田」
 「…………あ、お、……おう」
 「よし、オーケー」


 不動が俺の返事を聞くや否や、携帯の液晶画面を閉じる。何かすんなり話は終わったようだ。少し安堵した。


 「……あー……」


 とりあえず――――メールするの面倒だなーどんなメールしようか、てか何かメールすることあんのかなぁ、だりぃー……とか思いつつも。不動の嬉しそうな笑いを見て、正直可愛いと感じてしまう俺は、相当こいつにベタ惚れしてんだなぁ、と。
 俺は、いわし雲を見ながらぼーっと考えていた。



 ■プリーズ、プリーズ!



 ただただ、欲しい(、貴方だけが欲しいのよ)。




■→←=一方通行


 だん! お前がアイツの腹を踏む。
 がっ! お前がアイツの髪を引きずる。


 「はぁ何なの意味分かんない何でコイツなのこんな生きてる価値が無いような才能も努力も全て存在しない奴が何で兄さんに守られてるのありえないよそもそもコイツはただの弱者であり虫けらであり人間なんだよ兄さんがたとえ地球が後十秒で爆破するかどうかぐらいの確立でコイツのことを好きいや少し記憶の片隅に置いているぐらいだとするでしょそれでもコイツが兄さんに守られる義理は無いでしょそうでしょ兄さんそれが分かったらさっさとコイツを潰して僕と一緒に生きようよ×××しようよ合体しようよ1つになろうよ愛し合おうよ兄さんだからコイツを××して良い?」
 「うっせぇ黙れ脳みそ出すぞ」


 ■→←=一方通行


 お前と俺の価値観は違うんだから。