コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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マーメイドウィッチ
日時: 2016/06/21 11:41
名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)

世界が止まった。



手が震える。



数拍のちに気付く。









私は大切な人に裏切られたのだと。

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Re: マーメイドウィッチ ( No.4 )
日時: 2016/04/28 16:07
名前: いろはうた (ID: y36L2xkt)

てるてる522様!!

お久しぶりです!

前作も完結させないまま、新しいの始めるという無責任っぷりですが、
こういう話がすごく書きたくなってしまって
衝動のままに書いてしまいました(ーー;)


今回のヒロインは人魚の末裔とかいう
ヴァリヴァリのファンタジーかつ恋愛ものですが、
よかったら読んであげてくださいな(*^_^*)


コメントありがとうございます!!

Re: マーメイドウィッチ ( No.5 )
日時: 2016/04/29 21:54
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

*涙なんて出なかった。

心のどこかが壊れてしまったのだから。

だが、腹が立たなかったわけではなかった。

今も、妹の発言一つでも今このようにひどく癇にさわる。

人間に向かって、あれ、とは何だ。

しかし父王は妹姫の言葉に満足げにうなづいた。


「あれは、狩りの途中にとらえたものだ。

 森の民である、さすらいの一族の者らしいぞ」


ちらりと視線を向ける。

膝をつき、両手を後ろ手に縛られている男を見やる。

短い濃い茶色の髪はぼさぼさに乱れている。

引き締まった体つきをしている身体は紅茶色の肌でおおわれている。

身に着けている衣もこの国とは違うものだ。

動きやすさと丈夫さを追求したようなデザイン。

一目で異国の民の者だとわかった。

なによりもあの目。

あの緑色の目は、この海の王国ではまずめったにみかけない。

この国の民は、基本的に青い瞳を持つ。

あんなに深くて……美しい瞳は見たことがない。

その目に宿っているのは、深い知性だった。

まるで美しくて賢い、獰猛な獣のような男だとフレヤは思った。


「さて、このケダモノをどうしてくれようか」


父が獰猛な笑みを浮かべる。

フレヤはさらに眉間のしわを深くした。

フレヤの母が、フレヤが幼い頃に亡くなってから、

父王はどこか物事に対して攻撃的になった。

あの笑顔は今までも見てきた。

口ではどうしてくれよう、などと言っているが、

どうせ、民衆の前で見世物にするつもりなのだ。

ひどければ、痛めつけたりもするだろう。

この国は、今、貧困にあえいでいた。

数年前に起きた巨大な津波による被害がいまだに国をむしばんでいる。

土にしみ込んだ海の塩気はなかなかとれず、作物の不作も続いている。

貧しい生活に民の不満もたまっている。

あの男を、すべての不満と鬱憤のはけ口へと仕立て上げるつもりなのだろう。


「おとうさま」


気付けば口が勝手に開いていた。

不満と鬱憤がたまっているのは、なにも民だけではない。


「わたくし、ちょうど、おもちゃがほしかったところですの」


なるべく艶やかに見えるように父王に笑ってみせる。

父王は意外そうにこちらを見た。


「フレヤがお願いをするのは久しぶりだな」

「ええ。

 最初のお願いが……なかったことに、されましたので」


隣にいる妹姫の発する空気がはっきりと硬くなった。

ステファンとの婚約解消のことを言っているのを察したのだろう。


「ですからわたくし、心を癒すおもちゃが、ほしいのです」


にっこりと笑ってみせる。

自分でもどうしてこのような気まぐれを起こしたのかはわからない。

このむしゃくしゃした気持ちがこんな突飛な行動に走らせたのかもしれない。

父王は探るようにこちらを見ていたが、やがてふん、と鼻で笑った。


「よいだろう。

 好きにするとよい」


フレヤは笑みを深めた。


「ええ、ありがとうございます」


こうして異国の民はフレヤのものになった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.6 )
日時: 2016/04/30 14:54
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

*父王の狩りからの帰還の宴を終えると、フレヤは男を連れて自室に戻った。


「さがっていいわ」


侍女たちにそう声をかけると、彼女たちは真っ青になった。


「いけませぬ!!

 そのような得体のしれぬ男と一つの部屋で二人きりになるなど……!!」

「大丈夫よ。

 もしもの時は、声、使うわ」


その言葉を聞くと、どこか安心したように表情をゆるめると

彼女たちは静かに部屋を出ていった。

あらためていまだに両手を縛られている男のほうに向きなおる。


「いいのか?

 得体のしれぬ男を部屋に入れて」


静かに男が問う。

低く穏やかな声。

何故かはわからないが、この男は襲い掛かりなどしないとわかる。

それに。


「私には、特別な力がある。

 屈強な兵士たちが束になって襲い掛かっても、傷一つ負わない自信があるわ」


人魚の末裔たる王族は、代々その声に魔力を秘めている。

特に先祖返りだと言われているほど人魚の血を色濃く受け継いでいるのがフレヤだ。

その声に魔力を込めて歌えば、どんな人間でも必ずフレヤの虜となり、

従順な僕となる。

ゆえに、何も恐れることなどないのだ。


「手を出して」


不思議そうな顔をしながらも、男は言われるがままに両手を差し出した。

フレヤはすっとドレスに仕込んである護身用の小さなナイフを取り出した。

それを握りしめて、力任せに男の両手を縛る麻縄を切りにかかった。

眉をしかめる。

硬い。

しかも乱雑に結んであって、男の手首には跡が残っている。


「あなた、名前はなに?」


されるがままであった男は、静かに口を開いた。


「……チノだ」


異国の響き。

しかしこの国の言語をよどみなく話せている。


「はじめまして、チノ」


ぷつり、とようやく麻紐が切れて、ゆかに落ちた。

手首をさすりながら、男、チノがこちらを見る。

背が高いのでフレヤを見下ろす形となる。


「私の名は、フレヤ。

 この国の第一王女です」


そして、つい最近恋人を妹姫にとられた間抜けな姫だ。

内心自嘲気味に皮肉をつぶやく。


「この国の王女たるものが、なぜ、おれを助けた」


フレヤは、少し驚いた。

どうやら先ほどのおもちゃがほしい、などと言ったのは

チノを救うためだと気付いていたらしい。

さとい男だ。


「別に、ただのきまぐれよ」



Re: マーメイドウィッチ ( No.7 )
日時: 2016/04/30 22:35
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

*「チノ、あなたに質問があるの」

「質問……?」


まっすぐに、チノの瞳を見上げる。

翡翠のように美しい緑の瞳。

見ていると、吸い込まれてしまいそうになる。


「私付きの、従者にならない?」


チノがゆっくりと瞬きをする。

こちらの様子を伺っているようにも見えた。


「武器は使える?」

「……ああ。

 人並みには」

「一年、でいいわ。

 一年すれば、おとうさまはあなたの存在自体も忘れているでしょう。

 そうすれば、あなたを逃がしてやれる。

 でもそれまでは、なにか役職が必要だと思う。

 どうかしら」


長いまつげを伏せてこちらを静かに見つめるチノを見てふと気づく。

彼の容貌がひどく整ったものだということに。

そして思っていたよりも若いことに気付く。

フレヤよりも少し年上なようにも見える。

まだ青年と言ってもいいほどの年齢だろう。


「……従おう、おまえの意志に」


きっと言いたいことが色々あったのであろうが、

チノはただそれだけを言った。

こちらの意志を汲んでくれたことにほっとして、わずかに息を吐く。


「ではこちらについてきて。

 まずは、お風呂に入って、身を清めましょう。

 着替えの服も用意させるわ」

















風呂に入って、身を清めさせてからわかったのだが、

チノは恐ろしく美しい男だった。

引き締まった体つきといい、精悍な顔立ちといい、

我が国の王族にもひけをとらない美貌だった。

そのせいか、侍女頭もチノをフレヤ付きの護衛にするといったら

あっさりと承諾してくれた。

護衛用の服をとてもに合っていて、

黒いズボンが彼の長い足をこれでもかというほどに強調していた。


「おれは、おまえをどうよべばいい」

「フレヤで構わないわ」


けれども、この美貌を見ても、フレヤは全く心を動かされなかった。

どちらかというと美しい芸術品を見ているような気分だ。

おそらくはステファンとの失恋がトラウマとなって、

男性不信のようなものが心のどこかに生まれてしまったのだろう。

妹の挙式は、なんと来月だという。

こちらは何年も交際したというのに、妹姫であればすぐにでも結婚とは笑わせる。

思考を過去の恋愛にとばしていると、ふと視線を向けられていることに気付いた。

チノだ。

緑の瞳は深すぎて、何を考えているのかわからない。

寡黙な男だ。

表情もあまり豊かなほうではないし、こういう男のほうが護衛には向いている。


「これから一年、よろしくね、チノ」


不思議な期限付きの主従関係が始まった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.8 )
日時: 2016/05/01 00:22
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

フレヤ……人魚の魔女の末裔の王女。
     先祖返りだと言われるほどに色濃く人魚の血を受け継いでいる。
     そのおかげで、王族の誰よりも、声に魔力を込めることができる。
     それゆえ、人を思いのままに操れる力を様々な人間に狙われることが多々ある。
     最近、恋人だったステファンが実は妹と恋仲であることが発覚し、失恋。
     そのせいで軽い男性不信のようなものにおちいっている。
     深い青の髪に、紅い瞳をもつ。
     氷姫という呼び名がつくほど、あまり感情を表に出さない。




チノ……異国のさすらいの一族、アルハフ族の若き族長。
    森にいたところをイルグ王に遭遇し、仲間を逃がすために
    わざと囚われの身となった。
    紅茶色の肌に、茶色の髪、緑の瞳を持つ美しい寡黙な青年。
    フレヤの護衛となる。
    おそろしいほどの身体能力の持ち主であり、
    特に剣の扱いにたけている。
    元々は孤児だったがアルハフ族に拾われ、
    族長にまで上り詰めた。




ヘレナ……フレヤの妹姫。
     非常に美しい少女で、姉姫とは違って、人魚の声をほとんど受け継いでいないため、
     人魚のような容姿の姉姫とは違い、
     金髪碧眼の人間らしい美しい美貌をもつ。
     数年前からひそかに姉の婚約者ステファンと恋仲であり、
     ことが露見してからは、ステファンと正式に婚約することとなった。




イルグ王……フレヤとヘレナの父王。
      妃をなくしてからは、その性格はあらゆる物事に攻撃的になり、
      現在は良き王とは言えない。
      国には貧しいものが増え始めているが、一向に直そうとせず、
      狩りなどの荒々しい娯楽に明け暮れている。



ステファン……隣国の第一王子。
       物腰が柔らかく、穏やかな美青年。
       フレヤの婚約者だったが、実は彼女の妹姫である
       ヘレナとひそかに恋仲であった。
     


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