たか☆たか★パニック~ひと塾の経験~

作者/ゆかむらさき

91―10> 日曜日(武藤なみこちゃん 主人公)・裏ストーリー(第十話)


 ……いや! 好きじゃない。  愛してなんかいない、はず――――


 俺は一体武藤に何をしようとしているのか……正直、自分でも分からない。
 こんなやつに愛の感情なんてこれっぽっちもないはずなのに、こんな事をするなんて……。
(これじゃあ、あの時の“ゴリラ野郎”と同じじゃねぇか!!)
俺は慌てて握っていた武藤の手を離した。 それと同時に、彼女は両手をサッと自分のももの下に隠しやがった。
(“こんな女”に俺の方から手を出しちまうなんて……  俺は相当女に飢えているのか……?)
「……チッ!」(こんな女……)
 俺はもう一度ゆっくり彼女を見た。 彼女は頬をピンク色に染めて、ももの下に両手を隠したまま窓の外を見ている。
 こんな女に……。 認めたくないけれど、俺は彼女に意識をしている。 その証拠として俺の心臓が今、壊れるくらいの勢いで暴れている。


「なっ……なんかへんだよ……今日の松浦くん……」
                                    「………。」
                                                   「……松浦くん?」


「あはははははは…………!  ……フン! おまえのせいだ」
 俺は武藤の肩に手を回し、彼女の耳元に顔を近付けた。
「無視してんじゃねぇ。  腹立つんだよ、おまえ。 高樹といちゃいちゃ、いちゃいちゃ、そっこらじゅうで見せ付けやがって……」
「えっ?  なに? ……え?」
 腕の中で武藤は目を大きく開いた顔で俺を見ている。 逃げようとしても逃げられないで……まるでトラに捕まり、食われる寸前になっている小鹿の様に震えている。 ……無理もないだろう。 なんせ“こんな事をしてくる相手”が“俺”なんだからな。
「いい加減にしろ…… この鈍感女……」
 俺はもう片方の手の平を武藤のあごに添えて顔を近付けた。


「……すみません!  遅くなりました!」
 運転席のドアを開けて、マルハゲがバスの中に入ってきた。
「……チッ!」
 俺はあわてて慌てて武藤の肩とあごに触れていた手を離し、今度は逆に武藤の体を窓際に押し付けた。
「結構な時間、待たせてしまいましたね。 ……すぐ送ります」
 ジャラジャラと五、六本ぶら提げている鍵の束の中からマルハゲは一本の鍵を取り出し、エンジンをかけ、バスが動きだした。


 マルハゲが来るのがもう少し遅かったら、俺は武藤に…… 
(フッ……  笑っちゃう な……)
 いつも思っただけで素直に動けない…… まるでエンジンを空ぶかししている車の様な俺……。
 残りの鍵の束は無造作にマルハゲのブリーフバッグの中に入れられて、いつものように無防備に運転席と助手席の間のスペースに立てて置いてある。


「寒かったですよね。 今、暖房いれましたのでじきに暖かくなりますよ」
(寒くなんかねぇよ……。  暑ィぐらいだ……)