コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- マーメイドウィッチ
- 日時: 2016/06/21 11:41
- 名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)
世界が止まった。
手が震える。
数拍のちに気付く。
私は大切な人に裏切られたのだと。
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- Re: マーメイドウィッチ ( No.270 )
- 日時: 2017/04/24 17:15
- 名前: いろはうた (ID: Sm0HUDdw)
「意外とあっさりしてるじゃん。
その余裕は何?
この王女サマは今や身分も何もない指名手配犯だけど?」
「し、しめいてはいはん……」
やはりそうなのか。
町の中で見た自分の似顔絵が描いてある張り紙はそういうことだったのか。
ひそかにショックを受けるフレヤだった。
それとは対照的に、シウの顔は一種のさわやかさすら感じた。
「なにせ、この娘を妃とできるのだ。
多少の骨は折ってやる」
「きっ、妃!?
昨日はそんなこと言っていなかったでしょう!?」
「女王に望むと言ったはずだが」
「夫婦となる必要はないでしょう!?」
慌てふためくフレヤとは対照的に、シウは涼しげな顔だ。
カルトのほうを見て救いを求めるが、彼は素知らぬ顔で窓の外を見ている。
(う、裏切り者っ!!)
涙目で内心叫ぶが、カルトは決してこちらを見ようとしない。
「なんだ?
我では不満か?
我の何が不満だ。
贅沢な娘だな」
「あ、あなたは、私を認めてはくれているようだけど
私を愛してくれているわけではないわ」
「それが、なんだ」
シウの表情は凪いでいた。
わずかながらその表情に嘲るような色が混じる。
「恋だの愛だの、馬鹿馬鹿しい。
そのようなもの、その者を狂わせ、盲目にし、
愚かな行動に走らせるだけではないか」
ぐっと言葉に詰まった。
確かに、ステファンに恋していた時は盲目的に
周りが何も見えなくなった。
溺れるような恋をした。
だけど。
「それでも、求めないではいられないものよ。
きっといつかあなたにもわかるわ」
「……理解に苦しむ」
フンっとシウは鼻を鳴らした。
結婚するしないの件は、いったん保留ということになったのだろう。
「あーあ……」
カルトの口から、つぶやきが漏れた。
その視線はあい変わらず窓の外に注がれている。
「窓の外に何かそんなに興味を引くものがあるの?」
少し皮肉を交えながらでフレヤも窓に近づく。
すると、ぱっと手で制された。
「来るな」
声に緊張が走っている。
その緊迫した様子に、フレヤも思わず足を止めた。
「何……?」
「……王都の兵どもだ」
部屋中の空気が張り詰めた。
カルトは壁に身を張り付けるようにしながら、窓の外を伺っている。
フレヤは、窓から己の姿が見えないところまで後退した。
「……兵の数がおかしい。
いくらなんでも、こんなちっぽけな町に10人もいらねえだろ」
どうやら10数名の兵が、宿の傍を歩いているようだった。
カルトの表情は険しい。
「……ちっ。
これじゃあ、見つかるのも時間の問題だな……」
「宿の者には、暗示をかけてあるが、
どうせ王都の兵は、宿の中まで入ってくるだろうからな。
まったく、煩わしいことこの上ない。
……宿を出るぞ」
「荷物まとめな、フレヤ」
動揺を隠せないフレヤに対して、二人はてきぱきと動く。
数分後、三人はひっそりと宿を出た。
町に出ると、やはり近衛兵たちの影響か、
町の人たちは、不安げだった。
ひそひそと交わされる会話は、声が小さすぎて聞き取れない。
しかし、前を行くカルトの足が突然止まった。
突然のことだったので、
フレヤはしたたかに額をカルトの背中にぶつけてしまう。
「……カルト?」
フレヤは目の前の背中に、小さく声をかけた。
愕然とした表情をしているカルトに、フレヤは戸惑う。
また何かを聞いたのだろうか。
シウは、不機嫌そうな表情で戻ってくると、
せわしない口調でささやいた。
「おい、犬。
何を聞いたのかは知らんが、目立ちたくはない。
さっさと歩け」
「……悪い」
カルトが先ほどよりも、のろのろと歩き出した。
足に力が入っていないような歩き方だ。
カルトがこんな風になってしまうのは見たことがない。
余程、衝撃的な内容の噂話を耳にしたに違いない。
フレヤは不安な気持ちを抱えながらさらに歩き続けた。
兵に気を付けながら、歩くこと数分。
三人は、辻馬車の店までなんとかたどり着いた。
馬車を拾って、王都まで行く予定だ。
またも、シウの幻惑の瞳の力を使って、
なんの咎めもなく馬車を拾うことができた。
下手に情報が洩れてはまずいので、御者は雇わなかった。
かわりに、馬の扱いに慣れているカルトが、
御者代わりになるようだ。
水と食料を新たに買い込み、三人はイグニールの町を発った。
カルトは始終無言だった。
シウも何も言わない。
いったいどんな情報を耳にしたのか聞きたくてたまらないが
聞いてはいけないほどの重い内容かもしれない。
馬車の中で揺られること数分。
「……アルハフ族が、とらえられた」
「っ!?」
突然カルトがポツリと言った。
頭が真っ白になる。
真っ先に思い浮かんだのはチノの姿だった。
続いて、アルハフ族のみんなの顔が一気に脳裏をよぎる。
焦りと恐怖、そしてマグマのような怒りがふつふつと湧いてきた。
「まさか……兵たちが、マシューとエリッシュが裏切って……」
「それはない。
あいつらは……裏切らない目をしてた。
裏切らざるを得ない目に遭ったんだと思う」
「チノがいれば、きっと大丈夫よ」
「あいつ一人ならなんとかなる。
でも、あそこには戦えない女子供もたくさんいる。
あいつらをかばいながら近衛兵を全滅させるのは……無理だ」
「そんな……」
言葉を失う。
どう考えても、フレヤをかくまっていたから捕まったとしか考えられない。
自分のせいで、また関係のない人を巻き込んでしまった。
心がインクで塗りつぶされるような気持ちだった。
「メノウだよ。
あいつらは、おれらのために嘘の情報を流したはずだ。
でも、それを見破って、アルハフ族の所まで来た。
……こんな真似、あいつしかできない。
おれらは、鼻がいい。
匂いだけで……全部わかる」
カルトは決してこちらを振り返らなかったけど、
彼の声は怒りで震えていた。
とっさに謝罪の言葉が口を突いて出そうになったが、
今、カルトが求めているのは、そんな言葉じゃない。
では、代わりに何を言えばいいのか。
「ちょうどよいではないか」
ふいにシウが言葉を発した。
フレヤは力なくシウのほうを見た。
彼の目は全く悲観的ではなかった。
「ちょうど今から、王都に行くのだ。
兵どもなど蹴散らして、救い出せばいい」
「……簡単に言ってくれるな」
無神経なほどに落ち着いているシウの声が
ぴりぴりしているカルトの神経を逆なでしたようだった。
声に殺気すら滲んでいる。
馬がおびえて、歩調が乱れ、馬車が大きく揺れた。
「たった三人で何ができるって?
せいぜい情報収集が関の山でしょ」
「案ずるな。
我が国からわが家臣をすでに呼んでいる」
「あなたの国は遠い東に位置する国よね?
どうやって援軍なんて……」
「鷹を飛ばした」
馬車の中に気まずいまでの沈黙が満ちた。
た、か。
今、鷹と言ったのかこの男は。
一体どんなすごい文明機器を使うのかと思ったら、まさかの鳥。
「……ちなみに、いつ飛ばしたの?」
「昨夜だ」
頭痛がする。
フレヤは、頭を押さえた。
これでは、鷹がミン国にたどり着くまでだけに、数日はかかるだろう。
援軍が来るまでに数週間はかかるはずだ。
「ここから、王都まで一日もあれば着いてしまうわ」
「問題ない。
数日もあれば、奴らは来るはずだ」
もはや言葉も出なかった。
重い沈黙に満ちた馬車は、ガタゴトと派手な音を立てながら、
王都への道を進んだ。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.271 )
- 日時: 2017/04/29 00:17
- 名前: いろはうた (ID: Sm0HUDdw)
時は数日前にさかのぼる。
彼はうめきながら目覚めた。
この容赦ない一撃。
姿は見えなかったがカルトのものだった。
気を失ったのは数刻ほどだろうか。
身体を動かそうとして、両手がぴくりとも動かないことに気付く。
目を開くと、呪術師のトンガの顔が真っ先に見えた。
手首に食い込む縄の感触。
縛られているのだと悟る。
「……トンガ。
縄を外してくれ」
「悪く思うなチョルノ。
これも我が一族のため。
こうでもせんと、おまえはあの娘を死に物狂いで追うだろう。
おまえも、わかっているだろう」
奥歯をかみしめる。
言われなくとも自分がすでにおかしくなっているのはわかっていた。
この焼けこげるような焦燥感が何よりの証拠。
もう、手遅れなのだろうか。
「……きたね、馬鹿孫が。
チョルノの縄を解いておやり、お前たち」
傍で見守っていたアルハフ族の仲間たちに、
声かけながら、トンガは前を見つめている。
スッと目を細めた。
この気配。
かなり大きな隊が馬に乗ってやってくるかすかな振動を
耳がとらえたのだ。
行動を起こす間もなく、すぐに馬に乗った近衛兵たちの姿が見えだした。
その先頭にいるのは、トンガの孫娘、メノウだった。
「安心おし。
女子供は既に逃がしてあるよ。
予知であのこが来ることはわかっていた」
わたしらは囮だよ、と苦々しげにつぶやくトンガの声音には
わずかながら悲し気な響きが混じっていた。
いまだにメノウが一族に帰ってくるのを待っているのだと悟る。
表面では切り捨てても、心の奥底では、待ってしまう気持ちを
殺しきれていないのだ。
手首をさすりながら立ち上がる。
ちょうどメノウが馬を止め、ひらりと地面に降り立ったところだった。
身軽な動きは、一族にいたときとほとんど変わらない。
「ひさかたぶりね、ばばさま」
鈴のなるような人を魅了する声も何も変わらない。
少し首をかしげてほほ笑む癖も何も変わっていない。
さらりとした金髪が肩を流れ落ちる。
抜けるような白い肌。
誰が、メノウをアルハフ族の血をひくものだと気づけるだろう。
ただ、その緑の瞳だけが無機質に輝いていた。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.272 )
- 日時: 2017/05/01 23:38
- 名前: いろはうた (ID: Sm0HUDdw)
この娘、メノウが一族を抜けたのは一年と少し前のことだった。
あの時もこんな風に、綺麗に笑っていた。
メノウは、彼女自身が話していた通り、アルハフ族の呪術師だった。
呪術師のトンガの孫で、母親は幼い時に無くしていた。
彼女の見た目は、アルハフ族の中では異質なものだったが、
呪術師と言う力を持つ立場であるのと、
メノウ自身、人心掌握術に長けていて、孤立することはなく
むしろみんなから慕われていた。
その霊的力を武器に、彼女も一族を守るために立ち上がった。
最初は、アルハフ族をこの王国の民の一部にしたいという
一つの強い意志のもと行動していたはずだった。
しかし、ある日を境に、彼女の笑みは今の様に無機質になった。
なにか原因があるのだろうが、彼女はかたくなに話そうとしなかった。
そして、その日は訪れた。
アルハフ族の戦士たちとメノウの先導に従って、
森を抜けようとしたときだった。
王が現れたのだ。
狩りのために森に入ってきているようだった。
メノウの表情が変わった。
王を殺しましょう。
そうすれば、我らアルハフ族も安泰でしょう。
夢見るようなほほえみを浮かべてメノウは言った。
信じられなかった。
メノウは命を奪うことを嫌う娘であったはずなのに、
知らぬ間に違う人間のように変わってしまった。
馬鹿なことを言うなとののしると、彼女は一瞬無表情になった。
ありとあらゆる感情をそぎ落とした顔だった。
そして、次の瞬間浮かべたのは、笑みだった。
じゃあ。
あなたが死ねばいい。
メノウは叫んだ。
メノウの声はよく通る。
王たちはすぐにこちらに気付いた。
そして、近くにいる人影たちがアルハフ族の者たちだとわかると
その青い瞳に残忍な色を宿らせた。
このままだと殺されてしまう。
ここは自分が囮となって、仲間を逃がすことを決意した時には
メノウの姿はなかった。
あの後、メノウの館で目にするまで、彼女とは一度も会わなかった。
そして、その存在が目の前にいる。
自分とアルハフ族の仲間を危険にさらし裏切った娘。
その目的は、あの時は王への復讐。
今は、王女の復讐を完璧に果たしに来たのだろう。
メノウの近くの馬に乗っている、マシューとエリッシュの
焦点のあっていない瞳を確認する。
やはり、あの呪術師としての術と特殊な声を使って
彼らの意識を操っているのだ。
元王女のフレヤがいたアルハフ族の居場所を吐かせたのだろう。
どこまでも卑劣なことをする。
もはや手段など選んでいるようではなかった。
ざっと見た限り、兵の数は多くない。
おかしい。
聞こえてきた馬の足音と数が合わない。
はっとして後ろを見ると、馬に乗ってステファン王とその配下が
大量の馬に乗って現れたところだった。
囲まれた。
「……あの女の匂いが少しだけ残っているけど、ここにはいないわね」
メノウは目を閉じながらそう言った。
アルハフ一族は、身体能力が高い。
それはメノウも同じことだった。
一瞬でそのことがばれ、眉を顰める。
やはりメノウの目的は、フレヤだ。
メノウとステファン。
この国の革命軍の長と王。
この二人が出てこなければならないほど、
フレヤは重要な存在だということか。
兵の数を確認する。
いくらアルハフ族の精鋭たちがそろっているとはいえ、この数は厳しい。
メノウを睨みつける。
殺意すら込めたのだが、彼女は少しも動じなかった。
「メノウ、堕ちたな。
仲間を売るなど畜生以下のすることだ」
「私は、目的が果たせるのならば獣にもなるし
地獄にも落ちて悪魔に魂を売り渡す」
そう言ってメノウは笑った。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.273 )
- 日時: 2017/05/03 17:10
- 名前: いろはうた (ID: Sm0HUDdw)
日が暮れるころに三人は王都についた。
途中何度も王都の兵たちに遭遇しかけたが、
カルトのよくきく耳と鼻の力でほとんどを回避した。
不意を突かれてはちあわせすることになったとしても、
シウの相手を思い通りに操る目の力で事なきを得た。
王都の町は、夕日に包まれてオレンジ色に輝いてた。
馬車を業者の者に引き渡すカルトを待つ間に、
瞬きもせずに王都の様子を眺めた。
フレヤは唇をかみしめると、フードを痛いくらいに強くかぶりなおした。
胸に生まれるのは切ないほどの懐かしさと、さすような痛み。
今やここは、慣れ親しんだ王国ではない。
敵国に等しい。
王都に近いせいで、元王女たるフレヤの姿を目にするものも多かったはずだ。
前よりも慎重に行動しなければならない。
「また酒場に行くの?」
カルトが戻ってきたのを見ながら小さく尋ねる。
彼は肩眉を上げた。
アルハフ族捕縛の情報を受けて、
もっとショックを引きずっているかと思ったが、
そうでもなさそうに見える。
「わかってきたじゃん。
おれは、アルハフ族の情報を中心に集める」
「我は情報収集などどうでもよい」
我か関せずという態度を終始一貫して貫くシウに眉根を寄せるが、
仕方がない。
彼は、部外者と言えば部外者だ。
「私は、王妃とアルハフ族、両方に関しての情報を集める」
自分に言い聞かせるように言うと、カルトが笑った。
なんだか幼子をみるような生ぬるさがまなざしに宿っている。
「言うようになったじゃん」
馬鹿にされている気がする。
失礼な男だ。
しかし、身体能力がどれもカルトには遠く及ばないというのも
事実と言えば事実だ。
そんなやり取りを交わしながら、王都で一番大きい酒場、
『夢見るカラス亭』に入る。
酒場はどこも変な名前の所が多いようだ。
中に入ると、鼻につく、むっとした汗くささと熱気。
飛び交う怒号のような声。
フレヤは委縮しないように、でも目立たないように静かに中へと進む。
席に着くと、すぐさま上げた肉が運ばれてきた。
こうばしい匂いがふわりと香り、
はしたなくも口の中は唾液でいっぱいになる。
そういえば、今日は道中ろくなものを食べていないのだった。
思わず手に取って、行儀悪くかぶりつこうとした。
「そういや、最近、王妃殿下の話聞かねえよなぁ」
手が止まった。
乾くほど目を見開く。
「はぁ?
王妃様はとっくの昔に……」
「馬鹿、うちの王妃様じゃねぇよ!!
お嫁に行ったほうだよ」
「ああーヘレナ様かぁー」
指先が震える。
唇をきつくかみしめた。
耳にすべての集中力をかき集める。
喧噪なんて止まってしまえばいいのに。
「なんでもよぉ……
王が、王妃のこと溺愛して、城に監禁してるとかなんとか」
「かぁーっ!!
お熱いこったなぁ!!
その旦那のステファン王が今この国に
支援に来てくれてるらしいじゃねぇか」
「メノウ様は、何してるんだか……
せっかく革命を起こしたんだから、なんかもっと
派手に改革とかしてくれないのかよ……」
ステファンがヘレナを愛している?
違う。
今ならわかる。
ステファンは、誰かを愛するような人ではない。
ヘレナのことも、愛しているかのように見せかけて、
ただの駒の様にしか思っていないのだろう。
手が止まっているのは不自然だと気づき。
何事もなかったかのように揚げた鶏肉を口に運ぶ。
ヘレナが監禁されている可能性がある。
もし、監禁されているとしたら、この国の城ではないはず。
隣国にあるステファンの城だ。
思わず表情が険しくなるフレヤに対して、
カルトとシウは淡々と酒と肉を口に運んでいる。
「悪くないじゃん、この肉」
「この国の肉はまこと味付けが濃いな。
口に合わぬ」
シウはそういいながらもパクパクと鶏肉を口に運んでいる。
何度も鶏肉を口の中でかみしめる。
しかし、シウが濃い味と言う鶏肉は、今は全く味がしなかった。
砂をかんでいるようだ。
今は、一刻も早くアルハフ族を救わなければならないのはわかっている。
だが、心が焦りを抑えきれない。
ヘレナは、無事なのか。
しかし、それ以上男たちが王妃について話すことはなく、
仕事の愚痴へと話題が変わってしまった。
耳を澄ませてみるが、アルハフ族についての話も聞こえてこない。
唇をかみしめた。
一体どうしたらいいのだろう。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.274 )
- 日時: 2017/05/04 17:47
- 名前: いろはうた (ID: Sm0HUDdw)
三人は、酒場を出てから、また昨日と同じように宿で二部屋借りた。
念には念を入れて、シウの目の力で相手には、
こちらの印象をぼやかしている。
仮に兵に不審人物の宿泊の有無について問われても、
思い出すことはできないだろう。
三人で一部屋に集まり、小さな椅子に腰かけて
ようやく一息つけた。
王都には当然のごとく、近衛兵が
沢山行きかっていて、一瞬たりとも気を抜けなかった。
フレヤは向かいに座るシウとカルトのほうを向いた。
「二人とも聞こえていたと思うけど、王妃は、私の妹は」
「幽閉の可能性がある?
信憑性に欠けるな」
にべもなくシウに言い捨てられ、フレヤはぐっと押し黙った。
確かにそうだ。
確かな情報筋ではない。
ただの噂だ。
だが、もしそれが真実だったら。
「カルトのほうはどうだったの?」
「どうしたよ?
王妃の情報で頭いっぱいでなんも聞こえなかった?」
なかばあきれたように言うカルトを半眼になって睨むが
何も言い返せない。
たしかに、あの時はひどく衝撃を受けたし、頭が真っ白になる思いをした。
しかし、そういうからには、フレヤでも聞こえるような
場所と声の大きさでアルハフ族に関しての話が聞こえたのだろう。
「地下牢に閉じ込められているってさ」
フレヤは目を見開いた。
こみあげてくるのは悔しさだった。
心のどこかで、王宮にアルハフ族が連れ去られたら
自分が先頭に立って救い出せると思っていた。
だけど、地下牢だなんて行ったことがない。
「確かな情報筋なの?」
「話してるの、近衛兵だったからな」
こともなげにカルトは言ったが、フレヤはまた驚いた。
どうしてそんなことがわかるのだろう。
「仕事の愚痴垂れ流してたからな。
反抗的な異民族など地下牢でさっさと死ねばいいってさ」
ぎゅうっときつくこぶしを握り締めた。
こんな言葉が、自分の国の民から話されただなんて信じたくない。
だけど、これも事実。
自分たち王族が、今のこの事態を招いてしまったのだ。
「……愚痴や不満ばかりを言っていたわ」
「なに急に」
「民はもっと楽しくお酒を飲むものだと思っていたわ。
でも、だれも笑っていなかった。
みんな、悲しい顔や怒った顔をしてお酒を飲んでいた」
カルトとシウは何も言わなかった。
今までは、貧しき者たちを救うために、
王都にはほとんど施しを与えに行っていない。
だから現状を何も知らなかった。
悪い気がはびこっているのは、貧困にあえぐ村だけではない。
豊かなはずの王都でも、これだけの不満がたまっていたのだ。
これでは革命が起こって当然だ。
「でも、革命が起こっても、何故、彼らは嬉しくないのかしら。
全然幸せそうには見えなかった」
「変わってないというか、悪化してるからだろ」
「おい」
我慢できないようにカルトが言った。
それを咎めるようにシウが声をかけたが、彼は無視した。
さらにいらだったように言葉をつづける。
「国は何もよくなってない。
政をほったらかして、
元王女のあんたを血眼になって探してる統治者のせいだ。
近衛兵を動かしまくっているから、金も要る。
もともと高かった税金は跳ね上がっているし」
「おい」
さらに低い声でシウが言うと、カルトははっとしたように口を閉じた。
しかし、フレヤはしっかりと今の言葉を聞いてしまった。
「どういうこと。
知っていて、何故私に教えてくれなかったの」
「口止めをしたのは我だ」
ばれてしまっては仕方ない、とでも言いたげな表情のシウを
睨みつける。
彼は知っていたのだ。
「このような現状、知れば汝は死に物狂いで
この国を救おうと奔走するだろう。
我は言ったはずだ。
汝を我が国の女王に望むと。
本来ならば、汝をさらってでも早くこの国を出たい。
我が民が待っている」
はっとした。
そうだった。
シウもしぶしぶながらに付き合ってくれているが、
本来、彼も王だ。
彼を待っている民がいる。
それを引き留めているのはフレヤのわがままだ。
「……私がつかまるまで、この現状は続くのかしら」
「言っておくが、汝、わざと捕まろうなどと
馬鹿なことは考えるなよ。
なんのために我がここまで骨を折ってやったと思っている」
「でも……!!」
「黙れ。
反論は認めぬ。
アルハフ族を救い出し次第、この国を出る」
冷たい声だった。
冷酷な真紅のまなざしに唇をかみしめる。
一切の妥協も認めない声音に、反論したくなるが、
彼には彼の事情があるのだと自分に言い聞かせるしかなかった。
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