たか☆たか★パニック~ひと塾の経験~
作者/ゆかむらさき

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《ここからしばらく高樹純平くんが主人公になります》
なみこちゃんを乗せたバスが見えなくなるまで見送っていた。
『おやすみ、純平』
『あ……待って、お母さん! お願い。もう一冊だけでいいから読んで』
『ごめんね、純平。お母さん達、また明日仕事で朝早くから遠い国へ出掛けなくちゃいけないの。お土産に新しい絵本とおもちゃ、いっぱい買ってきてあげるから』
新しい本もおもちゃなんかもいらないよ。
僕はただ……もう少し一緒にいて欲しいだけなんだから。
消さないで…… まだ消しちゃ――――
電気を消された部屋の様に周りの静けさと暗さにやっと気付いた僕。
振っていた手を止め、胸に当てた。
ドラマのセリフの様なキザったらしい飾り文句をこの僕が真剣に正直な気持ちで放出しながら、裸にした心と身体で彼女を抱き締めた感触が今もまだ残っている。
思えば“愛してる”なんて感情を持った事など今まで無かった。
この僕が……こんなに本気で誰かを愛するなんて――――
☆ ★ ☆
初めて彼女……なみこちゃんと出逢った日――――そういえばその話は幼少時代から親友関係を築き続けている健にも聖夜にもまだ話していなかった。 彼らに僕のなみこちゃんへの想いを告白したのは“彼女が塾に入ってきた日”の時だったから。
(暗いな……)
黒い雲が夕焼け空を早いスピードで飲みこんでゆく。
今朝の予報では今日明日を通して良い天気が続くと言っていたのに。 これは……今夜あたりから“崩れる”かもしれない。
どうも嫌な予感がしてならない……
足を止めた僕は空を睨みながら大きく深呼吸をした。
(何、弱気になっちゃってるんだよ……)
まつ毛に掛かった前髪を手でかき上げて、再び家へ向かい歩き出した。
なみこちゃんは帰っていく……松浦鷹史の隣の家に。
明日の朝は登校する……松浦鷹史と同じ学校へ。
次の塾の日は火曜日、か……
(保留します)

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