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マーメイドウィッチ
日時: 2016/06/21 11:41
名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)

世界が止まった。



手が震える。



数拍のちに気付く。









私は大切な人に裏切られたのだと。

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Re: マーメイドウィッチ ( No.89 )
日時: 2016/07/06 00:09
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://pixiv.me/asaginoyumemishi

「お姉さんたち」


チノがおしゃべりをしている女性たちに話しかけた。

何事かと女性たちがチノのほうを見て固まった。

フレヤもチノの横画をを見て、生まれて初めて、驚きすぎて

口をあんぐりと開ける、という行為をしてしまった。


「楽しそうだから、おれも混ぜてほしいな」


女性たちの視線の先には、ちょっと危険な香りのする

笑顔の爽やかな好青年が立っていたのだから。

長めの前髪からのぞく緑の瞳といい、バランスの取れた長い手足といい、

ちょっと野性味あふれるその笑顔といい、

どこをとっても美青年といって過言のない姿だった。

いやまて。

おまえは誰だ。

チノか?

本当にあのチノなのか?

そう疑ってかかりたいほどの豹変ぶりだった。

いつもの無表情は欠片も見当たらない。

あんな砕けた口調、あんな笑顔、見たことも聞いたこともない!!


「実は、メノウっていう人を探しているんだ」

「あら、メノウ様?」


かかった。

チノの瞳が遠くからでもそう言っているのがわかった。

チノは何事もなかったかのように言葉をつづける。


「そうそう!メノウ様!

 おれ、ぜひお会いしたいんだよー!!」


演技とはいえ、あまりの豹変ぶりに

聞かなければならない情報も遠くに飛んで行ってしまいそうだ。

もしかして。

もしかして、これが素のチノなのだろうか。

おそろしい仮説が立ちそうになった時だ。


「メノウ様は、王都にはめったにこないわー」

「いつも、王都から少し離れた町ばかり訪れるのよー」

「へぇ?

 やっぱり有名なんだ、メノウ様」

「それはもう!

 貧しき民を救う革命軍の長ですもの!!」


フレヤはすっと目を細めた。

予想は、当たった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.90 )
日時: 2016/07/14 00:32
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://pixiv.me/asaginoyumemishi

メノウという人物は、やはり革命軍の長ということで間違いないのだろう。

フレヤは何食わぬ顔で前を見つめ続け、

チノとは赤の他人のふりをする。

しかし、わずかにだがその顔は曇っていた。

やはりいるのだ。

この国をよく思わず、良い方向に変えようとする勢力は。

しかし、引っかかる点がある。

先ほど、王都にはメノウたちは滅多に来ないと聞いた。

王都から少し離れた場所ばかりを巡るのだという。

貧困が深刻な地域はかなり王都から離れた国の境や

津波の被害を受けた海沿いの村だ。

生活が非常に苦しいのはその地域のはずで、

王都から少し離れた町などは、貧しいとはいえ、

そこまで生活は厳しいものではないはずだ。


「メノウ様、ってどんな人なのかな?

 絶世の美青年とか?」

「おやまあ、あなた、よそから来た人?

 何にも知らないの?」

「おれは、あちこちの国を巡る行商人の一味だからね。

 ここらへんのことには疎いのさ」


にしても、巧みな弁舌である。

女性たちもすっかり信じ切っている。


「メノウ様は、とてもとても美しい娘さんよ」

「そうそう!

 うちの国の、第二王女ヘレナ様にそっくりなのよ!!」


予想外の名前をきき、フレヤは顔色を変えた。

どうしてここで、妹の名前が出てくるのだろう。

彼女はいま、ステファンの妻として隣国で暮らしているはず。


「あんなに若い娘さんなのに、民のために

 国を変えようって一生懸命に駆け回っているのよ」


その言葉にフレヤは少なからず、動揺した。

自分は国そのものまでもを変えようと思ったことはない。

女の自分にできることは少ないから、と最初から諦めて

ただ、特に貧しい民が住む地域にささやかな支援を行っただけだ。

自分は、自分のやったことは、この国のなんのためにもならなかったのだろうか。

Re: マーメイドウィッチ ( No.91 )
日時: 2016/07/14 07:44
名前: 立山桜 (ID: ???)  

口調がー!チノの口調がぁー!イケメンやー!なんでもできてますやん!

Re: マーメイドウィッチ ( No.92 )
日時: 2016/07/14 16:57
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://pixiv.me/asaginoyumemishi

立山桜様!!


チノのキャラが激変(笑)
でもなんでもできるってわけじゃないのです。
苦手分野もあるのです(笑)


コメントありがとうございます!!

Re: マーメイドウィッチ ( No.93 )
日時: 2016/07/15 20:13
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://pixiv.me/asaginoyumemishi

「さっきの口調が素なの?」


無表情で歩きながらフレヤは小さくつぶやいた。

二人は、噴水から離れて、王宮とは逆の方向に歩きだしていた。

あまりにも長い間同じ場所にとどまると怪しまれるからだ。

口調は質問の形式だが、フレヤはうわのそらだ。

頭の中は先ほど聞いたばかりの情報が埋め尽くしている。


「別に。

 おれらはさすらいの一族だから、

 あのような交渉術とかが生きるためには必要だっただけだ」

「そう」


それにしては、二重人格なのではないかと疑ってしまうほどの

豹変ぶりだった。

ちらりとチノの顔を見てはみるが、いつも通りの無表情さだった。

先ほどのは幻だったのだろうか。

チノの毛先が日光を浴びて金色に透けていた。

それがなんだかきれいで、

しばらく見つめた後フレヤはすっと視線を前に戻した。


「これからどうするつもりだ」

「……王都周辺の町を巡ってみようかしら」

「どうやって?」


フレヤはチノの手を引く。

ぐいぐいと引っ張って、あてもなく歩き続ける。


「しらみつぶしに一つ一つ町を回っていくしかないわ」

「非効率すぎやしないか?」

「仕方ないじゃない。

 あなたって、意外と細かいこと気にするのね」

「おれは一国の王女たるものがそこまで無計画でもいいのかと

 逆に不安で仕方がない。

 驚きを禁じ得ないな」


そういいながらも、チノはちっとも驚いていない顔で

フレヤに手を引かれるがままに歩いている。

なんだか、それに少し腹が立って、ますます荒っぽく足を進める。


「次、私が行くわ」

「どこにだ」

「決まっているじゃない。

 次は私が直接情報を聞き出すのよ」


ぐんっと思いっきり手を引かれて、フレヤはよろめいた。

いや。

引かれたのではない。

チノが立ち止まったのだ。


「おまえが情報を聞き出すなど、尋問のようにしかならないのが

 目に見えている」

「……」


フレヤは無言になった。

無言でチノの顔を見つめる。

しかしチノもまた無言で首を横に振った。

また、フレヤがじっとチノの顔を見つめる。


「じゃあ、きく。

 おれと同じ程度の情報の聞き出し方ができるのか」

「貴方と同じは無理よ。

 あれはもはや人格が変わりかけているもの」

「……」

「でも、人並みになら出来るわ」

「やってみろ」


即座に言い返されて、フレヤは一瞬押し黙った。

少しの間考えて、フレヤはおもむろに口を開いた。

繋いでいるチノの手を胸元に掲げて、それをきゅっと握った。

緊張なんてしていない。

別に緊張なんてする必要ないのだ。

必死に自分に言い聞かせて、フレヤはまっすぐチノの目を見た。


「め、めめめメノウという人物について聞きたいのだけど、

 なにか教えてくれないかしら」


声が思いっきり裏返った。

徐々に頬がカーッと熱くなり、我慢できずに

握っていた手を勢いよく離した。


「わ、悪かったわね、こんなことすらできなくて」


ぷいっと横を向いたが、チノからの返事がない。

いぶかしく思ってそちらに向きなおってみると、

チノが片手で顔を覆い横を向いて呻いていた。


「な、なにその反応」

「……おまえ、絶対に、聞き込みなどするな」

「な……」

「……いいか、今後一切二度と永遠にするな」


それ以来、なぜかチノの口数がめっきり減ってしまったが、

聞き込みだけは人が変わったかのような交渉術を駆使して

行ってくれた。

手は移動するときはずっとつながれたままだった。


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