【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】
作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

さあ、奪い返しましょう?
…………臨也さん。
アンタは俺から大切なものを、たくさん奪っていきましたよね?
沙樹や黄巾賊――――――きっと俺が知らないところでも、少しずつ、少しずつ。俺の大切なものを削り取っているんでしょう。だって、それがアンタのやり方なんですから。卑劣で残虐で巧妙で悪意を含んだ。そんな、確実に相手を傷つけるやり方で。
さらに、アンタは過去の俺から大切なものを奪っていったのに、今は、現在の俺から大切なものを奪おうとしてる。それは、帝人だったり、杏里だったり、はたまた沙樹との関係だったり。
「…………だから、良いですよね? 臨也さん……アンタの……大切なもの、を……俺が奪っても……」
「――――っ!?」
俺の眼下で、あの池袋の喧嘩人形とさえ呼ばれた彼の瞳が、不安そうに揺れた。息を呑む音が静かに響き、俺はしばらくその焦燥に満ちた表情を笑顔で堪能する。
ああ、これで奪える。アンタの大切なもの――――――平和島、静雄を。
「……静雄さん、勘違いしないでくださいよ? 俺は、アンタが憎くてこんなことしてるんじゃないんですから……アイツが……あの野郎が、俺のものを全部奪おうとするから……っ!」
「……お前」
「安心してください」
高ぶりそうになった感情を必死に押しとどめ、俺は心配そうに見上げる静雄さんに笑みを浮かべた。すると相手は、その場違いな笑みに恐怖を感じたのか、青褪める。
でもそんなことを気に求めず、俺はおとなしく俺に組み敷かれてる静雄さんのバーテン服のボタンを一つずつ、丁寧に外し始めた。俺の行動に察しが付いたのだろう――――――静雄さんは俺に、脅えた視線を向けた。
「紀田、お前もしかして……っ」
「あー……分かりましたか? さっすが臨也さんにいつもされてるだけありますねーっ! ……ま、あの野郎はこんな丁寧にしないだろうけど」
頬を朱に染めた静雄さんに屈託のない笑顔で答える俺。そんな俺を静雄さんは視線だけで「やめろ」と告げてくる。だけど俺は気付かないふりをして、彼のズボンのベルトを外しつつ、言った。
「静雄さん、俺はアンタを壊しますよ。徹底的に、二度とアイツが触れることの出来ないぐらい…………だけど、大丈夫ですよ? 絶対、アンタは傷つけませんから……俺、好きな女の子を傷つける趣味は無いですから……あーでもこの場合は好きな男かな?」
「き、紀田……っ!」
――――こっちの気を惹くような、悲しそうな声を出さないでくださいよ。
そんなことされたら、俺はついついアンタを抱きしめたくなるじゃないですか。抱きしめて、あの野郎よりももっと深く愛したくなるじゃないですか。
(…………分かってるんだ)
心の中で呟く言葉。そう、分かってるんだ。
自分がまだまだ壊れてないって、まだ大切なものは壊されてないってこと。俺が直していけば、ちゃんと元に戻るものだということ。……これはきっと、俺のただの八つ当たりってことを。
(だからこそ――――――だから、駄目なんだよ……何とかして、あの人の大切な平和島静雄を、俺の大切なものにしたいんだよ……)
きっとこれは――――自身の小さな恋心から始まった、歪みに歪んだ、この街で最低の恋物語だ。
(俺はきっと、この人を自分のものにしたいだけなんだ……その理由に、あの野郎を持ち出してるだけなんだ……きっと……)
顔をあげる。泣きそうになった。だんだんと視界がぼやけるのを感じ、ついつい流れても無い涙を触ろうとしてしまう。
眼下で脅えている、自身の好きな人を見やる。綺麗な人だ。髪は染めているはずなのに、元々金色だったように思える。切れ長の目は、きっとモデルにでもなれそうなぐらい、相手の心を射止めるものだろう。
それらを見ていると、また泣きそうになった。いや、泣いているんだ。ぽたぽたと滴る雫を、拳で拭いつつ、もう一度顔をあげた。
(嗚呼、何で俺は大切な場面で……この人のこと、好きって言えないんだろう……何で、愛してるって抱きしめてやれないんだろう…………何でだよ、何で、何で……!)
――――――何で俺は、こうもちゃんとした恋が出来ないんだろうな?
俺は何時でも、その答えを求めてる。

小説大会受賞作品
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