【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

さあ、おはよう。


 サボは、布団の上で抱き合い、夢の世界に浸る2人をべりりと引き剥がした。んー、と不愉快そうに目を開けるエース。サボは大声で、エースに一喝した。

 「いい加減に、起きろ!」
 「ああああああああうっせーサボ! ルフィ起きちまうだろが!」
 「お前が一番うるさいんだよエース!」

 怒りの叫びに対し、辛辣な現実を突きつけるサボ。サボは、今にも襲い掛かってきそうなエースを片手で制止しながら、今度は毛布で包まれている愛弟を優しくたたいた。

 「……ルフィ、朝だぞ。起きろ。じゃなきゃ朝飯食えないぞー」
 「ぐむー…………おー、おはよーサボーエースー」

 眠い目をこすりつつも、ルフィはサボに元気に笑んでみせた。その笑みを受けて、サボはエースに向けた表情とは真逆の紳士的な微笑をする。

 「おはよう、ルフィ」
 「ルフィおはよー! ……なーサボ、ルフィと俺との対応の違いが半端なくね!?」

 絶望に満ちた顔をするエースをさらっと視界から消し、サボはルフィがかけていた毛布を片付けた。ルフィはまだ眠さが残っているようで、しきりに欠伸を繰り返している。……だが、およそ13回目の欠伸を終えると、ルフィは疑問に満ちた声をあげた。

 「なープレゼントどこだ?」
 「…………ッ」
 「ぐうっ!?」

 言葉を失うサボと、痛いところを突かれ呻くエース。明らかに、そんなこと聞くなよ的なオーラを醸しだす2人。しかし、ルフィはそんなことも露知らず、無邪気な問いを投げかけた。

 「あれ? サボー、エースー、サンタからのプレゼント置いてねーか?」

 しばらく口を噤んでいたサボとエースは、気まずそうにお互いの顔を盗み見る。が、やがてサボの方が根気負けしたのか、サボは呆れたような嬉しそうな複雑な表情をし、ぽりぽりと頭を掻いた。

 「……あーもー…………」
 「んじゃ俺もー」
 
 そして、がばっとルフィの右側からルフィの体を抱きしめる。ルフィはその行動に驚愕し、重い瞼を上げた。何で? とエースの表情をルフィは窺う。首を傾げるルフィを見、エースはサボと同様に、勢いよくルフィの左側に抱きついた。

 「にしししししー」
 「ははっ」
 
 そして、抱きつく2人から単純明快な一言が。

 「俺達がプレゼントの代わりじゃ駄目か?」
 「俺らがプレゼントの代わりじゃ駄目か!」

 沈黙。ルフィはサボとエースという2人の兄からの発言を聞くと、しばらくぽかんとしていた。だが、やがて、口の端から小さな笑いが漏れる。それは段々と大きな笑いへと変わり――――

 「――――そんなん、いつもと一緒じゃねぇかよー!」

 と大声で言うと、抱きしめられたま両側のサボとエースを抱え込んだ。その言葉に、サボもエースも「だな」と互いに笑いあった。……3人の笑いは、しばらく途切れることが無さそうで。



 ■さあ、おはよう。


 

 いつもと違う朝でも、いつもと同じ朝でも、幸せなのには違いない。そんなことを考えながら、3人は満面の笑みを浮かべる。




冷たい指先は、君の心に直に触れた。


 「頑張って頑張って頑張って。それでも掴めなかったものは何だ?」
 
 外はすでに夜の帳が下りていた。濃紺の空と共に、窓からは白い光が薄っすらと差し込んでいる。俺は答えもせずに、彼に押し倒されたまま視線を空中へと仰いだ。強かに打ちつけた背骨や、現在進行形で掴まれている両肩は、インドア派の俺にはちょっと厳しい。
 なぜか、仕事場の電気は消えている。何でだったっけ、と仕事疲れで鈍った思考の中で考えてみた。が、思い出せないので途中でストップ。

 「お前はいつも何でもないような顔して、亜豆ばっかり見てるけど。俺のことなんか、って感じだけど」

 彼の言葉だけが、俺の鼓膜を支配する。恨むような、責めるような彼の調子。俺はたいした罪悪感も覚えずに、無言で突き通す。……知ってたことを、理解していたことを何度も責められても、困るから。
 目の前の彼が、ひゅっと息を呑んだ。窓を開けているので、冷気が俺達を取り巻いている。すっかり体は冷えてしまった。

 「ほんとは」

 震えた声。と、両肩を掴む彼の手が一瞬緩んだ。それをきっかけに、俺は冷たい床に手をついて、軽く上半身を起こす。そうしてやっとのことで、俺は彼の表情を窺えて。

 「…………ホントは、俺が一番大事なんだろ? 知ってるさ、それぐらい。だって、お前は――――」

 ――――俺のことが。その言葉と一緒に、俺の頬には何か冷たい雨が降ってきた。冷たい雨は惜しみなく、けど弱弱しく、俺の顔を濡らした。そこで俺はようやく、

 「欲しいものが、」

 掠れた声を発することが出来た。「手に入らなかったのは」。途切れ途切れの文章だけど、この冷たい空気にはよく響いた。冷たい空気に、冷たい雨。冷たい態度の俺に、冷たい雫を流す彼。……そろそろ、温かさを欲しても、良いんじゃないか? 1人心の中で、そう問いかける。答えなんて、誰にも求めないままに。
 小さく息を吸い込んだ。

 「……頑張っても掴めずに、欲しいものも手に入らなかったのは、お前だろ、シュージン」


 

 ■冷たい指先は、君の心に直に触れた。


 (そうかもなぁ)
 涙を浮かべながら、そう小さく苦笑したのは誰だったっけ?




貴方の優しさによりかかった、


 「おい、愚弟」

 片手に掴んだ肉の塊に、そう呼びかける。手の内から伝わってくるどくんどくんという拍動は、こいつがまだ息をしているということを物語っていた。こいつを引きずる度に、俺の家の廊下は深紅に染まっていく。汚ねぇ、といつもなら感じるはずなのに、現在の俺の脳内は焦りと怒りで占められていた。
 
 「くたばんなよ」

 その言葉にどんな意味をこめたのは、何年か経った今でも思い出せない。だが、俺の言葉に対して、うす汚れた愚弟が小さく息を呑んだのは覚えている。そして、その後。片手の肉塊が更にずっしりと俺に重みを分けてきたのも、覚えている。



 ■貴方の優しさによりかかった、



 「1人で歩けんなら歩け愚弟が(ごすっ)」
 「(兄さん痛い痛い痛い痛い死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……!)」




俺は彼の煙草のようです


 煙草のようだと比喩されたことがある。
 今まで、鰐のようだとか、白馬の王子だのと言われることは多々あったが、煙草だなんて比喩されるのは初めてだった。ここで反応するのは何だかフラミンゴ野郎に話しかけるようで嫌だったので、とりあえず俺はその言葉の先を静観しておくことにした。

 「居たら居たで俺の神経をぼろぼろのずったずたにして、俺に害を与えてよぉ。 近くにあったら手に余るの何のって」
 「……じゃあテメェが俺から離れれば良い」
 「そーいう訳にはいかねぇんだなぁ、鰐野郎」
 「あぁ?」

 あぁ――――ついつい、罵倒するコイツに反応してしまった。俺は若干の自己嫌悪と後悔をしながら、どすの効いた疑問符を返す。そこまでして、また俺はフラミンゴ野郎と会話しようとしていることにはっと気付き、自己嫌悪のリピート。
 俺の態度を見ると、フラミンゴ野郎はにたりと不愉快な笑みを浮かべた。そして話の続きを言うために、また笑う。

 「煙草っつーのは中毒性があるだろぉ? いる時には扱いが困るのに、いない時はいない時で俺をイライラさせるんだなぁコレが」
 「……それが俺だっつーのか、フラミンゴ野郎」
 「ああ」

 突然、にゅっと視界にフラミンゴ野郎が入ってきた。それも大画面でだ。俺は相手に見せ付けるように、視線を鋭くすると、顔を背けた。何だか、答えるのがとても面倒になったからだ。……それがこいつの言葉のせいかどうかは知らないが。

 「おい、鰐野郎」

 と、目の前のコイツは俺の顎を捉えると、口付けを交わそうと顔を近づけてきた。ふわりと、独特の酒や女の香りが鼻を掠める。あまりにも突然で、俺は不快感を隠せずに眉を顰めた。少しの焦燥を気取られないようにと、不敵に笑んでみる。

 「…………てめぇ、俺と居たら中毒になるんじゃねぇのか」
 「はぁ? 何言ってんだ鰐野郎」

 フラミンゴ野郎の呆れた声。腹が立つ、と奥歯を噛み締めた次には、何故か俺はフラミンゴ野郎の腕の中にすっぽりと収まっていた。まるで、さっきの言葉なんて無かったかのようにして。笑いを噛み殺しているような声で。

 「俺はとっくに毒されちまってるから、今更そんなの関係ねぇんだよ」


 ■俺は彼の煙草のようです


 俺の世界は今、ピンクに埋め尽くされた。




each other


 「ねぇ、アーサー」

 包帯が巻かれた両手で、フェリシアーノはアーサーの手をとった。その手つきは大切なものを壊さないように、と優しく丁寧なものである。しかし対称に、当のフェリシアーノの頭には包帯が、また服の裾は血に濡れている。

 「……あぁ、分かってる」

 フェリシアーノと向かい合ったアーサーは、ガーゼや絆創膏が貼られた頬を無理矢理動かして、不恰好に笑う。だけどもその微笑はとても幸せそうで、フェリシアーノもつられて目を細めた。そうして、傷だらけの2人は満足そうに、幸福そうに、微笑んで。
 そして、2人で呟いた。


 「もう、君だけが傷つかなくても良いんだよ?」
 「もう、お前だけが泣かなくても良いんだぞ?」


 
 ■each other


 ――――これからは、お互いに、2人で。