【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】
作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

甘党彼女。
目の前に突き出されたのは、銀色のスプーン。スプーンの窪みには、雪を想わせる白い粉が一匙分あった。
「…………やばめの、白い魔法の粉?」
「違う。ただの砂糖だ」
持ち前の黒髪をさらさらと揺らして否定する彼女は、困惑したように眉をひそめた。
四年前も可愛いと思ったけど、四年後の現在はその可愛さが刃の輝きのような危うげな綺麗さに変化している。クールで頭脳明晰で、さらには美人な彼女はそういうことを口に出したらかなり怒ることを私は知っていた。だから、あえて口に出さない。
「? 私が、これを食べれば良いの?」
「あぁ」
無邪気な風体を装い、首を傾げる。椅子に座った状態の私と、立ってスプーンを突き出している彼女とじゃあ、背丈がだいぶ違う。ただでさえ私の方が背が低いのに、とちょっぴり不満。
彼女は頷くと、私の唇に銀色を押し当てた。ひやりという冷たさと、唇を割っては言ってきた砂糖の甘さが重なる。
それが彼女の願いならば、と私は微かに唇に付着した砂糖を舌で舐めとると、スプーンを「はぐっ」と口の中に収めた。じわりとした甘さ、粉っぽいぱさぱさとした感触がアンバランスで、気持ち悪いような美味しいような、妙な感情に囚われる。
「……甘い、んだけど」
「そうだろ。甘いだろ、紫苑」
もごもごとスプーンをくわえたまま反論めいたことをした。すると、ネズミは満足そうに微笑んだ。私の困ったような表情に気付いているのかいないのか、スプーンを手放してゆったりとした表情になる。
口の中は砂糖のせいで甘さだけになり、少し気分が悪くなりそうだった。水が欲しいなと思ったけど、彼女の満足そうな笑顔の前に、私は何も言えなかった。
「甘いもの、いっぱいあげるからな」
「何で?」
「お前は、私の大切なものだからだ」
ふわりと肩を抱きしめられる。細い彼女の体は、私が抱きしめ返したら折れてしまいそうだ。白い肌は艶かしく、頭を撫でる時にさらりと滑らかなのを感じた。
淡い桃色の唇は弧を描き、私の耳元に寄せられる。
「苦いものも、辛いものも、酸っぱいものも。……大事なお前には、そんなものやらないから。おいしくて甘いものだけ、お前にはやるよ。だってお前は――」
――大切、だから。
そうしてまたにこり、と微笑まれた。観客を魅了するその微笑に、私は歓喜や幸せを感じることは出来なかった。まるで首を絞められる時のような、息苦しさを覚えたのだ。
(あぁ、彼女は宝物の愛し方を知らないんだ)
甘い香りがする。花の香りを放つ黒髪をお返しのように撫でると、彼女は体をぎゅっと密着させてきた。柔らかい感触がしてるようなしていないような、と言ったら彼女は怒るだろうか。
ふいに、大きな声で笑いたくなった。献身的な彼女の体を、滅茶苦茶にしてやりたいような衝動が、突き上げてくる。
しかし私は“優しい紫苑”なので、真っ白い羊の顔をして、彼女の体を抱きしめ返した。
「甘いものだけやるなんて、ただの飼い殺しじゃないか?」
彼女に聞こえないように呟いた言葉は、全然、甘くなかった。
■甘党彼女。
かがみよ、かがみよ、
ワンピースを、買った。
いつものおてんばな性格と真反対の、桃色のワンピース。明るいピンクの花柄をした、白いレースがいっぱいついた、ワンピース。いつもぴしっと黒とか赤とか、派手な系統で固めている自分には似合わないなぁ、なんて思いながら買った。
本当はこんなの似合わない、なんて知ってる。
でも、一緒に買いに来ていたモモカにすごい勢いで勧めてきたから。苦笑いしながら、レジへ向かってしまったんだ。心の片隅ではモモカに両手を合わせながら、口の中では「モモカが、モモカが言った……」と繰り返す。あぁ、ごめん。また平謝りをした。
膝上ならまだミニスカートのように履けていたんだろうけど、今回かったこれの丈は膝下だ。微妙な丈のため、どうしても着る人をおとなしく、清楚に見せてしまう代物。
今まで女らしく彼に接してこなかった自分さえも、女という枠に嵌めてしまう、桃色の鎖。
「似合わない、なんて言わせへんからなぁー、ボッスン!」
今くわえているぺロキャンの味は、あまずっぱいハニーレモン。彼が唯一好きだと笑ってくれた、個人的にはそこまで好きじゃない味。
おとなしい、女の子らしい子が好きなんだと口を尖らせて抗議してきた彼は、この姿を見て驚くんだろうか。それとも、いつもの興味なさそうな顔でおかしいところを指摘してくるんだろうか。
近くにあった鏡の前で、ワンピースを着た自分の姿をもう一度眺める。一回転すると、ひらりと円状にフリル付きの裾が揺れた。
「……髪の毛、黒に染めたろうかな」
お気に入りの金髪の毛を指先で弄ぶ。
何気なく呟いたその一言。何気ない言葉の裏に隠された本当の意味を、少女はまだ自覚していない。
――これは恋ではなく、女らしくないと言い張る彼へのただの対抗心だ。
自分を彼の友人という枠に嵌めようと、彼女はそう言い張る。
鏡の前で何度も自分の姿を見つめながら、言い張る。
■かがみよ、かがみよ、
彼の好み通りになりたくて、彼女は渇望する。
鏡に向かって、笑みを振りまいて。
ロスト・チャンス
――もしこの背中を踏み潰したら、どうなるんだろう。
前を歩く彼の背中は女の私と違い、大きく広い。以前、熱中症で倒れてしまった時におぶわれたこともあるので、女の子一人ぐらい軽く運べることは発見済みだ。
今日はスカートで、しかもその下にはスパッツも何も履いていない。バスケをする時に履き替えるのが面倒で、いつものタイツも無し。この姿で、思い切り足をあげて彼の背中を蹴り上げたら、きっと中身は丸見えだろう。
(……大きいなぁ)
やっぱり、彼は大きい。背の高さも、才能も、センスも、何もかも。改めて目の当たりにすると、自分と比較してひどく落ち込む。光と影という言葉は自分からよく使う。しかし彼の前だと、影という言葉を使うことに躊躇いを覚えた。
足の長い彼の歩幅は、私と比べて大きい。だから私は、一緒に歩くたびに何度も小走りするはめになる。ぼんやりと考えている私を放っておいて、彼はすでに階段を下り始めていた。「待ってくださいよ」聞こえていないだろうな、と思うけれど言わずにはいられない。
「青峰君、待ってください」
階段の上から、先に下り始めていた彼を呼び止めた。呼びながらも、急いで彼のところへと歩を進める。段差に気をつけようと足元に集中していた私は、階段の途中で、眼下の彼を直視してしまった。
(あ、)
そこで、彼の背中を正面に構えてしまった。
さっきまで、思い切り踏みつけてやろうと考えていた背中。才能に見合うプライドと、強さを併せ持つ彼の背中だ。
――あの背中に私の靴跡を残してやったら、どんなに愉快だろう。
妄想のような想像をする。私のキックなんて意にも介さずに、むしろ私の方が足を痛めそうだ。それを見て、彼は怒りそうだ。スカートでそんなことするな、だとか、痛ェだろうがテツ、だとか? またあの時のようにおんぶしてくれるのが、一番嬉しいかもしれない。
(ぐっちゃぐちゃに、あの背中を、)
いや、もしかすると私の予想外の行動を受け止めきれずに、そのまま階段を転落してしまうかもしれない。目を大きく見開いて、口をあんぐり開けて。階段の下まで真っ逆さまに落ちた彼は、体中の骨という骨を折って、もう今年のインターハイ出場は無理になるかもしれない。ヒキコモリというのになって、一生死んだ目をして過ごしていくかもしれない。
(そしたらきっと、彼は生きがいを無くして、)
――あぁ、どうしよう。
頬が熱くなっていくのを感じる。私は今、彼が崩壊することを考えて、最高に幸せな感情に浸っている。頭から血を流して転がっていく彼の姿が見たくて、たまらない。どきどきと胸が拍動を打ち、指先が冷たくなってゆく。
ローファーの先を、緩慢な動作で彼の背中へと向けた。生白い膝が、スカートのひらひらから現れる。靴底は丁度、彼の背中へ。ちょっとしたスナイパー気分だな、と失笑。私が狩人なら、彼は獲物なんだけど。
「何してんだ、テツ」
「………………あ」
我に返った私の前に立っていたのは、今この瞬間、私の脳内で一度死んだ男だった。片足をあげて静止した私を一瞥すると、彼はだるそうに口を開いた。
「……おせェんだよ、置いてくぞ」
「そんなこと言いますけど、いつも青峰君、私のことちゃんと待ってくれてますよね」
「うっせェ。……ほら、行くぞ」
不機嫌そうに、眉間に皺が寄る。浅黒い肌をした頬は、引き攣った笑みを象っている。私に指摘されたことが、当たっていたのかもしれない。不器用な彼の行動に、頬が緩む。
くるり、階段をさらに下りようとしたところで、彼は振り向いた。怪訝な表情で、私を見つめて。
「……なぁ、テツ」
「何ですか、青峰君」
「お前、何でさっきからずっと笑ってんの?」
――あれ、笑ってましたか?
頬に手をやると、たしかに。唇が半円を描いていた。さっきから、というと彼が私のために止まってくれた時からだろうか。とすれば、私が笑っていた理由は一つ。……そして、若干落胆している理由も、一つ。
「さぁ、わかりません」
「何だそれ」
くくっ、と彼が笑いを零す。
私は同じように笑おうとしたけれど、残念な気持ちが滲んで、薄く微笑むことしか出来なかった。
(あぁ、チャンスを失った)
■ロスト・チャンス
「そういえば、さっきパンツ見えたぞテツ」
「そういうことはミスディレクションしておいてくださいよ」
「意味わからん」
How many times do you need a chance?
「男同士だ」
「外国行けば良いじゃん、外国」
ぎゅ。肩を掴む力が強まった。
壁に押し付けられて、さらに両肩を掴まれたままで。背中は教室の壁にぴたりとくっ付いている。もうこれ以上、逃げ場なんてないのだ。目の前の彼を見て感じた。
「外国なぁ……俺達、まだ学生だろーが。そんな金ねーよ」
「バイトしようか。前みたいに、祐希がやってたみたいにさぁ」
「……面倒くせぇ」
悠太の顔は髪の毛が垂れてよく見えない。俺の腰辺りの高さで俯き、両腕を突き出すようにして俺の肩を掴む悠太。その体勢はまるで、両腕にしか力が灯っていないみたいで、肩からその先は力が抜けてぐずぐずになっているようだった。さっきからゆらゆらと頭部が揺れている。
放課後の教室は人気が皆無で、夕日が静かに俺と悠太の横顔を照らしていた。廊下に足音が響く様子もないようだし、今日は皆早く帰ったのかもしれない。
「それにほら、アレだ。俺、外国行ってもすらすら外国語喋れねーし」
「喋れないの? だいじょぶ、俺もたいして話せない」
「大丈夫じゃねーだろそれ。…………てかさぁ、そもそも俺達、――」
「――ねえ、要」
ふいに名前を呼ばれて、俺は言葉を続けるタイミングを失った。
冗談めいていた悠太の温度が、急に降下していくのを肌に感じる。悠太が顔を上げ、今の今まで隠れていた表情を露わにした。
何人もの女子を虜にしてきたであろう端整な顔立ち。オレンジの光が射す瞳は真っ直ぐに俺を射抜き――そのまま、ゆっくりと口を開いた。
「あと何個、否定の材料があったら……要は頷くの?」
「っ、え――っ、と……」
「俺は後何回、何々だから駄目だって言われなくちゃなんないの?」
一瞬だけ、悠太の表情が泣きそうになった。だがそれも、ほんの零点、何秒かぐらいだ(そんな短い時間の中でこいつの表情の違いがわかってしまう俺は本当にこいつに惚れてるんだろうけれど)。すぐに普段のぼんやりとした顔に戻ってしまう。
「何回言ったら、要は俺の気持ちをわかってくれる?」
「何回、っつっても……」
俺が言い淀むと、突然、悠太の首がかくんと折れ、また頭を垂れてしまった。髪の毛が動きに沿い、さらりと宙で揺れる。同時に、俺の肩を圧迫していた力がふっと消える。どうやら、悠太が両腕の力を抜いたようだ。両腕がようやく自由になる。
しかし自由になったのも束の間で、すぐに俺の両腕は悠太の腕によって行動不可能にされる。
さっきまで痛い程に俺の肩を掴んでいた腕は、今は俺の体を緩く抱きしめていた。恋人がするみたいな行動に、俺の心臓は鼓動を高鳴らせてしまう。慌てて言葉を紡いだ。
「おい、悠太、お前ちょっと、おい」
ぐいっと無理に腕を除けようとするけど、悠太の抱きつく力は強過ぎて、上手く除けることが出来ない。
「……要」
「なっ、何だよ」
再び、名前を呼ばれた。それに応えようとすると声が裏返ったので、俺は妙に恥ずかしくなってしまう。かっかと熱い頬を動けないこの状況でどう隠そうかと俺が考えている間に、悠太はぽつりと呟いた。
「あと、何回?」
――ああ、またその言葉かよ。
苛立ち混じりに振り払った右腕で、俺は真っ赤になっているであろう顔を、拭うようにして隠した。
■How many times do you need a chance?
「……さあ」
(答えはもう分かってるんだ)
(でも答えを出したくないのも分かっている訳でありまして、)
貴方が欲しかったもの、私が得られなかったもの、
「ごめんなさいね、神原」
素っ気無く放り投げられた言葉を受け取るのには時間が必要だった。
慌てて言葉を拾った時には、愛する彼女はすでに私とはだいぶ距離をとっていた。とて、とて。踵の音を踏みしめるように、彼女は私を真っ直ぐ見つめながら離れて行く。
――やめて、行かないでくれ。
声を出して彼女の行動を否定しようとする、が、そこで私は声を出せないことに気付いた。喉に何か得体のしれないものがつまったような、曖昧な痛みを感じる。喉を塞がれているというのに呼吸は出来ていて、私は立ち眩むこともなくちゃんと立っていられる。声を出せないということと同時に、ここは夢の中なのだとも理解する。
そして、苦笑。現実と対して変わらない彼女の行動は、私の傷口を抉り、嘲笑を浮かべるのには十分だった。
――あぁ、私は夢の中でさえ、彼女の手を掴めないのか。
いや、掴もうとすれば掴めるのだ――私は声を出すのを諦めて、自分の考えを改めた。なぜなら、私と彼女の間隔は確かに広いのだが、私のこの自慢の脚力を使えば、すぐに詰められそうなぐらいの距離だったからだ。
理解した次は、実行。人間はそういうものだろう。
私は先ほど喉を押さえていた左手を彼女の腕をとるために伸ばそうとし――――異質さに、気付いた。
――あ、あ、……あぁ……。
異質さというのは、少々違うかもしれない。ただ夢の中の私にとって、その“腕”は随分と場違いなものに見えた。夢の中なのだから、リアリティはたいして重要ではないというのに。なのに――私の左腕は、現実と同じように――――毛むくじゃらの獣の腕、だった。
現実の方がまだマシだ、と思う。だって、いつも私の左腕は包帯を巻いて、この毛むくじゃらが見えないようにしているし。改めて突きつけられた現実の欠片に、嫌悪感が宿った。
「あぁ、気付いたの?」
「……………………………………………………え、」
あ、声が出せる。
あまりにも簡単に喉のつっかえは取れたみたいだ。遮るものが無くなった喉からは、驚きと呼吸の混じったものが零れ落ちた。
戦場ヶ原先輩の言葉に応えようと、顔を上げる。視界に映るものが、毛に覆われた左腕から、戦場ヶ原先輩の端整な顔立ちに変わるはずだった――――
――――のだが。
「っあ、……あ、ららぎ先輩?」
気付けば、戦場ヶ原先輩の隣には、私の恩人であり尊敬すべき先輩である――――阿良々木先輩が、平然と立っていた。ってか、え? 何で阿良々木先輩が? 彼の姿を視界に入れた瞬間、左腕が疼いた。嫉妬という感情が、どす黒く、より黒く私の心を燃え上がらせる。
阿良々木先輩の表情は、どこか達観したように、だけど寂しそうに、嬉しそうに、辛そうに、可笑しそうで。
私は、彼の表情に気をとられ過ぎていたのだ。
「ごめんな」
だから、彼の放った言葉の意味をすぐに理解出来ずにいた。「…………ふぇ?」夢小説の天然純粋少女のような反応をしてしまった。少し自己嫌悪。しかし自己嫌悪に浸っている間なんてなかった。
くるり。戦場ヶ原先輩がまるで長年連れ添った夫婦のような滑らかさを孕んだ動きで阿良々木先輩の腕をとり阿良々木先輩はそれに応えるように朗らかな笑みを浮かべて戦場ヶ原先輩と肩を触れさせて二人は私に当然のように背を向けてさらに遠くへと歩み出した!
そこまでの動作を網膜に焼き付けたところで、やっと私は声を荒げて、動くことが出来た。
背中には薄っすらと嫌な汗をかいていた。眼球がやけに熱く、周囲の目(と言ってもこの世界には私と彼女らの3人しかいない)も気にせず、泣いてしまう。
「や、やめてくれ! 戦場ヶ原先輩ッ!! わ、私はそんなのは、は――嫌、だ……」
あぁ、だからやめてくれ。
夢の中なら、幸せなままでいさせてくれ。
私の願いを嘲笑い、世界は私を傷つける。戦場ヶ原先輩たちは、悠々と“恋人”らしく寄り添って遠くへと歩いていく。
貴方のことが大好きで、愛して欲しくてたまらない私を置いて、だ。
阿良々木先輩は何も言ってはくれない。私の無様な泣き顔なんて意に介せず、向こうへと、さらに向こうへと歩いていく。
「待ってくれ、阿良々木先輩! 私が、わ、私が先に戦場ヶ原先輩のことが好きだったんだぞ!? 好きなのに、今でも、今でも大好きなのに――どうして貴方はそんな簡単に、私から戦場ヶ原先輩を奪うんだよ、なあ!!」
叫び、泣き、問い、怒り。
どうにかして戦場ヶ原先輩をこっちに向かせたくて、私は手を伸ばそうとした。でも、手を伸ばすことは私には叶わない。
私の視界の端に、例の毛むくじゃらの――――獣の腕が、映りこんだからだ。
それを――獰猛な獣の香りが鼻を掠めた瞬時、私の両目からは滝のように涙が溢れ出てきた。とめどなく、濁流のように。
「 ! 、 !! 、 !」
何かを、悲しくて悔しくて苦しくてたまらない何かを。
吐き出した私に残されたのは、ただの獣の腕。
欲しいものを手に入れられなかった者に残された、ただの印だった。
■貴方が欲しかったもの、私が得られなかったもの、
(せんぱい、せんぱい)
(わたしはあなたのことが、いまでもだいす、)

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