たか☆たか★パニック~ひと塾の経験~

作者/ゆかむらさき

96> 日曜日(武藤なみこちゃん 主人公)


 「おいしいうちに食べて…… ねっ」
 (おいしい……?)
 布団の上から高樹くんに優しく頭をポンッ、と叩かれ、(“デザート”につられて)あたしは顔を出した。
 ベッドの脇の小さなテーブルの上のデザートにあたしの目が釘付けになった。
 「すっごぉい……。  コレ、全部高樹くんが……切ったの?」
 バラの花の形をしたガラスの器の中いっぱいに並べられた、メロン以外は食べた事も見た事もない見事に飾り切りのほどこされたフルーツの盛り合わせ。 そして、フルーツの器と(たぶん)お揃いのガラス製の小さなペア・ティーカップに注がれた紅茶。 ――――それらを乗せている金色のお盆……じゃなくってトレイ(?)の上には、玄関のアーチに咲き乱れていた深紅の花の花弁が華麗に散りばめられている。
 「ぱ、 パティシェ、ですか――――!!」
 ……思わず心の中で思いっきり叫んでしまった。
 さすがテクニッシャンの高樹くん。 前に一緒にビリヤードをした時と同じ様にあたしのハートは再び彼にさらわれてしまった。
 花弁の形をした小さな取り皿にフルーツを取った高樹くんは、驚きのあまり全開になっているあたしの口の中にフォークで刺した一かけのフルーツを放り込んだ。
 突然だったから、あたしの中に入ってきたものは何だったのか分からなかったけれど、甘くて……酸っぱくって……じわじわと溶けていった。
 なんだかグルメ・リポーターのコメントみたいになってしまったけれど、それは初めて高樹くんに出逢った時のあたしの気持ちに似ていた。
 今になっても思いだせば顔が赤くなっちゃうくらいの甘い甘い彼との思い出を、もう一度味わいながら飲みこんだ。


 「高樹くん……、  あのね……」
 高樹くんは手に持っていたお皿をテーブルの上に戻してまっすぐあたしの顔を見ている。
 「あたし……、  あたし ね…………」
 ――――そう言いかけたとたん、すでに忘れかけていた“処女の誘惑”がスクリーンの中で厄介なコトになっていた。


 『キスして……  リック……』
 『ジェーン……』
 さすが(?)アメリカ発、恋愛・ロマンス系映画(ムービー)。 一体どんな流れでこんな所にいるのかは分からないけれど、二人のいる場所は真夜中の廃ビルの工事現場の片隅。 この映画の主人公のチアガールの女の子“ジェーン”は、なぜか上下セクシーな黒いレースの下着姿になっている。 そして、アメフト君“リック”の膝の上に向かい合って座り、大胆にもキスを要求していた。
 オープニング映像の時とは打って変わって娼婦(?)の様になってしまった彼女は、リックと目のやり場に困る様なキスを交わした。


 (どうしよう……)
 困る……。 非常に、困る……。
 チアガール……(もとい娼婦?)のジェーンに、あたしがさっき高樹くんに言おうとした言葉をぶっ飛ばされてしまった。
 今、ベッドの上に腰を掛けている高樹くんとあたしの前で、まだ懲りずにスクリーンの中で堂々とすごい音をたててキスを交わし合うジェーン&リック。 スクリーンから目を離しても彼らの会話と(キスの)音が聞こえてくる。
 ここで耳をふさいだら よけいに不自然だし――――
 (高樹くん……。  今、どんな気持ち、なのかな……)
 とりあえず、この気まずい雰囲気をどうにかしなくっちゃ!!
 あたしは膝に乗せた両手をギュッと握り締めて高樹くんを見た。
 「がっ、外国流の キス、って…… なんか…… すごいよねぇ。 えっへへへ……」
 ……とりあえず笑って全力でごまかしてみた。
 『あはは。  ホント、すごいよねぇ』
         ――――こんなふうに いつもの笑顔をみせて返してくれることを願って……。
                                                          ……けれど、甘かった。


「日本人も……するよ……」
 照れて抵抗する余裕もなく、あたしのくちびるは高樹くんに吸い込まれていった。
 以前、“やりまくりべや”でされた、“触れただけ”のキスとは違う……まるでジェーンとリックに対抗しているようなくらいの……激しいキスだった。
 (そうだよね……。  だって…… “約束”だったんだもん……)
 あたしは震える両手を高樹くんの背中にそっと回した。