たか☆たか★パニック~ひと塾の経験~

作者/ゆかむらさき

98> 日曜日(武藤なみこちゃん 主人公)


 ――――どうしたらいいのか分かんない。
 ……当たり前だ。 だって、ここから先は今まで妄想でもした事のない未知の世界なのだから。
 こんなことになるなんて思っていなくて全く色気の微塵もない下着を着けてきてしまった。
(ま、いっか……。  どうせすぐに外されちゃうんだから……)
 いくら着るもので飾って頑張ったとしても、どうしたって中身は“あたし”なんだもん……。 高樹くんみたいなパーフェクトな男の子に、こんなあたしの全てををさらけ出すのは恥ずかしい……っていうよりも失礼にあたるって言ったほうがいいのかもしれないけれど、“僕にまかせて”と言う彼にあたしは身をまかせた。


「好きだよ……  なみこちゃん……」
 呼吸を乱しながら、あたしの身体の至るところにキスをして彼は何度も名前を呼んだ。
 彼の愛を受け止める事で精いっぱいで、あたしは口では何も返すことができなくて――――心の中で答えた。


「あたしも 好きです……」
               ……と。


 ヒトの体は、全身の40パーセント以上の深い火傷を負うと死に至るらしい。
 高樹くんに触れられる所が火傷を負ったかのようにあつくなる……。 もうあたしの身体は100パーセントに近い火傷を負っている。 全身にがんじがらめに繋がれた爆竹の束が、導火線を走る炎に点火されて次々と爆発を起こし、体全体を駆け巡る様な激しい火傷を――――。
 あたしの中に高樹くんの深い愛情が注がれる……  溢れてこぼれるくらいに……
 今度は冗談じゃなくて、本当に死んじゃいそうだよ……


『愛してるよ…… ジェーン……』
『これからも、ずっと一緒よ、リック……』
 スクリーンの中で、いつの間にやら純白のタキシードとウェディングドレスを着飾ったジェーン&リックが教会の壇上の前で大勢の人たちに祝福されながらキスを交わしている。
 二人ともとても幸せそうな顔をしている……。 DVDなんて観る余裕なんてなかったけれど、気が付かないうちに彼らは勝手にハッピー・エンドになっていた。
 あたしもこのまま高樹くんとハッピー・エンドになるのかな……?
 高樹くんの腕に包まれながら、あたしは“処女の誘惑”のエンディング・ロールを眺めていた。
 それにしても“人肌”がこんなに温ったかくて気持ちがいいものだったなんて……思わなかった な……
(ひっ!!  ひ、 人肌ぁッ――!!)
 あたしはビックリして飛び起きた。
 何も身に着けていない産まれたままの姿になっている……あたし。 ふっとそばに全然“お菓子”なんかじゃなかった“エックスタシーなんとか”の封の切られた袋を発見してしまい、心の中で「うっひゃー!」と叫びながら素早くグジャッと丸めてゴミ箱に向けて投げ捨てた。 そしてベッドの上に散らばっている、さっき高樹くんに脱がされたパンティーとタンクトップを慌てて着て、「ふー……っ」と一息ついた。
 あたしの隣で横になり、静かに寝息をたてている高樹くん。 下半身には掛け布団が掛けられているけれど……きっと彼も産まれたままの姿だ……。
(風邪、ひいちゃうよ……)
 あたしは高樹くんに布団を掛けるついでに、彼の顔を見つめた。 ……気持ち良さそうに眠っている。 今まであたしの油断した寝顔を見られてしまった事は何度かあったのだけれど、彼の寝顔を見るのは初めてだった。 きっと彼も、今のあたしと同じ気持ちでこうやって見ていたのかな――――
 汗をいっぱいかいていて、今はペタン、となっているけれど、いつもはサラサラの彼の髪。 男の子なのに、女の子の様な長いまつげ。 そしてセクシーな唇。
 こんなに可愛らしい寝顔をしているのに、あんなキスをしたり……
(……やだッ!  またさっきの“アレ”を思い出しちゃいそう……ッ!)
 高樹くんに布団を掛けて、エアコンの暖房の温度を上げに行こうとあたしはベッドを降りようとした。
「 !! 」
 そのとき、あたしの手首が寝ていたはずの高樹くんにつかまれた。


「……なに?  もう終わっちゃった の?」


 下着を着けたあたしの姿を見て彼は言った。
(うそ!!  ま…… まだ続くのぉッ!?)
 高樹くんが“テクニッシャン”だっていうことは充分に分かっている……。 でもッ…… あたしは…… あたしは……ッ!!
「ごッ…… ごめんっ、高樹くんっ……  あああ あたし、もう……むりみたい ですッ!」
 あつくなった顔を枕にうずめて本音を叫んだ。
「……ぶっ!  あはははは……」
 高樹くんが大爆笑をしている。
「何、言ってんだよ。 DVDのコトだって、なみこちゃん……。  うーん…… 確かに正直いうともう少し“探検”したかったんだけど…… 無理なんじゃあ仕方ないよね……」
 枕から顔を出し、ほっぺたを膨らませたあたしをまっすぐ見て彼は言った。


「愛してるよ」