【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

小ネタ(やし伊達、クオミク、恋♂僕♀、荻因、杏さや、ロー♂千年、志摩燐)


「伊達さぁーん」
「間の抜けた声を出すな。……それで、どうした」
「愛してるの一言をですね」
「言うな」
「手厳しいですね」
「厳しくせざるを得ない」

 ――――八代→伊達、ナインエス


「クオって、髪の毛綺麗だよね。双子なのに、すっごい違う気がする」
「その分ミクは足も腕も腰も細いし、まつげ長いだろ」
「え、そうかな」
「そうだって」
「褒めてくれるクオに照れ照れ」
「照れ顔が可愛いミクにデレデレ」
「ちょ、二人とも鬱陶しい」

 ――――クオミク+レン、ボカロ


「ずっと俺のところにいると思ったのになー」
「ちょっ、まともなこと言ってそうで片手では服の中まさぐろうとしないでくださいよ」
「あれま、キスマーク発見」
「ただの虫刺されですけど何か」
「…………………………………………あれっ。得意の嘘だけどー、は?」
「先生が泣きそうなんで、言いません。てかほんとにただの虫刺されですから」
「…………あぁ、そう」

 ――――恋僕♀、みーまー


「なあ荻、俺がもし毛から人間の血肉へ情報を求めるのに変えて、そんで快感を覚えたらどうする? 警察犬のルール通り、俺を殺す?」
「……二人でどっか孤島でも行って、お前は俺の肉を食らって、食べる肉が無くなれば息絶えれば良い」
「そっか、そしたら一緒に死ねるな」

 ――――荻因、毛探偵


「……一緒に来なくて、良かったのに」
「っは、しっかりあたしの服のすそ掴んでおいてよく言う」
「うるさいわね! 単に右手が勝手に動いてるだけ!」
「はいはい、んじゃぁもう少し右手を自由にさせといてあげろよ。あたしの服が、さやかの右手から離れないみたいだから」
「………………うん」

 ――――杏さや、まどかマギカ


「千年公ぅー、いつになったら僕と結婚できるの?」
「……とりあえず、性別を変えるところですかネ?」
「ふぅん。面倒だから、このままで良いぃ?」
「…………別に、良いんじゃないんですかネェー?」

 ――――ロー♂→千年、Dグレ

「ぎゅうー」
「ちょ、志摩おまちょ、あっつ、暑い」
「奥村さんは細身ですねぇー」
「何で先生口調なんだよ、てかちょ、ほんと暑い」
「愛だからですねぇー」
「こんなんが愛とか訳分かんねぇ」
「とりあえず志摩君、姉さんから離れてくれますか? 射殺はその後で」

 ――――志摩→燐♀+雪、青エク




だから、私を受け止めて


 あまりに俺の名前を繰り返すから。あまりに俺に笑顔で接してくるから。あまりに俺の後ろをついてくるから。あまりに俺に優しすぎるから。……どれもこれも気に食わない理由だ。気に食わないのは眼下のこいつだけのせいではない。こんな強行手段を使ってしまった自分に対してだ。

「あまりふざけるなよ、八代」

 両手首を一まとめにされ、胴体を晒すような格好をしているのに。自分の貞操の危機だというのに、目の前の女は薄い笑みを称えていた。
 水面にたゆたっているような、愉快そうな笑みだった。


■だから、私を受け止めて


 ADEMという名の研究所の、とある会議室で。薄暗い室内の中、俺は十ほど歳の離れた部下を机の上で押さえつけていた。部下――八代は、男に襲われそうになっているというのに、微笑をたやさなかった。

「……ふざけてませんよ私」
「ふざけているから言っているんだ」
「ふざけてたら、こういう時に顔真っ青にして泣きますよ」

 ひたり、と淡いピンクの唇が弧を描く。自分が今どういう状況にあるかは理解しているらしい。それでも抵抗しないのは、“大好き”である男が相手なせいか。

「お前は、好きな男なら襲われても良いっていうのか」
「好きな男っていうか、伊達さんならオーケーって感じですけどね」
「阿呆か、貞操観念というものが無いのか。最近の若い奴は」
「……好きな人ですから、良いんですよ」

 軽薄そうな笑みが、切なげな色を含む。亡くなった妻はこんな笑い方をしなかった。いつでも柔らかい笑みを浮かべて、嬉しい時には笑い悲しい時には泣きそうな顔だった。
 だけど、こいつは違う。妻とは似ても似つかない笑い方を持っている。嬉しい時も悲しい時も、常に同じように笑っている。笑いという仮面をかぶって、自分の感情をひたすらに隠そうとしている。

「好きな人? 俺がか? 昔、妻がいた男で、お前より十歳程は年が上だ。しかも年齢よりも老けて見えるとよく言われるしな」
「っはは、それぐらい知ってます」
「怒るぞ」

 怒る、と宣言した割にはどうも――――底なしの闇を持っていても、まだ俺の前では笑おうとするこいつのことを、嫌いになりきれない自分がいた。かと言って、若いこいつのことを好きだとも言ってやれない。
 沈黙が降りる。八代は視線を逸らした俺に向かって、やんわりと微笑んだ。いつもと変わらない、秘書官としてのお前と変わらない、その笑顔。

「伊達さん」

 呟いたのは、俺の名前。
 今まで何度も繰り返されてきたその名前には、恋焦がれるような熱と、泣きそうな切なさが溢れていた。何だとは問い返さずに、俺は組み伏せられたままの八代を見下ろした。出来るだけ、突き放すような視線で。

「良いんですよ、私は別に」

 ――その言葉に、両手首を拘束をする手が、緩んだ。
 はっと気付いた時には、八代は俺の肩にゆるりと手を回して、抱きしめるようにしていた。明るいブラウンの髪から、甘い香りがする。

「……私、後悔してませんから」

 後悔とは、何についてだったのだろう。答えを知っているくせに自分に問いかける。
 八代のその言葉に安堵する自分がいるだなんて、自覚したくなかった。背中に回された細いこいつの腕は、振り払うには弱弱しすぎた。




うつくしいけもの、あいしたかのじょ。


 ――人が紡ぎ上げた欠片達は、あまりに汚すぎる。もっともっと美しいものを作れば良いのに。
 窓ガラスに映った美しい自分の顔と、窓の外でせっせと働くヒトという生き物を眺める。老いて汚くなると評判のそれらは、けして汚くなることの無い私には滑稽に思えた。
 滑稽と思うならば、ドアを作ってこの家と外を隔離すれば良かった。
 きっと、それが出来ないのは幼い私のプライドだ。


■うつくしいけもの、あいしたかのじょ。


「美女と野獣の王子は、魔法を掛けられ人から醜い獣の姿になりました。でも、私は自らに魔法をかけ 醜い人から美しい獣になったのよ。どう、凄いでしょう!」

 笑顔で一人きりの家の中叫んでみても、誰も反応してくれない。
 ――良いの、私は一人でも一生綺麗でいられるんだもの。
 外で笑顔で何かを語り合っているカップル、ガッコウというよく分からないところへ急ぎ足で通っていくヒトのグループ。楽しさと笑顔が蔓延しているそれを、私は窓越しに横目で眺めた。





(隠し事をしてました、傷つくのがいやでした)

 桃色のドア。赤い色のソファー。レースのカーテンにはほのかなレモンの香り。大きなくまちゃんにはチェックのリボン。きらきらと光るガラスの箱の中には、色とりどりのビー玉と一緒に可愛いお魚さんたち。 やっと築いた私だけのお城。頬についた土を拭って、私は庭からお城を一望した。
 
「……でも、何か足りない」

 私一人のお城は、余りに空虚で満ちているような気がした。こんなにも大好きなものを詰め込んだのに、まだ何か足りない。でもその足りないものが何なのか、私には分からない。

「…………何が足りないのかしら」

 ヒトと接することを嫌う私の問いに答えるものなんて、いる訳がない。淡いブルーのツインテールに隠れた黒い角が、私とヒトとの隔たりだ。ヒトはきっと私のこの姿を見たら嫌うだろうから、私は絶対にこのお城から出ない。出たく、ない。

(そう、絶対に)

 城を見上げて呟いた言葉は、広く青く澄み切った空が吸い込んでくれた。
 空だけは私の味方みたいで、ちょっと嬉しかった。




はじめまして、けものさん。


 一人ぼっちの生活に慣れ始めてきて、でも少しのささくれを感じていた、ある日。一つの風が舞い込んできた。栗色のベリーショートの髪は、今まで眺めてきたヒトよりも、健康的で美しく見えた。
 ある日現れたあなたは、小さなリュックサック以外に何も持っていなかった。形の良い唇に、アーモンドの形をした大きな瞳。私のような豪華な服とは違って、どこもかしこも汚れがついていたり擦り切れていたりと、好きにはなれなかった。
 ――でも、貴方は何も持っていなかったくせに、私が望む全てを持ってた。


■はじめまして、けものさん。


「な……何、何で勝手に庭に……!?」

 その時ちょうど庭のお花を愛でていた私は、突然の来訪者に目を白黒させていた。突然すぎて、いつもは王冠で隠している角も隠す暇がない。栗色のその子は、私の方を一瞥して、さらに私のお城をまじまじと見上げた。「ふぅん」何かを探っているような雰囲気だった。

「ふ、普段、周りの人たちは私のことが怖いから……私のお城に入ってこないのよ!? な、何で貴方はいるのよ、獣のところに何で来るの!」

 栗色の貴方は私の慌てた声に何も言わなかった。
 ただ、私が積み上げておいたレンガを容易く飛び越えると――ゆっくりとした動作で、表面を指先でなぞったのだ。そして、気付いたように私に言った。

「……これ、悲しいくらいつめたいね。ずっと――ずっと、寂しかったんだね」

 初対面の彼女に、優しげに言われた瞬間。
 私の中の獣が怯えた。体中のざわざわとしたものが駆け巡り、どうしようもないものがこみ上げてきて、彼女から距離をとって離れた。急いで家の中から王冠を取って来て、頭の上に飾る。彼女の身長を目方で測ると、私とこの王冠を合わせたぐらいで背の高さは同じぐらいになるはず。
 焦って、取り乱れているんだと自覚はしていた。でもそれをどうしても認めたくなくて、私は彼女を貶した。

「何が悲しいよ、寂しかったって、何がよ! アンタみたいな汚い服をまとった奴には分からないだけでしょ、この美しい全部が! アンタみたいにへらへら笑ってる奴には、この素晴らしさが分からないだけよ……ッ!」

 ダッ、と踵を返して、私は彼女の前から逃げ出した。
 ぱたんと閉じたドアだけが、唯一私の心の崩壊を食い止めてくれているような気がしていた。







 戦争が、始まった。
 ヒトが紡ぎ上げた欠片たちは、”アイ”と呼ばれるらしい。この前、ヒトの新聞に書いてあった。隊服を着た一人のヒトに、周囲のヒトたちが折り重なるようにして抱きしめ、喜んでいるように泣いている。

(……何で、戦争に行くのに泣いてるんだろ)

 ――戦争に行くというのは、名誉なことじゃないの?
 ましてや、行くことで周囲の人間が何か反応してくれるのなら、それはすごく嬉しいことじゃないか。一人ぼっちの私は、戦争に行くことの意味すら分からず、ただ、周囲の人間がいるそのヒトという生き物を羨んでいた。
 私は、孤独に作り上げた僕の城から、栗色の彼女を見てから一度も出ていない。
 ドアを閉ざした私のプライドは、それ程重いものだったのだ。

(だって、私は秀麗じゃない。それに、私は死なないわ。こんな身体を持っているなら、何だって出来る。たとえ、一人ぼっちでも)

 私はその時、一人で何でも出来る気になっていた。




どうも、かわいいけものさん。


(隠し事をしてました、失うのが嫌でした)


■どうも、かわいいけものさん。


「やっほー、ちょっと失礼」

 朝のティータイムを行っていると、どんどんと外から無作法にドアがノックされた。不思議に思いながら、ドアを開けようと重い腰を上げると――こっちが開ける前に、外から思い切りドアが開かれた。
 見ると、いつぞやの栗色のベリーショートの女だった。
 私はテーブルの上に紅茶を置いていることも忘れて、思い切り机上を叩いて怒鳴り散らした。

「や、やっほーって……何よ、な、何で入ってくるのよ!」
「んー、あ、ほら。街の掲示板に、住居者募集中ってあったから」
「それはもう半世紀も前のものよ!? 何でそんなのにつられてるの!」
「あ、そなの? ……ははぁ、ごめんね。間違えちゃったかな?」
「大間違いよ!」

 怒った様子の私に、栗色の彼女は柔和な笑みを浮かべて聞いた。

「でも、このお城に住んでるの君だけでしょ?」
「…………う、うう……そうだけど……」

 久しぶりに獣のように唸る。彼女は私の悔しそうな顔に対して薄く微笑むと、ぽんと両手を合わせた。明るい声が、今まで孤独だった私に耳に甘く溶けて行く。

「んじゃぁ、一緒に住んで良いかな? 勿論、ちゃんと宿代に見合うお手伝いや納金はします。料理も一応一通り出来るし、何なら朝昼晩三食作っても可!」
「……の、ノウキン? カ? よく分からないんだけど……」
「ありがとう! それじゃぁ朝ごはん作るね! 紅茶一杯じゃぁお腹減るでしょ、ちゃんと食材持ってるから。卵とパンとサラダとオレンジとぉ……そんぐらいで良い?」
「え、それは多過ぎ――――ってコラァ! 私はまだここに住むことを許してないっての!」

 私の怒号に「え、そうなの?」ととぼけたように笑う貴方の笑顔。
 ――やっと、やっと現れたお城の初めての住人。
 孤独感から解き放たれた私に贈られている初めての愛に、獣である私はただ戸惑うばかり。
 彼女は、やがて作り終わった朝ごはんを前にぽつりと私に聞いた。

「……あのさ、前見た時も思ったんだけど――こんな大きなお城に一人ぼっちって、悲しくないわけ? てか、寂しくないの?」
「っ、」

 彼女の核心をつく言葉に、息を呑む。目の前で湯気をたてる目玉焼きは美味しそうなのに、作った彼女には苛立ちと怒りがみるみるうちにこみ上げてきた。
 気付けば、さっきまでの和やかな雰囲気を壊すように叫んでいた。

「同情なんかはよしてよ! アンタなんかに……お前にわかってたまるかよ! 私が今まで生きてきた長い悲しみなんて……ッ、アンタみたいな奴に、分かる訳がないっ」
「あ、ちょっと待ってよ! ごめん、変なこと聞いて」
「……は、離してよっ、何で腕掴むのっ。良いから、良いからさっさとどこかに行かせてよ!?」
「いや、このまま腕離したらどこ行くか分かんないし」

 叫んだ後、何となく気まずくなって逃げようとした私の腕を掴んだのは、貴方。握ったその手は、孤独に浸り続けた私には熱いぐらい温かかった。

「う、うるさいッ! 猫じゃあるまいし、すぐに戻ってくるわよ!」
「痛っ! な、何で齧るのさ!? 腕に噛みあとついた!」
「あぁ、貴方が飛び上がったせいで紅茶零れたじゃない!? ……も、もう知らないっ、こんな城貴方が好きにしたら!? 私は別のところにもっと良い城造るから!」
「ちょっと待てって、暴れるなって! ほらもう、机の上ぐちゃぐちゃになるじゃんか! 綺麗な角も、黄味のせいで黄色になっちゃう!」

 齧って、零して、暴れて。初めて体験するぐちゃぐちゃの――ヒトとの触れあい。怒りもむかつきも全部ぐちゃぐちゃにしたそれは、私の心に光をともした。
 ――綺麗な角。あの時、初めてそんな風に言われた。
 今でも大切に持っているその言葉は、胸の奥底にしまっている。
 たとえ私がどれだけ貴方から離れようとも。
 それでも、あなたは私の欠片をひろって、逃げようとする私の腕を掴んでた。