【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

PLEASE DON'T CRY!


 泣いている君を見かけました。初めて見る表情でした。
 だから私は、君の隣に座ってみました。

「さや……か……っ、さやか……ァ……っ」

 君が珍しくぼろぼろと涙を零しているものだから、私は少しだけ戸惑ったのです。だけど、貴方にもこんな弱い一面があるのだなぁと分かって、同時に少し嬉しくもあったのです。
 いつもポニーテールにしている君の緋色の髪は、今では別の紅に汚れていました。そもそも髪をくくっていなかったのです。きめ細やかな肌には青痣やすり傷がたくさんあって、戦ったことは明白だったのです。

「何で、何でお前が犠牲になんだよ……お前は……お前は幸せにならないと、俺はやり切れねェっつーのォ……」

 そしてまたさやか、と。私の名前を幾度と無く愛おしげに繰り返す貴方の美しいこと美しいこと。傷ついた貴方が綺麗なのでは無くて、たぶん私は――こんな姿になってしまっても私を愛してくれている貴方のことが綺麗だと思えるんでしょう、と考えました。
 
(お願いだから、泣かないでね)

 ――隣に座っていることを、まだ生きている君は気付かないだろうけど。

(君がくれた贈り物を、私は大切に持っているから。君がくれた想いを、私は大事に感じているから)

 ――それでも、君にこの声が届いて欲しいと。私はそう願うんだ。



 ■PLEASE DON'T CRY!



 だから、後もうちょっとだけ君の隣で見守らせてね。
 ――きっとね。君の笑顔は、誰よりも美しいだろうから。




(無題)


 君が捨てたこの場所で、私は生きている。
 君が捨てたこの場所を、私は愛しく思う。
 君が捨てたこの場所は、私を優しく包む。
「君が捨てたんだ、なら私がどうしたって良いじゃないか」
「俺が捨てたからってお前が好きにしたって良い理論なんて存在しねぇよ」
「捨てたものを拾ったのは私ですよ」
「拾ったものを捨てたのは俺だ」
 別にこんな場所に未練なんて、と今まで自分が大切にしてきた場所を平気で罵る彼の瞳を私は見たくはない。現実として受け入れたくはない。だから私は小さな声で一生懸命反論する。

(君の証を、否定しないで)




未来ノットイコール俺


「さよなら」

 ――小さく呟いた言葉は誰のものだったんだろうか。
 手向けの花にと選んだ薄桃色の花の名前を、俺は知らない。
 きっと、夏美が選んで来たものだから相当高価なものなんだろうけど。

「俺達は終わってないけれど、」

 あぁ。そもそもこのスーツもネクタイも全て先週買ったばかりのものだ。光る黒革の靴も肩が張るような黒いスーツも、汗と涙で彩られていた俺達には似合わない。
 ――不自然だ、俺も。これも。

「だけど、始まったものをずっと続けて行く訳にはいかないから、」

 これ、と視線を下に向けると丁度そこには一つの棺があった。黒い、黒い棺。死を閉じ込めて、この世には一切黄泉の香りなど残さないような重圧を持つ、その棺。
 それさえもこのチームの他の誰かが用意したものだ。おそらくこういう方面にも知識豊富な鬼道や豪炎寺辺りだろう。やっぱり、クールなあいつららしい外観をしている。
 くすくすと笑いがこみ上げた。可笑しい、何故可笑しいのだろうか。

「だから俺達は、とりあえずここでコンマを打っておくよ」

 いつものはち切れんばかりの笑み、までとは言えないけれど。
 長い長いこの話に、一旦の終わりを打ち込もうと俺は棺へと花を投げ入れた。
 真っ暗な闇に、まるで光のような色合いの薄桃の花が映える。
 同じように風丸も、鬼道も、豪炎寺も、ヒロトも――みんながそれぞれの花を棺へと向けた。青や赤、黄色や白。みんなの手によって、黒い闇には色とりどりの光が咲いた。

「この光は、俺達から未来のお前達へのプレゼントだよ」

 笑う。悲しさと切なさのせいで困ったように笑ってしまったような気がする。
 俺から声をかけられた『棺の中のそいつ』は、何も言わない。いや、目蓋を閉じているから寝ているんだろう。
 ――そのままで良い。始まりがくるまで、そうやって。

「じゃあな、××」

 未来で仲間と笑いあっているであろうそいつの名は、この世界ではまだノイズとなって、俺達には届かない。だけど俺はそいつの名を紡ぐ。

「未来でもよろしく、な」

 ――お前はお前のストーリーを、語っていけよな。



 ■未来ノットイコール俺



(きっと、サッカーでつながっているさ)




某兄と某妹のよろしくない日常ペース!


「兄さんを箱に詰めてみたらー幸せになれるとー思ううーっううー」
「何故に炉心融解的な感じで恐ろしいことを呟くのかね妹や」
「愛してるからですうっうー――――真っ白な光ー体内で綺麗ー」
「何か弾けた!? 真っ白な光が体内でピカッ!? うはぁ伊織ナイスSさすが俺の愛妹超グッジョブ」
「興奮しないでくださいよ兄さん」
「軽蔑しないでちょうだいよ妹よ」
「嘘だけど」
「嘘だけど」
「……いや、ライトノベルのネタパクリだなんて洒落にならないほど寒いんですよ? リアルではライトノベルの熱い台詞もリア充やパンピの『うわ、何その言葉いつ使うのwwwwちょww』みたいな感じですべてパーですよ兄さん」
「ははは、ライトノベルのネタだなんて失礼な。これは俺・の・嫁! のネタです」
「真顔で嘘っぽーい。てかみーさんを嫁にしちゃいましたか」
「みーちゃんだったっけまーちゃんだったっけ、どっちにしろあのSさとヤンデレさは――――――ッキャッホォォォォォォイ! 伊織、今すぐ俺に静雄を投下して! もしくは本気切れした一方通行とかさァ! アクタベちゃんでも可! いやむしろ全ての怒りよ俺のところに集まれェェェェェ!」
「素敵な元気玉ならぬ怒り玉の集め方ですね兄さん。悟空もびっくりですよ。まさかこんな一般人が全世界の怒りを集めようとしてるだなんて。……やってることは世界平和につながりそうなのに、理由が欲望に忠実過ぎて褒めにくいです……」
「キタァァァァァ!」
「来たんですか」
「俺が立つこの中心からマグマ突き抜けて真下、そこから地球を百八十度分俺のこの座標まで走ってきてさらに一歩か二歩南に歩いたとこにいる人の怒りを俺は受信した!」
「あ、その怒り私です兄さん。ヒント、兄が酷すぎて目も当てられない」
「そして胸も当てられない、と」
「そうそう。ってコラー」
「棒読みで怒りつつ的確に目を抉ろうと構えるそのポーズ……貴様、もしや……!?」
「もしかしなくても実のいも」
「フリーザだったのか!」
「人の声遮っておいてボスキャラ認定だなんて……兄さん、貴方はこの竜咲伊織ちゃんを敵に三百六十度回しちゃいましたよ!」
「ごめん、それ今の定位置に戻ってきてるよ伊織」
「…………くっ、揚げ足をとるのがお好きなようで」
「俺が好きなのは俺を蹴ろうとした足に真正面から臨むことだけだよ。……あ、そういえば伊織」
「何ですか潤兄さん」
「何故に名前プラス兄さん?」
「何故に名前プラス兄さん?」
「訊いてるのはこっちだよいおりん」
「訊かれてるのは私でしたねじゅーりん」
「うーん。じゅーりんって言われるとさ」
「はい?」
「蹂躙を思い出してひどく卑猥な思いにな――――、って伊織、何で逃げるの」
「すみません。兄の嗜好と思考に妹という名の素敵な美少女伊織ちゃんはもうどん引きです。おいとまさせて頂きます」
「そのどん引きが……良いッ!!」
「帰ります」
「嫌です」
「ちょ、腕掴まないでくださいよー」
「じゃあ伊織は俺の下半身の腕を掴んだら良いんじゃないかな!」
「どんな交換条件というか脅迫ですか。訴えますよ」
「はい全裸で」
「そこはせめてはい全力ででしょう。全裸と全力間違えないでください」
「わざとだったのだ!」
「どうでも良いのだ! …………ってことでさらばっ!」
「あ、ちょおま、伊織、いお、伊織ィ――――――!」


■某兄と某妹のよろしくない日常ペース!



(この後無事に妹は兄の膝元に擦り寄ってきました、と)
(過去のこと捻じ曲げてまでアンタは妹を傷つけたいんですか?)




手をつなごうと試みたがどうやら君の方が、


「手、貸して」

 ――と腕を伸ばした先には、彼女のどん引きな顔があった。……何でだろう。カップルらしいことをしろと言ったのは向こうのはずなのに、酷く間違ったことをしている気分になる。一瞬だけ『ザ・ワールド! 時よ止まれェ!』と某ネタを呟きたくなった。嗚呼哀れなり漫画脳。

「……手を貸して、返ってくんの?」
「返さずに私の右手で握っときましょう」
「まじうっぜ」

 最近の子はすぐにうっぜとかきっもとか、ボギャブラリー貧困だよ本当。そう思うのに何故か胸にはざくざくと貧困な脳から搾り出された言葉の端くれが傷を作る。いってー。

「恋人なら手の一本や二本や三本くらいくれよ」
「恋人なら相手の手が三本ないってこと知れよ」
「…………三本目は股に生えtぐえぶぅ!」

 殴られた。痛い。下ネタはアウトラインらしい。
 ――あーあ、期待はしてなかったけど、手つなげないのって何気にへこむわー。
 ぽつりと心中で呟いて、空を仰いだ。茜色の空は眩しい。夕日がきらきらしてて、顔中に熱い光を浴びる。制服が汗に濡れる感触はどこかねっとりとしていた。
 
「夕日、綺麗だにゃー」
「そーだねー」

 良い反応。彼女は長い横髪を耳にかけた。可愛いうなじがちらりとかくれんぼした。

「……あのさー、手つないでみる?」
「え、……うん」

 ――まさか、そっちから言うなんて!?
 内心びっくりしたなんて、こんな日常の中ではささいなことで。



■手をつなごうと試みたがどうやら君の方が、