コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 小説カイコ【完結】
- 日時: 2015/03/14 20:11
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: RQnYSNUe)
- 参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/188png.html
◇
そうやって何も考えずにこの先も生きていくんですか。
◇
そのあと俺は、上野駅で柚木くんと杏ちゃんと別れた後に、京王高尾線、とかいう聞きなれない電車に乗り換えた。ガタンガタン、と電車は心地好いリズムを奏でながら都会の風景を颯爽と次から次へと車窓に映してゆく。澄み渡るようなどこまでも青色の空が、やけに新鮮だった。
ちょっと寄るところがある……、わざわざそんな言い方をしたのは、なんとなく遠回しにして二人には知られたくなかったからだ。考え過ぎだと笑われるかもしれないけれど、楽しい雰囲気に水を差すようなことは言いたくなかった。
単刀直入に言うと、これからお墓参りなのだ。拓哉の。
拓哉の葬式が終わってから、今日でちょうど、三ヶ月めだった。そろそろ行くべき時期だと思ったし、今行かないと、たぶん一生行けないような気がした。三ヶ月も放って置いたのだ、きっと怒っているかもしれない。そう考えると、あいつの頬を膨らませて怒った顔が、ありありと思い描けて何だか笑えた。
ガタン、
電車が、また一際大きく揺れる。
なんとなく窓の外をふり仰ぐと、太陽の光が眩しかった。車窓から差し込む昼の日差しに照らされて、これから自分にとって一大事というのに、不思議ととても落ち着いた気分だった。
平成23年、高橋任史、十六歳の秋。
■
—————————————————————————————————————————
変な題名の小説書いて運営様マジすんません。
四年間お世話になりました。小説カキコがあったから、とても楽しい時間をすごせました。
□登場人物および世界観 >>115□
◆幽霊からのテガミ編
☆扉絵 >>368
>>1 >>15 >>21 >>24-25 >>35 >>41 >>43 >>46-48
>>51 >>57 >>59-60 >>63 >>65-67 >>70 >>72-73
>>75 >>77 >>80
◆左廻り走路編
☆挿絵 >>117(びたみん様作)
>>82 >>86 >>90 >>97 >>102 >>106-107 >>111-112
>>114 >>116-117 >>119-122 >>125-126 >>130 >>138
>>140 >>144 >>146 >>149-150 >>152 >>154
>>157 >>161-162 >>165-166
◆ふりだし編
☆挿絵 >>178
☆挿絵 >>215
☆挿絵 >>253
>>170 >>175 >>178 >>181-182 >>186-191 >>194
>>196 >>198 >>201-203 >>213 >>216-217 >>219-221
>>224-225 >>228-229 >>236-238 >>242-243 >>248-249
>>252 >>254-256
◆昨日の消しゴム編
★扉絵 >>349
☆挿絵 >>278 >>289
☆挿絵 >>295
☆挿絵 >>319
☆挿絵 >>391
>>260-262 >>265 >>269-273 >>276-277 >>283 >>287-288
>>290-292 >>296 >>298-300 >>303-304 >>308-314 >>317-318
>>320-323 >>325-337 >>339 >>342 >>348 >>352
>>353-356 >>358-361
>>362 >>367 >>369-380
>>381-388 >>390 >>392-400
>>401-405 >>406-409 >>410-411
>>415-423
>>424-427 >>444-452
◆番外編
>>431-442 鈴木編『たまには帰ってきなさいよ』
◆作者あとがき >>453
◆コメントしてくださった皆様
レイコ様 sue様 生死騎士様 小悦様 (朱雀*@).゜.様 ユキナ様 苺香様 ゆうか。様 月読愛様 麻香様 桐乃@様 満月の瞳様 姫星様 風様 蛾様 ♪ぱんだ♪様 桃咲優梨様 p i a f l 様 のちこ様 菫ーsumireー様 柊様 夜兎__〆様 ひゅるり様 meta-☆様 北野様 由ぴな様 ハーマイお兄様 ブチ様 ヴェロキア様 ミルクチョコレート様 びたみん様 イカ様 アリ様 nunutyu様 暦得様 しょうや様 *ユキ*様 チョコちゃん。様 小豆様 aya様 王様サマ うえってぃ様 悠様 Lithics様 杏月様
誠にありがとうございました!
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- Re: 小説カイコ ( No.115 )
- 日時: 2013/01/06 22:27
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: geHdv8JL)
■世界観■
(第一話)
主人公高橋は、田んぼと川と森に囲まれた田舎、千葉県我島岡市に住む高校生。
キラキラと雨が降り続く、不思議な少女との梅雨の話。
(第二話)
陸上部のメンバーと子供向け人生ゲームをして、すっかり帰りが遅くなってしまった上に、電車で寝過ごしてしまった高橋。目が覚めると銚子駅。千葉県の東端じゃないか……
そこで出会う、中学時代の友人 拓哉。初めて近しい人の死を受け、迷い悩む高校一年生の夏。
(第三話)
高校の同級生と一緒に、両親の実家のある山形県西村山郡へプチ里帰りをした高橋。
変な青い服を着たおっさんに絡まれて、気が付いたら江戸時代に。なんてこったい。
作者の実体験を元にした話です。真っ赤な夕焼けが綺麗な秋の話。
(第四話)
ついに最終話。千年間秘めてきた土我さんの真実とは?最強にファンタジーな最終章をお楽しみあれ!!
早い雪が降った年に、また逢えると信じて。
■登場人物■
●高橋任史(タカハシ タカシ):主人公、陸上部、高校生。本気になると方言が出ちゃう。
●カイコ :喋る蚕。のっそり動く。
【陸上部メンツ】
●鈴木国由(スズキ クニヨシ):時木の弟、悔しいぐらいイケメン。短距離。
●田中誉志夫(タナカ ホシオ):陸上部初の男子マネージャー
●小久保将輝(コクボ マサキ):制汗剤大好き男。ドS。潔癖症。中距離。
●飯塚一弥(イイヅカ カズヤ):メール魔。携帯を操る野生児。中距離。
●乙海 凛(オツミ リン):何かと絡んでくる女子。短距離。
●新条智美(シンジョウ トモミ):毒舌家。小久保とは幼なじみ。槍投げ。
●宮本里菜(ミヤモト リナ):宮本なのであだ名が武蔵。中距離。
●岡谷瑞生(オカヤ ミズキ):色白。別名 美白。小久保のことが大好き。若干のオカマ。長距離。
●山本昭良(ヤマモト アキラ):頭がいい。クールにキメてるがその実ママちゃん。長距離。
●張 立人先輩(チョウ リーレン):以外と可愛いもの好き。短距離&幅跳び。
●佐藤和尋 先輩(サトウ カズヒロ):勉強&運動万能、タラシ。短距離。
●金子涼佳先輩(カネコ スズカ):佐藤先輩の彼女様。中距離。
●渡辺先輩:名前しか出てこないお。
●津田先生:顧問の先生。雷管の煙の臭いが好き。
【クラス】
●柏木 杏(カシワギ アン):高橋の好きな子。オーケストラ部
●今井 衛(イマイ マモル):級長。チャームポイントは眼鏡。
●柚木朋祐(ユズキ トモヒロ):無口、なのに放送部らしい。
●川口ヨッシェル :学年一の美人さん、テニス部。
●荒木学人(アラキ ガクト):テニス部。生粋のボンボン。
●津田先生:陸上部の顧問、かつ、クラス担任。
●数村先生(カズムラセンセイ):数学の先生。あだ名は数っち。
【家族】
●高橋大季(タカハシ ダイキ):弟、中二、反抗期まっさかり
●高橋優羽子(タカハシ ユウコ):妹、小二、ウルサイ
●高橋礼夏(タカハシ レイカ) :高橋の母
●高橋パパ:若干だけの出番。カワイソス。
●衣田礼治(コロモダ レイジ):高橋の叔父、礼夏の兄、由紀子の父。
●衣田美雪(コロモダ ミユキ):高橋の叔母、由紀子の母。
●柚木由紀子(ユズキ ユキコ):高橋の従姉。礼治の娘。
●にゃん太/明杰(ニャンタ/メイケツ):高橋の家の猫。しかしその正体は…!
【その他】
●時木 杏(トキ アン):鈴木の姉、第一話でけっこう出てくる
●苓見土我(レイミ ドガ):カイコの知り合い。壁部屋師
●カイコ妹:そのまんまカイコの妹。詳細は謎。
●鈴木パパ:廃人。もともと美青年だったらしい。
●切崎拓哉(キリサキ タクヤ):高橋の幼馴染、中学の時に不良化
●切崎麻里(キリサキ マリ):拓哉の母、後編ではいっぱい出てくるよ!!
●柚木達矢(ユズキ タツヤ):柚木君のお兄さん。由紀子の夫。
●太一(タイチ):江戸時代の人。瓜谷村に住む。
●カイ(化衣):江戸時代の人。神蟲村に住む。
●弥助(ヤスケ):太一の友人。瓜谷村。
●ハツ(初):太一の妹。
●お婆:瓜谷村の蚕の世話女。世話女の中では一番高齢。
●青服:高橋を付け回す変なおじさん。その正体は…?
●蟲神(ムシガミ):高橋の両親の実家の氏神。
●遊黒(ユウコク):蟲神の妹、次女。黒蝶の姿で現れる。
●蛇姫(ヘビヒメ):蟲神の妹。三女。
●薬屋の主人:薬屋「点流堂」の主人。高橋に意味深なことを漏らす。
●佐野(サノ):カイコの過去のパートナー
●長谷川隆子(ハセガワ タカコ):カイコ妹の過去のパートナー。第一話でネット上で登場した長谷川は隆子の孫。
●折馬悠(オリウマ ユウ):八王子で偶然出会った少女。
●ギーゼラ=ヒルデガルト(Gidela Hildegard):土我さんの友人。魔女。
●由雅(ユガ):ちょくちょく土我さんの会話に出てくる人。正体は謎。
●黒い土我さん:ドッペルゲンガーとしか言いようがない……
●八岐大蛇(ヤマタノオロチ):日本書紀、古事記などにも登場!八つ頭の蛇の怪物。
●櫛名田比売(クシナダヒメ):日本神話に出てくる人の名前。かつての蛇姫の名前。
●安倍禰道(アベノネミチ):平安時代の陰陽師。
●村雨千春(ムラサメ チハル):高橋の隣のクラスの女の子。得体が知れないと有名。
●苓見雅敏(レイミ マサトシ):土我さんと一緒に写真に写っていた人。高橋の学校の卒業生。
●ハジキ:土我さんの産みの親。傀儡の一団の遊女。出産と同時に命を落とす。
●サユキ:土我さんの育ての親。四歳の時に離れ離れに。以後行方不明。
●人商人の男:途方に暮れていた土我さんをさらっていった謎の男。怖い。
●件(クダン):書いて字の如く、人面牛身の妖怪。不吉な未来を予言すると言われる。
……なんだか人物紹介が下の方に行くにつれて胡散臭いことになってる(笑)
【四章の用語解説】
●件の予言→【件とは人面獣身の日本の妖怪。牛から生まれて人語を話す。絶対に外れることの無い不吉な予言を残すという。主に大災害の前に目撃例が増えると言われる。画像検索するとけっこう怖いのが出てきます。】
●オシラサマ→【東北地方じゃ比較的有名な神様。リアルに自分の山形の本家にもお堂があります。お白様とも書き、蚕の神または農業の神などと言われる。かつて馬に恋した少女が神格化されたものだとも言われている。この小説に出てくる蟲神様はこの神様がモデル。詳しいことは参照にのせたwikiで……。】
●櫛名田比売→【日本書紀の表記では奇稲田姫と書く。日本神話の八岐大蛇退治の話で登場する。八岐大蛇という大蛇に食べられる予定だった女の子。結局素戔嗚尊というまぁ簡単に言えば勇者……な人に助けられる。】
●草薙の剣→【三種の神器の一つ。三種の神器とは、皇室に代々伝わるという宝物。ちなみに草薙の剣は壇ノ浦の戦いの際に、海に入水しなすった安徳天皇とともに海の底に沈んだとされる。つまり現存していないということ。】
●青い髪の女の人→蛇姫【灰色の土我さんの式。遊黒の妹。蛇の妖。】
●黒い髪の女の人→遊黒【黒色の土我さんの協力者。蛇姫の姉。黒蝶の妖。】
- Re: 小説カイコ 【カイコ挿絵】 ( No.116 )
- 日時: 2013/01/25 23:14
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ./RSWfCI)
- 参照: 合宿なう(・∀・)
あの人生ゲーム事件から約二か月。七月もほぼ終わりに近づいている。
終業式が午前中で終わり、それから少し掃除をしてから解散となった。
通知表というガッガリ度MAXな産物を貰い、全クラス中で騒々しい雰囲気が沸き立った後、みんなそれぞれの部活へと散らばっていった。
その頃、俺は体育科実習室へと向かっていた。なんでも、やっと部活のユニフォームとジャージが業者から届いたらしい。
実習室に着くと、他の一年生メンバーはみんな揃っていた。既にみんな、自分の分はもらった後らしく、片手に真新しい青のビニール袋を持っていた。
顧問の津田先生からユニフォームとジャージを一式受け取ると、どうゆう訳だか「鈴木と高橋ちょっと来い」と言わてしまった。……何か悪い事したっけ。
「お前ら、新人戦でリレー組めよ。」津田先生は どっこいしょ、と椅子に座りながら言った。たちまち椅子がキィキィと悲鳴をあげる。
「佐藤と張と四人でな。四継かマイルかはお前らに任せるからさ。新人戦ってことをよく考えて決めろよ? 決まったら教えろな。……以上!!」
四継とは一人100mずつ走って、四人で合わせて400m走るリレーで、マイルとは一人400mずつ走って、合計1600m走るリレーだ。正直言って、マイルはやりたくないなぁ……400mとか専門外だし。
「おい、高橋。」鈴木と二人で渡り廊下を歩いている途中、鈴木が話しかけてきた。「マイルに決まってるよな?男ならマイルだよな?」
「えー!? 俺四継がいいな。400mとかマジで無理。」そりゃ鈴木は普段400mハードルとかやってるからいいかもしれないけどさ。「ちゃんと走り切れる気がしないよ。」
「大丈夫だって!夏練で俺と一緒に400m走ろうぜ☆」 輝かんばかりの笑顔。出た!これがウワサの鈴木スマイルか!
「……む。そのスマイル俺にも通用すると思うなよ。」
鈴木はちぇっ、と舌打ちをして先に部室に行ってしまった。まったく、これだからイケメンは………くれぐれも、女子のみなさんはこういう奴に騙されないでいただきたい。
しかし、リレーかぁ。実を言うとちょっと楽しみでもある。それに中学の時、惜しくも県大会でベストエイトに入れなかった悔やみもあるし。
それから結局、マイルは張先輩の猛反対を受けて却下となり、四継をやることになった。
- Re: 小説カイコ ( No.117 )
- 日時: 2012/07/26 18:49
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: .pUthb6u)
- 参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/6jpg.html
↑杏(柏木)の挿絵 びたみん様 作! ありがとうございました(^∀^)!
その後、鈴木がマイルを却下された件で終始、不機嫌なまま部活が終わってしまった。飯塚が「あ、鈴木、それサゲポヨってやつ?」と、面白がって鈴木をからかい、余計に不機嫌にさせてしまったのもあるが。
時刻は午後四時。こんなに早く部活が終わるとはありがたい。
ラグビー部と野球部はまだ部活をやっていたが、サッカー部は暑さでやられて解散していた。サッカー部なのに、お前らそんなんでいいのか。
蝉の煩い音と、野球部の掛け声の永遠と響くグランドを後にして、相変わらずふくれっ面の鈴木と一緒に駅を目指して歩いた。よっぽど四百メートルを走りたかったらしい。
……と、重大な忘れ物に気が付いた。
「やっべ、俺さ今日、日直だったんだけど、学級日誌クラスに出してくるの忘れちゃった。」
すると鈴木はさも愉快そうにフッと鼻で笑った。「うわー高橋ダサッ!ダサ夫くん!学校に戻って出して来いよ。俺もう先に帰っちゃうけど。きっとマイルを反対した天罰だな。ざまぁー。」
俺の不幸で少し機嫌を取り戻したのか、鈴木はニコニコしてさっさと俺を置いて行ってしまった。しかし天罰じゃないとは思うが、一旦出た学校に帰るのはスーパー面倒くさい。
一人トボトボと今来た道を戻っていると途中、自転車に乗った小久保とすれ違った。それからアイスを買い食いしていた張先輩と飯塚とすれ違った。またしばらくすると金子先輩とラブラブ下校中の佐藤先輩とすれ違い……だんだん、自分が惨めになってくる。
やっと学校に着いた。いつもより余分な分の道のりを歩いたせいで、ワイシャツがじっとりと汗ばむ。エナメルバックを掛けている方の肩が火照って痛い。
「はぁ。」
これから階段を四階分のぼって教室に行かなきゃいけないことを思うと、自然とため息が出てしまった。
………
やっとの思いでD組の教室の前の廊下に辿り着いた。既に滝汗状態である。額から半端なく汗が下っている。
パァァー パァァー
蒸し暑い教室の中から、何の楽器か分からないが金管楽器っぽい音がした。きっと、オーケストラ部の誰かが練習しているのだろう。
「失礼しまーす。」
できるだけ静かにドアを開けた。……つもりだったが、ガラガラとけっこう大きい音が出てしまった。楽器の音色はふいに止んだ。誠に申し訳ない。
「あれれ、高橋君?忘れ物?」
教室の中のその人は杏ちゃんだった。ラッパをぐるぐる巻きにしたような楽器を持っていて、確か、ホルンとかいう楽器だった気がする。
「あ、すまない。練習中だよね、学級日誌置いたらすぐ消えるから。」
そう言って急いでエナメルから学級日誌を取り出す。くそう、手元が狂うぜ。
「学級日誌? ああ、出すの忘れちゃったんだ。」
杏ちゃんが歩いてきて、教卓を挟んで俺の向かい側に立った。「見ていい?高橋君の今日の日記。」
「え、あ、別にいいけど……たいして面白いこと書いてないよ。」
杏ちゃんはペラペラと学級日誌のページをめくった。紙と紙とが擦れ合う音が放課後の教室に静かに響く。そして今日、俺の書いた分を見つけるとそこでページを止めた。
しばらく文面を眺めて、杏ちゃんは突然クスクスと笑い出した。
「高橋君、」杏ちゃんが俺をふいと見上げた。「ここ、今日の二時間目の数学、算学って書いてるよー。これって算数と数学混ざっちゃった感じかな。」
「え、どれどれ。」
本当だ。算学って書いてある。これじゃ阿呆丸出しじゃないか。「うわあ、マジだ。ありがとう、今書き直すよ。」
筆箱をバッグから取り出そうとしたら、杏ちゃんは教卓から学級日誌をパッと奪ってしまった。「直したら駄目だよ〜 算学はちゃんと先生に見せて添削してもらわなきゃね。きっと津田先生のことだよ、生真面目に赤ペンで訂正してくるからさ!」
「ちょ、ちょっと……返してよー。」
腕を伸ばして、返してもらおうとしたが、それより速く杏ちゃんは教室の端まで駆け出していた。
「返してほしい?」
可笑しそうに笑いながら、杏ちゃんが聞き返してきた。夕焼けに照らされた教室が、だんだんと、オレンジ色に染まっていく。
「返してほしいけど。どーせ返してくれないんでしょ?」
そう言うと、杏ちゃんはまた笑った。つられて、なんだか分からないけど俺も笑ってしまった。
ガラガラガラガラ
突然、教室のドアがまた開いた。入ってきたのはほっしーだった。
「あっ、ごめん!お取込み中でしたか!」
ほっしーはそう言うとピシャッと素早く教室のドアを閉めた。
「あ……。」
やばいほっしーに見られてしまった。もうアイツのことだから部活のみんなに一斉送信しているに違いない。
杏ちゃんの方を振り向くと、杏ちゃんも唖然としていた。ほっしーめ、気まずい感じになっちゃったじゃないか。
「なんかさ、ほっしーったら勘違いしてない?なんかごめんね。」
「アハハハハ、まぁ別にいいんじゃない?」杏ちゃんがほっしーの去った教室の引き戸を眺めながら恥ずかしそうに笑った。「もう夏休みだしさ、しばらく会えないんだし!」
それから、ちょっとだけ喋った後に杏ちゃんは練習に、俺は帰路へと戻った。
- Re: 小説カイコ ( No.118 )
- 日時: 2011/08/16 13:41
- 名前: piafl (ID: 2zVo1PMY)
- 参照: http://ameblo.jp/piafl66/
よかったねww
高橋ww
- Re: 小説カイコ ( No.119 )
- 日時: 2012/07/26 19:21
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: .pUthb6u)
- 参照: 大雨ワッショーイ
それから駅に着いて、電車の中でボーっとしていると、携帯に着信が入った。珍しく母親からである。なんだろう。優羽子(妹)が熱でも出したのか。
『 RE.無題 18時24分45
さっき、久しぶりに切崎さんに会ったん
だけど、拓哉君になにかあったみたい。
救急車で運ばれたそうよ。
今中央病院に切崎さんを車で送って差し
上げたところなんだけど。
切崎さんあんまり詳しく話してくださら
なかったんだけど、けっこう重症みたい
よ。 』
「えっ……」
一瞬、頭の中が真っ白になった。拓哉が病院?重症?あんなに丈夫な奴が?風邪をひどくしたんだろうか。
違う。
風邪じゃない。きっと怪我の方だ。
中央病院まであと三十分は余裕でかかる。第一、乗り換えの電車がすぐに来ない可能性もある。どうしよう、どうしたら一番いいのだろう。
しかもこちらの焦る気持ちとは裏腹に、乗っているこの電車は各駅停車の鈍行である。
とりあえず、母親に中央病院に寄ることを返信する。拓哉に電話を掛けようかと思ったが、確か携帯電話は持っていなかったはずだ。
車内で成すすべもなく、ただただ駅名表示が切り替わるのを喉が焼き切れるような思いで見ていた。十数分後、やっと乗り換えの駅に着いた。中央病院方面の電車は発車まであと十分強ほどあって、駅員さんに聞いたら中央病院はここの駅からたったの一駅で、十分待つのだったらタクシーで行った方が早いとのことだった。
急いで改札を出て、駅の階段を駆け下り、ロータリーへと走った。ちょうど目の前に黒いタクシーが来たのですぐに乗り込む。
「お兄ちゃん、どこまで?」運転手のおじさんがのんびりとした声で聞く。眼鏡のフレームを悠長に磨きながら。
「中央病院までです、できるだけ急いでください、お願いですからっ……!」
俺の切迫した感じが先方にも伝わったのか、おじさんは真面目な声で答えるとすぐに出発してくれた。
……車のエンジンの音が、まるで胃の奥まで響いてくるようだ。
数分ほどの距離さえも永遠に感じる。
非常識な赤信号に苛立ちを覚えた。
タクシーのスピードが遅すぎないかと何回も思った。
「はい、中央病院着いたよ。」やっと、白い大きな建物が見えた。料金はいくらだかよく分からなかったが、とりあえず千円札を渡して、病院のエントランス目がけて走った。
「兄ちゃん、おつり!おつりだよ!」後方でおじさんの声がしたが、この際そんなものどうでもいい。
反応の遅い自動ドアをイライラしながら潜り抜けて、受付まで走った。受付の女の人に 切崎の友人です、と言ったら全てを察したように中まで案内してくれた。しばらく病院の廊下を歩くと、急に人があまり居ないところに出た。「ここの廊下をまっすぐ行ったところです。」床の色が肌色から茶色に変わっているところを女の人は指しながら言った。
「ありがとうございます」
短くお礼を言って、細くて長い廊下をできるだけ速く蹴った。自分の足音が狭い廊下全体に乱暴に響いていくのがはっきりと分かった。
廊下の終わりは左右に分かれていて、右側の方の部屋から白衣を着た、若い男の人が出てきた。隣にいる看護婦さんと小さな声でコソコソと何か喋っている。
「あの……」
すると、看護婦さんの方が俺に気付いたようで、小走りでこちらへやって来た。
「切崎さんのご親族の方ですか?」病院特有の、ツンと鼻につく消毒液の匂いがした。
「いえ、友人です。拓哉はここの部屋なんですね!?」
看護婦さんを押しのけてドアノブに手を伸ばそうとしたが、すぐに遮られ、止められた。
「っ、何するんですか!」
すると看護婦さんはシーッと唇に人差し指を当てた。「大声を出さないで。ご家族だけで静かにいかせてあげなさい。」
「いかせてあげなさいって……何を言って……」
「もう危ないのよ。」看護婦さんは、廊下の反対側のベンチに俺を座らせながら言った。「辛かったら帰った方がいいわ。受付でなにか飲み物でも買って落ち着きなさい。」
「そんな……」
……そんな、ことってあるのだろうか。
この部屋の向こう側に拓哉が居るなんて、いまいち信じられない。
バンッ
部屋のドアが外側に破れるように開いた。同時に中から女の人が飛び出してきた。……あれは確か、拓哉のお母さんだ。
「切崎さんっ!どこ行くの!?」
看護婦さんが甲高い声を上げて急いで拓哉のお母さんの後を追った。けれどもう、拓哉のお母さんはあの長い廊下を走り抜けていった後だった。
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