コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- マーメイドウィッチ
- 日時: 2016/06/21 11:41
- 名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)
世界が止まった。
手が震える。
数拍のちに気付く。
私は大切な人に裏切られたのだと。
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- Re: マーメイドウィッチ ( No.84 )
- 日時: 2016/07/02 17:20
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://pixiv.me/asaginoyumemishi
しかし、また支えてもらうわけにもいかないので、
先ほどよりも周囲に注意して進むようにする。
すると驚くほど、この市場には様々な人種がいることが分かった。
目が茶色の者。
髪が白髪の老人。
褐色の肌を持つお花売りの少女。
それぞれの者たちが懸命に今日という日を生きていた。
精一杯声を張り上げて客を呼び込む青年もいた。
隅の方でうずくまって、道行く人に空き箱を差し出し、
金を恵んでもらうのを静かに待っている乞食もいた。
フレヤは一瞬迷った。
乞食のところに行って金を恵んでやるべきだろうか。
そうすれば、乞食は一時的に空腹からは逃れられるが、
その味をしめてしまって、また乞食になる悪循環が起こるかもしれない。
フレヤは結局、そっとその乞食から視線をそらした。
今日は貧しきものに恵みを与えに来たのではない。
情報を探りに来たのだ。
しかし、情報を集める、などという間諜のような真似は
生まれてこの方したことがないので、フレヤは困ってしまう。
なにをどうすればいいのか見当もつかない。
とにかくここは人が多すぎるから、もう少し人ごみの
少ない所に行った方がいいのかもしれない。
そう思い細い路地の法に入っていこうとしたら、襟元の後ろの方を
ガッとつかまれて動きを阻まれた。
思わず振り返ると、チノが首根っこをつかむようにして
フレヤを細い路地の方から引き離した。
「おまえは、馬鹿なのか」
いつもは無表情なチノのなのに、
眉間にくっきりとしわが刻まれていた。
びっくりするほど怒りをあらわにしていて、
何をするのだ、という言葉は消えてしまった。
「このあいだ、このような細路地で、
人さらいに襲われたばかりだろうが。
つい最近の出来事だというのに、もう忘れたのか」
「忘れたわけじゃ……」
ただ無意識での行動だっただけで。
チノがため息をついた。
その行動に少し傷つく。
失望されたみたいで。
「おまえは、こんなにも大人びているのに
変なところで子供みたいになるな」
続けてかさねられた言葉は、失望よりも
もっと温かな響きがこもっていて、少しほっとする。
ちらりと上を見上げると、正面から視線が合って、
少し動揺する。
久しぶりにこの緑の目を見た。
相変わらず静かで、でも、今までにない温かさが
その目に宿っていた。
「手を、握っていてもいいか?」
からかう響きのない穏やかな声。
チノの顔はもう怒っていない。
日光に照らされて、チノの濃い茶色の髪が、透けて金髪に見える。
「おまえが、おれの手を引いて歩けばいい。
そうすれば、はぐれないし、お前のいきたいところに行ける」
手を引かれるのではなく、手を引く。
今までやったことのないことだ。
姫君たるもの、殿方から声をかけられるまで、
自分から動いてはいけない。
そんな常識を覆されるようなその言葉に驚きながらも、
フレヤは自らチノの手に触れた。
自分のよりもずっと大きくて、少し乾燥していて、
温かい指に自分の指を絡める。
きゅっと、控えめな力で優しく握り返されて驚く。
チノは握っただけで、そこから足を進めない。
どこにもいかないで、フレヤが歩き出すのをじっと待っている。
足を一歩踏み出すと、遅れてチノもついてくる。
フレヤの歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてくれる。
「チノは、お父さん、みたいね」
「……おとう、さん」
チノが衝撃を受けたように後ろでその言葉を繰り返す。
その言い方がおかしくて、少しだけ笑みがこぼれる。
握る手は優しい。
フレヤが痛みを感じないように
注意を払って握っているのがわかる。
足の長いチノからしたら、フレヤの歩みはひどく遅いのだろうが
チノは文句も何も言わず半歩遅れてついてくる。
もう一度チノの顔を振り返ってみると、
その顔には、わずかだが微笑が浮かんでいた。
困ったような、うれしいような色んな感情が混じった笑み。
チノは、ここの市場にいる普通の人と変わらなくて
変装のために身に着けている平民服もよく似合っている。
そのことに気付いたとき、なぜか泣きたくなって、
苦しくなった。
この優しい人を、歌の力で縛ってしまったのだと、
一層激しい後悔が胸を焼いた。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.85 )
- 日時: 2016/07/02 21:47
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
あかん!いろはうたさんの作品上手すぎや!(スマソ。大阪弁がついw)
- Re: マーメイドウィッチ ( No.86 )
- 日時: 2016/07/03 23:25
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://pixiv.me/asaginoyumemishi
立山桜様!!
お褒めの言葉、ありがとうございますー!
わー!!
関西出身なんですか〜?
私も、関西出身なんですよ〜(^^)
コメントありがとうございます!!
- Re: マーメイドウィッチ ( No.87 )
- 日時: 2016/07/04 22:08
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
わー!(^.^) いろはさんも関西ですかっ!( 〃▽〃)きゃーっ←すっっげ喜んどります。 お褒めだなんてそんな(照)そんなえらいひとちゃいますよwそんなこたぁどっでもよくてw頑張れp(^-^)qです
- Re: マーメイドウィッチ ( No.88 )
- 日時: 2016/07/05 12:26
- 名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)
フレヤがチノの手を引いてやがてたどり着いたのは、
しっかりとしたつくりの噴水のある大きく開けた広場だった。
人々の憩いの場となっているようで、女性同士で楽しそうにお話をしていたり
子供たちが元気に走り回ったりしていた。
しかしこんな和やかな光景が見られるのは、この王都だけだと
フレヤはわかっていた。
王都から離れた貧しい村では今日もごはんも満足に食べられていない民が
たくさんいるのだ。
その民へのわずかな救済さえも切り捨てて、メノウという人物に関する
情報を集めに来たのだ。
フレヤはチノの手を引いて、噴水の近くにあるベンチに向かった。
そこに腰かけながら、
どのようにメノウに関する情報を聞き出したらいいのか考える。
しかしこれは考えても答えがでないだろう。
きいたほうが早い。
「チノ」
顔をあげてチノのほうを見たら、彼はちょうどフレヤの隣に
座ろうとしているところだった。
ベンチが思っていたよりも狭く、
二人で座ると肩が触れ合ってしまいそうな距離だ。
チノがこちらを見る前に、フレヤは急いで前を向いた。
「こっ、こういうことは、私やったことがないから
どういうふうにメノウについて聞いたらいいのかわからないの。
簡単に王女だとばれるわけにはいかないし、どうすればうまくできるかしら?」
声が若干上ずってしまったが、なんとか表情を変えないで済んだ。
視線はなぜか、座ってもつながったままの手に吸い寄せられてしまう。
もう人ごみはないから、はぐれる心配もないのだし、離してもいいはずだ。
そう思った矢先、するりと手が離れた。
ぬくもりが消えて、胸になんともいえない寂しさが広がる。
なぜかチノはその場で立ち上がった。
「おれが手本を見せよう」
それだけ言うと、彼は無表情で、世間話に花を咲かせている
女性たちのほうへと歩いて行ってしまった。
ベンチには、呆然としたフレヤのみが残される。
なるほど。
たしか、チノはさすらいの民、アルハフ族の長だ。
交渉や駆け引きにも慣れて……
(あの無表情な人がそんなにうまく人から情報を引きだせるとは思えないわ……)
自分のことは棚に上げて、フレヤはチノの背中を視線だけで追った。
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