二次創作小説(新・総合)
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- とある彼らの日常日和SP
- 日時: 2025/05/25 16:15
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
初めまして、こんにちは。そしてお久しぶりの方はお久しぶりです。元ユリカこと夢見草と申します。改めて小説カキコでクロスオーバー・日常系二次創作小説を書かせて頂くことになりました。何かと至らないところは多いですが、どうぞよろしくお願いします。
<注意>
・このスレッドは「二次創作・クロスオーバー」を中心にしています。
・作品はスマブラ・ぷよぷよ・ダンガンロンパ・ポップンミュージック・オリジナルキャラクター…など様々です。またキャラクターによっては出番数や扱いに差があります、あらかじめご了承ください。
・二次創作ならではの「オリジナル設定」がかなりありますので注意して下さい(一部のキャラクターの不憫設定化、ギャグとカオス大好物組化、「裸族」化など)。また各キャラクターの設定や世界観は随時更新していきます。
・CP要素(男女カップリング/NL)があります。苦手な方は注意して下さい。
・小説の感想などの書き込みは歓迎します。ただし内容とあまり関係ないレスや誹謗中傷、他の人が見て気分を害する書き込みはしないで下さい。
・コラボの依頼やキャラクターの貸し出し・提供などは歓迎します。その時はコメントでお知らせ下さい。ただし、誹謗中傷や他の読者の迷惑となる行為や書き込みなどは絶対にやめて下さい。
・不定期更新です。あらかじめご了承下さい。
最終更新日:5月25日
<目次>
【世界観】
・ご挨拶 >>1
・おおまかな世界観の設定 >>211
・各キャラクターイメージボイス集一覧 >>88
・簡易的なキャラ分類表 >>269
【簡易的なキャラ設定】(随時追加&更新予定)
・矢島、真理子、美園、凛音、奏 >>139-140
・ロッシュ、ミシェル、フレドリカ、ケン >>185
・ニコラス、サイモン、マリー >>186
・ラクーナ、アーサー、ルナ >>187
・宮藤、坂本、バルクホルン、サーニャ >>212
・音也、真斗、那月 >>270
・トキヤ、レン、翔 >>271
・セシル、嶺二、蘭丸 >>272
・藍、カミュ >>273
・苗木、日向、霧切 >>387
・七海、十神、狛枝 >>388
【短編】
・パシフィカ・リベンジ >>122-123
・SP組紹介!(キャラ紹介あり) >>190-202
・春日差す 藤の裏葉の うらとけて >>216-221
・バレンタイン・トロイメライ >>421-423
【長編】
「アイドルロンパ」(ダンガンロンパパロ)
・プロローグ&Chapter1 >>240-247
・Chapter2 >>253-262
・Chapter3 >>277-286
・Chapter4 >>293-303
・Chapter5&エピローグ >>310-315
「ポプって料理対決!」
・ポプって料理対決~どうあがいても、絶望~(準備編) >>7-15
・嫌な予感しかしない試食その1 >>25-31
・嫌な予感しかしない試食その2 >>39-45
・嫌な予感しかしない試食その3 >>55-61
・嫌な予感しかしない試食その4 >>71-78
・嫌な予感しかしない試食その5 >>89-97
・嫌な予感しかしない試食その6 >>107-114
・それなりに平和な結果発表 >>130-136
・修羅場の先は阿鼻叫喚 >>145-153
・オシオキとフィナーレ! >>161-173
「チームで料理対決!!」
・チームで料理対決!!(準備編) >>322-340
・チームで料理対決!!その1(1番~4番) >>347-358
・チームで料理対決!!その2(5番~8番) >>368-378
・チームで料理対決!!その3(9番) >>389-395
・チームで料理対決!!その4(10番~12番) >>404-415
・チームで料理対決!!その5(13番) >>430-439
・チームで料理対決!!その6(14番~16番) >>448-461
・結果発表(前編) >>470-489
・結果発表(後編) >>491-505
・残りのオシオキとフィナーレ >>508-514
「テストネタ おかわりっ!」
・1時間目 >>517-527
・2時間目 >>533-542
・3時間目 >>552-562
「それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA」
・導入編 >>567-573
・準備編 >>574-590(NEW!!)
【夢見草版裸族による裸族のための裸族講座】
・裸族講座1 >>226-232
<タグ>
クロスオーバー ギャグ カオス キャラ崩壊要注意・オリジナル設定あり スマブラ ぷよぷよ ダンガンロンパ 世界樹の迷宮 ストライクウィッチーズ ポップンミュージック うたプリ SB69 QMA オリジナルキャラクター NL クロスオーバーカップリング コラボあり
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.582 )
- 日時: 2025/06/02 08:05
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: LL/fGGq1)
一方、また別日。
カミュ「おい、今戻ったぞ」
龍也「おう、お疲れ。今回のロケはどうだった?」
カミュ「問題ない。誇り高き俺に出来ぬことはない」
林檎「あら〜♪さっすがカミュちゃん、いつでも自信満々ね♪」
カミュ「ふん。……ああ、あと貴様らに話がある。これはWSTの関係で必要な情報だ。何か知っているなら全て俺に話せ」
龍也「へぇ…。ってことは正式な依頼なのか?すっかり一人前のギルドメンバーになりやがって。ちょっと前まで特訓なり訓練漬けだったお前らにも依頼が回るようになったんだな……」
カミュ「そういうことだ。ほら、この写真を見ろ。……この女は『月鈴那智』というそうだ。貴様ら、此奴について何か知っていることはあるか?」
龍也「えっ?女の子?誰だ……?少なくとも俺は知らねえな。林檎、お前は知ってるか?」
林檎「……あれ?それって『あの』那智ちゃん?私、その子については知ってるわよ!前にテレビのインタビューを観て気になっていたから!」
カミュ「!!……本当か、月宮!?」
林檎「ええ。たまたまテレビで少し見たくらいでとっても詳しいというわけじゃないけど、うろ覚えで良かったら教えてあげるわよ?」
カミュ「ああ、それで構わん!教えろ!」
都内某所、シャイニング事務所にて。こちらではロケ帰りのカミュがダメ元で聞き込みを行なっていたが、見事ヒットした。真斗とカミュの事務所の先輩であり、早乙女学園の教官であり、事務所の幹部格である月宮林檎がたまたま那智についての情報を知っていた。どうやら彼は偶然美園と同じ深夜の音楽番組を観ており、その際の那智へのインタビューの記憶が強く印象に残っていたらしい。林檎は少し首をひねりながらも、自分の知っている範囲でクロスオーバーギルドの伯爵アイドルに情報を伝える。
林檎「確かあの子、元々は『イロドリミドリ』、だったかしら?……インディーズの高校生ガールズバンドバンドのメンバーじゃなかったかしら?中でもかなりの実力派の元高校生ヴァイオリニストだったって評判だったわ」
カミュ「『イロドリミドリ』…!確か、あの愚民どもの学校のバンドだな……!」
林檎「確か那智ちゃん、高校生部門のヴァイオリンの全国コンクールでも優勝経験があったんですって。それでええっと、彼女は通っていた学校を卒業したあとに渡欧してるんじゃなかったっけ?今は音楽の都・ウィーンの本場で活躍しているらしいわよ?確かその子、那月ちゃんやレンちゃんたちと同い年じゃなかった?まだとっても若いのに偉いわよね〜♪」
龍也「なるほどな。それだとカミュ、彼女はお前と少し似た境遇だな。お前もわざわざシルクパレスから来日してこっちに来てるだろ?ははは」
カミュ「ふん、今は俺のことは聞いていないだろう。……して月宮。他は?」
林檎「あとはそうね。先日のテレビニュースで那智ちゃん本人がお話していたけど。彼女の妹さんも、確かヴァイオリニストだったっけ?それとも…えっと、何だったかしら?とにかく一緒に音楽をやっているそうよ?妹さんの方の名前は、分からないけど。……やーん!もしかしてカミュちゃん、那智ちゃんのことが気になっているの?www」
カミュ「安心しろ、少なくともそれは絶対に有り得ん」
林檎「やだもう、そんなに怖い顔しないで!冗談よ!www」
龍也「おいカミュ、その真顔はやめろ;……にしても、彼女たちはきょうだい揃って音楽やってるのか。那智って子がそれほどなら、妹さんはプレッシャーを感じなかったのか?」
林檎「さあ……。流石に私も当人たちじゃないから詳しくは分からないけれどね?でも、昔から表彰されたり、海外からスカウトされている子が身内にいて、それでも続けているなら、妹さんの方もかなりのガッツの持ち主だと思うわ!林檎、そういうの大好きよ♪」
カミュ「…………」
そして事務所からの帰り道、伯爵アイドルはWSTの専属オペレーターへ通信を掛けた。
〜〜〜♪♪♪
七海「はい、七海です。……あれ。カミュさんからって、中々珍しいね。一体どうしたのかな?」
カミュ「……おい、七海。依頼関係だ。今から俺の言うものを探せるか?」
七海「……ものによるかな。確実に探せるとは言い切れないけれど」
カミュ「そうか。では、貴様に依頼する。『月鈴那智とその妹が同時に映っている』……そう、その証拠を見つけてくれ。写真でも動画でも文章の記事でも何でもいい。出来れば音楽関係のものが共に映っているといい」
七海「……中々、難しそうなお題が来たね」
カミュ「貴様は数多くの依頼を遂行してきた専属オペレーターなのだろう。故に、この程度のことは造作でもないのではないか。俺たちに貴様の実力を示せ」
七海「…………うん。分かった。見つけたら報告するね。流石に学校の時間は探すことが出来ないから、少し時間が掛かるけど、頑張るね。あと探している途中に寝ないようには頑張るね」
カミュ「相変わらずだな貴様は……」
この数日後。それぞれの学校生活や仕事の合間を縫い、「パシフィカ」のメンバーはギルド地下の簡易音楽スタジオに集合していた。この日はある程度セッションしたところで、練習に一区切り付け、「パシフィカ」プロトリオがそれぞれ調べていた月鈴那智の件について待機していた仲間たちへ報告し合うことに。
彼ら3人の聞き込みの回答に共通していたのは、那智は昨年舞ヶ原高校を卒業したばかりという若年ながら一流のプロヴァイオリニストであり、国内に留まらず既に海外の音楽評論家たちからも高い評価を受けていること。彼女は舞ヶ原に通っていた頃は「イロドリミドリ」のヴァイオリンパートを演奏する正式なバンドメンバーだったということ。そして彼女には同じように音楽をやっている妹がいるようだが、那智の知名度に反して妹についての詳しい情報はなかった、ということ……。
コリエンテ「にしても那智って子、あたしたちとそんなに歳も変わらないのに、海外で1人で活動してるんだって!偉いじゃん!!」
真斗「……そうだな」
コリエンテ「え?どうしたの、真斗?お腹痛いの?」
真斗「いや、そうではなく…。月鈴那智の妹さんについて考えていた。」
タロー「那智さんの妹さん?」
真斗「ああ。……ここだけの話だが。同チームに在籍し、かつ学生時代からの友人である俺ですら、四ノ宮の圧倒的な歌唱力や表現力、歌に乗せる迫力など……。そう、あいつの天賦の才にはごく稀に恐怖心を覚えるのだ」
美園「あっ……」
真斗「故に、その四ノ宮と似た人物が……、『ヴァイオリンの若き天才』と言われるほどの実力者を実姉に持つ、妹さんの重圧と心境は…。俺たちでは計り知れないものなのだろうな」
カミュ「…………」
那智は関係者の全てから「若き天才ヴァイオリニスト」として語られるほどの傑物だと言うことが軽く調べただけでも分かった。そしてそれは真斗の仲間の1人にも当てはまる特徴だった。那月が那智の過去のインタビュー記事に興味を持ち購入していたのも、自分と似た存在へのシンパシーかもしれない。……だが、彼を親しい友人かつ頼れる仲間と認識している真斗ですら、那月の圧倒的な歌唱力や音楽センスには思わず畏怖してしまうことがある。だからこそ、よりによって姉妹という非常に近しい存在にそのような「音楽の天才」を持つ「那智の妹」に対して、和風アイドルはそれなりに入れ込んでしまっているようだった。またそれを聞く伯爵アイドルもいつも以上に眉間に皺を寄せ、渋い表情を浮かべている。常に強気に振る舞うカミュだが、彼もなにか思うところがあったのだろうか……。
と、その時。
〜〜〜♪♪♪
七海「……よかった、音楽室にみんな揃っていたんだね。お疲れ様。七海千秋です」
美園「お疲れ様、千秋ちゃん。そっちはどう?」
七海「うん。少し苦労したけど、何とかね。……それで、報告、かな。先日カミュさんから頼まれていたものを発見したよ」
カミュ「!……来たか」
タロー「あれ?カミュさん、七海ちゃんに何か頼み事してたの?」
カミュ「少しな。……して七海。証拠品は」
七海「写真と動画がひとつずつあるよ。今からアップするね。……5人とも、きちんと確認してね」
同時に全員のWST用の通信端末に、WSTの専属オペレーターからファイル付きのメールが添付された。そのファイル内を確認し、証拠品の動画と写真に映っている人物を捉えた途端、5人全員が驚く。それと同時に、証拠はないが「パシフィカ」メンバーが「そうではないか」と思っていたものが明確に確信に変わる。中でも七海へ探し物を依頼していた伯爵アイドルは勢いよく立ち上がり、旋律紡ぎし少女へ宣言した。それに続き、残りのメンバーも次々と席から立ち上がる。
カミュ「……おい、伊吹!今すぐあの愚民に連絡しろ!野外フェス前に俺たちも1度舞ヶ原高校に向かうと伝え、奴に案内役をさせるのだ!」
コリエンテ「……そうだね?これを確かめておくことは、結構、いやかなーりアリだよね!」
真斗「音楽の力で全てを変えることは不可能だ。それは歌や音楽の力を使う俺たちが1番よく知っている。……だが、音楽の力でこそ解き放てるものもあると。そしてそれは今回の案件だと、俺は確信している……!」
美園「本当にいきなりね…!でも、これに関しては間違いなく、『彼女』に直接聞いた方が良いと思う!分かったわ、改めて5人で舞ヶ原に行くこと、迅くんに伝えます!!」
タロー「うん!もう1度みんなで舞ヶ原へ行こう!!」
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.583 )
- 日時: 2025/05/25 15:42
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
野外フェス開催まで、残り1週間。
某日、舞ヶ原高校の生徒たちはみんな、戸惑いとどよめきに包まれていた…。場にいる音楽を愛する活気ある生徒たちが、全員顔に困惑の色を浮かべ、冷や汗をかきながらいち方向を向いている。
舞ヶ原の生徒A「……なあ、あれって……」
舞ヶ原の生徒B「まさか……。いや、でも……?」
舞ヶ原の生徒C「え?あの人たち、ウチが母校って訳でもないよな……?」
舞ヶ原の生徒D「だよね……?それだったら、そっくりさんのタレントや芸人さん?」
舞ヶ原の生徒E「それにしては、ちょっと似過ぎてない……?」
舞ヶ原の生徒たち「…………;」
そんな彼らの困惑の原因は、もちろん。
コリエンテ「おおーっ!ここが舞ヶ原なんだね!歌を歌ったり楽器を演奏するための設備も揃ってるっぽいし、結構いい学校じゃん!」
タロー「うんうん!コリエンテちゃんもそう思うでしょ?俺も前来た時にいいとこだなって思ってたんだー!」
コリエンテ「そうだね!あとヴェニシリンの音楽学校より広いし大きいしwww」
真斗「おいおい、あそこもいい雰囲気だったがな?だが、舞ヶ原も生徒たちの活気がありとてもいい場所だな。……それにしても、俺たちは生徒たちから注目されているような気がするのだが……?何故だ?」
カミュ「フッ、愚問だぞ聖川。こ奴らはこの俺たちのマジェスティックパワーに圧倒されているのだろう。……おい愚民、疾くと待ち合わせの場所とやらへ案内しろ」
美園&迅「…………」
はい、言うまでもないとはおもいますが、WSTのスイマーギタリストと和風アイドルと伯爵アイドルのせいでした(笑)。
彼らは舞ヶ原へ来訪するにあたり、一応、必要以上に目立ち過ぎないように少し髪型を変えたりメガネなり帽子を装備したりとで軽い変装はしているのだが、彼らの内面から溢れるオーラが色々な意味でその努力虚しく細工を掻き消してしまっているようだった……。
カミュ「?……おい、どうした愚民。伊吹もだ。何か言いたいことがあるなら言ってみろ」
美園「……みんな、気付いてないの?」
真斗「む?おい伊吹、一体どういうことだ?何が……?」
美園「も う 色 々 と 濃 い の よ、あ ん た た ち」
タロー「え?濃い?……美園ちゃん、俺たち今は何も食べてないよ?」
美園「タローくん、そういうことじゃないから!!」
コリエンテ「なーんだwww園っちったら、そんなの今更じゃんwww他はともかく、キャラが濃くない奴なんてうちのWSTにいないよwww」
迅「いやぁ……。改めて驚かされました。別にキャラを作っている訳でもなく、これが完全に素ってwww皆さんって本当に凄いですねwww」
コリエンテ「えー?でもカミュは随分前はキャラ作ってるって、言ってたよねー?www」
カミュ「……アレは早乙女、ああ、所属事務所の社長の指示だ。そもそも今とその話題は関係なかろう」
迅「えっ、そうだったんですかwwwカミュさんの前のキャラも気になるんですがwww」
カミュ「骨髄まで凍らせるぞ愚民」
コリエンテ「ファーwwwww」
真斗「……すまない。何故だろうか。今回は緋桐からあまり褒められている気がしないのだが」
迅「すみませんwwwいやでも、皆さんのことを尊敬していることは本当ですってwww……じゃ、旧校舎に行きましょうか!そろそろ待ち合わせの人物も揃うはずですよ」
真斗「ああ、頼む!」
こうしてシンセサイザー同好会の部屋がある旧校舎へ向かう迅と「パシフィカ」の面々だったが、そんな彼らを密かに見ている者がいることには気付かない……。
七々瀬「…………?何でまた、彼らが?それより、『あの人』たちって本人?いや、まさか…………」
迅の案内で、彼の管轄内であるシンセサイザー研究会の部室へ。美園とタローは以前も訪れた場所であるので特に驚かないが、他の3人は思わず部屋を見渡す。
コリエンテ「ここ、何だか隠れ家って感じでワクワクするね!」
カミュ「……ほう。庶民の通う施設の割には、それなりに設備が整っているではないか」
迅「実は舞ヶ原は少し前に校舎内を改装したんですよ。お陰で旧校舎でもそこそこ綺麗になったんです」
真斗「なるほど。……そういえば以前に依頼の話を聞いてから少し気になっていたのだが。緋桐、お前の属する同好会には緋桐の他に部員はいるのか?」
迅「あー…。一応、在籍者はいますが。無類の音楽好きたちが集う舞ヶ原の中で、こんな寂れたところにいるのは…。以前までの俺と同じように『S.S.L』のレベルの高さと自分を比べて失望や挫折してしまった奴なり、シンセやDTM(デスクトップミュージック)やDJミュージックに飽きて退部した奴なり、名前だけは研究会に籍を置いている幽霊部員なりで。同好会で今、精力的に活動しているのは俺だけです」
真斗「何と…。これほど良い設備や環境が揃っているのに……」
迅「…….まあ、俺が立ち直れたのも、雷那と出会ってコンビを組んだりでクロスオーバーの力のお陰ですから。それに、こんな辺鄙な場所にもわざわざ立ち入るのは、部員の俺や社交的な先輩たちや生徒会の皆さん、他だと同級生の……『迅ー!』……おっ、来た。あとは同級生のあいつらくらいですね。いいぞ、入ってくれ!」
コリエンテ「どぞどぞー!あたしたちは大歓迎だよー!」
迅とコリエンテの呼びかけになる、凪、白奈が入室してきた。彼女たちはサーファードラマーと旋律紡ぎし少女との再会に笑顔を浮かべていたが、同時にいるプロの音楽家3人の姿を捉え、ぎょっと飛び退いた。
なる「よー!タロー、美園、久しぶり……って、おい!?お前ら、テレビでも見るアイドルの奴らじゃねえか!?おいおい、本物かよ……!?」
凪「それに、『雫シークレットマインド』の、コリエンテさん……!?」
白奈「はわわ…!!はわわわわ…!!」
コリエンテ「こーんにっちはー!みんな大好き!コリエンテちゃんでーす!あ、今は『パシフィカ』のCORIEでーすwww」
真斗「お前たちが箱部に、小仏に、月鈴だな?緋桐から話は聞いているぞ。初めまして。『パシフィカ』のMASAこと聖川だ。今回はどうぞよろしく頼む」
カミュ「ほう?貴様らが俺たちの輝きに魅入られし新たな愚民だな?……俺はQUARTET NIGHT及び『パシフィカ』の誇り高き伯爵、カミュ。ステージネームは…CHRISだ。愚民ならば俺のことを知らぬなどあり得んが、一応な」
白奈「ほ、本物のCORIEさんに、MASAさんに、CHRISさん…!!はっ、はっ、初めまして!!私、月鈴白奈です!!あの、皆さん!!良ければまず、サインを頂けますか!?」
コリエンテ「いいよーwww」
凪「……最近、迅くんがやたら意味深だなあと思っていたけど。この皆さんが揃ってバックにいたからなのね」
迅「おいおい小仏、やたら意味深ってどういう意味だよ?www」
なる「マジかよ…!?本物ならガチの大物じゃねーか!?……前に来られなかったから、タローと美園の仲間は補修中の留年生かと思ってたぜ……;」
カミュ「……おい、不敬だぞ貴様」
なる「ご、ごめんってー!まさか本人だとは思ってなかったんだよ!よく似た別人だと思ってんだよー!!」
美園「だから言ったじゃない、この人たちに関して変なことは考えない方がいいって;」
目をキラキラ輝かせて3人にサインを求める白奈。ただただ愕然としている凪。まさかある程度著名な人物がタローと美園の仲間だとは思わず特に驚愕するなる。三者三様の彼らと互いに軽く自己紹介をしたあと、本題に移る。
なる「……で?アンタらは今回なんでウチに来たんだよ?アンタらもステージに立つなら、その下見か?」
凪「皆さん、きっとそれぞれのお仕事で多忙なのに……?」
美園「会場の下見もあるけど……ね?」
タロー「3人とも、白奈ちゃんに聞きたいことがあるんだって!」
白奈「え?私に……!?」
コリエンテ「ほらほら真斗、カミュ!あれを!」
スイマーギタリストの呼びかけに、和風アイドルは持参していたカバンから1冊の雑誌を取り出した。それは先日那月の所持していた音楽雑誌。彼は雑誌のページをペラペラめくり、「月鈴那智」の特集記事を開く。記事の中の写真には、真紅のドレスに身を包み、スポットライトに照らされ、悠々とヴァイオリンを弾く那智の姿があった。
白奈「!!」
真斗「……月鈴。お前は彼女に見覚えがあるのではないか?」
白奈「え、えっと……」
カミュ「……単刀直入に言う。此奴は貴様の姉なのだろう?」
白奈「…………」
コリエンテ「……そういや、うちの知り合いの弁護士が言ってたんだけどさ?『月鈴』ってかなーり珍しい苗字なんだってね?」
白奈「…………」
カミュ「沈黙は肯定と受け取るぞ」
那智の記事を見て一瞬肩が跳ねる白奈。彼女はしばしの間黙り込んだが、「パシフィカ」の5人が真っ直ぐ自分を捉えており、その視線からは逃れられない。白奈は視線を右往左往とさせたのち、観念したように頷いた。
白奈「…………はい。この写真の、『月鈴那智』は、私の実姉……お姉ちゃんです」
コリエンテ「よかった、合ってたー!那智はあんたと髪色も違うし、ぱっと見じゃ気付かなかったよ!」
真斗「その、初対面でこんな話題を出すのは申し訳ないのだが。……お前はお姉さんと折り合いが良くないのか?」
白奈「え?」
美園「だって前に会った時、那智さんの話題を出した時に、あなた、あまり嬉しくなさそうにしていたじゃない…。だから少し気になっちゃって」
白奈「あ、そうでしたね…。あの時はごめんなさい。変な雰囲気にしてしまって。……先に言いますけど、私とお姉ちゃんとの仲は悪くないですよ。むしろ姉妹仲は良い方だと思います!それに舞ヶ原を卒業したあとも世界で活躍しているお姉ちゃんは私の憧れですし、とっても尊敬しています」
タロー「そ、そうなんだね?ケンカしたりはしてないんだね?それならとりあえず、よかった!」
カミュ「……だが、仮に姉との関係が悪くないのなら。貴様がわざわざ姉と担当楽器を変える必要はなかったのではないか?」
白奈「!!」
伯爵アイドルのその言葉にイロドリミドリのチェロリストの肩が再び大きく震えた。そんな彼女の様子を見つつ、カミュは己のスマホを操作してある映像を映し出す。そして横から真斗のスマホを受け取り、そこに表示されていたある動画も見せながら、静かに白奈に問いかける。
カミュ「……貴様は、元はチェロリストではなく、ヴァイオリニストだったのだろう。俺たちは見つけたぞ。『期待の幼きヴァイオリニスト姉妹・月鈴那智/月鈴白奈』という写真と動画が。あれは貴様と貴様の姉の幼少期に撮られた、ヴァイオリンの大会の写真と動画だな」
白奈「わ、私とお姉ちゃん の、小さい頃の写真と動画が…!?」
カミュ「そうだ。……姉単身や貴様ら『イロドリミドリ』の知名度に反し、見つけるのには、かなり苦労したがな」
カミュがこの場で見せたもの。それはかつて、幼き日の那智と白奈がヴァイオリンをそれぞれ手に持ち、笑顔で映る古い写真だった。これは専属オペレーターの七海千秋がインターネットの大海からやっとのことで見つけ出した希少な1枚だった。
そして同じく、七海が見つけ出した動画の中ではニコニコと笑顔の幼い那智と、彼女に教えられながらえっちらおっちらヴァイオリンを弾く幼い白奈、そんな幼少期の月鈴姉妹が映っていた。最後に幼い白奈が「わたし、おおきくなったらすてきなゔぁいおりんをひくひとになります!それで、いつかわたしも、おねえちゃんといっしょにおおきなぶたいでえんそうしたいです!」と、カメラに向かって宣言する場面で映像は終了した……。
なる「……だ、だったら何なんだよ?白奈が担当楽器を変えるのがそんなに悪いことなのかよ!?」
凪「そうです…!あなたたちに、しろちゃんの何が分かるっていうんですか……?」
コリエンテ「なる、凪!怒らないでよー!あたしたちの話を聞いてくれる?」
真斗「そうだ。怒らないでくれ、箱部。小仏も。…俺たちは月鈴を責めるつもりは毛頭ない。ただ、俺たちの推測が正しかった場合の『あること』が引っかかってしまってな……」
迅「はい?皆さんの、推測が……?」
凪「あなたたち、一体何を……」
白奈「…………」
カミュ「貴様はこの頃から、そして今もなお、『ヴァイオリンの天才』といわれる姉の幻影に囚われ続けているのではないのか?そして『天才ヴァイオリニスト・月鈴那智』がいたから、貴様はヴァイオリニストからチェロリストに転向したのではないか?」
なる&凪「今も!?」
迅「あ……!?」
白奈「…っ!!」
伯爵アイドルから出た白奈の現在の心境に対する決定的な言葉に、白奈はとうとう何も言い返せず俯く。これには彼女のバンドメンバーであり親友のなると凪、そしてクラスメートかつ友人の迅もこの推測はできていなかったようで、カミュの発したコメントに思わず目を見開いた。
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA ( No.584 )
- 日時: 2025/05/25 15:46
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
白奈「…………」
カミュ「…………やはり、な。貴様のような輩は、ステージ裏で本当に多く見る」
白奈「…………確かに、確かにお姉ちゃんは、月鈴那智は、天才ヴァイオリニストの名に相応しい、音楽の天才です。彼女の演奏技術は文句の付けようがない。何でも上手く弾けるのは言うまでもないし、お姉ちゃんの手にしたヴァイオリンは「弾かれている」のではなく、本当に歌っているみたい…。お姉ちゃんは演奏の技術だけじゃない、天才の演奏を『魅せる』才能まで持ってるんです。今の私じゃ逆立ちしたって、到底お姉ちゃんの領域には届かない……」
凪「しろちゃん……」
白奈「…でも、私だって、音楽でみんなを幸せにしたい思いも、音楽が大好きな気持ちも、お姉ちゃんと同じはずなのに。…ううん、同じどころじゃない!お姉ちゃんにも、なるちゃんにも凪ちゃんにも、明菜先輩たち『イロドリミドリ』の上級生の皆さんにも、あなたたちにも…!誰にも負けないはずなのに!!」
なる「白奈……」
白奈「私の音楽への情熱は、お姉ちゃんはもちろん、『イロドリミドリ』のみんなやライバルグループの皆さんも認めてくれています。……でも、部外者の周囲の人たちは演奏者の『音楽への情熱』なんて見ません。演奏の技術だけで全てを判断します。小学校の頃の、まだヴァイオリンをメインで弾いていた頃の私は……。私がヴァイオリンを持ってコンクールステージに上がるたびに、『あの天才ヴァイオリニスト・月鈴那智の妹』という肩書きでいつも見られてきました。彼女の妹なのだからきっと優秀だろう、という肩書きや色眼鏡で……。私の演奏のための工夫や私なりの努力なんて、誰も見てはくれませんでした」
迅「……」
白奈「……私が演奏した後の雰囲気はいつもお姉ちゃんと比べての失望や、『それなりには上手いけど、月鈴那智と比べたら……』といった空気に包まれていたんです。それ耐えきれなくなった私は大好きだったはずの音楽が楽しくなくなり、どんどん無気力になっていきました。そしてそのうちヴァイオリンのレッスンをお休みするようになったり、コンクールに出場しなくなりました。そして家族との話し合いの末に、中学の頃から、私は姉の専門だったヴァイオリンとは違うチェロを手に取るようになりました。担当楽器を変更したことで評価がリセットされたこともあり、周囲の私に対する肩書きを重視した視線や失望の視線はなくなり、とても楽になりました。それでもう1度、私はやっと、音楽への情熱を素直に向けられるようになったんです……」
美園「…………あなたは、那智さんを恨まなかったの?ヴァイオリン演奏であなたが輝けるかもしれなかった場所を奪っていった、お姉さんを……」
白奈「恨めるわけがないです。確かに複雑な気持ちはあります。もし、もしもお姉ちゃんが音楽をやっていなかったら、私が人から失望の目で見られることはなかったのかもしれない。…でもお姉ちゃんは私の憧れの音楽家の1人で、お姉ちゃんがいたからこそ私は音楽を好きになったんです。それに……。私の実力不足の問題は私の問題で、お姉ちゃんは、何も悪くないんだから」
なる&凪「…………」
「パシフィカ」のメンバーが推測していた通り。いや、彼女と姉・那智を取り巻く環境は想像以上に複雑なものだった。姉が音楽家として非常に優秀ゆえに「妹は姉と同等、いやそれ以上だろう」という周囲の音楽家や批評家たちからの心ないプレッシャーを常に掛けられ続けた過去の白奈は、大好きな音楽に取り組めば取り組むほど、彼女1人ではどうすることもできないノイローゼを発症していたのだ。姉妹仲は決して悪くないこと、何より姉・那智はこの件については何も悪くないことが、白奈をより苦しませた……。幸いにも演奏楽器の変更や、なる・凪らをはじめとする「イロドリミドリ」のメンバーとの出会いでヴァイオリン演奏に対する嫌な思いやノイローゼはある程度回復したようだが、当時のトラウマはまだ白奈の中で燻ってしまっていた。
過去の、いや、今もなお続く苦しみを打ち明ける自分を静かに自分を見つめている「パシフィカ」の5人に対して、白奈は自嘲気味に笑ってみせた。
白奈「……それにしても、よく気が付きましたね?私が演奏楽器を変更していた、なんて…。『イロドリミドリ』のみんなも、ライバルグループの皆さんも、それこそ元からお姉ちゃんを知る人以外は、私がお姉ちゃんの影響で楽器を変えたことはみんな知りませんでした。……それに、依頼があったと言っても、皆さんが私たちについて知ったのはつい最近のことでしょう?『イロドリミドリ』の活動を除けば、私はお姉ちゃんと比べたら知名度なんて全くないはずです。それなのに……」
コリエンテ「ふふーん。それはね、あたしたちが白奈のことについてたっくさん調べたからだよ!」
白奈「わ、私のことについて?」
美園「うん。白奈さん……。いえ、白奈。私たちはみんな、あなたのことが知りたくて、理解したくて、調べたの」
白奈「へ?」
凪「しろちゃんの……?」
なる「わっかんねえ…。どういうことだよ?」
真斗「……お前の悩み事や葛藤は、月鈴。何もお前だけに当て嵌まるものではない。音楽を愛し、音楽と共に生きようとしている全ての者に共通するものなんだ」
迅「!!」
白奈「全ての、者に……!?」
なる&凪「え……?」
白奈「あ、あの、それって一体どういうことですか…!?」
真斗「……俺たちは、俺とコリエンテとカミュ先輩は。芸事を生業にする道を選んだが、それでも楽しさや心地よさだけではない。こんなはずじゃない、思っていた通りに上手くいかないと苦しみ悩む日も多くあるんだ」
なる「えっ?そうなのか?だってアンタ、テレビや動画だとあんなに楽しそうに……」
真斗「お前たちからそう見えているなら何より。……希少な時間を使ってわざわざ俺たちと時間を共有し、視聴し、応援してくれるファンのために己の負の側面を見せないのは、プロとしての俺の矜持だ」
迅&なる&凪「!!」
真斗「俺は、俺は……きっと。グループの仲間たちのような、それぞれの得意分野のような、天性の音楽の才はないのだと思う。お姉さんに対するお前と同じように、友愛の感情を抱き信頼しているはずの仲間たちに少し羨望や嫉妬の感情を抱くこともある。思うように上手く歌えない日もある。歌詞やリズムに乗せた想いを表現しきれない日もある。当時は上手く行ったと思っていたことだが、後に決定的な反省点が見つかることもある。……だが、どんなに苦しくとも。時に休養を取り心機一転を図ることこそあれ、停滞ばかりはできない。好きで始めてその道を選んだことだから、いや、だからこそ弱音ばかりを吐いてはいられんのだ。……そして月鈴。ノイローゼを発症してしまった当時から、ここまでよく立ち直ったな。俺は月鈴を尊敬する」
白奈「……っ!」
迅「真斗さん……」
実際にプロのアーティストとして活動する和風アイドルの本音に白奈は真剣に聞き入っている。それは彼女と同じように音楽が大好きななる、凪、迅も同様だ。特に舞ヶ原という音楽学校に進学したにも関わらず、かつて有力シンセサイザーグループ「S.S.L」との実力差に打ちひしがれた結果として燻っていたという迅には、より彼の言葉が染み渡っているようだった。
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.585 )
- 日時: 2025/05/25 15:50
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
真斗の己に対する真摯なコメントに、秘密を暴かれた時とは別の感情か。瞳を潤ませ、何かを堪えながら肩を震わせている白奈に対し、再び伯爵アイドルが問いかけた。
カミュ「……おい。悩める愚民。貴様は、永遠にこのまま姉の幻影に囚われ続けたまま一生を終える気なのか?」
白奈「へ?」
カミュ「今のままだと貴様は、このままプロになった時に同じ悩みに衝突することになるだろう。例え担当楽器を変更したとしても、だ。プロになってしまったら最後、先ほどのような泣き言を表で言うことは許されん。同じ音楽の道を歩む以上、『月鈴那智』とステージで共演する日もくるだろう。彼女と実の姉妹という事実が発覚するならなおさらだ。……こうなれば絶対に姉との比較は避けられんぞ」
白奈&なる&凪&迅「…………」
カミュ「……仮に貴様が音楽を生業にする道を諦めて、アマチュアとして嗜む程度に止めれば、『天才の姉との比較』という呪縛からは完全に解放される。何も演奏家として生きることが全てではないぞ。比較される道から外れて平穏に生き、たまの趣味としてチェロやヴァイオリンを嗜む道もあるだろう」
白奈「!!……それは、それだけは嫌です……!!プロのアーティストのあなたにとってはこれはただの学生のワガママだって、呆れられると思います!!でも、音楽は、音楽だけは……!!他が大したことのない、何も取り柄のない!そんな私の1番の生き甲斐なんです!!それだけは奪われたくない!!例えお姉ちゃんにだって!!絶対に誰にも奪わせない!!」
伯爵アイドルのその言葉に思わず立ち上がり、叫ぶように訴えるイロドリミドリのチェロリスト。プロとアマチュアという違いはあれど、チェロを嗜む者同士の視線が一瞬バチっと交わされる。このカミュと白奈の衝突に周囲の者たちは誰も口出しできず、息を飲んで彼らのやりとりを見守るのみだ。
そのまま、お互いたっぷり黙り込み、5秒。
カミュ「…………また、自ら、地獄の道を進むというのか?過去に姉との比較で挫折した経験もあるのにか?」
白奈「ぐっ…!そ、それは、確かに、そうですけど……」
カミュ「『だけど』?」
白奈「……それでも!私は、音楽と一緒に、生きていきたいんです……!!」
その白奈の言葉を聞いたカミュはふうっとため息を吐き、再び彼女を静かに見据えた。
カミュ「…………貴様のような人間を見ていると、あいつの顔が浮かんでくる」
白奈「え?」
美園「……」
カミュ「こちらの話だ。…………分かった。貴様がその覚悟を持つのなら、持ち続けるのならば。俺たちが手を貸してやる」
なる「えっ?あ、アンタ、白奈のこと、反対するんじゃないのかよ…?」
凪「あなた…。この流れ、しろちゃんにプロの道を諦めろって、言うつもりだったんじゃ……?」
カミュ「馬鹿者どもめ、俺もそこまで根が腐ってはおらんぞ。……仮にこの女があの心意気のままで中途半端に音楽の道に進むつもりだったら、俺は阻止していた。だが、そうではないのだろう?」
白奈「……はい!」
カミュ「俺の前で誓ったその言葉、違えるなよ?……おい。コリエンテ、連、伊吹、聖川。今ので此奴の本音は『理解』できたな?」
真斗「……はい。しかと、理解できました!」
タロー「あっ…!う、うん!分かった!!」
美園「あー…。えっと、白奈。なるさんに凪さんも。ちょっと嫌な思いをさせちゃったのならごめんなさいね。この人は悪い人じゃないんだけど……。いつもこういう口調しかできないのよ」
凪「あ、え、えっと……」
コリエンテ「……へー。いきなり因縁付け始めたから、まさか白奈をいじめるつもりなのかってヒヤヒヤしてたけど…。なんだ、結構優しいじゃーんwww」
カミュ「骨の髄まで凍らせるぞ貴様」
コリエンテ「サーセンwww……ねえ!白奈!迅!なると凪も!野外フェスの本番のあたしたちのステージ!ちゃんと観ててよね!!」
タロー「俺たち、きっとすごいステージを作り上げてみせるからさ!舞ヶ原のみんなも、ゲストの人たちも、生放送で観ている人たちも、俺たちの仲間だって驚くようなやつをね!!」
美園「……白奈。きっと、あなたがお姉さんと長らく比較されて苦しんだ呪縛は、最後にはあなた自身で解くしかできないと思うわ。だから、野外フェスで私たちができるのは、あくまで『解放のための手助け』になる……」
真斗「恐らく野外フェスの本番は多くの舞ヶ原の生徒や外部からの観覧ゲストが会場となるグラウンドに集うだろうが……。もちろんステージに立つ以上、彼らの全てに届くようなパフォーマンスをする。だが、今回は。俺たちはまず、お前たちのために歌ってみせよう。俺たちの音色に乗せる想いが、お前たちの背を押せるように」
白奈「み、皆さんが、私たちの、ために……!?」
カミュ「貴様がプロの道を進むとすれば、それは荊の道だ。仮に演奏技術に問題がなかったとしても、姉の件以外の、あらゆる非難の的になる可能性もあるだろう」
迅「カミュさん?あの、それって……?」
カミュ「今はCHRISだ。…………俺は、仕事のためならば、平気で嘘も吐ける。ファンのため、という建前や名目で本来の己とは全く断る偽りのキャラクターをも演じられる。だから、かつて、実際に事務所の社長から命じられたキャラクターから脱却することを決意し、『本来の俺の姿』をアイドル業の表に出すようになってから……。俺は多くの批判を受けた。中には俺を『本当のことなど何もない、偽りだらけのアイドル』と揶揄し、誹謗中傷する声もあった。そしてそれは、ごく少数だが今もなお続いている」
コリエンテ&タロー&美園「!」
なる&凪「……!!」
迅「そんな……」
白奈「わ、私はCHRISさんが、カミュさんがそうだとは思いませんよ!だって、あなたは……!」
カミュ「だが。例え俺の生き様に真実がなかったとしても。人生に偽りを抱え続けようとも。俺は約束を違える男ではない。……月鈴白奈。緋桐迅。そしてそこの2人。野外フェスで俺たちのパフォーマンス、そしてそれによる飛翔をとくと見ているがいい。そこで貴様らの飛翔の糧が、そしてこれから歩むべき道が見えてくるだろう。『パシフィカ』の舞台はかならず成功し、貴様らは俺たちの輝きに平伏することになるだろうよ」
言葉の演出の仕方、包み方というそれぞれのカラーの違いはあれど、5人の白奈を想う言葉は真実だ。その事実にとうとうイロドリミドリのチェロリストは感極まってボロボロ大粒の涙を流し始めた。そんな彼女の手を白奈の隣に座っていたなるがぎゅっと握り、同じく黙って隣に座っていた凪がさする。それは今まで座っていた席から立ち上がり、白奈の側に行った旋律紡ぎし少女も同じだ。数分後に白奈の涙が収まったあと、彼女が「野外フェスの際はどうぞよろしくお願いします」と頭を下げ、「パシフィカ」メンバー5人総出での舞ヶ原への突然訪問兼顔合わせは終了した。
その後、シンセミュージック研究会の部室を後にする彼らの元へ、白奈の仲間であるなると凪が慌てて追いかけてきた。
なる「えっと、カミュさんだっけ!?……ごめん!あたしたち、さっきアンタが『白奈のお姉ちゃん』……那智さんと比べて才能がない』とかなんとかで、白奈を否定するんじゃないかって思ってた!でも、そうじゃなかった…。アンタ、結構いい奴だな!もし他のやつがウダウダ言ってても、あたしはアンタのことを応援するぜ!!」
カミュ「…………フッ。気付くのが遅いぞ、愚民」
凪「私も、なるちゃんと同じ。あなたたちを、『パシフィカ』の皆さんを誤解していました。ごめんなさい。……あの、しろちゃんは、とてもいい子なんです。優しくて、音楽が大好きで、とてもエネルギッシュで情熱的。しろちゃん製作の新曲のデモテープからは、いつも彼女が音楽を、そして『イロドリミドリ』の楽曲を愛していることが伝わってくる。私たちはしろちゃんのチェロもヴァイオリンも大好きなの。あの子は「イロドリミドリ」にとって欠かせない大切なメンバーなの」
美園「……うん、そうね」
凪「……だからこそ、これ以上自分を責めて、苦しむしろちゃんは見たくない。『お姉ちゃんさん』……那智さんとの違いに苦しむばかりのしろちゃんはもう見たくない。だから、もしあなたたちがさっき発言した通りの輝きを示せるというのなら。それでしろちゃんの道を灯してください。しろちゃんを助けて、導いてください」
カミュ「……ああ。あ奴らの道も貴様らの道も、俺たちが照らすと誓おう」
コリエンテ「大丈夫!あたしたちにまっかせなさい!!いつものあたしたちがパフォーマンスするのは自己表現で自己満足!でも、今回の『パシフィカ』はみんなにエールを送るために、歌って演奏するんだから!!」
片手を上げ、彼なりに白奈を想う友人たちの言葉に応えてみせる伯爵ベーシスト。その隣で飛び跳ねながら2人に可動域いっぱいに腕を振るスイマーギタリスト。彼らと同じようになると凪へ手を振る仲間3人…ドラマー、キーボーディスト、もうひとりのギタリストを連れて今度こそ、と立ち去る「パシフィカ」の面々。そんな彼らに対して、イロドリミドリのベーシストは大きく手を振り返し、イロドリミドリのキーボーディストは彼らの姿が見えなくなるまで深々と頭を下げていた……。
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA ( No.586 )
- 日時: 2025/05/25 16:23
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
野外フェスまで、あと5日。
野外フェスまでの準備期間は残りわずかとなった。この日は咲姫もあかりも柚子も葵もそれぞれの諸用でギルドへ来訪できないとのことであり、ゲーマー少女とナイトウィッチの「マリーニャ」2人は地下のダンスホールで個人練習に励んでいた。と、そこへ。
美園「真理子ー?サーニャちゃんー?迅くんたちが来たわよ!」
迅「真理子師匠、サーニャさん。こんにちは。皆さんへ芹那先輩のご実家のカレーパンとクロックムッシュの差し入れを持ってきました。……それで、せっかくですのでお2人の今日の練習を見学してもいいですか?」
コリエンテ「あとあたしたちも!せっかくだし、本番までに1回オンゲキステップを見学してもいい!?」
真理子「おけまる水産〜!!本番の振り付けはまだナイショだけど!あと差し入れはありがと!」
サーニャ「私はクロックムッシュの方をいただくわね!そうね…。今日やるのは主に基礎のステップの確認だけど、それでもよかったら!」
タロー「本当に?やったー!!」
カミュ「『おけまる水産』とは何だ、おけまる水産とは……。ハッ。あの阿呆め、まさか水中にでも潜る気か?」
真斗「おけ、桶……。む!?まさか田名部たちは本番のステージに水槽をセットする気なのか…!?もしやそれが本番の振り付けのひとつなのか!?」
コリエンテ「ファーwwwww」
雷那「あの、お2人とも…。真理子さんが言ってるのって、多分そういうことじゃないと思いますけど……;」
迅と雷那、そして真理子の幼馴染をはじめとする「パシフィカ」の5人がダンスホールに現れた。放課後の時間帯であるので旋律紡ぎし少女とサーファードラマーにゲスト2名は言うまでもないが、他の3人もこの日はたまたまオフだったらしい。真理子の適当な返答に謎の推測をするシャイニング事務所所属アイドル2人に雷那が呆れながらも、彼らはそれぞれパイプ椅子を取り出し、オンゲキ練習の見学の姿勢に入る。
彼らが全員着席したことを確認して、ゲーマー少女はオンゲキで使用される特殊なプロジェクトマッピング装置を作動させる。スイッチを入れた途端にダンスホールいっぱいにオンゲキで使用する「弾幕」が可視化され、浮かび上がった。カラフルでポップな弾幕が空間にたくさん打ち出されていくことを確認すると、ナイトウィッチがダンスホール内にセットしてあるスピーカーから音楽を流し始める。そして、その場に集う7人の目の前で「マリーニャ」による公開練習が始まった。
BGM:Flower(ASTRISM)
サーニャがセットしたのは「ASTRISM」の楽曲のひとつであり、それに合わせて少女2人は舞う。この楽曲はオンゲキのデモミュージックのひとつであり、BGMに合わせてプロジェクトマッピングから大量の弾幕が「マリーニャ」に襲い掛かる。だが、2人はそれぞれ咲姫やあかりたちから教わったサイドステップやバックステップを多用しながら華麗に弾幕を撃ち抜いていく…!
真理子「あーぁ、プル・ダウン教本!結果、シュート・ダスでNo-No!!弾幕Pan!気分上々!堕落少女のWIN!WIN!WIN!」
サーニャ「ピントOK!フリーガ・ハマー!YouからIへの布告宣戦?雨天晴天曇天雪天……全てGet Down!!Yo!!」
真理子&サーニャ「Foooo〜!!」
可愛らしい「ASTRISM」のBGMに反して、〆にオリジナルの激しめのリリックを軽やかに紡ぎながら全ての弾幕を貫いた少女2人。その姿はもはや、元はオンゲキど素人だったとは思えないほどだった。今回の彼女たちは華やかなシュータードレスではない、シンプルなTシャツにスパッツという練習着姿でのオンゲキステップ、オンゲキダンスだったが、それでも場にいた7人を魅了するには十分だった。
タロー「うわぁ……!!すごい!!すごい!!すっごーい!!」
コリエンテ「すっごーい!イカちゃんじゃないけど、コレはバチバチにイカしてんじゃん!!」
真斗「そうだな!あのこなれた様子、どちらもひと月での習得速度とは思えない…!!」
美園「真理子はまだしも、サーニャちゃんは確かに元は少女軍人だったとは聞いていたけど…!これには旧知の仲の芳佳ちゃんたちも、ガンナー組のみんなも目を丸くするでしょうね……!」
カミュ「……まあ、即席の習得の割には悪くはないのではないか?リトヴャクはともかく、田名部の阿呆はいつもこの通りに真面目であればよいものを」
迅「いやあ、『パシフィカ』の皆さんもですが、真理子師匠とサーニャさんにも非常に驚かされました!これは利用できそ……いえ!そちら方にも私たちにも、双方ともに利益がありそうです。俺たち『THE NAMELESS』のステージにもぜひ登板していただきたいですね!な、雷那?」
雷那「……っ!」
隣にいるパートナーの少年や、夢見草サイドの者たちと同じく、ツインカラー・ツインテールの少女は確かに練習段階の「マリーニャ」のオンゲキパフォーマンスに魅了された。そして、「魅了されてしまったことがどうしようもなく悔しかった」。
迅「……雷那?」
雷那「……ね、ねえ!2人とも!せっかく迅や皆さんも見ているんだもの。今からあたしと、練習試合、やらない……?」
夢見草サイドのキャラ全員「練習試合?」
雷那「あたし、今日は自分のシュータードレスを持って来ているんです。2人が今まで教わってきたのって、あくまでステップや動き方だけだったでしょう?だから、シュータードレスを着た相手との実践形式の練習も悪くないんじゃないかなって」
サーニャ「…………」
真理子「……うーん、まあ、悪くはないんじゃない?やろっか。練習試合」
……
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