【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】
作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

D灰
そして私は何度も笑う
誰かのすすり泣く声で目が覚めた。うっすらとぼやけた視界をよくよく見張ると、泣いているのはやはりリナリーだった。男のくせに泣くなよ、と言おうとしたが、体中に電流のような強い痛みが駆け巡り、息をのむ。特に、腹部はズキズキと痛みが酷い。
「ユウ、ごめんなさい」
ああ、殴られたのかと理解するのには、この痛みとリナリーの泣き声のおかげで、10秒とかからなかった。
「俺、またやっちゃったんだ、ごめんなさい、許してください、ごめんなさい……」
ぼろぼろと涙を零して、今にもタヒにそうな表情のリナリー。おいおい待ってくれよ、そんな表情したら、私は何も言えなくなるじゃないか。ずりーよ、ずるいよ。リナリー。
「……っ、……良いんだ、リナリー。また怖い夢でも見たんだろう? あの、皆が消えちゃう夢か? ……大丈夫、私がいるから。大丈夫、大丈夫……」
私の思いとは裏腹に、壊れてしまった口と身体は、リナリーを優しく受け入れてしまう。ああ、もう駄目だな私。全て壊れてしまうそうだ。
「ごめんなさい、ユウ、許してください、嫌いにならないで、俺、何でもするから、だから、だから……」
「……大丈夫、私、嫌いにならないから。許すから。……だから、な? 泣き止めよ、リナリー。私、いるから。ずっと、ずっと。永遠に……」
「ユウはいなくならないよな? 大丈夫だよな? スーマンや元帥みたいに、消えちゃわないよな? 信じて良いよな?」
「うん、うん。信じて良いから……だから、泣き止めよ、リナリー。私、お前のこと大好きだから。愛してるから……全部全部、許すから……」
大丈夫だから、さあ前を向いて(、この道化師めが、と誰かが叫んだ)!
Glad or Sad?
…………今の私には、立ち上がる気力もないらしいということが今判明。就寝体制に入る。皆のもの、寝ろ――――――と、酷い痛みを訴える脳で戯言をほざく。嗚呼、痛ぇ。
何で私は午後の授業から放課後まで、ずっと保健室で寝てなきゃいけねーんだ。てかそろそろ中間テストだぞ、私、今回赤点取ったらまじでコムイに襲われる。いや、ドリル的な意味合いもあるしごにょごにょな意味合いも勿論持つ。……ごにょごにょは想像してくれ、こっちはお腹が痛いんだ。
時は放課後。
私――――神田ユウは、女の子の日に昨日なった。本当は生理、って言えば楽なのにな。リナリーがそう言ったらすぐ殴るから……。アイツ、いっつも大人しいのにそういう時だけは凶暴だ。
話が脱線したが。
どうやら、女の子の日は1日目より2日目の方が重いという噂は、私には嫌な意味でぴったりのようだ。だった今それを実感してるしな。あー痛い。
「しつれ……します……ーう……ユーウー」
「ッてっ……!?」
がらがらと扉を開けて入ってきた来訪者。その声は、現在自分の恋人であるラビという青年の声で――――――私は、驚きによる腹痛に小さく悲鳴をあげた。その悲鳴が聞こえたのか、「ユウ?」と自分を探そうと、ベッドの方に歩み寄る足音が聞こえる。
私は急いで寝ている振りをしようと、布団にもぐりこんだ。夕暮れの日で温まった布団は、こちらに寝る気がなくても睡魔を呼び寄せてきて――――ついついうとうととまどろみそうになる。
が、愛する恋人がカーテンを開けた瞬時、そのまどろみは遠く消え去り、目が一気に冴えた。
「ユウー……ってやっぱ寝てるさ?」
……うわっ、来た。
普通の女子高生ならば、彼氏が来た時に絶対言わないであろうナンバーワンの台詞を私は瞼を閉じたまま心中で言った。それにしても、心の中でとは言え、ラビが可哀想だった。
「……ちぇー、つまんねーさー」
私が狸寝入りをしているのにも気付かず、ラビはのそのそとベッドの端に浅く腰掛けた。ベッドのスプリングが、2人分の体重をこらえるためにギシリと音を発す。あんまり近い距離だから、ついつい目を開けそうになった、だけど我慢我慢。
「……あーのさぁ……ユウ、寝てる、よな?」
と、何故かさっきまでのだらだらとした口調とは打って変わって、ラビは突然しどろもどろになりながら、寝ているのかと私に問いかけてきた。馬.鹿か。寝ているんだったら返事を返す訳が無かろうに。……まぁ、そんなトコも愛おしいのだが。
うっすらと目を開けてラビを盗み見ると、ラビは
「……あんさ、ユウ。俺さー、ユウがこういう……何? あの、ホラ……女の子の日? って奴で辛そうなの見るとさ……心配とか、不安な反面、嬉しくもあるんさ」
―――――そんな私の思いにも気付かず(当たり前だけどな)、ラビはぽそりぽそりと言葉を零し始めた。……こっちに聞こえてるっつーの、ばぁか。
「ユウはいつも辛そうだけど、だけどそれは、近い将来、俺との子供産んでくれるための準備だ……って思えてさ。こんなん直接言ったら、ユウすげー怒りそうだけど。バ.カ言うなって。だけどさー……それでもやっぱ、ユウは俺の為に苦しんでくれてるのかな? って、思うんさ」
……。
不覚にも、あの赤毛兎の言葉に何も反応できなくなった。あの兎、いつも愛してる愛してるうるせーから、ギャグかと思ってたのに。本当は、こんなに……その、子供とか考えてたなんて……。
そう思うと、不意に涙が滲んできて。どうしようもない思いが、どんどん膨らんできて。
「――――でも、痛そうで、泣きそうなユウ見てたら――――俺、どうして良いか分かんなくなって。嬉しいのに、実際ユウがこうして目の前で寝てたら、泣きそうなんさ。女の子しか分からねーし、俺がどうこうして直るもんじゃねーし…………けどさ、すげー嬉しくて………………やっぱ俺、可笑しいよな……」
「可笑しくねぇよ」
ついつい、出てしまった言葉。
俺が寝ていると判断していた阿.呆兎は、目を真ん丸にした変な面でこっちも呆然と見ている。う.ぜぇ、そんな「何で?」って目で見てくんじゃねぇよ。
「え、ユウ起きtもがっ」
……ラビは、焦燥した様子だったけど。だけど、私はそんなのお構いなしに。頭痛も腹痛もだるさも辛さもみんなみんなほっといて。
そして、体全体でラビを抱きしめた。夕日と同じ色の綺麗な赤毛が、ふわふわと私の頬をくすぐる。くすぐったい。だけど、心地よさとほんのりとしたラビの体温が気持ち良い。
「……あの、ユウ」
「可笑しくないから」
「……え?……」
「可笑しくないんだからな」
体を離すのは、どことなく名残惜しかったが、固まっているラビを、引き剥がす。そして、未だ気の抜けたような表情をしている――――全く、馬.鹿みてぇな考えを持っていた私の大事な大事な恋人を――――目を細めて、見据えた。
「可笑しくなんかない。私は、そういうお前の優しい言葉だけでこんな痛みも吹き飛ぶ。お前のそういう心配性なとこだけで、嬉しい気持ちになれる。お前の体温で、私は暖かいと感じられる。…………それだけじゃ、それだけのことがあっても。それでも――――――お前は可笑しいって、思うのか? ラビ」
「俺、俺は――――」
私の言葉に、突然狼狽し出すラビ。その瞳には、段々と大粒の雫が溢れんばかりに溜まってきて。声を発しようとラビが口を開いた瞬間、ぼろぼろと、ぼろぼろと。零れてしまっていた。
「……っ俺、は、……ユウと幸せになりたい」
「…………そう、か」
「だけどっ、…………ユウには、痛い思いとか、辛さを味わってほしくないんさ……」
「…………うん。それで?」
「だ、から……だからさぁ……」
そこまで言葉を紡いで。
ラビはぎゅっと。俺の手を握ると、顔を伏せて嗚咽交じりの声で、ひとつひとつ言葉をかみ締めるかのようにして。大事そうに、大事そうにその一言を言った。
「…………俺は……こんな、ユウが痛い時や苦しい時は、手しか握れねぇ奴だけど……ユウと、ユウと一緒に居ても良いさ? ユウの隣に居ても、良いんさ?」
「………………良いに決まってるだろ」
……ばかうさぎ。
真っ赤な顔でそう呟いた私の顔を見たラビの顔は。
凄く、幸せそうだった。

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