たか☆たか★パニック~ひと塾の経験~

作者/ゆかむらさき

91―4> 日曜日(武藤なみこちゃん 主人公)・裏ストーリー(第四話)


(……くっそォ! 蒲池のやつに、いっぱいくわされた! 今までの問題を地道に解いてきた俺って一体……)
 しかしコレがラストの問題。 
 俺の本心にモザイクを掛けて遠回しに答える等したら、減点食らうのだろうか。 くっ……! テストには常にいつも全力投球の俺が、何、弱気になってんだよ……
 煌びやかな初日の出の様にツルっとしたヘア・スタイルの蒲池。 一見穏やかそうに見えるが、騙されない。 奴の本性は――――今、こんなにもこの俺をじわじわといたぶって拷問してきやがるナマグサ坊主だ。
 書くか、書かないか……
 やるか、やられるか……
 赤点だけは勘弁だ。 武藤ならともかく、この俺様が赤点だなんて――――冗談じゃねぇ!
 歯を食いしばりながら俺は“一字、一点”という、一問だけ飛び抜けて高得点な問題に挑んだ。
 “正直な気持ち”――――
 残り時間はあと五分。 俺は自分の心の奥底に隠した武藤への乱れた欲望を赤裸々に答案用紙に書き綴った。 段々と書いていくうちに筆圧が強まっていき、60字あたり書き進めていったところで俺のシャープペンが答案用紙に穴を開けた。 ……それでもさすがは俺。 ピッタリ80字でまとめる事ができた。


「は―――っ……
       は―――っ……
              は―――……
(見直しは絶対ぇしたくねぇテストだな、こりゃ)
 たかが“テスト”でこんなに息切れをしたのは初めての経験だった。


『……ビックリしちゃった、あたし。 松浦くんが いつもこんなコト考えてたなんて……思ってなかったもん……』


「!」
 俺の頭の中に、フワフワの純白のシーツが敷かれた天竺付きのベッドの上で胸を両手で隠して後ろを向いて座っている……裸の武藤が現れた。
(うっ! ……わああああッッ!!)
「か…… か…… かっ……  蒲池! センセ――イッ!!」
 俺は教室の外……いや、もしかしたら塾の外までにも聞こえるくらいの大きな声で先生を呼んだ。 大きな声で叫んだせいなのか、俺の中にいた“とんでもない格好をした武藤の姿”はこつぜんと消えていた。
 いつもポーカーフェイスを維持し続けている俺がいきなり狂い出した様に叫んだものだから、クラスのみんなは呆気に取られた顔でこっちを見ている。
「おい……大丈夫か? 鷹っち……」
 俺の額に手の平を当てて健が心配している。
 あいつのせいだ。 いつもあいつが俺の調子を狂わせる……。  頼む! ……頼むから、もういい加減勘弁してくれ…… 武藤……


「全問埋めつくしてしまうとは…… やっぱり、さすがですね、松浦くん」
 気が付けば、いつの間にか俺の席の前に現れていて、俺の答案用紙を手に取って見ている先生がいる。
「ほっ ほっ ほ。 あれあれ、ほうほう……これはまぁ……
                             なんという情熱のこもった刺激的な解答で……さすがですね、松浦くん」


「 !! 」
      (ちょっ! まて! 返せッ……)
 俺は蒲池から答案用紙を取り返そうと思ったが――――ダメだった。
 答案用紙を勝ち捕った武将の首の様に天井にかかげて彼は彼らしいおっとりとした口調で俺の前に残酷な言葉を置いた。


「最後……第二十問の採点は彼女にしてもらいます」
                            (か……彼女ぉッ!!)
 嫌な予感がする……。 俺の全身から血の気がスーッと引いていく……。
(彼女、って……まさか……  うそだろ……)


「このテストの……“科目”の彼女、です」




91―5>


(武藤が“アレ”を読んで……  採 点……)


     ☆     ★     ☆


 キーン コーン……
 講習終了のベルが鳴り、蒲池はクラス全員の答案用紙を集めて教室を出ていった。
(俺の答案用紙…… 生命(いのち)を懸けてでも取り返してやる!!)
 俺はよろつく足でマルハゲ(蒲池)の後を追った。


“テスト”なんて名は表だけの“暴露アンケート用紙”。
 テスト……その言葉にまんまと騙されて意地になって満点取ろうとして……なんてバカなんだ俺は。
 自分の情けなさをため息に変えて吐き出し、俺は教室のドアを思いっきり蹴って開けた。


(マルハゲの野郎め……。 あいつは一体なんのためにこんなこと……)
 俺は平常心を取り戻そうと便所へ向かった。
(モヤモヤするな……。  クソッ! 顔でも洗ってスッキリしてくるか……)
「……あん?」
 Bクラスの教室の前にマルハゲを見つけた。 ――――彼と一緒に武藤もいる。
 毛の薄いおでこに手を添えて何やらボソボソと話すマルハゲの顔を見ながら、武藤が何度も頷いている。
 俺はゆっくりと二人に近付いていった。
「じゃ、次回の塾の日に渡しますから、最後の問題だけ採点をお願いしますね」
「あ…… はい……」
(何、話してるんだ、こいつら……)
 しかし、なんとなく分かった。 ――――“アレ”の話だ。 絶対。
 俺に気付いたマルハゲはふり向いてニッコリと微笑みかけてきた。
「おお、松浦くん。
      申し分けないが、君には二人分のテストの採点をしてもらいます。 ……お願いしますね」
                                                             「は!?」(……二人分?)
「はい。 二人とも二年生Bクラスの生徒のテストですね。
            ……ああ、名前はねぇ、今ここにいる武藤なみこさん。 そして……高樹純平くんのです」
                                                                (……げ。)
 俺はますますマルハゲの魂胆が分からなくなった。俺が混乱している間に彼は階段の方へ歩いていった。


「えへ。 “答え”なんてどうせいつも松浦くんに言われちゃってるコトだもんね。  ……うん。 覚悟はできてるから大丈夫だよ、あたし」
 俺の着ているシャツの裾を軽く引っ張りながら小さく震えた声で言う武藤。 “大丈夫”などと強気な事を言っているわりには俺の顔を見れないで下を向いている。
「フン!」
 俺も彼女の顔を見ず背を向けて自分のクラスの教室へ戻った。


(見た瞬間……腰抜かすぞ、 バーカ)