【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

彼←嘘→彼女


 「貴方はみーくんじゃないね」

 あら、ご名答。確かに私はあなたのボーイフレンズのあっきゅんとやらではないわ。ちなみにあっきゅんは今、貴方の為に豪雨の中で雨達とレスリング中よ。どう? 気になる?

 「別に、……って言ったら嘘になるかな。ふふ、嘘だけどって奴」

 …………。
 貴方って、確か初期ファミコンのような知能と性能の人間ではなかったかしら。少なくとも、私の知ってるあっきゅんのハニーの頭はミートパイという風の便りを森の熊さんから頂いたのだけれど。

 「ん、ん? あー、それは××君の前でのまーちゃんの話。今の私は御園マユだよ」

 そこに大した違いはあるの? まるで初期ファミコンと巷で有名なウィルとやらの違いのように(どや顔)。

 「いや、貴方が思ってるのってウィーのこと? ウィルって……どんだけ時代遅れっていうか英語読めないのっていうか」

 教養と常識なんて母の胎内に置いてきたのよ(さらなるどや顔)!

 「まぁ、どうでも良いけど。貴方が私の物になるんなら」

 …………(二回目)。
 え、ちょっと待って頂戴な、何でそんな頭の螺子ぶっ飛んだ話に摩り替わったのかしら。カッコウでももうちょっとマシな卵の掏り方するわよ。ていうか貴方はあっきゅんのことをらぶゆーなんじゃ?

 「うん。まーちゃんはみーくんが好きなのだーのだのだー! みーきゅんみーきゅんっ、私みーくんだらけの世界でらぶらぶちゅっちゅしたいー! みーくんだけで良いー! ……みたいな?」

 いや、みたいなじゃなくて。というか貴方、もしかしてそr

 「フリに決まってるでしょ。こんな頭の痛い子、実際にいたら困るし? ××君――――ううん、みーくんは、よくこんなまーちゃんのお世話できるねー! さすがまーちゃんのお婿さん、ぱちぱち」

 貴方って、嘘吐きね。

 「今更?」

 ……そう、今更の話ですわ、すわすわ。



 ■彼←嘘→彼女


 それでも彼は、それが偽の×だとは知らないのかしらね。
 とても可哀想だわ。……嘘だけ、ど。




お互い様なそうです。


 「お前さ、科学側(こっち)に来ることできねぇの? ……そんな、魔術と科学側を行き来せずにさ」
 
 ふと口をついて出た言葉だった。浅い眠りから覚めた俺は、ぼーっと1時間前の情事を思い出しながら、上半身を起こす。発情期の猫みたいに、何度も何度も交わったせいか、砂を飲んだかのように喉が乾いている。それに足して下着とズボンしか履いてないので、肌寒い。床でぐったり中の土御門も寒いかと思いきや、ロッカーから拝借したのか、誰かのジャージを羽織っていた。確かに夜の学校だから人気はない。だが人のジャージを素肌に羽織るってどうなんだ。

 「にゃー……無理だってぇ……」

 土御門は話すのも億劫そうなぐらい疲れていた。それを見ると、俺は1時間前までの自分の行動に、少し罪悪感を感じる。それが表情に出ていたらしい。土御門は「あ、平気平気だにゃー」と痛む腰をあげて、土御門は笑った。

 「どっちか片方になんて、無理ぜよ」
 「どうして?」
 「んー、……例えばにゃー」

 土御門はそこで言葉を切ると、床に散らばった衣服に手を伸ばした。

 「この土御門さんは、魔術側と科学側を行ったり来たりしてる訳だぜい?」
 「ふむふむ」
 「多少、自分を過信した評価をつけるとするならば、俺がこうして魔術と科学の間を動くことによって、この2つの世界の均衡や平行は保たれてる――――って思うんだよ」

 天秤みたいにさ、と片手にシャツを、もう片方にはズボンをという形で、土御門は両腕を平行に上げた。俺は胡坐をかいて相槌をうっている。

 「だからにゃー、俺はこっちだけって訳にゃーいかないの」
 「……一途じゃねーのなー」

 俺の皮肉めいた言葉に、土御門はにんまりと口角をあげて返す。

 「お互い様でしょ?」


 ■お互い様なそうです。





 ぼろぼろの彼女を、そこにみた――――御琴はそう思い、前髪を後ろへとかきあげた。前髪を流したおかげで視界は広くなったのに。……本当に大切なものは、何を見えちゃいない。御琴は俯こうともせずに、ただ眼前で横たわる、傷だらけの自身の後輩を静止する。ぴくりとも動かない。微かな息をしていても、瞳は閉じた瞼によって遮られていて、いつもみたいに自分を映そうとはしない。
 
 (嗚呼、これは罰なのだ)

 御琴は震える右手を彼女へと伸ばす。しかしその動きも途中でぴたりと止まり、また元の位置へと収まる。

 (もしかして、この右手がアイツのような幻想殺しだったなら、この子を救えたのだろうか)


 いつもは気丈に振舞う彼女が、初めて傷をみせた。
 それは、御琴にとって、最悪の―――――




 ■罰




その一言が、ね。


  今日は結構運が良い日だと思う。天気は快晴。寒くもなく暑くもない気温。しかも授業は3時間で、今は昼休みだ。それに、御兄さん手作りの弁当を広げていたら――――幸せの極みとしか言いようがないよねぇ、なんて。1人で自画自賛して、悪友2人と箸をとる。頂きます。粗暴に見えるこいつらも、実はすごく礼儀正しいのだ(いや、喧嘩っぱやいとかそういうのはナシで)。

 「うおー、フランシスーこのハンバーグ美味すギルぜー!」

 ん? そお?
 こっそり恋心を抱いてるギルちゃんから、賛辞の言葉が。御兄さんは手に箸を持っているけど、あえて弁当には手をつけない。何しろ、こいつらの喜ぶ笑顔こそが御兄さんの昼飯だから。……なーんちゃって!

 「フランシス、何にやにやしとんねん? ……あ、ギル! それ俺の卵焼きや!」
 「ケセセセセ! 早いもの勝ちだっつーの!」

 ぎゃあぎゃあと弁当の中身を取り合う2人に、生暖かい視線を送る。2人はそれに気付かずに、御兄さんの弁当を舞台に戦いを繰り広げていた。でも、ほとんどアントーニョが勝っている。ギルちゃんは初めの卵焼き以外、狙ったものはひょいひょいとアントーニョに横取りされてるみたい。
 ……まぁ、御兄さんは可愛い女の子の味方ってことで。
 
 「ギルちゃん、はい唐揚げ。御兄さんの自信作だよー」
 「あ、ギルずるっ! 卑怯や! フランシス、俺にも俺にもっ」

 自分が口に入れようとしていた唐揚げを御兄さんに取られたアントーニョは、箸を持って必死に講義。だけど、ギルちゃんは俺の方をきらきらした目で見つめた後、唐揚げを一口で食べた。そんで、きっとアントーニョの方に振り返って、叫んだ。

 「駄目だっつの! フランシスの料理は全て俺の!」
 「な、何やて! それずるい、俺もフランシスのご飯食べたい!」

 爆弾を放られた、気がした。
 本人は何でもないような顔で、平然とポテトサラダへと視線を向けている。それとは真逆に、俺は。心臓バクバクの中、ぎゅるぎゅると混ざっていく嬉しさと喜びの中から、一つの冷静さを一生懸命取り出して。
 
 「……ギルちゃん、女の子なんだから食べてる最中に喋っちゃ駄目だよー」

 何とか言った。こんなんで真っ赤になるとか。
 あー、俺って女々しい。1人で苦笑した。



 ■その一言が、ね。


 「美味いんだから良いじゃん」

 にひひと笑って、返された。




スイーツは私(僕)だけのもの


 「あんたはずるいのよ、」

 憎しみと悲しみと辛さと苦しみと憂いと甘さと希望と愛と絶望と切望と愛惜と愛憎と苦悩と非情と無情と劣情と。全部全部まぜこぜににて煮詰めて、出きたジャムのような。そんな声で、彼女は告げたのだ、僕に。憎い、憎い、と。

 「あの子の全ては、私が知っていたら良かったのに。あの子の甘さも苦さも酸っぱさも、全て私のものだったのに、」

 結局僕等は同じなんだ、と僕は彼女の腕を掴む。違うにきまってんでしょう、と払いのけられた。

 「あんたにあげるスイーツなんて、」

 一つもないわ、と彼女は舌なめずりをした。僕もだよ、ストッキング。



 ■スイーツは私(僕)だけのもの





 ――――欠片まで残さずに奪ってやる。