【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

それは狂おしい程の


 好きだよ、シズちゃんと。
 そう何度も呪詛のように呟かれる意味とは、何なのだろうか。少なくとも、俺をこんな風に滅茶苦茶にしてしまったことへの申し訳無さの現われだろうか。
 ――――――いや違うか、とゆるりと頭を振った。このノミ蟲がその程度のことで謝ろうとしたり、許しを乞おうとしたりする筈が無い。


 「愛してるさ、シズちゃん」
 「……るせぇ」
 「愛してる、愛してるよシズちゃん」



 ――――だからうるさいっつってんだろ。
 血の味がする口内で、怒りを言葉に代えてぶちまける。……実際ぶちまいてるのは俺なんだが。白く濁った液体が、俺の顔や腹を汚している。不愉快過ぎて、最早だるさと嫌悪感しか俺は感じていない。


 「あのね、シズちゃん。俺は今まで誤っていたよ。……俺はずっと、罪歌の言うことは馬.鹿馬.鹿しいと考えていたんだ」
 「…………だから、うぜぇっつってんだろノミ蟲……黙れ……」



 さっきまでくわえ込まされていたからか、顎がだるい。きっと口の端も切れているだろうし、口ン中は液でべとべとだろう。嗚呼、気持ち悪い。
 虚ろな表情で奴を見返すと、奴――――臨也は、ただただ狂喜を顔に浮かべて笑っていた。手元には注射器。多分、アレに弛緩剤か何かが入っているのだろう。……少なくとも俺の体は、あの注射器の中の薬によって今動けないのだから。

 ――――――それが、動けねぇ理由でもないんだが。……というか、何回ヤったんだっけな……10回は余裕で越してる気がする……。


 そう思い、全身白濁塗れの自分の姿を視線だけで眺める。臨也のナイフを使ってでも傷つけられないこの体は、今ではノミ蟲の快楽の道具と成りえている。皮肉なものだ、だって俺はノミ蟲のことが大嫌いなのだから。
 ……なのに、何故俺は未だノミ蟲の好きなように弄ばれているのか。


 「だけどね、シズちゃん。罪歌は間違えていなかったんだよ」



 そこでぐいっと、臨也は狂った瞳で俺の濁った瞳を覗き込んだ。そして心底楽しげに、俺の頬についた自身の精液を舌で舐め取る。ぞわりとした快感が頬を流れた。


 
 「愛する者と本当に愛を交わそうと思うのなら、俺達は、同化して、子孫を残していかなければいけなかったんだよ、シズちゃん! 俺は今までそれに気付かなかった! 全く……今までの自分が嘘みたいだよ」
 「………………嘘、なのは……今のテメェだろーが……ってぇ……」
 「と、いうことでね! シズちゃん」



 何度も挿入行動を繰り返され、鈍い痛みを発している俺の腰に跨り、臨也は笑う。元から俺の言葉は聞こえていないようだ。というか、俺しか見ていないのに俺は見ていない。それは、目の前のテレビの中の林檎が手に取れないようなもどかしさに似ているんだろうか。

 ――――俺は、頭が上手く回らねぇせいか、その辺のことはよく分からねぇが。


 溜め息を洩らしつつ、跨られた臨也を上目遣いに見つめると、臨也は俺を頬を愛おしそうに、大切そうに柔らかい手つきで撫でた。
 












 「……だからさ、シズちゃん。これからも、同化して、愛し合おうよ。大丈夫、君の仕事場のトムさんには無期限で休むって連絡入れといたから! それで、沢山沢山2人だけで愛し合おうね!」
 「……ばぁか……」


 もう、面倒だ。……ってオイ、無期限休暇ってお前ナメてんのかノミ蟲。
 そう言う気力も無く、ただ眠さと快楽が俺に手招きしている。抵抗することさえもやめた俺は、もしかしたらこのノミ蟲が好きなんだろうか。いや違う。俺はコイツが大嫌いだ。いや大好きなのか? いや、俺は――――――……



 「馬.鹿? ああそうだろうね、確かにそうだね! だって俺達は男同士だしね。だから、何十回も、何百回も、何千回も。……何度も何度も、シズちゃんが俺の子を孕んでくれるまで、何時までも永遠に愛し合おうよ、ね! そうすれば――――――」







 ――――――シズちゃんは、俺から逃げられなくなる。




 そう呟くと、ノミ蟲は、第2ラウンドを告げる、ベルを鳴らした。
 





 嗚呼、何て狂おしい程の(、重過ぎた愛情なんでしょう)