コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

マーメイドウィッチ
日時: 2016/06/21 11:41
名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)

世界が止まった。



手が震える。



数拍のちに気付く。









私は大切な人に裏切られたのだと。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76



Re: マーメイドウィッチ ( No.159 )
日時: 2016/10/28 01:04
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

ヘレナはついてこなかった。

元婚約者が自分の夫と二人きりになるなんて、

妻としては複雑な心境であろうに、何も言わなかった。

そう思いながら、人払いをした部屋までステファンを案内する。


「貴女の護衛も、外においてはくれないか」


足を止めたステファンが不意にやんわりと言った。

影のように付き従うチノにその視線は向けられている。

チノはちらりとフレヤを見た。

フレヤは彼に小さくうなづいて見せる。


「わかりました」


そう答えると、フレヤは真鍮の扉の取っ手を握った。
























「ずいぶんと信用なさっているようだ」


少しだけからかうような調子のステファンの言葉に目を細める。

信用。

私はチノを信用しているのだろうか。

自分でも彼に対する感情がよくわからない。

これは信頼の感情なのだろうか。


「そうでしょうか」

「ああ。

 昔はそのような表情は私には見せてくださらなかった」


苦笑するステファンにズキリと胸が痛んだ。

貴方だからみせなかったのだと言えたらどんなにいいだろう。

笑顔を直視できず、フレヤはそっと視線をそらした。


「それで、話とはなんでしょうか?」


声がわずかに低くなった。

それに気付かない様子で、ステファンは言葉をつづけた。


「話というのは、革命軍、についてだ」


体がこわばるのが分かった。

今、最も聞きたくない名前だった。

ぎゅっと手を握りしめる。


「革命軍が……何か?」

「近頃、ずいぶんと動きが目立たないらしい。

 なにか変わったことなどないだろうか?」


変わったことならある。

変わりすぎてしまったほどだ。

ステファンに夢見るように恋していた日々があまりにも遠かった。

もうすぐ、殺人を犯そうとしているのだから。

実の父をこの声を使って、死においやろうとしているのだから。


「……特には、ございませんが」

「そう、か」


声はかすれなかっただろうか。

いつも通りふるまえているだろうか。

フレヤは唇をかんだ。

そうでないと、唇が震えているのを悟られてしまう。


「私は、心配だ。

 貴女は肝心なことをいつも話さない」


フレヤは目を見開いた。

まるでフレヤのことを深く知っているかの口調。

フレヤは彼のことを何も知らないというのに。

ただ、恋に恋をしているようなありさまだったのに。

……恋に、恋を?


「どうか、少しでも困ったことがあったら私を頼ってほしい」


うそだ。

そう思いたい。

だけど、嘘だと思い込もうとすればするほど浮き彫りになる。

そう。

ステファンに恋をしているのではなかったと。

ただ、はじめての淡い思いに有頂天になっていただけだったのだと。

愕然とするフレヤに、何を思ったのかステファンがかすかに笑った。

Re: マーメイドウィッチ ( No.160 )
日時: 2016/10/30 12:11
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

「フレヤ様」


柔らかな声にはっと我に返る。

口の中がカラカラだ。

手先が冷える感覚がする。


「私はこれで」


綺麗に一礼するステファンを呆然と見る。

去っていく背中を呼び止めることすらできなかった。

彼のことは好きだ。

好きだった。

この気持ちは執着心からくるもの……?

私のものだった人が突然いなくなったから、

恋しくて、追い求めているだけ……?


「おい」


突如かけられた声にびくっと肩がはねた。

あわてて振り返るとチノがそこに立っていた。

いつから立っていたのか。

気配にまったく気づけなかった。


「ち、の」


声がかすれる。

胸がぎゅっとなった。

チノはその緑の瞳に、かすかに心配そうな色をのぞかせていた。

何を言われた。

まなざしでそう告げられた。


「……革命軍のことよ」

「……」


自分の個人的な感情は、無理やり心の隅に押し込んだ。

フレヤは少し考えた後、チノのほうへ少し歩み寄った。

手を伸ばしその手に触れる。

握りしめた彼の指はあたたかくて、乾燥したさらさらした感触だった。

彼がどこへもいかないようにぎゅっと握りしめる。


「メノウと面識があるの?」

「……」


チノは黙ったままだった。

その目からは一切の感情の色が消えた。

読み取れない。

彼が何を考えているのか。


「同じ志をともにするものって、メノウは言っていたけど本当なの?

 チノは、メノウの味方だったの?」


ゆっくりとまたたく緑の瞳。

それがメノウの緑の瞳が重なった。

まさか。

いや、そんなはずは。


「……メノウは、あなたの、同族?」


この国の民は青い瞳を持つ。

海の一族だからだ。

海の民である王族が国を統治している。

緑の瞳は、この国の民以外の者が持つ。

例えば、チノの一族、放浪の民アルハフ族だ。

フレヤは、アルハフ族以外の緑の瞳を見たことがない。

チノは、黙ったままだった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.161 )
日時: 2016/11/02 20:45
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

チノはフレヤをまた避けだした。

満月を見ながら、フレヤははっきりとそう思った。

前から避けてはいたが、いまはもっとひどい。

いつもは後ろに影のようについて回っていた姿が見当たらない。

さすがに、不安になる。

心配もする。


「……」


徐々に腹が立ってきた。

自分から、チノの姿を探して回るのは初めてのことだった。

慣れないことをして、しかもそれがうまくいかないと

どんな人間でもイライラするものだ。

しかし、探せど探せど、チノは見つからない。

中庭の横にある廊下を速足で歩いていた時、ガサリ、と音が聞こえた。

はっとして、音が聞こえた大木のほうを見る。

風がほほを撫でた。

人影が、大木の大きな木の枝に腰かけてこちらを見ていた。


「チノ……?」


ささやくような声で名を呼ぶ。

聞こえたはずなのに返事はなかった。

ふと気づく。

暗闇の中光る瞳が金色に輝いていることに。


「せっかくこちらから隠れてやったのに、おまえはまた余計なことをする」


チノの声だ。

同じ声なのに、まるで違う。

フレヤは一歩あとずさった。

だれだこの男は。

これは、フレヤの知らない人間だ。


「あなたは……誰?」

「おれは、チノだ」


するりと人影が、木から降りた。

フレヤとの距離をつめるのは一瞬のことだった。


「おいおい、しけたツラしてんじゃねぇよ」


指がのびてきて、フレヤの顎をくいっと持ち上げた。

正面からその男と目が合う。

チノだった。

だけどチノじゃなかった。

荒々しい気配。

ふてぶてしい笑みを浮かべる唇。


「う、そ」

「うそじゃねぇよ」


こんな人は知らない。

チノはこんな人ではない。


「わけがわからねぇって顔だな。

 教えてやるよ。

 アルハフ族の中でも、おれは先祖がえりをしている、と

 言われるほど、おれは血が濃い。

 ……オオカミの血が」


ドクンっと心臓が強く脈打った。

今、今彼は何と言った。


「まぁ俗にいう、狼男ってやつだな。

 こんな満月の夜は、オオカミの血が滾りやがる」


この男も、チノも異形の血を引いているというのか。

ほとんどの異形の血を持つものは赤い目をしている。

だから、まさか、チノが異形の血を引いているなんて

夢にも思っていなかったのだ。

現実をなかなか受け入れられない。


「それを人間としてのおれが拒絶しやがった。

 こんなあさましいケダモノの姿はおまえにだけは見せたくないと

 わざわざ隠れてやがったのを、てめえが見つけたんだよ」


忌々しそうにチノが舌打ちする。

それはフレヤに対してなのか、人間のチノに対してなのか

フレヤにはわからなかった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.162 )
日時: 2016/11/06 17:38
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

「なぁ」


ぐっとチノが指に込める力を強くした。

金色の瞳が細められる。

その仕草がひどく獣じみていてどきりとする。

まるで獲物を見定めるようなまなざし。


「おまえは、おれのことをお前を守る騎士のように

 思っているかもしれねぇがそれは違う。」


今まで、何度もチノのことを

美しく誰にも屈しない獣のように感じたことがあった。

それが胸の中にすとんと落ちてきて、

チノが嘘を言っているわけではないとわかる。

すっと自然な動きで首に手を添えられた。

そっと首の頸動脈をおさえられる。


「おれは、おまえを認めたわけじゃねぇ。

 ……一度でもおまえが進むことを辞めたなら、おまえを殺す」


ざくりと胸にその言葉が突き刺さった。

きぃんと耳鳴りがした。

フレヤは限界まで目を見開いて、

驚くほどすぐそばにある金色を帯びた瞳を見つめるしかなかった。

突然チノがうめいた。


「チノ……っ……!?」


苦し気に細められた瞳は金色の光が明滅している。

それは徐々に弱弱しくなっていて、やがて消えた。


「っ……!!」


焦点を結んだチノの目がはっと見開かれた。

その目に宿るのは、焦燥とわずかな恐怖だった。

さっと首から手が離れた。

ひやりとした夜風が首の皮膚にふれる。

手が震えるのを止められなかった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.163 )
日時: 2016/11/06 18:12
名前: 立山桜 (ID: ???)  

お久しぶりです!フレヤちゃんとチノ…どうなっちゃうんだろ…わくわく&怖さ&ドキドキが…(私のキモチ忙しい汗)更新ガンバー!


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76



この掲示板は過去ログ化されています。