【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】
作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

D灰
Ⅰ think so
「はい、出来たわミランダ」
「……有難う、リナリーちゃん」
ミランダの両手を、労わるかのように手のひらで包み込むと、リナリーはそう微笑んだ。その微笑につられて、ミランダもぎこちない、だけどどこか嬉しげな笑みを浮かべてみせる。
やはり、女性2人がこうして笑いあう光景は、どこか微笑ましい。背景にお花畑が見えそうなほど、2人間柄は良好に見えた。
……そんな雰囲気を醸し出している2人の内の片方の、少しパーマがかった髪の女性―――――ミランダ・ロットーは、ふいに眉を八の字にして、か細い声でぽつぽつと言った。
「……それにしても、リナリーちゃん御免なさいね。裁縫の練習になんかに付き合ってもらっちゃって…………せっかくのお休みなのに」
「ああ、気にしないで? 私も裁縫好きだし、何よりミランダと居れるんだから嬉しいわよ! ……だから、そんな申し訳なさそうな顔しないで。そんな顔されちゃあ裁縫できなくなるわ」
茶化すようにして苦笑するリナリーの膝元には、裁縫道具と多数の絆創膏、更に絆創膏に関するゴミが散らばっている。そしてミランダの指に惜しげもなくべたべたと張られた絆創膏。
――――何も知らない者から見ても、裁縫で失敗したミランダに、指の怪我の処置をしているリナリー。という簡単な構図が出来上がるだろう。
「……本当に、ごめんなさい……」
「別に良いって言ってるでしょ? ……むしろ、そんなに謝られたくないわ。だって私、」
――――――『ミランダにありがとうを言ってもらいたくて、こうやってお手伝いに来たのに』。
恥ずかしげに、だけどしっかりとそう語ったリナリーは、やはり照れくさかったのか、顔を赤くして俯いてしまう。彼女のくせのない黒髪が、耳にかけていたのにさらりと落ちる。綺麗な髪だ、とミランダは、こんな状況下でもぼんやりと思った。
そしてさりげない動作で、流れるような手の動きで、その柔らかな黒髪を手にする。
空気のように軽く、絹糸のような柔らかさと繊細さを持つリナリーの髪。ミランダはそれを見つめていると、なぜか無性に温かい気持ちになれた。
「あ、あの、リナリーちゃん」
「なっ、何? ミランダ」
少し慌てたような声を出しつつ、リナリーは未だほんのりと赤く色づいた顔をミランダに見せた。ミランダはとても幸せそうな笑顔をしていて――――――
――――――すると、ぽろりと。
ミランダの双眸から、突然一粒の雫が滴り落ちた。
その後は、もう雫は止まらなかった。ぼろぼろと濁流のように、涙の滝は勢いを増すかのように、ミランダの頬の曲線をなぞりつつ落下してゆく。
そんな、突然泣き出してしまったミランダを心配するかのように、リナリーは絆創膏だらけの彼女の両手をもう一度手にとった。
「……ミランダ? も、もしかして、指痛い? だったら、薬つけ直して――――――」
「ねぇ、リナリーちゃん」
リナリーの困惑をよそに、ミランダはどこか優しい声でリナリーの言葉を遮る。いつもはしないその行動に、リナリーは少しだけ驚いた様子でミランダを見るために顔をあげ――――――
「………………っ」
――――――――そこで、言葉を失った。
「ねぇ、ミランダ……どうして、笑ってるの?」
だって、ミランダはぼろぼろと溢れ出る涙を拭おうともせずに、笑っていたのだから。ただただ幸せそうに、満足そうに、嬉しそうに。その姿にリナリーは違和感を感じ、問うた。
「……リナリーちゃんは私にありがとうって言ってもらいたくて、こうやって色々なこと、手伝ってくれるのよね。……いつもいつも、いくら私がどんくさくても、怒らずに、愛想をつかさずに」
だがミランダは、不安そうなリナリーを静かに抱きしめ、話し出す。ミランダが好きな彼女の柔らかい黒髪は、今はミランダの肩越しにふわふわと揺れていた。
「うん……そうよ。それが、どうしたの?」
「あのね、リナリーちゃん。リナリーちゃんが私にありがとうを言って欲しくて私を愛してくれてるのなら――――――」
――――――――『私は、貴方にありがとうを言うために貴方を愛してるのかもしれないわね』。
……その瞬間、ミランダの想いがこめられた言葉を聞いたリナリーは、目を三日月のようにして笑った。口元には、ミランダと同じ――――幸せそうな、笑み。
「……ねぇ、ミランダ。あのね、」
そこまで言うと、リナリーはミランダの肩から顔をあげると、大粒の涙を頬に伝わせている彼女と向き合った。
そこで、一旦言葉を止め、そして――――――
「……Ⅰ think so.」
――――そう、一言だけ呟いた。
――――――もしも、私の生きる意味が貴方なら(、ねぇ。貴方のありがとうは誰の為のものかしら、)――――――

小説大会受賞作品
スポンサード リンク