たか☆たか★パニック~ひと塾の経験~

作者/ゆかむらさき

80> キャラクター紹介


 日曜日までは……あと、わずか。
 決戦は日曜日。 “学年トップの先生の臨時個人授業”か、それとも“キスつきのおうちデート(?)”か。
 ――――さて、なみこちゃんはどちらの男の子と過ごすことになるのでしょう……。


 ――――そして気になる“北風と太陽”二人の男の子。


 一人は“北風”の男の子、松浦鷹史。 14歳。 AB型。
 あだ名は“ムッツリ”。(命名・冷やしトロ はぢめました。さん)
 原黒中学校に通う中学二年生。 サッカー部所属。


 頭が抜群にきれ、成績はなんと全教科学年トップである。
 加えて容姿端麗。 ワイルドなツンツンヘアで色黒で、右目の下のほくろがチャームポイント。
 かなりクールだが、キケンな魅力で女の子に非常にモテる。
 人付き合いは“広く 浅く”を心掛け、見事(一部の人を除き)周りからの印象はパーフェクト。
 しかしプライドがとても高く、絶対、人に自分の弱い所を見せたくない。 自分の気持ちに素直になれないところで誤解を招き、損をしてしまっている。
 そんな彼は今だ一度も女の子と交際をしたことがない。 恋愛小説を一人でコソコソ隠れて読んでいるくらいだから、“恋愛”とか“女の子の裸”とか “アレ”とか……には実はかなり興味があるらしい。 馴れ馴れしく近づいてくる女の子は苦手で、逆に逃げる女の子を追い込む事にどうやら快感を感じる様だ。


 秘密だが、最近彼は毎晩ベッドで“誰か”の裸を頭のなかに描きながら、まくらでキスの練習をしているらしい。


 そしてもう一人“太陽”の男の子、高樹純平。 13歳。 A型。
 あだ名は“両刀使い”。
 釜斗々中学校に通う中学二年生。 バスケ部所属。


 男の子なのにサラサラと風になびく髪、長いまつげを持つ可愛らしい顔で、誰にでも優しく、ちょっとお茶目な所が多くの人たちを惹きつける(癒す)そばかす王子。
 成績は理数系が特に優れており、性格の中にも計算高さが見られる。
 一見マジメそうだが、実はセレブな親を困らせるちょっとした問題児。 可愛さの裏にチラリと見える大胆さに妖しい魅力を感じられ、女の子に非常にモテる。
 欲しいものを手に入れる為ならば、自分を犠牲にしてでも何だってするといった特攻隊精神な所が玉にキズ。
 手先が器用で驚く事に両利きらしい。
 趣味は何とも紳士らしい遊び“ビリヤード”。 本人曰く、かなりの“テクニシャン”らしい(ビリヤードに限らず)。
 手先の事だけではなく、何に対しても要領が良く抜け目がない。
 今まで眠り続けていた恋心が最近になって目を覚まし、現在“その女の子”に熱烈な愛をアピールしている。


 これも秘密の話だが、塾の通り道の途中にあるドラッグ・ストアーで……
                                   すごい物を買ってきたらしい。




81>


(ここは……どこ?
           ……ん? なに時代?)
 物音一つしない静かな夜の中……
 何百年も昔に造られた超豪華な日本風の宮殿の様な建物の中央のお庭に、あたしは何故か一人ポツンといる。
 何ともキレイに手入れの行き届いた広い庭。 足元の小さな木製の掛け橋の下に広がる水の澄んだ池の中には、上品な紅白模様のニシキゴイが何匹か気持ち良さそうに泳いでいる。
(重ぉっ。  ……なにこれ。)
 あたしはまるで雛人形のお姫様にでもなったような何重にも重なった分厚い着物を着ている。
 ずりずりと、ひょっとしたらあたしの体重よりも重たいのかもしれない着物のすそを引きずりながら、“すのこ”でできたようなテラスに上った。
 手すりにつかまってふと上を見上げると、赤い月が妖しい光を放ち、あたしを照らしている。
 ――――何か嫌な予感がする。 生温かい風が化け物のうめき声の様なヘンな声をあげて、耳をくすぐる。
 あたしは怖くなって、慌てて近くにある部屋へ飛びこんだ……つもりだったけれど、ふすまを開けたとたん、足で着物のすそを踏ん付けて派手に転んでしまった。
(……痛いぃ)
 八畳くらいの広さの畳の部屋の中に、あたしは大の字の格好で倒れていた。
 顔を上げると、和風アンティークな家具があちこちに置かれており、金の屏風が立っていた。 屏風の奥に豪華な金色の大きな布団が見える。
(いつの間にあたし、こんなにお金持ちのお嬢様になったんだろう……)
 着物が重たくてなかなか立つことができない。 あたしはゆっくりと這いながら布団の上まで移動した。
(やわらかくってふわふわ……  なんだかホントにお姫様になっちゃったみたい……)
 布団の上にほっぺを付けたら眠たくなってきた。 ここでこのまま寝ちゃっても大丈夫……なのかな……
 このおうちにはあたし以外誰もいないのかな――――


「――姫ッ!!」


「 !! 」
 ふすまの向こうから誰かの大きな声が聞こえた。 まるで誰かを探して呼んでいるような――――
 あたしはとっさに下に敷かれた布団の中に身を隠した……つもりが顔だけしか隠していなかった。
「ふふっ。 それで隠れたつもりなの?  ……でておいで。 ほら、僕だよ。」
 それはどこかで聞いた事のある声だった。 おそるおそる布団から顔を出すと、雛人形のお内裏様の様な格好をした高樹くんがあたしの隣で肘をついて寝そべっていた。
 彼は微笑みながら烏帽子(えぼし)を外して、あたしの手の指を絡ませて握ってきた。


「姫を待たせちゃうなんて、だめだな、僕。
                               ……ごめんね。 もうずっと……一緒だから、ね。」




82>


(何これ? もしかして、あたし高樹くんと……  “お雛様ごっこ”して……遊んでる……?)
 高樹くんは優しくあたしの手の平にキスをして、仰向けで横になっているあたしの上にまたいで膝をついた。
 ……ワケないじゃん!!
 心の中で一人でボケてツッコんでいる間に、彼は何重にも重なっているあたしの着物を、慣れた手付きで次々と一枚ずつ脱がしていく――――
(ちょっと待って! あたし……)
 重い着物を脱がされていく度に、体は少しずつ軽くなっていくけれど、不安な気持ちがどんどんと重たくなっていく。
 浴衣の着付けもできないあたしが、結婚式で花嫁さんが羽織る様なこんな豪華な着物を裸の状態からきちんと元通りに着直す事ができるのだろうか……って、そんな事なんかよりも――――
(ううっ……  だって、あたし、まだ……心の準備が……)
 会ったばっかりなのに、いきなりこんな展開になるなんて思ってもみなかった。 
 真上にある高樹くんの顔が怖くて見れない。 あたしは目をつむり、顔を横に向けて布団をつかんで握りしめた。


「りゃあああああ!!」


 ふすまを蹴り倒したような大きな音と同時に、誰かがすごい声で叫びながら部屋に入ってきた。 しかし、屏風に遮られていて入ってきた人の顔が見えない。
 高樹くんはほどいていた腰紐から手を離し、サッと立ち上がった。 そして枕元に置いていた刀を取って“さや”を抜き、あたしの前に立ち、構えた。
「――くっ! やっぱり来たな……
                      ――――“あいつ”だ」
 構えた剣先をキラッと光らせ、彼は右手を横に大きく伸ばしてあたしを守りながら呟く。
「……姫。 後ろの扉から……逃げて」
 振り向くと足元の辺りに、しゃがんで入れる位の小さな隠し扉があった。
「――はやく!」
 高樹くんは冷や汗を流しながら、あたしに微笑みかけた。
(でも……ここであたしが逃げたら…… 高樹くんは……  高樹くんも一緒に逃げれるの……?)
 今あたしに見せたのが彼の最期の笑顔にしたくない。 
 いやな予感がする……。 彼は、きっと……あのひとと、戦う――――


「姫は、どこだあああ!!」


 屏風を蹴り飛ばし、入ってきた“そのひと”は、あたしたちの前に姿を現した。
 まるで地獄の闇の底から這い上がってきたかの様な深紫色の着物を羽織り、顔に恐い鬼の面を付けている。 そして……右手に不気味に光る、刀――――
「ククク……。 隠れてもムダだぜ……」
 面で隠れて顔は見えないけれど……その声はどこかで聞いた事のある男の声だった。
(やっぱりそうだ、このひとは……)


「今ごろノコノコと戻ってきやがったか……
                        この女はな…… もうすでに俺とビリヤードの関係なんだよ!」
                                                        (ビ…… ビリヤードォッ!?)


 鬼の面を付けた怪しい男はいやらしく高笑いをしながら、天井に向けてかかげた刀を思いっきり力を込めて振り下ろした。




83>


「やめてぇ―――――ッッ!!


                     …………。」


「 !! 」


 チュン……
        チュン、チュン……


 ――――小鳥のさえずりが聞こえる。
(高樹くん……。 鬼のひとは……?  んっ。――眩しっ!)
 ――――気が付くと、あたしはオレンジ色のラグマットの上でうつ伏せになっていた。
 よだれを拭いてムクッと起き上がり、辺りを見回した。
 畳じゃなくフローリング。 和風アンティークがカントリー調家具。 金色の布団がパッチワークの布団が敷かれたベッド。
 あたしは……パジャマを着ていた。


 そして、もう一人……忘れてはいけない夢見る“旅人”。
 彼女の上着を脱がす為に“北風”と“太陽”が服……ではなく、理性を捨てて戦う……。


 “旅人”の女の子、武藤なみこ。 14歳。 A型。
 あだ名は“ギンガムチェック”。
 この物語の主人公。 原黒中学校に通う中学二年生。 陸上部所属。


 極度の人間アレルギー。 
 特に男の子に対してはいつも逃げ腰……な、はずなのに、ある日突然三角関係の頂点(標的?)のポジションとなってしまった。
 学力、友人、彼氏なし。 おしゃれに目覚める年頃のはずなのに、寝癖もたいして気にならない程の無頓着なショートカットの天然パーマ。 
 決して美人とはお世辞でもいえない……ガキ。(身長138センチ)
 そんな彼女だが、現在、“天然ボケ”というミラクルな魅力で、本人も気が付かないうちに様々な男の子達を惑わせている。
 錯覚の様だが、確かに優しい心を持つ純粋な彼女の、前向きに頑張る姿は健気で可愛らしい。
 しかし人をすぐ信じてしまうという傾向があり、非常に騙されやすく、優柔不断でガードが甘い。
 ――やはり彼女には優秀なボディーガードが必要だ。
                          ――――誰か、立候補してくださる方がいらっしゃれば、ご連絡を……。


 もうすでに多くのひとに知られている情報ではあるが……  現在、彼女は……“処女”らしい。


 “北風と太陽”には全く関係ない人物だが、もう一人……。
 “ガリバー旅行記”の“ガリバー”。 黒岩大作。 15歳。 B型。
 あだ名は“ゴリラブッチョ”。
 釜斗々中学校に通う中学三年生。 元バスケ部部長。


 この物語の脇役のくせに、予想外の存在感……よくヤった。
 180センチを超える長身(超人)で、正直バスケよりもプロレスに向いているキャラクターである。
 “にきび”だらけのいかつい顔に、ソバージュのかかったロングヘア。 恐い目付きにチラリと覗く八重歯。
 彼に目を付けられると逃げられないので要注意。
 人のズボンを脱がす事に快感を感じる最低最悪の怪物。
 以前、同じ部活だった後輩の“男の子”に、恋焦がれている。


 その後、彼は毎晩のように神社に出没し、ついに通報をされ、警察に捕まる事となる。
                                    ――――手には、わら人形とハサミを持っていたらしい。