たか☆たか★パニック~ひと塾の経験~
作者/ゆかむらさき

95> 日曜日(武藤なみこちゃん 主人公)
☆ ★ ☆
「は――――……っ……」
(し、死ぬかと思った……)
密室の中、ベッドの上で高樹くんに“あんなコト”されて……
今日の今まで妄想ですらしたこともなかった状況に耐えることが限界で、もう、いっぱいいっぱいだった。
力の抜けたあたしは、腰を掛けているベッドにコロン、と寝そべって、両手を胸に当てて呼吸を整えた。
(へぇ…… コレが男の子のお部屋、なんだ……)
寝そべった格好のままで片方のほっぺたを布団につけて、あたしは改めて部屋の中をゆっくりと見回した。
漫画の単行本が無造作に積み上げられているあたしの机の上とは違って、彼の机は置いてあるのはコンパクトなノートパソコンとデスクライトだけでスッキリと片付けられている。 部屋に入ってきて高樹くんがジャケットをクローゼットの中にしまった時の事を思い出した。 一瞬だけしか見えなかったけれど、そこもジャケットやズボンが綺麗に仕分けされ、ハンガーに掛けられていた。 そして土足で上がるのが申し分けないくらいに磨かれたフローリング。 投げたけど命中しなくて、紙くずがゴミ箱の周りに散乱しているあたしの部屋のフローリングとは大違い……っていうか、あたしはホントに女の子なのだろうか……
もしも今度あたしが彼を部屋に招く事になったとしたら、とても恥ずかしくって見せられない……
「 !! 」
(……なッ、なに考えてんの、あたし!!
“今度、彼をあたしの部屋に招く”だなんて!!)
またもや勝手に大胆な妄想が暴走してしまった……。
(やっ……やだなあ、もうっ! ……キャーッ!!)
一人で勝手に恥ずかしくなったあたしは、目の前にある枕を手に取った。 それをギュッと腕の中に抱きしめて、ベッドの上で足を投げ出しゴロゴロとのたうち回っていた。
「ん?」
枕があった辺りに何か……小さなモノを見つけた。 それは縦五センチ×横五センチほどの薄っぺらい銀色の袋だった。
あたしはおそるおそる指先を使ってそれを手に取り、ゆっくりと顔を近付けた。
……何かが中に、入って る?
「なんだ、これ……? お菓子、かな……?」
袋の表面の“欠けたお月さま”のデザインの横に英語で何やら書いてある。
「んっ、と…… “エ……エックス タシー? ……何”??」
(なんだ、コレ……)
あたしの頭の中で“?”が細胞分裂を起こし出した。
今だかつてこんなお菓子は食したことがない。 ……しかも“MADE IN 外国”っぽいネーミングだし、セレブな高樹くんが枕の下に隠しているくらいのモノだから、きっとあたしの様な一般庶民には手の届かないシロモノに違いない。
(さすが高樹くん……)
甘党なあたしはこのお菓子(?)がどんな味がするモノなのかとても気になるところだったけれど、つばを飲んで我慢した。 そして、その……“エックスタシーなんとか”を元にあった位置に戻し、枕をそっと上に被せた。
(高樹くんに聞くのは……なんかちょっと恥ずかしいな……
お母さんなら知ってるかな……
帰ったら聞いてみようかな……)
☆ ★ ☆
「……何を聞いてみるの?」
(えっ!?)
ハッと気が付くと、あたしのすぐ目の前に高樹くんの顔があった。 彼もあたしの隣で片肘をついて微笑みながら寝そべっている。
「 !! 」
(ちょっ……! ちょっとまって!! どッ、どーゆーコトに……なっ てん のッッ!?)
「あーあ。 もうちょっと見ていたかったのになー ……なみこちゃんの、寝・が・おっ」
これは夢なのか現実なのか…… 状況を把握できないでパニックになっている頭の中を慌てて整頓させた。 ……どうやら“こーゆーコト”になっていたらしい。 あたしはベッドの上に横になり……高樹くんが部屋に戻ってきた事にも気付かないくらいに堂々と――――熟睡をしていた。(寝言まで言いながら)
「……ひいッ!! ごっ、ごめんなさいぃっ!!」
(ホント何してんの!? あたし!!)
よだれを手で拭って慌てて飛び起きたと同時に、あたしの体の上から(たぶんあたしが寝ている間に高樹くんが掛けてくれていたのであろう)掛け布団がズルッと滑り落ちた。
恥ずかしすぎて高樹くんの顔が見れない。 あたしは掛け布団を被って顔を隠し、もう一度小さな声で「ごめんなさい」と、謝った。
「ふふっ、大丈夫っ。 “まだ”何にもしてないって。
……だって、寝こんでる女の子のくちびるを奪うなんて反則 でしょ?
……ほらっ、 出ておいで」

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