【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

とあるファミレスでの彼


 ……最近、アイツあんま構ってくれないんだよなぁ……何でだろ……? あ、お前何かきいてねぇ? 何で構ってくれねーのかーとか。ん、だってお前アイツと同クラじゃんか。で、知ってんの?
 ふむ―――――ふーん……ってお前の今日の占いの運勢聞いてどうなんだよ!? え、惚気は十分? いい加減友人の前でいちゃつくな……? ちょ、待てって、いちゃついてなんか……! てか、だから相談してんだろこの野郎!
 ……え? 
 キスしときゃなんとかなrrrrrrrrrrrrrrrちょまぶふっごふあっぎょふああああああああキスなんて出来ないっての! 察しろってばぁか! も一つばぁか! 俺がへタレなの知ってるくせに! この天然どえす! 
 くそ、もう良いよ! 自力で何とかするもんうわあああああああああああああああ!!



 ■とあるファミレスでの彼



 (…………おい、会計どうすんだ……?)




それでも私の手を握ってくれてる彼がとてつもなく愛おしいのです。


 「…………雨、降ってるな」
 「え、まじかよ」


 厚い灰色の雲がかかった空を見上げ、源田は言葉を洩らした。靴の踵を治していた佐久間も少し驚いた声を出す。そして小走りで昇降口からグラウンドのすぐ近くへ。そこでようやく源田の言ったことが真実だと知り、顔をしかめた。


 「うわーやべぇ、俺傘持ってねぇ」
 「え、ほ、ホントかよ?」
 「うんガチで」
 「…………へー」


 話している最中にもぽつぽつと音をたてて地面に吸い込まれている雨粒を背に、佐久間は苦々しい顔つきのまま脱力した。佐久間の家は帝国学園からは少し遠い。今は小降りだが、この様子だと走って帰っていても途中に必ずずぶ濡れになるだろう。と、佐久間は1人物思いに耽った。
 佐久間は、対照的に頬を赤くし始めた源田(何故に)を横目で見ながら、もう一度落ちてくる水滴に目をやる。あぁ、だんだんと雨音が強くなってくるのを感じるわーと溜め息をついた。


 (あー、どうしよう、まじやべぇ。……今日は辺見から借りたエr……じゃなくて聖本があんのになー……ぜってぇ濡らしたらアイツ怒るよなぁー……目にみえてるっつーの)
 「あ、あのさぁ佐久間」
 「ん?」


 何だよ、と振り返ると、そこにはやはり顔を赤くしたままの源田が。もじもじとスカートの裾をつついている。よく分からないが、何か言いたがっているようだなと佐久間は考え、どうしたという言葉を飲み込み、言葉の先を促した。


 「どうした源田、お前帰らねーの? 雨強くなってるぜ?」
 「いや、あのさぁ……」
 「だから何だよ」
 「あの、私…………かっ、傘をさ」
 「傘?」
 

 一旦、深呼吸。
 ぱくぱくと口を開閉しながら、頬を紅潮させる源田。が、しばらくして、胸につかえていた言葉を吐き出すように口を開いた。


 「お、折り畳み傘あんだけどさあ! か、かかか貸してあげようか…………?」
 

 ……いや、語尾小さくなってんぞ。
 そうツッコミたい思いを抑え、佐久間は源田の言葉を反復する。ふむ、折り畳み傘。確かによく見ると、源田の腰より下の部位(決して尻なんて言わない)から、赤い棒状のものが見えた。そこで再度、佐久間はふむ、と脳内の整理をし始めた。
 今俺が困ってる状況で必要なものは? アンサー、折り畳み傘。
 じゃあ今その折り畳み傘を貸してくれようとしてんのは? アンサー、――――――片想いの相手。


 「…………じゃあ、ゆーことねーじゃん」
 「は?」
 「いや、何でもねー。あーうー……源田?」
 「な、何だよ」
 「…………傘、入れてくれ」
 「あぁ、うん、わ、分かった!」


 ずいっ、と赤い傘を前に出される。いやいや、そういう意味じゃなくて。ていうかお前、俺にこの傘貸したらずぶ濡れになるだろ。濡れ濡れだろ。ブラ紐透けるぞコラ、他の男に見せるなよ! ……とか何とか考えてるのかないのか、佐久間はその源田の行為に気まずそうに目をそらした。しかし、やがてぽつりと呟く。


 「…………いや、俺と相合傘しようぜーなんつって。い、意味だったんだけど……」
 「あ、相合傘……(ぼぼっ)」
 「いやいやいやいやいやいやっ変な下心は無いからなっ! うん、俺には一切そういういやらしい思いは無い、とっ、思う! う、うん!」
 「…………そ、それはそれで傷つくような……」
 「な、何でだよ!? ――――あー! もー!」

 佐久間はしょぼん、としてしまった源田の手を掴む。同時に傘もばさりと開く。やけに手際が良い。照れ隠しのつもりだろうか。
 そして、耳まで真っ赤にして叫ぶ。


 「ほら、帰るぞ!」






 ■それでも私の手を握ってくれてる彼がとてつもなく愛おしいのです。







 (……て、手汗かいてねぇよな……!?)
 (ヤバイヤバイヤバイヤバイ顔赤い絶対赤い)




相対レゾンデートル


 初めは嫌悪感の塊みたいな奴だと思っていたのに。何故今自分は彼に押し倒されているんだろうか、とキルネンコは視線をずらした。あ、切れて良いってことなのかなぁ。どこか非日常めいているこの状況に、正直キルネンコは付いていけていなかった。……まぁ、自分は常に異常な状況下に置かれているのだが。


 「好きです、キルネンコさん」
 「生憎僕は兄さん以外は全て汚物に見えるんだよね、ってことで退けろ汚物。潰すぞ」
 「それで貴方が僕を愛してくれるのなら」
 「……君って意外に最低だよね」


 兄さん以外の奴なんて消えろ、がキルネンコの持論である。資本主義ならぬ兄さん主義。それを知っているものなら、誰も彼ら双子に近づきはしないしましてや愛そうとはしないのだが――――彼、プーチンはキルネンコに爽やかに笑んでみせた。


 「お互い様ですね」
 「最ッ低」
 「有難う御座います!」
 「褒めてないからね、コレ」


 結局こいつは自分を愛そうとしてるのか、それとも兄さんを愛そうとしているのか。
 それだけが問題だ、とキルネンコは深く冷たい息を吐く。もしもコイツが自分を好きだというのなら、この体をコイツはどのようにして愛すのだろうか。唇が兄さんのものだとしたら、彼はキスはしないのだろうか。この頭が兄さんのものだとしたら、彼は頭を撫でてはくれないのだろうか。


 (ああ、自分は彼に愛してもらいたいと思っているのか)


 上から圧し掛かってくる彼の体温は、キルネンコの体温と溶けて混ざり合った。





 ■相対レゾンデートル




 自分が他人と入れ替わっていたとしても、それでも君は俺を愛せるのかい?




春になってもこのままで


 指の冷たい感触が嫌だ。だから私は毎年冬になると、いつも彼女に会いにゆく。


 「……また来たの、臨美」
 「うん、だって寒いじゃん」
 「あー確かに寒いね」
 「ん」


 早く私に温かさを、と椅子に座ったシズちゃんに抱きつく。その際にスカートが捲りあがって太ももに冷気が……! と一瞬シズちゃんの膝上で固まったけど、そんな心配は要らなかった。シズちゃんがスカートのプリーツに沿って、裾が捲れたのを直してくれたから。


 「あーあったかー」
 「お前ほんと冷たいな、氷みたい」
 「シズちゃんは温かいねーあ、無駄に胸に脂肪がついてるからかな? それなら臨美納得」
 「外に引っ張り出すぞ」
 「それは勘弁」


 ふへへ、と鼻をすすって笑って見せた。これからも寒さは増すだろうけど、彼女がいれば何とかなりそうだねぇ、と1人ほくそ笑む。
 ――――あー、あったかい。






 ■春になってもこのままで




 まあ、そんな一筋縄じゃいかないだろうけど!




誰のマリオネット?


 人形みたいな顔をして笑う、醜い俺の声。きっと他人から見ればただの和やかな談笑に見えるんだろう。けど違う。
 ……俺は、今日も毒を吐き、自分を守ってるだけ。


 (好き)


 可愛い吹雪のようになんて、最初は思っていたけど。どうせアイツも、嘘つきなんだろう? ――――そう考え始めたから。


 (大好き)


 優しい人は誰もいない、……いないな。笑顔で自分を傷つけてく心が、痛い、痛いな。


 (でも、苦しいなんて言えやしなくて)


 いつも、悲しみも不安も隠して、笑ったふりをするけど 。お前の目を見つめた途端に、なぜか涙が出そうだから。だからと言って、


 (もう俺を見ないでなんて言葉は言えないから)




 *




 僕の右手を預ける人はいないし、左手は不器用だし。今日も躓き、ただただあの子の願いに頷いて。
 あの子の機嫌を取るために、次は誰を嫌いになればいい?


 (……どうせ僕は、誰かのマリオネットなんだな)



 今の僕はまるで、理解しない異体みたいな状態で。だからって頑張ることも出来ない人形だから、明るい未来自体、期待出来ない。


 (そんな僕を、鏡に映る君の眼が、僕の心の傷跡を笑ってるね)


 ……きっと、涙も乾いてそのまんま、過去を永遠に彷徨い歩いてるだけなんだ。





 *





 決して切れない、幼馴染という糸で操られた、俺という人形が為すカラクリ仕掛けの生活を。
 逃れようと無害な笑顔に隠れてても、きっと、何も変わらないから。
 だから、もういっそ、俺を壊して――――






 ■誰のマリオネット?


 (その意図を糸として引きちぎる誰かを、求めて、彷徨って)