コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- マーメイドウィッチ
- 日時: 2016/06/21 11:41
- 名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)
世界が止まった。
手が震える。
数拍のちに気付く。
私は大切な人に裏切られたのだと。
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- Re: マーメイドウィッチ ( No.320 )
- 日時: 2017/07/10 00:33
- 名前: いろはうた (ID: 5xpLMM01)
コンコンと控えめに叩かれる扉の音で
フレヤははっと我にかえった。
辺りを見渡すとそこは宿の部屋が
闇に包まれているだけだった。
今のは、幻だったのか。
いや、それにしてはあまりに生々しい。
青年の記憶を追体験しているかのようだった。
あの青年は父の記憶に違いなかった。
異民族の娘はメノウとそっくりの目をしていたし
王妃となった令嬢は
絵姿で見た母とそっくり同じだった。
いや、考えるのは後にしよう。
そう思いながら立ち上がる。
自分から歩いて行って扉を開けると
思った通りチノが立っていた。
廊下のランプの光を背に立っているために
表情がよく見えなかった。
今夜も彼と同室なのだったと思い出し
チノが入れるだけのスペースを明け渡す。
彼は無言で部屋の中に足を踏み入れた。
「メノウのことをどうするか決めた?」
とりあえず何かを話さなくてはならない気がして
フレヤはなんでもないふりを装って聞いた。
窓に向かって歩いていたチノが
くるりと振り返ってこちらを見る。
「……殺さない」
端的な言葉に言葉にならない思いを感じ取り
フレヤは瞳を伏せた。
メノウのことは許せない。
だけど先ほどメノウの母親であろう娘を目にした。
彼女は、メノウの言う通り
父の歌の力に惑わされたのではなく
愛を知らない父に恋をしたのだ。
それを信じられず全て歌の力によるものだと
勝手に決めつけたのは父だ。
ふと我にかえると、
チノが無言でこちらを見ている気配があった。
部屋の中は明かりを灯していないから
暗くて彼の表情が見えない。
ランプに明かりを灯そうと動いたフレヤの腕を
チノが俊敏な動きで掴んだ。
突然触れられたため、反射的に振り払おうとしたが
その手は少しも揺るがなかった。
痛いくらいに握り締められて顔をしかめる。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.321 )
- 日時: 2017/07/10 01:55
- 名前: いろはうた (ID: Sm0HUDdw)
- 参照: https://pixiv.me/asaginoyumemishi
「ち……」
「おれから勝手に離れた挙句、あの王子の手を取ろうとするとは……
おれの言ったことを、いともたやすく忘れてくれたようだな」
平坦な声だった。
それに戸惑いを隠せないまま、フレヤは瞬きを繰り返す。
チノから硬く、荒々しい気配を感じる。
しかし、暗くてどのような表情なのかを見ることができない。
「もう忘れているようだが、もう一度言う。
おまえがおれから離れようとすれば、
おれは自らの命すら絶ってみせると言った」
ぐっと強く腕を引かれて、チノの体に倒れこんでしまう。
咄嗟に彼の固い胸板を押して離れようとしたが
素早く腰に回った力強い腕がそれを許さない。
「ば、馬鹿なこと言わないで……!!」
「本気だ」
ぐっと顔を近づけられる。
お互いの吐息すら感じるほどの距離に目を見開く。
月光を反射するチノの瞳しか見えない。
その目にはおびえたように目を見開いた自分の姿が反射していた。
「今、おまえの目の前で、心の臓をついてみせようか」
「や、やめて!!」
離れかけたチノの手を素早く掴み、握りしめる。
このままだと、本当に腰にさしてある短刀に手を伸ばす気だ。
指先が氷のように冷え切っていることに
熱いチノの手首に触れて知る。
「やめて、ほしいか……?」
ささやくようにチノが言った。
とろりとした甘さがにじんだ声音だった。
「やめて……お願いだから……」
「……おれの願いを一つ聞いたら、今日は許そう」
願い?
フレヤはただただチノの瞳を見返すしかない。
炎を薄い氷で覆い隠したようなまなざし。
今にも氷の壁を突き破って爆発してしまいそうな危うさすら感じた。
チノの瞳に宿る感情が強すぎて、よくわからない。
「心配するな。
簡単なことだ。
……おまえから、おれに口づけを」
頭が真っ白になった。
次の瞬間に頭に浮かんだのは、チノの許嫁である娘の姿だった。
ルザが悲しむ顔が目に浮かぶ。
「……でき、ないわ」
胸の奥から声を絞り出すようにして言った。
チノの発する空気が重いものに変わった。
「……なぜだ。
簡単なことだろう」
ぼろぼろと自分の意志とは関係なく涙はこぼれ続けた。
フレヤは強く首を横に振り続けた。
苦しい。
この人は、ルザがいるのに、どうしてこんなことを望むのか。
なにか勘違いをしてしまいそうになる。
胸が軋む。
心が悲鳴を上げる。
ああ、そうか。
チノの瞳が涙にぼやけていくのが見える。
強い感情を宿す瞳。
あの目に宿る強い感情は、憎しみなのか。
そうに違いない。
今まで数えきれないほどチノと彼が大切に思うものを傷つけてしまった。
憎まれて当然なのだ。
だた、想っている人に憎まれるのが
これほどまでに苦痛を伴うとは思っていなかったのだ。
泣き続けるフレヤを見て、チノはひそやかに吐息を漏らした。
「どこまでも思い通りにならない娘だ。
……いっそのこと、殺めてしまいたい」
涙をぬぐうように触れてくる唇とは正反対の
荒々しさがにじむ声音が耳に吹き込まれた。
「……そうすれば、これほどまで苦しまずに済むものを」
小さなつぶやきはフレヤの耳には届かなかった。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.322 )
- 日時: 2017/07/11 23:17
- 名前: いろはうた (ID: Sm0HUDdw)
- 参照: https://pixiv.me/asaginoyumemishi
昨夜、かわりにチノが要求したのは、フレヤの一日だった。
一日、チノの傍にいて彼のしたいようにさせるという内容だった。
混乱していたフレヤは、小さく頷くしかなかった。
昨夜の出来事を思い起こしながら
朝日の差し込む窓を薄目で見つめ、
フレヤはベッドに横たわっていた。
視線を動かすと、窓から少し離れた壁に背中を預けた状態で
目を閉じているチノの姿が見えた。
陽光にチノの髪の先が透けて白く見える。
フレヤは起き上がって、静かにチノに近づいた。
ふわりとしゃがみこんで、目を閉じる彼の顔をのぞき込む。
規則正しい呼吸音だけが聞こえる穏やかな空間。
昨日の夜が嘘みたいだった。
目が隠れるほど長い前髪。
すっきりとした鼻梁。
長いまつげ。
少し厚みのある唇。
なめらかな顎のライン。
どれも見慣れたもので、どれもが愛しい。
泣きたくなるほどに好きだ。
胸が引き絞られるように苦しくなる。
フレヤはそっと手を伸ばして、チノの頬に触れた。
紅茶色の肌は温かくて、なんだかわけもなく涙が出そうになった。
苦しいことも悲しいことも全部なくなってしまえばいいのに。
この穏やかな時間がずっと続けばいいのに。
ふわりと手を掴まれてはっと目を見開く。
緑の瞳がこちらをまっすぐに見ていた。
彼はふわりと笑った。
ひどく嬉しそうに。
それだけで心拍数が突然上がってしまう。
「おはよう」
つかまれた手がそのままチノの唇押し当てられた。
その柔らかい感触に頬に熱が集まる。
「おっ、おはよう」
急いで手を引き抜いたら
拍子抜けしてしまうほどあっさりと離された。
それを少しだけ寂しく思ってしまうだなんて
自分はどうかしているに違いない。
チノは小さく笑いながら、かわいい、とつぶやいた。
かと思うと、ぽすんとチノの頭が肩にぶつかり
体をこわばらせてしまう。
そのままチノはぐりぐりと頭を肩に押し付けてきた。
その獣っぽい甘えるような仕草に
不覚にもきゅんとしてしまった自分は、重症だ。
やがてチノが顔を上げた。
「今日のおまえは、おれだけのものだから、
こんなに可愛く見えるのか?」
至近距離で緑の目を細めながら言われ
失神しそうになったのは間違いなくチノのせいだ。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.323 )
- 日時: 2017/07/12 14:50
- 名前: 珠紀 (ID: uJGVqhgC)
チノォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!(鼻血)
鼻血ドブシャ(*´ノi`)・:▃▃▃▅▆▇▉
あああ。
苦しい。腰にきます。
甘々シーン、ありがとうございます。
カルトも、んんんんん!!!!
かっこいい。はぁ……
もう、この思いをどう伝えていいか分かりません。
とにかく!
素晴らしい作品を書いてくださりありがとう御座います!
呼び方ですが、いろはちゃんにします。
これからも応援しております。
_珠紀
- Re: マーメイドウィッチ ( No.324 )
- 日時: 2017/07/12 22:24
- 名前: いろはうた (ID: Sm0HUDdw)
- 参照: https://pixiv.me/asaginoyumemishi
珠紀ちゃん!!
あわ!!
あわわわわわわわ!!
来てくれてありがとう!!!!!!!!!
感謝感激!!
この感謝の気持ちを
うまく言葉では表せないのがすごくもどかしい!!!!!!!
カルトさん、地味にお気に入りです。
初見さんには冷たいけど
身内と好きな子にはとってもホットな素敵な人です。
ギャップ萌、万歳。
どうぞどうぞ!!
おすきによんでくださいな!!
コメントありがとう!!
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