たか☆たか★パニック~ひと塾の経験~
作者/ゆかむらさき

1> 裏ストーリー(高樹純平くん 主人公)
――――僕の名は高樹純平。
純平の純は“純粋”の『純』。
女の子に全く興味が湧かない……なんてコトはないけれど、生まれてからずっと……今まで一度も“恋”というものをしたことがない。
やっぱりみんなにいつも言われてる様に理想が高過ぎるのかな……僕。
僕の両親は下着会社を夫婦で経営していて、海外に出かける事が頻繁にあってめったに家に居る事がない。 家政婦のおばさんを一人雇ってはいるが、住み込みではないので、夕ご飯の支度を済ませると帰っていってしまう。 広い家に僕ひとり。 小さかった頃は淋しかったけれども、もう慣れた。
先日父さんが久しぶりに家に戻ってきた。 父さんの横にもう一人……僕が多分初めて会う男の人がいた。 父さん曰く彼は幼馴染で占い師らしい。 見た目は焦げ茶色の肌をしている土木作業員の様な風貌。 とてもカーテンを閉め切った暗い部屋で毎日水晶玉に手をかざしている、というイメージはわかないけれども、彼の占いはとてもよく当たるものだと言っていた。 主に事業経営や景気の流れ等を占う人だった。 おそらく父さんの傍ら、お世辞を言ったのだと思うけれども、僕の手相を見た彼に、『将来、父をも超えるほどの人間になる』と言われた。
僕は“ついで”に彼にお願いをしてみた。
「恋愛面も占ってください」
――――と。
一瞬曇った彼の表情を僕は見逃さなかった。
『恋愛占いはしたことがない』と彼は言っていたが、絶対にウソだと思った。 彼には“僕の恋愛の良くない結果”が見えたんだ。 「自信はないが……」 彼は父さんの隣で言いにくそうに答えた。
タイトル『一晩かぎりの月下美人(シンデレラ)』
(今夜七時から花火大会、か……)
僕には“健”という幼少時代からのくされ縁の同級生の友達がいる。 見た目だけではなく中身までも、今流行り(?)の“チャラい”男だ。 彼には“由季ちゃん”という、誰がどう見ても釣り合いがとれないくらいの美人の彼女がいる。 小学生時代に(もちろん)健の方からダメモトで告白したら奇跡的にOKをもらえた事がきっかけで二人は交際を始めた。 小さな事でちょこちょこケンカは絶えないけれども、なんだかんだいっても続いている仲良しカップルだ。
健と由季ちゃん……。 あいつらの事だからきっと今夜、花火と一緒に“フィーバー”でもするのだろう。
『高樹に彼女ができたらダブルデートしような!』
自分には恋人がいるからって余裕な顔で健のやつはエラそうに言う。 そんな事言って僕の彼女も一緒に“ダブルフィーバー”でもする気……
――――って、友達の事をこんなに悪く言っちゃイケナイ……
なんかひがんでるみたいでカッコ悪いな、僕……
最近熱帯夜が続くからなのだろうか。 身体が熱い。
部屋の窓を開けて夜風を浴びた。 暖かい風の味を感じながら目をつむる――――
今年の夜も一人寂しく花火の音をBGMに“未来の僕の恋人とのラブラブデート”を想像しながらくつろぐとするか……
僕はキングサイズのベッドの上にゴロンと横になり、枕元に置いてあるファッション雑誌を手に取り、パラパラとめくった。
(ん? そういえば健のやつ、最近やけに浮かれてたな……)
彼曰く、由季ちゃんとデートなんて……“お泊りデート”まで何回もこなしているはずなのに……。
あの健のテンションはまるで“初めてデートをする”様な感じ――――
“彼女にバレない浮気の方法”
偶然にも読んでいる雑誌の中のこんなコーナーに目が止まった。
もしかして健のやつ……
(――――なーんて、ね……)
だから友達の事、こんなに悪く言っちゃイケナイって。 やっぱりひがんでるんだな、僕……
「 !! 」
外から女の子のすすり泣く声が聞こえる。 しかもその声は“僕のよく知っている女の子”の声にとてもよく似ていた。
窓からそっと顔を出して覗いてみると、やっぱり思った通り――――由季ちゃん だった。
浴衣姿の由季ちゃん……。 彼女は僕の部屋を見上げながらずっと泣いていたのだろうか。 呼び鈴も押さずに……
僕の姿に気付いた彼女は慌てて走り去った。
彼女は僕に助けを求めている――――そんな気がして僕は部屋を飛び出した。
――――放っておけない!!
玄関を飛び出し、彼女の元へ向かった。
2> 裏ストーリー(高樹純平くん 主人公)
僕の部屋のベッドの上に腰を掛けて……僕の淹れたジャスミンティーの入ったカップに口をつける由季ちゃん。
「――――やっぱり合わんかったんだぁ…… わたしたち……」
震えた声で大粒の涙をこぼしながらジャスミンティーをすする。
(もう何も話さなくて いい……)
ベッドの上のちょうど“彼女にバレない浮気の方法”のページで開かれっぱなしになっている雑誌を慌てて閉じて、僕は彼女の小さな肩に手を乗せ……ようとして止めた。
(由 季 ちゃん……)
信じられない……。 衝動的にこんな展開にしてしまったのだけれど、由季ちゃんが一人で……“健の付いていない”由季ちゃんが僕の部屋のベッドの上に――――
普段は細いウエストと長い脚を強調したスリムジーンズでクールにビシッとキメている彼女がしっとりと女の子らしい淡いブルーの浴衣姿で……。
普段は下ろしている艶やかな腰まであるロングヘアーを今夜は一つにまとめておだんごにして……。
僕は視線でゆっくりと彼女の首すじを撫でた。 少し着崩れた浴衣の後ろ衿の中からセクシーに覗く彼女の背中を見てつばを飲み込んだ。 その奥はいったいどうなっているんだろう……
健が宝物を見せびらかすように僕に話していた“由季ちゃんの裏の顔”が僕の頭の中にぼんやりと浮かぶ。
(な、何思い出してんだよ! 僕っ!!)
健のせいで余計に由季ちゃんの顔を見る事ができなくなってしまった。
カタカタと由季ちゃんが手に持っているカップが震えている。
僕はおそるおそる彼女の手から視線を上らせてゆく。
普段はいつも…… 言っちゃ悪いけど“男らしい”、誰に対しても対等で媚びたりしない、さばけた強い“はず”の彼女が真っ赤な目で僕の顔をまっすぐ見て震えている。
今ここで…… 僕が抱き締めたらバラバラに壊れてしまいそうに――――
ドドドドーン!
夜空全体に響き渡る音と共に窓から降り注ぐ眩しい光。 花火大会のオープニングが始まった。
「相手が“僕”じゃあ、全然物足りないかもしれないけれど……今夜は一緒に楽しんで みる?
綺麗でしょ? ここからでも充分に見えるんだよ、花火」
――――本当はこんな台詞を言いたいんじゃなかった。
僕の本心は…… もしも由季ちゃんが健の彼女じゃなかったら――――

小説大会受賞作品
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